ぐらんぶる Season 3 第7話感想 海は広いな大きいな。

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うん。素直に言う。伊織がいてくれてよかったって。

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「お母さん」

大きな出来事

メインキャラクター:千紗

目標

 母にダイビングを仕事にすることを認めてほしい。

課題

 性格的に向いていないのはわかっている。それを見透かされていることもわかっている。
 だからこそ認めてほしいのだが、それが一番の難題だということもわかっている。

結末

【達成】

 ずっと反対されているものとばかり思っていたが、実はそうでもないらしい。
 話を聞いてもらえなかったのは、あの人が難聴を隠していたから。

 千紗は自力で真実に気づくことができなかった。
 勘違いしていたことに気づけたのは伊織のおかげ。

心の変化

【ポジティブ】

 あの人が認めてくれないのなら、いっそ自分からダイビングなんて辞めてやろうと思っていた。
 だから、最後の説得に失敗した時点で人生の全てが終わってしまったように感じられた。

 でも、そうじゃなかったんだと。母が本当は応援してくれていたんだとわかったから、これからもダイビングを続けられる。

 伊織が気づいてくれたおかげだ。
 おかげで、千紗は大切なものを2つとも失わずに済んだ。

ピックアップ

ファンダイビング

 「楽しむ」の“Fun”。要は仕事や訓練ではなく、純粋に遊びとしてダイビングを楽しむ行為のこと。
 海ではどうしても不測の危険が排除しきれないため、遊びといっても必ず経験者2人以上で潜るのが基本。日本ではインストラクターに同行してもらうことも多い。誰かと一緒に潜ったほうが楽しいことも多いから一石二鳥でもある。

耳抜き

 海ではほんの数メートル潜っただけで、まるでアルプスやエベレストに登ったときの気圧の変化のような、急激な水圧の変化を全身に受けることになる。特に鼓膜が影響を強く受けやすく、放っておくと出血したり、破れたり、ときには聴覚神経にまでダメージが及ぶことがある。
 ダイビングをするときは一定の水深に到達するたび、鼻をかむようにして体の内側から鼓膜へ空気を送りこんで、内外の圧力差を平衡に保つように気をつける必要がある。

海は恋人

 「お母さんには聞いてない!」

 お母さんがイントラの仕事に反対しているのはずっと前からでした。
 言っている指摘がいちいちごもっともなのも。

 わかったうえでここまでがんばってきました。ちゃんとやれるんだってところを見せて、認めてもらいたくて。
 実際はダメ出しされてばかりだけど。実際は呆れられてばかりだけど。自分のことが情けなくなります。伊織やケバ子は褒められているのに。

 猶予を与えられて、大学に入学してからもう何ヶ月経った? 無人島で桜子の取り巻きに指摘されてからですらもう1ヶ月以上。
 努力していないわけじゃない。気をつけていないわけじゃない。それでもこの体たらく。
 これはもう性分なんだって、嫌が応にも現実を直視させられます。
 焦り? いいえ。もう焦っていた時期すら通り過ぎてしまいました。

 全部、お母さんが言ってたとおり。

 千紗が認めたくないだけで。

 「やったな、千紗」

 運がいいのか悪いのか、こんな気分のときに限ってバイトがお休み。お客さんの立場でファンダイビングさせてもらえることになりました。
 とても笑顔で接客できる状態じゃなかったからそれはいいけれど、かといって心から海を楽しめるテンションでもありません。

 そして、こういうときに限って伊織はウザ絡みしてくるもので。

 「それに、このままだとお前とのパラオの想い出は股間爆発になるんだぞ」
 「それは絶対にイヤ!」
 「だったら、来てよかったと思える想い出つくろうぜ」

 伊織は千紗には海さえ与えておけば機嫌が直ると思っているフシがあります。
 伊織なんかにチョロいと思われているのがいかにも不快で、そして実際その通りな自分が不満でもありました。そこの単純さを認めてしまうのは、お母さんに見透かされてしまっている部分すら認めてしまうようで。

 だけど伊織というやつはムカつくくらいに巧妙で、海に入らなきゃ入らないで絶対に後悔するよう、先回りして逃げ道を塞いでくるのです。
 さすがにパラオの想い出を股間爆発で染めたくはない。

 大学に入ってからの千紗の日常はだいたいこんな感じで、千紗がちょっとヘコんでいたり周りとうまく話せていなかったりすると、すかさず伊織がウザ絡みしてくるんです。
 うんざりします。

 「すっげえー! あれがマンタか! 千紗は仕事中に何度も見たのか?」
 「ううん。あんなに近くでは初めて」
 「そうかそうか! つまり俺たちは持ってると!」
 「運がよかったよね!」
 「ああ。やっぱダイビングっていいもんだな!」

 海は、結局、やっぱりすごくて。

 気がつけば千紗にも友達ができていました。
 お父さんのお店でバカな飲み会ばかりしているPaBとまともに付きあう気はなかったのだけれど、お父さんの勧めで入会だけして、遠巻きに見ていたらなんか伊織が連れてこられて、あっという間に染まって、耕平も巻きこまれて、やっぱり染まって、やっと常識人の愛菜がきたと思ったら、なぜか自分から染まりに行って。そして気がついたら、そんなバカな3人といつも一緒にいる千紗がいました。

 「友達とのファンダイブは仕事とは別物」とチーフは言うけれど、・・・遺憾ながらそのとおりで。

 今日の海は格別にキレイなところだったと思います。
 もちろん、いつもの海も好きだけれど。それとこれとは比べるようなものではなくて、それでいて、今日はさすがに楽しくて。

 気がついたら、気分が晴れていました。

 海ってすごい。改めてそう思います。もう長いことずっと、千紗は海のことを愛していました。
 改めて思います。海のこと、好きだなあって。伊織に焚きつけられなかったら今日は潜らなかったかもしれなかったのに。
 恩知らず。だけど海はそんな自分すら受け入れてくれる。懐が深い。好き。

 やっぱり、海のこと諦めたくないなあって思います。どうしても。

 「何やってんだ? ああ、昨日のこと謝るのか。ならさっさと行ってこいよ」
 「でも・・・」
 「大丈夫。お前と紗耶華さんはよく似てる。そのチョロさもきっと遺伝だぞ。自信を持て」
 「だいぶ失礼なんだけど!」

 そして、こういうときに限ってやっぱり伊織はウザ絡み。

 前に進まなきゃって、いつも思わされるんです。

 「あの。お母さん――!」

 ・・・でも、現実は海ほどにも、それどころか伊織ほどにも優しくなくて。

透明度が低い

 「何か言ったかい、千紗。用がないなら出て行ってちょうだい。今忙しいんだ」

 伊織には、この人がそんな冷たいことを言う人だとはどうしても思えませんでした。

 本来募集していたのは雑用のアルバイト。接客、ましてインストラクターとして海のなかまでお客さんと同行させるなんて、それ自体おかしなことです。
 ベテランのチーフを付けているとはいえ、もうひとりは新人のマキ。そのうえで千紗は(ダイバーとしての実力ならまだしも)接客の能力がお世辞にも半人前以上のものではないのです。
 チーフは穏やかな人柄なのでアドバイスするだけで叱ることはありませんが、同時に千紗の接客を褒めたこともありません。

 「まあ、普通こんなこと女やってりゃわかるもんだけど。あんたは全然だね」(第4話)

 「まったく。なんであんたはそんなに不器用なんだか。その手の話に疎い奈々華は意外とうまくやるのにね」(第6話)

 「あんたはただ海とダイビングが好きなだけさ。あんた不器用で無愛想だからね、余計な苦労を背負い込むのは目に見えてる。だったら普通に就職して趣味でやるほうが――」

 オーナーの言いようは悪いし、ドライ。

 ただ、そうはいうけれどドライにしては少々踏み込み気味なところがあります。
 家族だから、というところもあるのでしょうが、本当にイントラになることを反対しているなら指導しなきゃいいのに。ノウハウなんか教えなきゃいいのに。

 弱音を吐いている人に追い打ちをかけるのはあんまりではあります。
 でも、それと同時に千紗が夢を諦めた先のことまで考えてくれていたりして。実際、仕事にせず趣味として一生を捧げる付きあいかただって充分にカッコいいものです。

 そんな彼女の不器用な人柄と、自分なりに一生懸命熱意を訴えている相手を冷たくあしらう姿が、どうしても結びつきませんでした。

 あの性格だから本人は理由を素直に教えてくれないのだけれど・・・。

 「もしもし。あ、マキさん。どうかしました?」
 「お店に忘れ物があってね。伊織君にあげたエロ本」
 「あー。それなら大丈夫でーす」

 電話に出るケバ子の仕草を見ていて、ふと全ての疑問が一本の線でつながる仮説が浮かび上がったのです。

 パラオ→日本で、航空便チケットの払い戻しがきかないドタキャンかまして、新しく取り直したらたぶん10万円くらいかかっちゃうけれど、まあ構うものか。

 (どうでもいいですがこのシーン、アニメ版の演出だと伊織が答えに気づいたきっかけが“ケバ子のスマホの持ちかた”だってわからないだろ! 普段びっくりするくらい原作ベタ写しでアニメ化しているのにどうしてここだけ変えた!? ・・・と3日くらいひとりで悩んでたんですが、よく考えたら映像 / 音声ありで原作ママの演出をやったら伊織の走りだした理由が実はエロ本じゃないってバレバレになっちゃうんですね。マンガ媒体の原作だと時間経過の概念を曖昧にできるからあれで通用するんですが、アニメだとそうはいかないわな)

海みたいな人

 「ただいま、千紗。もしかして寝てるのか? まあ起きてたら適当に聞いてくれ。昨日おばさんにお前の話、無視されたよな。いくらなんでもあれはないよな」
 「別に。そういう人だから」
 「って、俺も最初は思ったんだよ。でも妙に違和感があってな。おばさんずっとお前のこと気にかけてたから。そんでケバ子が電話してるのを見て――」

 千紗は深く傷ついていて、いつも以上にトゲトゲしい態度でした。有り体にいってほとんど八つ当たりされているようなものでした。けれど、伊織は構いません。千紗のそういう態度は慣れっこです。
 そんな些末なことを気にするより、伊織には楽しみなことがありました。たぶん、10万円余計にかけた価値はあるんじゃないでしょうか。

 千紗に、チーフから教えてもらった秘密を教えます。

 「――そんなことを繰り返したら鼓膜がダメになったんだと」
 「そんな。そんなの知らない。聞こえてなかったならそうと言ってくれたら・・・」
 「言いにくかったんだろうな。お前が好きなダイビングが原因だったから。ホントお前らはよく似てるよ。耳に不安があるところとか、気持ちの伝えかたが不器用なところとか」

 千紗がお母さんの部屋を飛び出していったあと、伊織は一度彼女に抗議しています。ただ、それはけっして感情的ではなく、むしろ窘めるように。
 相手は年上で、自分の叔母で、バイトの雇い主でしたが、失礼を承知で反省を促せる相手だと思って接しました。
 敵対的に抗議する必要はない。ちゃんと話しあえば反省してもらえるはず。この人は本当は悪気がないはずだ。あんなふうに千紗に冷たく当たる態度は、この人にとってもおかしいと感じるもののはずだ。
 伊織にとっては、まるで千紗に接するときと同じ感覚。同い年のはずなのに、むしろ兄が妹に接するよう。頑なで、だけど放っておけない危うさがあって。目の前のこの人は目上の立場ですが、そういうところもどことなく千紗に似ていました。

 沖縄では千紗も耳を痛める失敗をやらかして、他のPaBメンバーが3本目のダイビングを楽しんでいるなか、伊織と一緒に船上で待機するはめになっていました。
 伊織にとってはダイビングの先輩にあたる千紗の、意外な一面。

 重なるのです。年齢も、経験も、技術も千紗のはるか上にいるだろうこの人が、びっくりするくらい千紗に似ているように感じるのです。
 あのやたらドライな態度すら、人づきあいを苦手としている千紗の延長線上で理解できそうな気がするほどに。

 千紗の熱弁を袖にするふるまいは正直意外で、理解不能でしたが、だからこそやはりおかしいと確信します。伊織にとって彼女は千紗を通せば充分に理解可能な相手で、だからこそさほど深い付きあいじゃなくとも「あれは彼女らしくない」と信じられます。

 伊織にすら透けて見えるんです。

 まして、実の娘の千紗になら、なおさら簡単なこと。

 千紗はお母さんとうまくいっていないことを自覚しつつ、それでも彼女に認めてもらいたいと望みつづけました。
 相手がどんなに頑なな難物であろうと、無視して勝手にイントラを目指すのではなく、あくまでお母さんに認めてもらったうえで夢を叶えることにこだわりました。それこそ、認めてもらえなかったからって自分の夢ごと諦めるほどに。

 お母さんのことを理解したいし、理解できる相手だと思っている。いつか理解してくれると信じてる。
 千紗にとって、お母さんは思いのほか遠い存在ではなく、むしろ実は心の距離が近い人で、今でも大好きな家族のままでした。

 だから、一見ぐちゃぐちゃにこじれているように見える親子関係でも、たったひとつ勘違いを正してあげるだけでいい。
 たったそれだけですべてはうまく巡る。

 「お母さん・・・!」
 「――じゃ、おやすみ」

 出費の甲斐はありました。
 伊織自身に何か得のある話ではありませんでしたが、なにせ千紗とは毎日顔を突き合わせるんです。いつまでもヘコんでいたり、暗い顔で夢を諦めようとする千紗なんて見たくありません。
 これは、いわば伊織自身の健やかな日常を守るための先行投資。
 伊織という人物は、友人のためですら、これほどのコストを笑って支払うことができるのです。表面上は他人の都合だとしても、結局それは他人事ではなく自分事だから。

 いわば日常の守り手。等身大のヒーロー。この精神性こそが、汚いプリキュア。

 「寝る前にひとつ聞かせて。もしかして、飛行機に乗り遅れたのって私のため?」
 「エロ本も忘れてたしな」
 「そっか。ありがとう、伊織」
 「おいおい。やけに素直だな」

 海はどこにでもつながっていて、どんなときでも、どんな人でも受け入れてくれる、懐の広い存在。
 昨日も落ち込んでいた千紗を慰め、楽しみや驚きを提供し、友達とのファンダイビングを全力で楽しませて、お母さんと向きあうための気力をくれました。
 千紗は海のそういうところが好きでした。

 千紗はこう見えて甘えんぼうです。出来のいい姉に溺愛されて育った、いざというとき常に頼れる人が傍にいてくれることが当たり前だった子。普段しっかりしてはいますが、それはそれとして多少の意固地やワガママも受け入れてほしいと気軽に思ってしまう妹気質。
 だからこそ、海のような大きい存在のことが好きでした。

 「うん。素直に言う。伊織がいてくれてよかったって」

 他人の問題のために、まるで自分事のように全力で取り組むことができる人。
 今日の伊織はまるで――、海みたいな人でした。

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