
・・・クソ兄貴。

「パスポート奪還作戦」
大きな出来事
メインキャラクター:栞
目標
伊織のパスポートを死守する。
課題
伊織があの手この手でパスポートを取り戻そうとしているのはわかっている。
ストーカー騒ぎに熱心に首を突っこんでいるのも、騒動に乗じて栞の部屋を家探しするためだ。全部お見通し。絶対に渡すものか。
結末
【失敗】
伊織が初心を忘れて斜め上の行動に走るのはいつものことだが、今回もそうなった。ストーカー疑惑のドイツ人観光客たちをぶちのめして、犯行を未然に防いでいた。どうも、妹の身の安全を本気で心配したらしい。
また、この件でカリーナというドイツ人女性が伊織に惚れ込んだようだ。栞と合わせて3P、あるいは千紗も巻きこんで4Pすら狙っている。
彼女は夏休み期間丸々日本に滞在するつもりらしい。万が一があってはならないため、伊織には今すぐ日本から出国してもらうことにした。
心の変化
【ポジティブ】
カリーナという予期せぬ脅威によって、なし崩し的にパスポートを返すことになってしまったが、正直それ以前からまんざらでもなかった。
全然実家に顔を出そうとしないクソ兄貴ではあるが、なんだかんだで自分のことをよく気にかけてくれていることが伝わってきた。
ピックアップ
「ま、俺たちにとっては軽い食前酒みたいなものだがな」
イェーガーマイスターはどっちかというと食後酒だよ! 食前に飲んだら口のなかハーブの香りまみれだよ!

アルコール度数35度なのはともかく、リキュールなだけあって糖分が100mlあたり13gくらい入っている。コカコーラよりもうちょっと甘いくらいの計算。とろりと甘苦い。
こんなもんで飲み勝負するな。
「エロゲじゃねえか!」

一時期のエロゲはオタクの必須教養であった。
「エロゲで人生を学んだ」なんて宣うオタクもたまにいたが、8割冗談2割本気くらいなものだった。
男性のオタクだけでなく女性のオタクも普通にエロゲを嗜んでいたものだった。
いわゆる「泣きゲー」や「燃えゲー」と呼ばれる凝ったシナリオの名作が次々発売され、匿名掲示板などで盛んに語りあわれていた。
数十枚程度のスチルと文庫本10冊分くらいのクソ長テキストで構成されるビジュアルノベルという形式が、低予算・短納期で感動的な物語を描くのにうってつけだったのだ。
耕平たちが割とあっけらかんとエロゲであることを認めているが、実際あの時代のオタクにとってエロゲとはマジでそんな感じの、大っぴらに履修しても全然恥ずかしくないコンテンツだった。
エロとかキャラメルのおまけくらいどうでもいい、が当時のオタクの共通認識だった。

なお、エロシーンがあるほうが明らかによく売れたという。
「さてと。兄様たちは何をしていたのでしょうか?」

旅館の客室にカメラを仕掛けるな。しかも伊織が泊まっているわけでもない他のお客様の部屋に。
ところでカリーナもナチュラルに自分の部屋として松の間に入って行ったが、あの男2人と同じ部屋に泊まっているのだろうか?
「エヴリデイナントカドンブリにラッキーSUKEBEでおもてなし!!」

元気があってたいへんよろしい。
ところで最近あんまり聞かない気がする。姉妹どんぶり。(私がアダルトコンテンツから離れているだけかもしれないが)
でも実際アレ、1作品に複数の正ヒロインが登場するエロゲだからこそ出てくる発想よね。
妹
「何が起きるかわからんからな」
「もちろん、俺たちも栞を守るため全力を尽くす」
「大事な妹のためだからな」
「だから、上手くいったらパスポートを――」
下心しかない兄でも何でもない人と、下心しかない実のクソ兄貴が口をそろえて言います。

そもそもの話、今回のストーカー騒ぎは9割方伊織の仕業です。(残りはカリーナのせい)
いちおう、昼間栞がクレイジーなドイツ人観光客2人組に絡まれていたこととか、うっかりお手製の栞の部屋までの案内図を落としてしまったとか、心配するに至った根拠はあります。
ただし実際には、2人組は部屋でシコシコ栞と千紗の雑コラグッズを量産していただけで、夜這いなどという大それたことは考えていませんでした。
ついでに、案内図を拾ったのもあの2人ではありません。カリーナです。だからこそ彼女は伊織たちの泊まっている部屋に、しれっとお酒を持って現れることができたわけです。
実はいつものように伊織の空回り。
ストーカー騒ぎに乗じて家探しをしようと不埒なことを企んでいるから、その企みとうまく噛みあう、都合のいい妄想を自分で信じてしまうんです。
栞は伊織のまわりに常にカメラや盗聴器を仕掛けていて、すでにあらかた状況を把握しているため、その手には乗りません。パスポートも肌身離さず隠し持っておく所存です。(カリーナのヤバさは認識していませんでしたが)
そもそも栞がどうして伊織をパラオに行かせたがらないのかといえば、実家以外のものにあまり興味を持ってほしくないから。
下宿暮らし1年目からもう里帰りをキャンセルしたことも勘に障りますが、根本的なところ、栞は伊織を実家に縛りつけたがっていました。
だって、栞も旅館を継ぎたくないから。
伊織が家を出たがっている以上、栞が家業を継ぐべきです。少なくとも栞はそう思っています。しかし、栞は栞で旅館を継ぐ気がありません。まだ伊織以外には打ち明けられていないけれど。
となると、頭が悪くてどうせ将来ろくな仕事に就くことができないであろう伊織に家業を押しつけたほうが、全体として丸く納まるというものです。栞はそんなふうに考えています。
まあ、この理屈すら結局のところ、根がお兄ちゃん大好きっ子の栞が伊織にじゃれつくための大義名分でしかなかったりするのですが。

「尊い・・・! だって、ヤキモチですよね? 大好きなお兄ちゃんが構ってくれないから怒ってるんですよね!?」
「全然違いますよ。私はただ、自分の将来のことを何も考えていない兄を諌めるためにですね」
「素晴らしい! これこそ3次元のHENTAI文化!! たまりません。日本に来てよかったデス!」
カリーナといい耕平といい、エロゲで人生を学んだタイプのオタクはたまに正鵠を射ることを言う。
兄
「『メチャクチャ』『メチャクチャ』『メチャクチャ』――! なんだこのゲームは! んなもん再現させられるか!!」
「いや、お前何言ってるんだ」「ゲームと現実は別物だぞ」「ちゃんと現実を見ろ」「そんなこと栞ちゃんが承諾するわけないだろ」
「しかし、万が一ってことがだな」
「彼女も立派な一人のレディだろ」「もう少し彼女自身の判断を尊重してやるべきだ」
一方、オタクにとってのエロゲの立ち位置をよく知らない伊織は、(正論かましたところで結局のところ微妙に現実とフィクションの区別がついていない)オタクどもの暴挙に、本気で栞の身の安全を心配します。
耕平が「お前はその隙に栞の部屋を家探しできるじゃないか」と、伊織が見逃してくれることのメリットをささやきます。
たしかに、そう言われてみれば伊織にとっても悪くない話。若干迷わないでもありません。

しかし。
「だってお前、そういうの言いだすの苦手だろ」
「別にそんなことは――」
「でもお前、旅館を継ぐのイヤだってことも言えてないっぽいし」
「え・・・」(『ぐらんぶる Season 2』第2話)
このお兄ちゃんはなんだかんだ過保護で、そして、うん。
なんだかんだ妹のことを、いつもよく見てくれているのです。
「あいつは昔から期待されると断れない性質でな。万が一でも心配なんだよ、兄貴としては!」 「だから、エロシーンの再現はしないと――」
「うるせえ! 信用できるか!」
元々はそのオタクたちを妹にけしかけて利用するつもりだった伊織。
それを考えると、今さら兄貴ぶられたって栞も困ります。
だけど――。

一難去ってまた一難。
今度は騒動の一部始終を聞いたカリーナが、伊織のお嫁さんになりたいと言い出しました。

こちらは栞にとって、(HENTAI趣味に付きあわされそうなことを除けば)意外と悪い話でもありません。なにせ、彼女は日本文化が大好きなのです。伊織と結婚したら喜んで旅館を継いでくれることでしょう。
ダイビングを心底愛していて、海辺から離れる未来がまるで想像できない千紗と比べても、将来的には結構な優良物件のはず。
とはいえ。
「『日本のどこでも』ですか・・・。兄様。パラオ、行ってらっしゃい」
やっぱり却下です。HENTAIの業は北原兄妹には重すぎる。

なお、伊織を国外に逃がしたところで、栞はこの夏休みのあいだ旅館から離れられることができません。
カリーナが伊織と結婚したがっている目的のひとつが、栞と義理の姉妹になること。彼女のターゲットには栞も含まれています。
アニメでは省略されていますが、このあとカリーナは夏休みいっぱい北原旅館に連泊することを決め、伊織が旅館を出たあとも栞を追いかけまわすようになります。
その未来が想像できない栞ではなかったはずです。
とりあえず自分の眼前の危機から逃れることを考えるなら、むしろ伊織を国内に留めておくことも充分に検討に値する選択肢でした。
なのに、栞はクソ兄貴をパラオへ送り出す決断をしたわけです。迷うことなく。
結局のところ、栞はお兄ちゃんのことが大好きなのです。



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