
暗闇のなかにいた私をあなたは探してくれた。だから、これからもあなたが私を照らす光になって。

「わたしを照らす光」
大きな出来事
メインキャラクター:リサ
目標
安らぎが欲しい。
課題
魔女に先導されて新天地へ向かう途中、人間に捕まり見世物にされてしまった。
助けに来てくれたコータを独りにするわけにもいかず、自ら魔女の薬を飲んだ。
泡となって消える運命から逃れるため人間に魔女の薬をつくらせたが、未完成品しか手に入らなかった。
無事新天地に辿りついたはずの同胞たちにも悲惨な運命が待っていた。魔女は信用ならない。
父はララが目覚めるのを待てと言う。裏を返せば、リサ自身には待つ以外できることが何もない。
肝心のララは「明日は違うかもしれない」と悠長なことを言う。しかし、薬が効かなくなってきたリサとコータには待つための時間がもう無い。
結末
【達成】
心が絶望に沈む間際、魔女が大津家にいることを確信した。魔女の持つ本物の薬を奪うことができれば、今しばらく生き長らえることも可能かもしれない。
心の変化
【ネガティブ】
無力感と焦燥感で今にも絶望しようとしている。辛うじて正気をつなぎ止めているのは、世の理不尽に対するぶつけどころのない憎しみを、魔女という具体的な対象にぶつけられる期待感だけだ。
ピックアップ
不快害虫

強い光を浴びていると泡化の進行を遅らせることができる、みたいな設定でもあるんだろうか?
暗い部屋のなかでベッドの周りにだけ照明を点けているため、カメムシやガなどが集まってきてしまっている。ただし、その割に終盤のシーンでは同じ室内でも虫が見当たらない。留守中も薬を保管する冷温庫の明かりは常時点灯しているというのに。
よく見ると冒頭のほうのシーンでは窓が開いている。虫が入り込んでいるのは家屋がボロだからではなく、網戸もつけずに窓を開け放しているせいだ。
ベッド周りの照明類の電源をわざわざドラムから引いていることから、家屋に電気が供給されていない(=エアコンが使えない?)んじゃないかと疑ってしまうが、実は玄関の常夜灯は点いている。また、冷温庫の電源もドラムにつながっていない。家屋に電気は来ているはずだ。ドラムを使っているのは、単に一箇所で大電力を消費してブレーカーが落ちることへの対策だろう。
リサは学芸員として働いていて身なりもしっかりしているのだから、家電を買うお金が無いというわけでもない。
あえて部屋の照明を点けずに生活していることまで全部含めて、これは一種の自傷行為なのだろう。わざとやっているという結論しか出せない。
琵琶湖博物館

滋賀県草津市にある県立博物館。博物館という名前だが、展示面積2000m2と国内最大級を誇る、大規模な淡水水族館設備を持つ。
リサは「京都理科大学 環境生命科学部 水圏生物科学科 客員教授」という肩書きでここの研究室に入りこんだようだ。
ララの目覚めを待つとともに、琵琶湖の湖底を探査して魔女の所在を突き止めようとしていたのだろう。コータの乗る船に搭載された黄色い機械はおそらくROV(水中ドローン)。あの調査作業がまさにリサの(名目的にも実質的にも)研究の一環なのだと思われる。

リサが捕らえられていた施設

看板は「IMPERIAL AQUARIUM」と読める。1793年時点で帝政かつ英語圏、霧の立ちこめた街ということは、おそらくイギリス帝国のロンドンだろう。
なら、リサを捕らえた船は私掠船か東インド会社あたりの商船だろうか。
アクアリウムだつってんのに見世物としてオウムを飼っているのはよくわかんない。
緑色の指輪

リサが左手の薬指につけている指輪。今話でコータも同じ指に同じ指輪をつけていることがわかった。
これまで王家の指輪を2つ持っているものとばかり思っていたが、実はエンゲージリングのようなものなのかもしれない。きゃー。
クモの巣

クモの巣が張り巡らされているということは、この空間には長いあいだ琵琶湖の水が入って来ていなかったということだ。
ローワン王の身体にもびっしりとまとわりついていることから、彼の貝殻もまた長いあいだ開いていて、しかも身じろぎひとつしていなかったことがわかる。
なのに、彼がリサに後を託した瞬間に水が浸入してきた。第1話でララが目覚めたときには完全に水没しており、また、全ての貝殻が閉ざされていた。
魔女の手引きだろう。リサが来るまで彼はひとりでずっとこの空間を守っており、その役目を託したことでようやく眠ることができたのだ。
もうひとつ開いていた貝殻

うっすら赤い髪と黄色い瞳が見える。・・・ルナ? 起きていたの?
堀越清三博士

1947年当時、京都中央大学の医学博士。第二次世界大戦前から再生医学を研究していたということで、相当に先進的な人物だったものと思われる。
研究室内の蔵書には各種医学書とともに『図解 人体寄生虫学』というタイトルも並んでいる。

リサから魔女の薬の提供を受けた彼は、光学顕微鏡によって(ララが愛に触れたときの光の演出によく似た形の)新種の微生物を発見し、これが薬の核心にあると考えたようだ。
培養実験に対照実験、クロマトグラフィーによる成分分析など様々なアプローチを経て、不完全ながら類似の効果を発揮する薬品の製法を確立した。
・・・ということは、魔女の薬の効用が微生物のはたらきによるものだという彼の仮説は一定程度正しかったのだろう。少なくとも100%魔術的な物質というわけではないようだ。「泡になって消える」とはつまり、理学的には体組織が分解されて揮発してしまう症状を指すのだろうか?
墓前に手向けられた花

リサが堀越博士の墓前に手向けた小さな花はフクジュソウ。和名では縁起のいい名前なのだが、学名はアドニスという。ギリシャ神話に登場する、猪狩りに失敗して落命した哀れな美少年の名前から取られている。その由来から花言葉は「悲しい想い出」。
死の間際に書き残した博士の無念を汲んで、その悲しみを慰めるべく選んだのだろう。
矢の如き光陰
「その薬が持つ輝かしい光に魅せられた。命の可能性を無限に開くその薬に夢を見た。生命が――、命の星が宿っているかのような薬だった。私たちには見えない光を追い求めるような日々が続いていった。この光はどこからやってきたのか? ・・・知りたい。光かがやく命の本質が知りたい。だが、その時間が私にはもうないようだ」

堀越博士は人間の命の短さを嘆きながら亡くなりました。
人知を越えた魔法薬との出会い。
手のひらに載る程度の、ほんの小さな小瓶のなかに、偉大なる生命の秘密の全てが隠されているように感じられました。しかし、その偉大な探求は人の身に余るほど長大な道のりで――。
その残酷な事実はリサにとっても同じこと。
人魚であるリサは本来長命のはずでした。
けれど、自ら魔女の薬を飲んだことで彼女の持ちうる残り時間はきわめて短くなり、間もなく終わりを迎えます。
リサは焦っていました。
長命といえど、それはそもそも永遠ではなく。
長い誘拐の果てにようやく家族の向かった先へ追いつくことができたリサ。
そこで待っていたのは、見るも無惨に痩せこけた父親の姿。
死ぬわけではありません。ただ、眠りにつくだけです。
けれど無常でした。残酷な光景でした。人魚の寿命をもってしても、ララの目覚めひとつ待ってやることができない悲しみ。
「リサ、よく聞け。あそこでララが眠っている。泡となったララに私が再び光を分け与えた。ララに取り戻してもらうためだ――。城を、光を。プリンセスだけが持つ光。それが欲しい。もう一度、我が城の、我が一族の栄光を取り戻したい。リサ。私の代わりにお前がララの復活を待つんだ」

弱々しい父の声には、苦難を背負わせることになる娘への謝罪や悔恨すら含まれていませんでした。もはやそんな余裕すら残されていませんでした。
為すべきことを為さなければならない。使命だけがリサの手に残ります。
何をすれば?
何もしなくていい。ただ、待っているだけでいい。
けれど、悠久たる人魚にすら果たすことのできない使命でした。
それを、有限たるリサが果たさなければなりません。
焦ります。
それは、コータのために己が永遠の命を投げ捨てた罪深きリサにとって、最も不向きな使命。
そして。やがて目覚めた、当のララはリサに向かってこう言うのです。
「いい、ララ。200年前あなたは知ったはず。人魚と人間が愛しあうなんてできるわけないの。絶対に」
「でも、明日は違うかもしれない!」(第5話)
待てないのに!
待つことしかできなくて、
待つ以外に自分にできることが何ひとつなくて、
だから必死に待って、
限界まで待って、
苦しみを耐え忍びながら待って、
待って、
待って、
待って、
もうこれ以上待つことができないギリギリまで待ったというのに、
リサの最後の希望たるララは、このうえさらに残酷なことを言うのです。

待って、と。
忠烈なる光陰
かつて、リサはお姫さまでした。
いつか本当の愛を見つけることになる、人魚の同胞たちのため光を届ける6人のプリンセス候補のひとり。
・・・いいえ、そういうことではなく。

かつてリサはお姫さまでした。
人間に捕まってしまったあのころ。
毎日ガス灯が灯ればわけもわからないまま衆目に晒され、舞台裏に戻されればわずかな“エサ”とともに暗幕で視界を閉ざされる。そんな、何ひとつ自由意志を持つことが許されなかったあのころ。
リサの無味無臭の日々に変化をもたらしたのは、コータでした。
チョウチンアンコウだったころから探しものが得意だった彼。
彼は律儀にリサを捜し求めて、魔女のもとから人間になる薬を強奪し、泡になって消えるリスクを承知で自らに使い、そしてアクアリウムを燃やすという大罪を犯してまで、ついにリサを救ってくれたのです。

まるでおとぎ話に出てくる騎士のようでした。
騎士と呼ぶにはちょっと顔が怖くて、体が小さく力も弱く、全身傷だらけで、煤まみれで、見るからにみすぼらしくて、手段を選ばず罪深くて、けれど、勇敢な子。
ダークヒーローと呼ぶのがふさわしいでしょうか。
騎士らしからぬありとあらゆる条件をはねのけて、彼は立派に、囚われのお姫さまを救出してくれました。
「どうしてそこまで?」
「リサ様は僕を『見つけるのが得意だ』と褒めてくださいましたよね。だけど、そんな僕を一番最初に見つけてくれたのはリサ様なんですよ。それが僕は――、うれしかった」
彼は黙って消えようとしました。
彼にとってこれはただの恩返しでした。
それほどに大きく献身的な愛でこちらを包みこんでくれた、矮小な体躯。
どうしても手放したくありませんでした。目の前にある愛を。コータを。
「リサ様!? ダメです! リサ様! ・・・どうして」
「暗闇のなかにいた私をあなたは探してくれた。だから、これからもあなたが私を照らす光になって」
罪深く、薄汚れていて、けれど光は光。

一族みんなを照らす光としてはふさわしくないかもしれません。
けれど、リサひとりを照らすぶんにはこのうえなく心地いい光でした。
「この薬を飲めばお前は人間になれる。しかし、それは一時的なものだ。泡となって消える前に本当の愛を手に入れなければならない。それは恋心などとは違う、胸の奥底にのみ生まれうる、光り輝くものだ」(第1話)
魔女の言を信じるなら、“本当の愛”とは恋心のことではありません。
だからコータに恋したこの瞬間、リサは光かがやくプリンセス候補ではなくなってしまったのでしょう。
この瞬間、リサはコータひとりのためのお姫さまになったのです。
光陰巡り周った果てで
「あなたはいつも私を見つけてくれた。だから、これからもあなたが私を照らす光になって――」

だからリサの見つけたその愛は、結局のところ、人魚を救う“本当の愛”たりうることはなくて。
ララに救われる日を待ちつづけて憔悴しきったリサは、再びあの甘い、コータに救われた瞬間を夢に見ます。
暗く陰鬱な部屋。虫がたかる惨めな我が身。
あの日、リサは不幸のどん底にいました。
それをコータが救いあげてくれたんです。どうか、あの甘やかなる救済をもう一度。
もちろん、甘美なだけの夢にリサが本当の意味で救われることはないのですが。
コータはあの日と変わらず献身的に尽くしてくれています。けれど、それでも救われないのです。
リサの見つけたあの尊い愛では、それでも、本当の愛の代わりにならないのです。
「人間とは不便な生き物だ。滑稽だな、水に追われて逃げるその姿」
コータがあの日と変わらないのなら、変わったのはリサのほう。
「消えなさい! ララが目を覚ますまで、私たちがここを守るの」
「静かにしろ。ローワンは眠ることを望んでいる」
「ララだけでなく、お父様もたぶらかしたのね!」
「答える必要があるか? 私の薬が尽きれば消えていくお前たちに。――ここは神聖な場所だ。人間は地上に帰りな」

魔女はムダに口が悪いだけで、善性です。
彼女の話をよくよく聞いてみれば何の悪意もないことがわかるでしょうに。
くたびれた父親を安眠させてやりたいなら静かにしろ。地上には私が送り届けてやる。
ホント、それだけしか言っていない親切な人だというのに、余裕を失った今のリサはその意図を解しません。まあ、全面的に魔女が悪いんだけども。
ララもそうでしたよね。第2話などララ自身に余裕がないときはやたら魔女が悪党に見えて、反対に落ち着いて話を聞けるタイミングだと頼もしい相談相手にもなりえて。
かつてコータとの間に生まれた愛に救われたはずのリサが、今同じ愛では救われなくなっているのは、そういうわけです。
見当外れにも魔女を疑ってしまっているリサは、ただ見守りに来ていただけの彼女に気づいてさらに猜疑心を深め、どんどん自分で自分を不幸にしてしまいます。

自分でも、今の自分が惨めに見えることは充分にわかっているでしょうに。
「もう、これ以上は効かない・・・」
「でも、ララ様の――、ララ様の特別な力さえあれば!」
どんなときでも希望を捨てず、リサの幸せを模索しつづけるコータの声が、今のリサには届きません。
リサ自身の余裕のなさが、リサから全てを奪ってしまいます。



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