
まったく本当にバカなやつだ。・・・本気で好きなことくらい、俺でもわかってんだよ。

「TV取材」
大きな出来事
メインキャラクター:耕平
目標
ケバ子の恋を陰ながら応援する。
課題
さりげなく伊織の女の好みを聞きだしてみたが、ケバ子にかすりもしていなかった。
アイドルの高橋藍那が伊織に言い寄ってきた。
そもそも耕平自身がケバ子に片想いしている。
結末
【達成】
テレビ番組で高橋藍那と共演する池越勇一の代役を務める機会を得たため、友人として、とりあえず伊織の株を思いっきり下げることにした。結果は上々で、決まりかけていたデートの約束が破談になったようだ。
心の変化
【ネガティブ】
ケバ子に幸せになってほしいからこれで構わないのだが、それはそれとして誰にも知られないまま散るであろう自分の思いに、若干のやるせなさを感じている。
ピックアップ
コウモリのスープ

フルーツバットという、名前の通り果物しか食べない草食コウモリのスープ。
本当に皮も剥かず丸ごと煮込んだものが出てくるそうだ。ただし、耕平のように丸ごと食べるのではなく、見た目のインパクトを楽しんだあとは店員が一度スープから引き上げ、身をほぐして提供してくれるとのこと。
水(PaB並みの発想)

あの。普通に放送事故ものです。
原作の度数40度ですらこんなかわいいリアクションを取れたのは奇跡みたいなものなのに、日頃から特別な訓練を受けていない人の口にスピリタスを入れるなんて、下手したら労災案件です。
●けヒロインが多すぎる!

ケバ子はもともとヤリサーまがいのインカレサークル・ティンカーベルに入会していました。純真無垢で根が夢見がち乙女なケバ子は、イケメンのカレシをつくりさえすればバラ色の学園生活が確約されると信じていたからです。
ところがサークルの男たちはケバ子をネタキャラ扱いして笑うだけ。ケバ子はひとりでやけ酒をあおることしかできませんでした。
そこに現れたのが伊織と耕平。
彼らは(嫌々ながら)ひととおり話を聞くと、ケバ子に代わってティンカーベルに復讐してくれました。ミスターコンテストのステージ上で彼らを全学の笑いものにしてみせたのです。
ケバ子に優しくしてくれた男の人は、2人が初めてでした。

それが、ケバ子が伊織に片想いするようになったきっかけ。
伊織でなければならなかった理由はありません。
耕平ではダメだったなんてことは全然ありません。
どちらのほうがいいとか、どちらかが見劣りするとか、そんなふうに比べるようなコンビではありませんでした。
それでもただ、なんとなく、より惹かれたのは伊織のほう。いつからか伊織のことしか見えなくなっていました。乙女なケバ子は一途だったのです。

「まったく本当にバカなやつだ。・・・本気で好きなことくらい、俺でもわかってんだよ」
明確な分岐点などないまま、耕平はケバ子ルートを逃してしまいました。
どうしようもありません。泣き言を言っても仕方ありません。
おそらくケバ子は、耕平が彼女を好きになるよりずっと前から、伊織のことを好きだったんですから。
トゥルーエンドを逃したからといって即タイトルに戻るのも無粋なもの。
往年のエロゲーマーたる耕平は紳士でした。ノーマルエンドにだって名シナリオはあるものです。けっしてCG回収のための消化試合なんかじゃない。
耕平は、ケバ子の恋を応援したいと思うようになりました。
オタクにとって、俺の嫁が笑顔でいてくれることに勝るご褒美なんてないのです。

………………
…………
……
というわけで。耕平という生き物はケバ子と比較してもどっこいどっこいにピュアで、こう見えて奥ゆかしくもあったわけです。
せっかくの整った顔立ちなのに、堂々とアニメTシャツを着て大学に通うものだから、女子高生ハーレムどころか同性の友達すらなかなかできませんでした。
加えて極度の人見知り。対等に付きあってくれた友人は伊織が初めてで、何か新しいことに挑戦するにしても伊織とツルんでいることが安牌。
暇さえあればお互いケンカを売ってばかりいますが、耕平の目にも、ケバ子が自分ではなく伊織に惹かれた理由はなんとなくわかってしまうのです。
加えて、ケバ子は自分と違ってアグレッシブでした。恋のためなら、半ば捨て身気味に、らしくないアピールだって勇気をもってこなすことができます。
それは耕平にはない性質でした。モロバレのパッドで悩殺しようだなんて、ハタから見ていてバカとしか思えないのですが、それでも密かに一定の敬意を払います。
それは、バカみたいな行動力を誇る伊織に近い資質であるように思えました。お似合いであるように見えるのです。

ほんの少しのボタンのかけ違い。運命のいたずら。
イケメンとのラブストーリーを求めていたケバ子が最初に声をかけてきたのは、むしろ耕平でした。
それでも、ケバ子が伊織を選んだことは必然だったように感じられるのです。少なくとも、耕平には。

「ところで北原。お前は異性に何を求めるんだ?」
「言いにくいが、身体だ――」
「言いにくいなら一瞬でも言葉に詰まれ。で、性欲以外で何を重視するんだ?」
「ふむ、そうだな。――やはり乳房だろうか」
「表現変えても性欲だからな、それ」
「まあ、居心地のよさかな。あとは好きなものがあるとか、新しい世界を教えてくれるとか」
「なるほど。要は四六時中一緒にいて、自分の趣味があって、新世界を見せてくれるやつだな」
「そんな感じだ」
されど、ほんの少しのボタンのかけ違い。
さりげなく聞き出した伊織の異性の好みは、残念ながらケバ子とは似ても似つかぬイメージでした。
どちらかといえば千紗のほうがまだ条件に適っています。
あるいは、俺。

●ニスの王子様
「ちょっと待って、耕平――、池越さん。これ借りてきたから着なさい。これなら前が開かないでしょ。いい? くれぐれも服は着たままね!」
「わかっているとも。俺を誰だと思っている」
「はい、それじゃあ本番!」
「よーい、スター・・・、カット! どうしてそうなるんだ!」
「俺なりに考えた結果だ」

耕平はとりあえず脱ぐことにしました。
耕平を男性アイドルの替え玉として起用することになった番組撮影は難航を極めました。
それはもう、サバンナで野生のシマウマのドキュメンタリーを撮るがごとく。

「池越さん、おはようございます!」
「ヒィッ!」
「ほら、返事」
「オハヨウ」
なにせ耕平です。周りが知らない人ばかりなのに愛想よくふるまえるわけがありません。

「頼む、引き取ってくれ」
「後悔早いな、おい。何やったんだ?」
「ウェットをはだけた画がほしいと言われてな」
「それ胸元軽く開けてって意味だからね! 絶対下まで開けたでしょ」
自分に今何が求められているのか、常識の範囲で考えられるはずもありません。

「今度はロブスターです!」
「ああ。エビだな」
「香ばしい匂いが食欲をそそります!」
「エビを焼いた匂いだな」
「ははは・・・」
アニメや声優の話ならまだしも、気のきいたコメントなんて期待するほうが間違っています。

『貝の殻、食べてくれる?』『スピリタス、飲もっか?』『そこから3回転飛び込み、見たいな』
「1, 2, 3, ハイ!!」
カヤ様のためならTPOわきまえず死ねます。
なにせサバンナのシマウマ。人の手に余るコミュ障です。素のリアクションだけでもこのありさま。
そのうえで、今日の耕平は何割か(2割か3割か?)意図的にやらかしている部分もあるのです。
ケバ子含む友人たちが普通の人間のようにふるまえと再三言ってきますが、耕平にその気はありません。
「よかったらオフのときどこかへ連れて行ってもらえませんか?」
「俺が、ですか?」
「はい。せっかくの南の島ですし。一度は海で遊んで帰りたくって」
「俺は行かんぞ」
「いいから来い、俺のために。たまには俺の役に立てよ」
「断る。黙れ。そして死ね」
「そっか。池越さんは行けませんか。でしたら私だけでも。――じゃあ、その話はまた後で」

なぜなら、珍しく初対面から伊織に好印象な女性が現れたからです。
しかもスタイル抜群な現役モデル。伊織の異性の好みのうち、少なくとも性欲部分にクリーンヒット。
前途多難なケバ子の恋。耕平にしてやれることはそう多くないかもしれませんが、伊織の評判を地の底へ叩き落とすだけでよければそこそこ得意なつもりでした。
「耕平!」
「おう」
「池越さん――。友達のかた、頼りになりますね・・・」


それにしても、どうしてこの男は定期的に男を上げてしまうのか。
「聞いてくださいよ、マキさん! こいつの全裸でデートがご破算に! しかも1度ならず2度までも!!」
不測の事態(割と本気めに伊織が惚れられたこと)もありましたが、なんとかリカバリー成功。ただでさえ(なぜか)多い、恋のライバルに追加参戦される展開は阻止できました。
「俺は普段どおり脱いだだけだ」
「普段どおりのわけあるか! あんだけ言われりゃ俺でも脱がねえよ! だってのに、この野郎はわざと・・・!」
こんなことをするメリットなんて耕平にはありません。
どうせ何をやったところでケバ子の目が向くのは伊織だし、(そういえばケバ子と同じ名前だった)モデルの目が向いたのも伊織でした。とはいえ人見知りの耕平にはそのこと自体に不満はなく、三次元より二次元のほうが大事なので別にモテたいとも思いません。
ただ、ケバ子がどうなるかだけが関心事。

その意味では、どうせケバ子が自分のものにならないなら――。
いつか彼女が幸せそうにしているのを見られたほうが、得というものです。
最近では「俺の嫁」ではなく「推し」といいますが、たとえば二次元美少女のような、最初から自分ひとりのものにならないことがわかりきっているものに対するオタクの考えかたは、昔も今もそう大きく変わらないもの。
「耕平。ちょっとあんたに聞きたいことがあって。別に大したことじゃないんだけどね、・・・なんで今日伊織の邪魔をしたの?」

余計なお世話だったとしても構わない。
当人にどう思われたって今さら気にすることじゃない。
まして、感謝されたいなんて微塵も考えていない、純然たる自己満足。
オタクにとって、俺の嫁が笑顔でいてくれることに勝るご褒美なんてないのです。



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