
お前の物語をもう一度見せてみろ、ララ! 勇気あるプリンセスに祝福を!

「人魚姫ララ」
大きな出来事
メインキャラクター:ララ
目標
人間に対する好奇心を満たす。
課題
人魚の掟では、人間に近づくことは固く禁じられている。人間は醜く、忌むべき存在なのだという。
魔女グレイスが人魚を人間に変える薬をくれた。ただし、“本当の愛”を手に入れられなければ泡となって消えてしまう制約がある。
結末
【失敗】
ララは人間の王子に恋をし、仲を深め、もう少しで口づけを交わすというところまできたが、その瞬間に変身が解けてしまった。王子は醜いものを見る目でララを睨む。
泡となって消えてしまったララは、しかし、200年後見知らぬ城の中で目を醒ます。どうやら自分のせいで、人魚の同胞たちや愛する家族は災いに見舞われ、琵琶湖へ移り住んだうえ長い眠りについているらしい。
心の変化
【ポジティブ】
人間を「醜い」とする人魚の掟に疑問を抱いて地上へ向かい、愛する人間の王子に人魚の容姿を「醜い」と言われて深く傷ついたララは、結局自分こそが「醜」かったのだと結論する。
しかし、そんな親不孝者の自分を、父親は変わらず愛してくれていたのだということを知った。
まだ、物語を終えるわけにはいかないと誓う。
キーワード
“プリンセス”
「ローワン様。あなたの娘ララは特別かもしれません。私は亡き女王陛下と同じものを感じました」 「ララだけではない。皆特別な、大事な娘たちだ」
「それは建前でありましょう。王も願ってらっしゃるのでは? プリンセスの復活を」
「ララ。お前はいつか蘇る。私に残った最後の光をお前に。プリンセスであるお前が受け取らねばならない――。お前がどれだけ罪深くとも、それでも私はお前を愛している」
「勇気あるプリンセスに祝福を。さようなら、ララ」
“掟”
「お前は追放された身だ。この城に立ち入ってはならぬ。掟では、禁を破れば死罪である。立ち去れ!」
「この海の上にある、人間の世界にだけは近づいてはならぬ。奴らは醜く呪われた存在。そして我ら人魚は光によって生きる者。我らの光を醜い人間どもに汚されてはならぬ。これは重大な掟だ」
「お前が陸の遺物を度々持ち込んでいたのは知っている。しかし今回はただの掟破りでは済まない。お前の部屋に陸の砂がついていたというのだ。なぜだ!? ララ。人間に近づいてはならぬと何度も言ってきたはずだ! 人間どもは醜く忌むべき存在だ」
「わからない。わからないの。本当に人間って醜い生き物なの?」
「――今の言葉はお前のしでかしたことよりもはるかに罪深い。100の朝を迎えるその日まで、お前が城を出ることを禁ずる」
“魔法の鏡”
「鏡を眺めるのが好きでね。見たいものを何だって映し出す魔法の鏡さ。面白かったぞ。掟破りも、ローワンとの会話も、あの人間と出会ったときのお前の顔も」
「この鏡は見る者の心を試す。割れてしまったのはお前の心が大きく動いたせいだ。何を見た? お前が本当に見たいもの、本当に欲しいものはなんだ?」
ピックアップ
生まれて最初の冒険

生まれて間もない幼児は視覚や手指の触覚がまだ充分に発達していない。一方、口腔内の味覚や触覚は比較的早くから鋭敏な感覚を備えている。
幼児が身のまわりのものを何でも口に入れようとするのは、それがどういうものなのか、自らにとって最適な手段で確かめようとしているからなのだ。目で見るより確かに、指で触れるより確かに、その物の味、形、硬さ、温度、あるいは匂い。
彼らは日々学んでいる。知識を増やしている。脳を活性化させている。彼らのその行動は、生まれて初めての好奇心の発露である。
「私たちは2度生まれる。1度目は存在するために。2度目は生きるために」

フランスの哲学者ルソーの言葉。
人間はまず、肉体以外に何も持たない存在として生まれる。しかしその後、自我に芽生え、自分の生きる目的を見出し、自分らしく生きようとするようになる。これが第2の生だ、という意味。
マーガレット

ギリシャ神話の女神アルテミスを象徴する花。花名はギリシャ語の「Margarites(真珠)」から来ている。また、恋占いに用いる花としても有名。花言葉は「恋占い」「信頼」、そして「真実の愛」など。
おとぎばなし

姫の生誕祭に呼ばれなかった魔女が王国に不吉な予言をもたらす、というのは『眠り姫』の冒頭にあるシーン。
真実を語る魔法の鏡は、いうまでもなく『白雪姫』に登場する有名なアイテム。
ならば靴が片方ない人形は、『シンデレラ』を象徴しているのだろうか。
もしかしたら、探せば他にも“プリンセス”が見つかるかもしれない。
魔女グレイス
「ローワン様。あなたの娘ララは特別かもしれません。私は亡き女王陛下と同じものを感じました」
「ララだけではない。皆特別な、大事な娘たちだ」
「それは建前でありましょう。王も願ってらっしゃるのでは? プリンセスの復活を」
そもそもグレイスがなぜララに執着し、結果人魚姫の悲恋を演じさせることになったのかといえば、これ。

彼女が本当に執着していたのは、亡き女王。“プリンセス”という言葉が何を意味するのかはまだわかりませんが、グレイスはララの母親に何か特別な資質を感じていて、それと同じものをララにも見出していた、というわけです。
「本当の愛とは、声ならぬ光そのものだ。私は見たいんだ。愚かな人魚の物語の結末を。人魚と人間の間に芽生える、愛の進化を。それが本当の愛かどうか示してみせろ。ララ」
ララの持つ資質とは何か。“光”とは、“プリンセス”とは何か。
まあ、今のところそれがさっぱりわからないわけなんですが、少なくともララはグレイスに期待されています。人魚と人間との間に本当の愛を芽吹かせることを。
「愚かな人魚の物語」と言うからには、以前の試み、おそらく女王にまつわる何かは失敗に終わってしまったのでしょう。
ララの恋もまた悲劇に終わったとき、グレイスは失望していました。このことからも、彼女が本心から人魚と人間との愛を期待していたことがわかります。
グレイスはララに協力的でした。
ともすれば、ララ以上にララの恋路に執着していました。
人間になれるチャンスを前に臆するララを叱咤し、ララを王子に引き合わせるサポートも行い、あげく、無用の舌禍を避けるためララから声を取り上げるという過保護ぶり。
ただし、それでグレイスの本願叶ったかというと・・・。
「やっぱり、みんなが正しかったのかもしれない。でも、人間を――、あなたを、私愛してしまったの」

可能性は刻まれました。

鮮烈に。
たとえ眩しさに目を灼かれようとも
「それは・・・! 人間のものよ! 早く捨てちゃいなさい、もう!」
「人間?」
「そう。醜く呪われた存在。触れるだけでも大きな罪よ」
城のなかに心動かされるものを見つけられなかったララがついに見つけた、光はじけるもの。
それは人間がつくり、人間を模った、木彫りの人形でした。
木綿のドレスを身に纏い、小さな真珠のネックレスを首にかけたその人形は、やんごとない身分の子女の持ち物だったのでしょう。
ただし人形の出来そのものは素朴の一言。

姉は「人間は醜い」と言います。
たしかに、けっして美しいといえるほどの人形ではありません。
ただ、だからといって醜いとまでは、ララには思えませんでした。
ララは姉に見つからないよう、密かに人形の首を持ち帰ります。
木綿のドレスでも、真珠のネックレスでもなく、人形を。
「・・・変なの」

美しくも醜くもない人形。
だけどこれこそが、不思議とララの心に光はじけさせる、鮮烈なもの。
「ララ。ララ。・・・どうしたの? あんたが元気ないとつまんないわ。元気なら元気でうるさいけどね」
「お姉ちゃん。・・・人間って――」
やがて時は過ぎ、ついに本物の人間との邂逅を果たしたララ。

人間とは、そう、明らかに美しい生きものでした。
掟も、自分の将来も、愛する家族がどう思うかさえも一時忘れてしまうほどに鮮烈な美しさ。
光はじけたようなあの瞬間、あの体験が網膜に焼きついて、いつまでも残光ちらつきつづけます。
特別仲のいい下の姉2人は、いつからかそれぞれメンダコとチョウチンアンコウを愛でるようになっていました。
ララにとっての人間の王子様も、ちょうどそれらに相当する存在だったのでしょうか?
自分でもよくわかりません。
「私は臆病者なんかじゃないわ。でも、大馬鹿者なの。お父様の言うことを聞かなきゃいけないってわかってるのに・・・」
好奇心が、うずきます。
魔女グレイスの手引きにより地上へ赴き、王子との再会を果たしたララ。
恋も愛もまだ知らない彼女は、かの美しい生きものと同じ時間を過ごします。
けっして楽しいばかりの時間ではありませんでした。むしろ人間の文化習慣に困惑することしきり。けれど、いつも王子の傍にいて見つめていられる生活は、とても快いものでした。
そして、ララはいよいよ彼と唇を重ねるような関係となっていきます。
それが恋と呼ばれるものかどうかはさておいて、ララの目に美しいものとして見える人――。
「まさか、人魚だと? その醜くおぞましい姿で私を拐かせると思うか!」
しかし、突然の翻意。
ララのことを好ましいと思ってくれていたはずの王子は、ただララの正体が人魚だと知っただけで手のひらを返し、鋭い蔑視を向けてきました。
「醜い」と彼は言います。
その言葉を受けてララの胸に蘇る、父の言葉。
人間どもは醜く忌むべき存在。近づくべきではない。
ああ、そのとおりだったと、そのときララも納得してしまいます。
目の前にいる王子の顔は、もはやけっして美しいものではなくなっていました。

それが、美しいものとの鮮烈な出会いから始まった、ララの物語の終着点。
魔女グレイスも失望します。
些細な理由ひとつで、その瞬間まで美しいと思えていたはずのものが醜く変わる、儚い美醜の物語。
――いいえ。
「やっぱり、みんなが正しかったのかもしれない。でも、人間を――、あなたを、私愛してしまったの」
ララの胸に去来するのは、それでも王子を愛しているという思い。
ララが生まれて初めて出会った“鮮烈なもの”とは、けっして美しいものではありませんでした。
人魚なら誰もが「人間は醜い」と言う。
対して、王子は美しかったかもしれない。
けれどララの心に光はじけさせたあの人形は、特別醜くも、美しくもなかった。

それは純粋な好奇心でした。
まだ見ぬものへの鮮烈な憧れでした。
好奇心に突き動かされ、未知なるものを既知へと変えて、好奇心を満足させたララの心に最後に残ったもの。
それは。それでも、愛おしいと思える感情。
たとえ王子が美しくても、醜かったとしても、それでもララは王子を愛していました。
まるで、その身焼き尽くされ破滅することがわかっていても憧れの太陽の傍へ向かうことをやめられなかった、愚かなイカロスのように。
「お前の物語をもう一度見せてみろ、ララ! 勇気あるプリンセスに祝福を!」
かくして、魔女グレイスはもう一度ララにおせっかいを焼きます。
死の間際に見せた一瞬のきらめき。
その小さな火花を、今度こそ永遠の光とするために。
「お前がどれだけ罪深くとも、それでも私はお前を愛している」

人間が醜いとは思えない。
さりとて人魚が醜いとも思わない。
ならば醜いのはきっと、自分自身だけ。
誰をも憎むことのできない死を迎えて、もはや自分を貶すことしかできなくなっていたララの心は、父ローワンが掬いあげました。
ララが動揺しても大丈夫なように、何枚割れてもいいように、ありったけの魔法の鏡を一部屋に集めて。
親不孝者の掟破り、何度お説教したかわからない愛しき娘に、それでも褪せない愛を伝えて。
自己愛を再び回復させたまっさらなララは、いざ、もう一度地上へと旅立ちます。
相変わらず前途は多難なままだけれど。

もう一度、今度こそ、鮮烈なものとの愛を遂げるために。


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