
絶対やで。絶対、約束な。

「決勝戦の夜」
大きな出来事1
メインキャラクター:ララ
目標
自分のいるべき場所を定める。
課題
リサは人魚が人間との間に愛を育むことは不可能だと言う。
茉里は泡になるくらいならリサのところへ帰れと言う。
ララも、このまま地上にいて本当の愛を見つけられずに終わってしまうことが怖い。
結末
【達成】
離れてみて、改めて思う。会いたいと。
茉里やルカ、他にも毎日のように顔を突き合わせていたたくさんの人たちに、今すぐ会いたくてしかたがない。
ララはこれからも地上で生きることを選んだ。
心の変化
【ポジティブ】
滋賀ではたくさんの出会いがあって、色々な体験をした。きっと自分ひとりでは挑戦してみようとも思わないことだったり、未だに意味がよくわからないこともいくつもある。
この滋賀にこそ、ララの心をときめかせるものがある。
大きな出来事2
メインキャラクター:茉里
目標
ララを突き放す。
課題
このまま地上にいては、ララは泡になって消えてしまう。それはイヤだ。
リサのところに行かせれば延命してもらえるらしい。
ララと暮らすのは正直楽しかったのだが、仕方がない。
結末
【失敗】
ララのことはしっかり突き放したし、自分の置かれた状況もわかってもらえていたはずだったが、結局ララは地上に戻ってきてしまった。
それを嬉しいと思う自分もいる。
心の変化
【ポジティブ】
もともとララのためを思って突き放したのだ。最初からこの決断に茉里自身のメリットはない。
だから、ララが自分の意志で戻ってきてくれたことには、茉里にとって嬉しいという気持ちしかない。
ピックアップ
トーナメント表


全国大会なのに地方の偏りがすごい・・・。女子フライ級に東北勢も九州勢もゼロ! 女子バンタム級に至っては膳所南高校から2人出場!(顧問もよく通したな!) これがマイナースポーツか・・・。
宮城県代表の南大和高校ってどこだよ・・・? 大和町に高校なんて1つしかないぜ・・・? なにせ人口2万8千人だぜ・・・?(いや他の都道府県も架空だってわかっているけども)
レトロ家電

壁にかかっているのは1980年ごろの壁掛エアコン。奥にあるのはブラウン管テレビ。手前にあるのは駄菓子屋などでよく見かけた業務用アイスクリームケース。
ちなみに1984年にリサがこの家を買ったときは別の型の壁掛エアコンが備え付けられていたから、これでも最低一度は買い換えていることになる。
・・・サモワールが一番実用的って、すごいなこの空間。いやまあ、夕食を見るとアイスクリームケースも実用しているのはわかるけども。
マジメな話をすると、リサの時間が長いあいだ止まったままだという示唆を兼ねているのだろう。
サモワール

ロシアの伝統的なティーサーバー。蛇口のついた大きな本体でお湯を沸かし、上にちょこんと乗っているポットで濃い紅茶を煮出している。
歓談中の誰もが好きなときに紅茶をおかわりし、好きな量のお湯で割って飲むことができる仕組み。
能登川アリーナ

沖島にほど近い、東近江市にある市営体育館。
令和7年度の国体で実際にボクシング競技の会場として使われた実績あり。
夢見てばかりいられない
「どうやった?」
「不思議な気持ちなの。ルカからは、今まで感じたことのない――、なんていうか、なんだろう? 温かさみたいなものを感じるの」
「ふーん。よかったやん」
「え?」
「ようわからんけど、見つかりそう? ララが探してた本当の愛」
この滋賀という場所は本当にステキな場所で、ララを幸せな気持ちにしてくれる新鮮な驚きに満ちていました。
茉里の家で暮らしはじめたころや、アンデケンでのアルバイトに慣れたころも同じように思っていましたっけ。
このままで、本当の愛を見つけられるのかって。
人魚たちを長き眠りに追いこんだ罪深きララは、どうにも誘惑というものに弱いようでした。
みんなのために使命を果たさなきゃいけないといつも思っているのに、気がつくと自分が楽しいほうへ、興味を引かれるほうへ流されて行ってしまいます。
ちゃんとルカとはお別れするつもりでした。
けれどルカは温かい人で、ララが王子に刻みつけられたトラウマも解いてくれて、それに、なんとなく居心地がいいから、結局これからも一緒に過ごすことになりました。
その顛末はハタから見ていた茉里にとって、よほど自然な流れに思えたのでしょう。彼女にはララが“本当の愛を見つけるために”ルカとの交際を始めたように見えたようです。

茉里の言葉を受けてララが一瞬固まります。
そんなことは考えてもいませんでした。ただのなりゆき。結局はただ、使命を忘れて自分の気持ちを優先してしまっただけ。
「本当の愛を探す」と、常日頃から口に出して言っています。周りからすれば真剣に探しているように見えるのでしょう。ですが、実態はこんなもの。
ララは浅はかで、そして、それがわかっていてなお滋賀での毎日が愛おしくてたまらないのです。
「何それ?」
「横断幕っていうのよ。誠さんに教えてもらったの。どう、ステキでしょ」
「・・・嬉しいわ」
一方、茉里。

愛想のない人間でした。
そこはどうしようもないので、それで許されるだけボクシングの実力を磨いてきました。
案外、強いというだけで納得して黙ってくれる人というのは多くなかったけれど。
茉里が強いというだけで喜んでくれるお母さんはもういません。
むなしさを感じていないといえばウソになります。
ただ、悲しみは乗り越えました。今はお母さんの応援がなくとも、自分の両足で立ち、自分の意志で勝利目指してがんばることができています。
それに、今はララがいます。
ボクシングのことなんて何も知らないし、そもそもボクシングの何がいいのかすら理解していないようだけれど、それでも、彼女は応援してくれます。
その無条件の親愛が、茉里は好きでした。まるでお母さんみたいで。

たぶん、ひとりで生きていくことはできます。
ひとりでストイックにボクシングの技術を磨いていくこともできます。
そんな茉里でも、ララが近くにいてくれることは好ましいことでした。
「何見てるの?」
「明日からの大会で当たる人」
「すごく強そう」
「それでも私が勝つけどな」
「勝ってどうするのよ?」
「もっと強いやつと戦う」
「そのあとは?」
「さらに強いやつと」
「ふーん。・・・怖くないの?」
「何が?」
ララにとって。あるいは茉里にとって。
今の時間はとても居心地のいいものでした。
ただし、ひとつ条件あり。
「このまま本当の愛を見つけられなくてもいいのなら」
「このままララがいつまでも家にいてくれるなら」
すなわち、今の満たされた日々がこのまま無条件に、順当に、未来へとエスカレーター式につながっていくのであれば。
怖くないの? そんな自分に都合のいい未来予想図ばかり漠然と信じつづけるのって。
実際には、ララの体はもうすぐ泡となって消えてしまう運命で。
そのくせ未だ本当の愛を見つけられる兆しすら探せていなくて。
夢にまどろんでいられる時間は終わりを迎えつつありました。
「本当の愛、あんたは見つかるって思う?」
「え、何? 思っているわ」
「人間と結ばれた人魚なんていないって聞いた。それでも?」
「茉里、変よ。一体どうしたの? 私大丈夫。明日にはもっと元気になるわ」
「あんた、もうお姉のところ帰り。このままじゃあかん」
「どうして? 何言ってるの? そんなの無理よ。お姉ちゃんに何か言われた? たしかにたくさん迷惑かけてるかもしれないけど、ここにいさせて」
「なんで・・・、平気なふりすんねん!」
「ふりなんてしてない!」
「ウソ!」
「ウソじゃない!」
「じゃあ何やねん! その顔!」


今感じている幸せは間もなく破綻します。
それがイヤなら、行動しなければなりません。
たとえこれまでと同じだけの幸せを享受できる道は残されていなくとも、最善を、次善を、少しでも多く幸せを未来に残せる道を模索して、敷いて、歩んで。まどろんでいればまだもう少しだけ夢を見ていられるはずだと縋る、甘ったれた自分を律して、優しいぬくもりから抜け出して、立ち上がって、冷たい現実に向きあわなくちゃいけなくて。たとえ今日が辛くとも、明日のために、将来のために、愚かな自分にでもできることを、できなきゃいけないことを、できるようにならなくちゃいけないことを、今、今、今、始めなければ。今。
「なによ。私は明日もここにいるの。お布団を畳んで着替えたら、あなたの試合を見に行く。アンデケンでもまた働くし。洗濯だって手伝うわ。ルカとももっともっと、仲よく、なって。そして、それで・・・。私にはいつか本当の愛が・・・」

「怖いに決まってるでしょ!!」
切れかけの街灯。歪むBGM。
幸せな夢を見ていられる時間は、あっけなく終わりを迎えました。
現実を見ることがそんなに偉いか
「プリンセスたちは古くから私たち海の世界への深い愛によって光を生んできた。例外はないわ。その光さえ芽生えればお父様たちは救われる。そしてあなた自身も泡にならずにすむの」
“本当の愛”の正体は、あっさりとリサの口から明かされました。
そりゃあそうです。知られていて当然です。人魚の城はこれまでも先祖代々、その光によって繁栄してきたんですから。伝えられていないほうがおかしい。
「海の世界への愛」。それさえあればみんな蘇る。実に辻褄の合った話です。物語としてとても美しい。整合している。
目指すべき方向さえはっきりしていれば、自ずと進むべき道も見えるもの。これで安泰。めでたし、めでたし。
けれど、どうしてでしょう。ひどく無機質に感じる美談です。

リサは優しく接してくれました。ララを焦らせることはありませんでした。
長い年月を懸けて生活基盤を整えた彼女のもとでの生活は豪華で、安定していて、静謐で。
そのうえ魔女の薬のコピー品まで用意してくれていたのですから、時間はまたたっぷり猶予されるでしょう。
もう、茉里にもルカにも会うつもりはなくて、借りていたスマートフォンは返してしまっていました。
まさかリサやコータに借りるわけにもいかないでしょう。彼女たちはララが人間たちと交流することをよく思っていません。
せっかく甘えた執着を振りきったんですから、このまま忘れてしまうべきです。
・・・だけど。

「ルカ、私。もしもし、聞こえてる? ルカ。私ララ。もしもし、聞こえてる? 私、今船の上にいるの」
たまたま同じフェリーに乗り合わせていた、見ず知らずのおじさんに頼み込んで、そこまでして、ララはルカに連絡を取りました。
愚かなのかもしれません。女々しいってやつなのかもしれません。
結局ララは、夢のようだった日々をすっぱり捨て去ることはできませんでした。
もう、これが最後でいい。
最後にお別れしたいだけ。
ずるずると引きずって、未練たらしく引き延ばしているだけなのを自覚しつつ、今さら感のある別れの言葉を伝えようとします。
・・・しかし。
「茉里の、試合――?」
「ああ、そう。ララが来る思て来てもうた。ほら、画面見て。なんか始まりそうやで」
幸せだった夢に、また惹かれていきます。
これはよくない。何の解決にもならない。
今、刹那の快楽だけむさぼって、これから先どうするかは何も考えない、無責任なことになってしまう。
ララには使命があるのに。本当の愛を見つけなきゃいけないのに。だけど。
「ララ。来うへんの? どうしたいん、ほんまは」
本当は何をしたいと願っているのか。
知れています。自分の望みくらい。

けれど、許されるんでしょうか? いいえ。誰が許すというのでしょうか。誰の許しを得たらいいのでしょうか。誰の許しが必要だというのでしょうか?
問われました。本当はどうしたいのか、と。
ならば答えるのは私。私の考え。私の気持ち。私のエゴ。私の夢。
「私は地上の世界へ戻る」
「何もわかってない。人間なんかと愛を結ぶなんて無理なの」
無理かどうかは問題じゃありません。
今問われているのは、ララはどうしたいのか。
「無理かもしれない。それが私も怖かった。・・・でも、怖くても私の手を引いてくれる人がいて。地上の世界に、人間たちに出会ってしまって。ここに来てよかったって、そう思わせてくれた。この地上に――、この地上にこそ光を感じるの! だから、怖くても私、止まらない!」
第1話で罪とトラウマと責任を背負い、
第2話では怯えながらも小さな優しさに出会ってぬくもりを得、
第3話では周りに気に入られて居場所を手に入れ、
第4話では報われない恋をしていた人に助言して感謝され、
第5話では回り道しているように感じる日々の延長線上に未来の可能性を発見し、
第7話では自分の存在そのものを愛してくれる人との出会いによって、自分を愛することを思いだしました。
そして今回、第8話は自己決定。
愛され、許され、受け入れられて、自分は自分らしく存在していいんだと少しずつ自信をつけてきたララは、ここまでの物語のひとつの集大成として、自分の意思を行使します。

自分より多くの事情に通じているリサには反対されました。
誰よりも仲よく、信頼している茉里にまで反対されました。
それでも自分の意志を通します。
この判断は間違っているのかもしれない。
このまま泡になって消えてしまうかもしれない。
大好きな人たちにまた迷惑をかけてしまうかもしれない。
本当の愛が見つかるかどうかもわからない。
もしかしたらこの選択の先に未来はないのかもしれない。
それでも、ララの望む未来があるとしたらこの選択の先でした。
冷たい現実のなかでは夢なんて無力なものです。
それでも、現実がララの望みを叶えてくれないというなら、結局は夢だけを頼りに戦うしかないのです。
わけのわからない夢
急いで駆けつけた茉里の決勝戦。
第3話のガチスパを連想するような劣勢。

ララにボクシングはわかりません。
勝って勝って、より強いライバルと戦ってまた勝ちたいという、スポーツマンらしい夢からしてすでに理解の埒外です。
ただ、慌ててリングに乱入して殴りあいを止めようとしたあのときとは、ひとつだけ決定的に違うことがありました。

茉里のやりたいことを応援したい。
願いは叶えられました。
ララの願いだけではなく。
「なんで・・・、言うこと聞かんねん」
茉里がララを突き放したのは、ララのためでした。
ララが死んでしまったら茉里も悲しいから。
本当はまだまだララと一緒に暮らしたかったけれど、幸い茉里は強い子でした。
大抵の苦悩は我慢できました。ひとりで生きていくのも平気なタチではありました。
だけどそれは、ララがいないほうが幸せ、という意味では断じてなくて。
ララが自分の意思で一緒にいたいと願ってくれるなら、それ以上茉里に反対する理由はありません。

わけのわからない殴りあいを、ララが茉里を信じて見守ってくれるように。
茉里もまた、本当の愛を探すララの意思を尊重し、見守るだけです。
傍にいて、笑いあいながら。
「どうすんの? これから」
「地上の世界で愛を探すわ」
「今までどおりやん」
「そうよ。でも、私はもう恐れない。たとえ怖くても」
「ふうん」
「ふうんって何よ」
「茉里はいったいどうするの? これから」
「せやな・・・。もっと強いやつと戦う」
「それから?」
「もっと強いやつと」
「どういうこと?」
「それが私の生き様。カッコいいやろ」
「わかんない」

お互い、改めて夢を語りあいます。
それはいつ叶うかわかりません。本当に叶うかどうかもわかりません。
そもそも、お互い何がよくてそんな生きかたを選ぶのか、わけがわかりません。
ただ、お互いの意志決定を尊重しているだけです。
「だったらプロになろかな。世界一になったらララにもわかるかも」
「ふうん」
「ふうんってなんや」
「じゃあ、世界一になったらケーキつくってあげる。私、もうカスタードだってつくれるの」
「ほんまかな」
「ほんまよ」
「絶対やで。絶対、約束な」
「うん。約束」
この先の未来は誰にもわかりません。
何が起きるのかも、そもそも未来なんてあるのかどうかすらも、わかりません。

我々視聴者にすら予測できません。
第1話冒頭に写っていた写真で、少なくとも茉里が全国大会優勝を果たすまでララは「さよなら」しないんだってわかっていました。
けれど、その瞬間もすでに通過してしまいました。まだ第8話なのにね。
この先は誰にとっても未知の領域です。
けれど、ララと茉里は未来を語って明るく笑いあいます。
「いい、ララ。200年前あなたは知ったはず。人魚と人間が愛しあうなんてできるわけないの。絶対に」
「でも、明日は違うかもしれない!」(第6話)
以前、リサに反発して答えたララの言葉。
その思いに偽りはありません。
ただし、あのころは確信があったわけではありませんし、自分の意思で自己決定した今も実は、相変わらず未来に確信は持てていません。
ただ、願うのです。
そう在りますように。そう在れる私でいられますように。
ふわふわと頼りない不確定未来。
叶えるために、ララがいます。



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