
洗いものも皮剥きも大変だけど、あなたたちを知れば知るほど新しい姿が見えて、そしてまた、もっと知りたくなる。

「ケーキのためなら死ねます!」
大きな出来事
メインキャラクター:ララ
目標
アルバイトで窓ガラスの修理代10万円を稼ぐ。
課題
茉里と一緒に20店舗ほど面接を受けたが採用されない。
ようやく雇ってもらえたアンデケンでは皿洗いなどの雑用ばかりで時給が低く、1ヶ月働いた程度では目標の10万円に届かない見込み。
魔女からは「早く本当の愛を探せ、王子を探せ」とせっつかれており、ララ自身もそちらが本来の自分の使命だと認識している。使命と関係ないことに時間を浪費してしまっており、気が逸る。
結末
【達成】
悩みとは裏腹、一生懸命に働いたララをアンデケンのスタッフたちは暖かく迎え入れてくれた。ララはこれからもアルバイトを続けることにした。
店長が当初言っていた言葉とは異なり、初めての給料袋には11万円入っていた。江万もそこから3万円抜くだけで許してくれ、ララの手元に自由に使えるお金が残った。
心の変化
【ポジティブ】
ララは職場であるアンデケンと、一緒に働くスタッフたちに愛着を持った。
アルバイト先での営みについて「知れば知るほど新しい姿が見えて、もっと知りたくなる。この気持ちが本当の愛につながってる」かもしれないと思うようになった。
キーワード
“魔女の薬”
「つまらん。これは人魚と人間の境を超える禁忌の薬だ。お前のような臆病者に渡すつもりはない」
「この薬を飲めばお前は人間になれる。しかしそれは一時的なものだ。泡となって消える前に、本当の愛を手に入れなければならない」(第1話)
「何が起こったの? 私、なぜか蘇って、私を呼ぶ声が聞こえて・・・。思いだした! あれは人魚を人間へと変える薬。それにあのあと出会ってしまった! 恐ろしい、人間!」(第2話)
「リサ!? ・・・その足」
「ずっと会いたかった。待っていたわ、あなたが蘇るのを」
「どうして? まさか魔女の薬を――」
「この醜い姿であなたに会いたくはなかった。愛するララ。あなたは特別なプリンセス。その光によって私たちを救う者。なのにどうしてあなたは、また薬を飲んでしまったの?」
ピックアップ
アンデケン近江八幡本店


近江八幡駅前にある人気の洋菓子店。まるでお城のような店舗建物がよく映える。火曜定休、営業時間9:00~19:00。
看板商品はチーズケーキ。ゴーダチーズを使用したスフレタイプで、濃厚かつ軽やかな口当たり。昔ながらのアプリコットジャムと、上に載っているパイナップルがアクセント。ホールケーキ換算で一日100台分も売り上げるとのこと。
ララが住んでいるのは大津市の琵琶湖南岸あたりのはずだから、通勤には普通電車で片道30分ほどかかっている計算となる。
カメチク本店

アンデケン近江八幡本店の近くにある、これまた人気の焼肉店。
近江牛を使ったメニューが中心で、ホルモン系豊富。それでいてお手頃価格。
フレンドマート

株式会社平和堂が展開している、ややコンパクトな地域密着型スーパーマーケットチェーン。
本当に平和堂が強いんだな、滋賀県。
ピンク色の光

リサの車のブレーキランプかと思ったが、どうも違うっぽい。映ったのはエンジンをかけた瞬間でも、発進した瞬間でもない。
茉里の部屋の窓ガラス、街灯、リサの車のバックミラーの3つに反射している。魔女が何か飛ばしているのかもしれない。
初めての給料

タイムカードを見ると、ララは基本的に9:00~15:00、週6日勤務のシフト(不定期に少し短い日もある)。月末締め丸1ヶ月分の給与だと仮定すると、実際に支給された手取り11万円はちょっと少ない。おそらく15日締め25日支払の半月分だろう。
そうなると今度は逆に多すぎる(店長の言う7万円くらいが妥当)のだが、劇中描写を見てみると、ララは21時退勤の初日以外も日が沈んでから退勤している。店長の新商品開発につきあって、タイムカードを押してからも残業していたのだろう。
いかにララががんばって働いていたかがわかる。
店長も(どんな手当でごまかしたのかは知らないが)サービス残業扱いにせず、きちんと給料を支払ってくれた。

ちなみに、第4話冒頭で「地上の世界に来てから3週間が過ぎた」とのモノローグがあり、そのとき1学期の中間テストだったことから、ララが滋賀に来たのは4月末か5月頭ごろ。
給与支給の時期を考えると今話終了時点で6月末くらいになるから、ざっくり2ヶ月ほど経過したことになる。
ララの根性

「そうや。それが仕事や。仕事っちゅうのは拷問や」
ケーキ屋さんというキラキラしたイメージのアルバイト先には地雷人材がつきもの。
そこに、20件も面接落ちしたうえ精神論以外ふわっふわなお姫さまを採用してみた以上、とりあえずまず最初に現実を突きつけてやる必要がありました。
シフト週1希望とかいうナメた無愛想女子高生もたいがいですが、未経験のくせにいきなりケーキをつくりたいとか言いだすあからさまなアレ案件。取り柄といえば若くて元気なことと、週6勤務可能なことくらい。
キッチンスタッフたちも店長の言いかたには呆れるものの、方針自体は批判しません。
初日の勤務態度は、まあ及第点。
いきなり8時間半ひたすら皿洗いという絶望的なブラック労働を前に、口ではぶー垂れつつも、しかし案外ガッツがありました。
途中で逃げだすことなく、翌日もちゃんと時間どおりに出勤してきました。
「仕事は拷問やない。楽しいもんや。今日はな」
初日あれだけ現実を見せられたというのに、ララの脳みそプリンセスっぷりは変わることがありません。
自分がやらせてもらえなかったケーキづくりを店長がひょうひょうとこなし、しかもそれで他のスタッフからチヤホヤされているのを見て、きわめて素直にズルい!とむくれます。
驚くべきことに、夢見がち脳すらガッツみなぎってタフでした。
そんなに仕事が楽しそうに見えるなら、うんざりするくらい体験させてやろう。
ララの業務内容は2日目にして、新商品開発の助手へとランクアップしました。具体的にはひたすら桃の皮むき・種取りです。パワハラか?

ところがどっこい、これでもララは挫けないのです。
新商品の試作品が完成するまでおよそ2週間。
実はシゴデキなことが知られはじめたララには次々新しい仕事が割り当てられます。
いきなりカスタードづくりを任せる店長はさすがにどうかしていますが、他のスタッフからも卵割りに、スポンジの準備、入荷した食材の搬入・・・。もちろん皿洗いも継続で。
シフトは15時までのはずですが、気がつくとなんか夕方上がりの先輩バイトを見送る立場になっています。自分が帰るのは空に星々が瞬くころ。正社員じゃねーんだぞ。
人間社会の常識がイマイチ足りていないララは自分の仕事ぶりがどれだけすごいのかわかっていないようですが、当然ながら周囲の見る目は変わります。
お姫さまだ。とてつもなく根性のあるお姫さまだ・・・!
「お疲れさま。・・・助かってんで。ララさんがしっかり働いてくれてて」

おとぎ話から飛び出してきた、瞳にこの世全ての善性を映すプリンセスの滋賀県ライフ。
今話も案外、ララは間違えません。
ララの孤独
ある日、ララが仕事でちょっとしたミスを犯しました。

損失はそこそこ大きいですが、とはいえ責を問うほどのことではありません。新人バイトに触らせてはいけないオーブンを動かしっぱなしでキッチンから離れたほうが悪い。
ララの過失はせいぜい、事前に注意されていた話を無視してしまったこと、相談できる相手を探す前に自分で解決しようとしてしまったことくらいでしょう。
ただ、ここ数日のララの様子がおかしいことが引っかかりました。
「面倒くさいこと言いたないけどな。何焦ってるんや、ララさん」
勤務態度は良好すぎるほど。なにやら10万円ほどお金を必要としているようですが、それだって来月まで働けば余裕で稼げるはずでした。
夢見がちなところは気になりますが、いつか叶えられそうなだけの努力も重ねています。「ケーキのためなら死ねます!」との大言壮語もあながち誇張ではありませんでした。試作品用とはいえ、1週間足らずでカスタードクリームを任せてみようという気にさせてくれました。期待に応えてもくれました。
彼女は見かけによらず優秀で、こちらも高く評価していることを伝えたつもりでした。遠からずまた、いくつも新しい仕事を教えることになるでしょう。
それなのに。
彼女は何かに焦っています。
すでに充分に過密なシフトなのに、それでもまだ足りないと言う。
この調子ならいずれケーキくらいひとりで焼けるようになるだろうに、今すぐ焼きたいと言う。
来月までまたがんばれば、きっとまた状況は大きく変わっていくはずなのに、彼女はそれすら待つことができないのです。
「私、江万さんに働けって言われて。ここだけが私を雇ってくれて。でも、どうして働いてるのかわからなくなって。・・・王子様に出会わなきゃいけないのに」

言っている意味がわかりません。
王子様とは? 彼女はここに来たときからずっと、頭の中身プリンセスでした。
わかってあげることができません。相談に乗ろうと思っても、店からは何も協力してあげることができません。
「やめたかったら、やめてええんやで」
こちらのことは気にせず、もっと自分のためになる場所を探していい。
そう言ってあげることがせいぜいでした。
ララの使命
「ララちゃん。あんた、茉里が学校行ってる間何もしてへんやないの。あんたが壊した窓10万したで。それなのに・・・。働きや。うちの掟や」
「成すべき試練を忘れるな。どうだ、王子は見つかりそうか?」
コンフリクトを起こしていました。

以前も追い出されそうになっていた家です。迷惑をかけてしまっていることは重々わかっています。窓ガラスのことだって忘れていません。だから、できるかぎり家主の要請に応えるべきだと思います。
もうひとつ。もちろん本当の愛を探す使命だって忘れていません。人魚の一族がみんな眠りについているのは、自分が勝手に人間の世界を見に行ったせいです。ララには使命を果たす責任があります。
けれど、いざ働いてみると仕事って大変で、時間がかかって、くたくたになって、到底本当の愛を探す余裕なんてありません。
じゃあ仕事なんてやめちゃえばいいのかって、もちろんそれもありえません。窓ガラス代だけの時点ですでに相当な譲歩。そのくらいは返さなければ。
最初は、アルバイト先で王子様が見つかるかもって淡い期待があったから挑戦してみる気になれました。実際には全然そんなことないみたいで。
だったら。
だったら。
こっちを立てればあっちが立たず。二者択一の選択肢。
いいえ。選択の余地はありません。両立させなければならないこの2つ。
でも、それだけならまだ楽なものでした。
「お疲れさま。・・・助かってんで。ララさんがしっかり働いてくれてて」
うれしい、と思ってしまったのです。

ララにとって、窓ガラス代を稼ぐのも、本当の愛を見つけるのも、自分のためではありませんでした。
それらはララにとって義務であり、責務であり、罰でした。自分の身を粉にしてでも誰かのために尽くさなければならない、絶対的な使命でした。
なのにどうして、働くことが楽しいと思いはじめているんだろうか。
使命とは関係ない、むしろ使命を果たすことを阻害してしまっていることに、どうして喜びを見出してしまっているんだろうか。
罪深いことです。今、ララは父や姉妹たち、それから茉里や大津家の偉大な犠牲によって生かされています。ならば彼らのために尽くすのが当然。
それを、身勝手にも自分の悦楽のために生きようとしているだなんて。
自分のため。みんなのため。
窓ガラス代と真実の愛探しの間で板挟みとなっていたララの心に、さらにもう一軸の葛藤が追加されます。
ただしこれは、必ずしも両立させなくていい選択肢でした。
「ララちゃんはプロやないからお金にならんけど、シャッターを押せば目の前の景色を写真に残せる。失敗してもスマホみたいには消せへんけどな。これで好きなもん撮ってみ」

カメラに収めます。
楽しかった、罪深かった、想い出の残滓を。
実はこれまでも何枚か撮影していました。だって、好きだったから。
「自分のため」は、これだけでいい。
「あの、店長。私――。・・・皆さん、昨日は迷惑かけてごめんなさい!」
アンデケンのみんなにもたくさん迷惑をかけてしまいました。
ララは使命を与えられた身。自分ではなく、みんなのために生きなければならない存在。
自分の罪は早く清算して、それから、みんなのために、アルバイトを辞めなければいけません。
なのに。
「いやー、ほんま大変やったで。あの後」
「あんなんよくあるし、大丈夫よ。石山なんかもっと酷いミスするし」
「よう焦がしてた」
「そうそう。あんたクリームよく混ぜへんから」

そこに、ララの罪はありませんでした。
誰もがいつも通りの顔をしていて、まるでこれからもララがいて当然みたいに笑いあっていました。
ララは受け入れられていました。
ララの幸せは誰かの犠牲の上にあるのではなくて、みんなの幸せとともに、ララが大好きになった仕事がありました。
自分のため。みんなのため。
その葛藤は意外と両立しうるもので。二者択一は必ずしも片方を諦めなければいけない選択肢ではありませんでした。
「大津家はこれで充分。あとはあんたのもん。一生懸命働いたんやろ?」
初めてもらった給料袋には、店長が言っていたよりずっと多くのお金が入っていて。
江万も、10万円と言っていたのに抜いたのは3万円だけ。
本当の愛を探す障害になっていたお金の問題も、拍子抜けするくらいあっさり解決してしまいました。
この世界はララが思っていたよりずっと優しくて――。
いいえ。
優しいのは最初から知っていました。ただ、ララが今までよりもっとこの世界を好きになっただけです。
「これください!」
「茉里、いくつ食べるかな――?」

ララの未来
「ずっと会いたかった。待っていたわ、あなたが蘇るのを。この醜い姿であなたに会いたくはなかった。愛するララ。あなたは特別なプリンセス。その光によって私たちを救う者。なのにどうしてあなたは、また薬を飲んでしまったの?」
万事解決、大団円と思われたそのとき、不穏な気配とともにリサが現れました。
ララにとっては喜ぶべき邂逅。けれどリサの言葉にはどこか険がこもっていて。
「あなたは特別なプリンセス」と言っています。
「その光によって私たちを救う者」とも言っています。

おかしい。
「ローワン様。あなたの娘ララは特別かもしれません。私は亡き女王陛下と同じものを感じました」 「ララだけではない。皆特別な、大事な娘たちだ」(第1話)
「選ばれしプリンセスが本当の愛を感じたときだけ、その胸の奥からみなぎる光が生まれる。私たち6人の姫君はみんな、その光を、本当の愛を求めてるの。このお城のみんなに光を与える使命が私たちにはあるんだから」(第2話)
ララたちの父ローワンは娘たちを平等に愛していました。
6人姉妹は皆等しく本当の愛を探す使命を帯びているはずでした。
なぜ、リサはララにのみその偉大な使命の完遂を求めているのでしょうか?
・・・まあいいでしょう。
その違和感はさほど大きな問題になりません。
だって、ララはつい最近発見したんです。もしかしたら手がかりになりうるものを。
「最近ね、思うことがあるの。私、多分ずっと前からあなたたちのこと――、人間たちのことを知りたかったんだわ。洗いものも皮剥きも大変だけど、あなたたちを知れば知るほど新しい姿が見えて、そしてまた、もっと知りたくなる。今はこの気持ちが、私が探す本当の愛につながってるんだって。そう思うの」
かつてララを王子様とも巡りあわせた、ララという存在の根源、基盤。
お金を稼ぐこと。本当の愛を探すこと。
自分のために生きること。みんなのために生きること。
それら一見対立するかのように見える2軸は、いずれも意外と両立しうるものでした。

共通項は、世界の優しさ。みんな意外と優しいから、ララが一生懸命がんばれば、大概のワガママを許してくれる。
いろんなことをもっと知りたいと思います。知れば知るほど、みんなのことをもっと好きになるから。ひとりじゃどうしようもないと感じられるコンフリクトも、いつの間にか誰かが解消してくれる。
ララはもとより好奇心を携えて生まれてきた子。生まれついての好奇心の信奉者でした。
「いい、ララ。200年前あなたは知ったはず。人魚と人間が愛しあうなんてできるわけないの。絶対に」
「でも、明日は違うかもしれない!」
滋賀に来たばかりのとき、ララはひとりぼっちでした。見知らぬ土地に怯えて、どこにも味方なんていないと思っていました。
だけど、気づいてみれば実は茉里は意外と親切な人で、大津家のみんなも優しくしてくれる人たちで。
最初は意地悪な人だと思っていた店長も、なかなかケーキをつくらせてくれない他のスタッフたちも、だんだんと、いつの間にか、ララの大好きな人たちに変わっていきました。
たとえ昨日が最低でも、今日が闇のなかでも、明日はいい日かもしれないんです。

今のララはその事実を知っています。
リサは、残念ながらまだ発見できていないようです。
今この場にあるのは、ただそれだけのすれ違い。
だけどそのすれ違いがリサをララの大切な人への凶行に走らせ、
ララのみんなを大切に思う気持ちがリサの大切な人の頭上で爆発します。

溝は広がり、大穴が開き、ララがせっかく発見した偉大な真実の尻尾をリサに伝えられる日は、ずいぶん遠ざかってしまいました。
この悲劇はいつ解決されるのでしょうか。
とはいえ、そんな今日もいつか昨日へと変わり、また明日がやって来るのです。


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