多田くんは恋をしない 第8話感想 あなたが後悔に目を伏せるのなら、私が代わりに笑おう。

それが、後悔した意味なんだと思う。

tadakoi2.png

(主観的)あらすじ

 今日は星空がテーマのコンクールに向けて写真部一同で撮影旅行。おみくじを引いて恋に思いをはせたり、温泉卓球をしてみんなで熱くなったり、来年の話をしてちょっとしんみりしたり。あいにくの曇り空が好転するのをのんびり待ちつつ、それはそれでとワイワイ楽しみます。
 やかましいのが仮眠に入った深夜。多田とテレサはふたりきりで話をします。この人はどうしていつもそんなに写真に一生懸命なんだろう、テレサはそれがずっと不思議でした。この人はどうしてあのとき自分の思いを言い当てられられたんだろう、多田はそれがずっと不思議でした。その答え合わせ。
 その答えは“後悔”。ふたりそれぞれ抱えてきた思いに共通項を見つけたとき、多田は小さく笑いました。彼の笑顔がテレサの瞳いっぱいに映し出されました。織姫と彦星、それから迷い人を導く北極星がふたりの行く末を見守ります。

 ラベンダーの花言葉は「静寂」。おう、伊集院。お前今回お呼びじゃないってよ。(クライマックスだけね / いなきゃいないで多田が喋らなくなるのですごく困る) ちなみにヒマワリの花言葉は「あなただけを見つめる」です。だってよ伊集院(以下略)
 賑やかな日々の喧噪が少年少女の心を暖めていきます。けれどその有り難さに真に感じ入ることができるのは、むしろ肌寒い夜の静寂のなかでこそ。ずっと抱えてきた悲しい後悔が、いつの間にかこの身を暖める強さに変わっていたのです。いつの間にか。いつの間にか。あなたが教えてくれたのは、そういう、とても嬉しい世界の真実。
 しかしアレですね。ピン部長2回目の日向子呼びは思いのほかクるものがありましたね。不意打ちは卑怯だろ。

矢印が向きあわない

 「恋って何だろうね」
 恋するシャルルがつぶやきます。

 何でしょうね。
 この感想文では今のところ“楽しい日々を一緒につくってくれる人を繋ぎとめたい気持ち”くらいのニュアンスで語っています。でもそんなのはここまでの物語に合わせて調整した意見であって、よもやこんな切ないのが世間唯一の真理ではあるまいさ。
 もっと色々あってほしいし、色々あるべき。だってそんな、ねえ、世の中そこまで平凡な日常を渇望するような人ばっかりじゃイヤでしょ。残りの生涯すべてを過去の清算に当てるつもりの人とか、生涯に残された自由時間が残りたった1年しかない人とか、そんな特殊なケースはそうそうありませんて。

 じゃあ、恋って何でしょうね。

 「恋。それは――俺が俺を好きなように、みんな俺を好きになることだろ! ハハハ!」
 バカはいつものごとくバカみたいなことをほざきます。
 でもまあ、実際ある意味ではそれが一番幸せなのかもしれません。この男はなんだかんだで無償の愛を出し惜しみせずにふりまきつづける人物です。きっとこの人の一番近くにいられたら、きっと毎日を世界で一番楽しく暮らせるでしょう。この人の愛を独り占め・・・とまではいわなくても、せめて一番たくさん受けられたなら。
 まあ、傍に居つづけるだけで割に合わないくらいしんどそうでもあるんですけどね。

 「顔を見て、でしょう。人間の脳の構造からして顔に対して非常に敏感だそうです」
 恋に恋する耳年増はいつものごとく聞きかじった知識を披露します。出展はまた恋愛小説でしょうか。
 顔に恋する・・・というのはまあいいとしても、それならそれでどうして顔なんてものに恋い焦がれるのでしょうね。きれいなものをいつまでも見つめていたい、ということでしょうか。それとももっと動物的に、未来の我が子に美形の遺伝子を授けたいから? 理由はとりとめもなくいくつも想像できますが、つまりはこのトリビアだけでは恋の真理にはたどりつけません。
 「ピン先輩に限っては“胸”ですね」
 別に胸でもいいけれども。

 恋とはいったい何なのか。
 難しい命題です。そもそも私なんかは「人それぞれに違うのでは?」と根本の部分から疑わしく思っています。でも、だからといって“人それぞれ”だなんて安易な回答に逃げて思考を止めるのも好ましくありません。そんなんじゃ“自分にとって”の答えすらも出せませんから。
 私たちが今観ているものはラブコメです。ゆるーいけれどラブコメです。ラブです。ラブのことを考えずしていったいラブコメの何を観ろというのか。
 人よ、どうか正解されたし。常に思考を推進されたし。

 まあそんな哲学のフリしたナゾナゾはさておいて。

 とりあえず今話で最低限押さえておくべきことだけでも押さえておきましょう。

 「はぁー。神様は応援してくれると思ったんスけどねえ」
 片想い中の身で「待ち人来ず」を引いちゃった山下犬。
 「相手が好意を持ってくれていると知り、はじめて発動する恋もある」
 お互い片想いしあっている難儀なカップル。

 どうやら恋とは、できることなら両想いになりたいと思うものらしい。

 だとするならば、恋するシャルル。
 「どんな君でも僕は――愛してる」
 無敵の天真爛漫に守られて、思い人の心にどうしても手が届かない。というより、その天真爛漫にこそ恋してしまったせいで、自ら神聖不可侵と身を引いてしまっているあなたは。

 あなたは、かたちばかりの夫婦となるだけで本当に満足できるのでしょうか。
 愛することすらできないよりはいいとしても、それは本当にあなたの望んだ恋の行く末なのでしょうか。

 「テレサも僕も、自分の道を外れて生きることはできないんだよ」
 誰かのために自分を律して、強くなって。それで、あなたの幸せはどこに行くのでしょう。

あなたが幸せになる方法

 「多田くんは小さいころからずっとカメラマンになりたかったんですか? すごいですね。ずっと同じ願いを持ちつづけて、目指しているなんて」
 あの日の後悔からずっと自分を律しつづけ、強くあろうとしてきた少女。
 「私は昔、バレエダンサーになりたかったんです。――背が伸びなくて、ダメでした」
 たしかに長い手足はバレエダンサーとして大成するために重要なファクターですが、好きだというならそれでも挑戦するだけ挑戦してみてもいいでしょうに。
 大切な人を悲しませたくなくて、そのためにこの子は今までいったいいくつのワガママを我慢してきたんでしょうね。アレクの表情から察するに、それはどうもひとつやふたつではなさそうです。

 じゃあ、今の夢は?
 「今はこれといって・・・。笑顔で生きていければ」
 乳母に聞かされていた日本とレインボー将軍に憧れて。やってみたいからと写真部に入ったり喫茶店の手伝いを申し出たりして。この好奇心の塊のような少女が、夢は無いと言います。

 らしくないというべきか、それとも、らしすぎるというべきか。
 影が薄いなりにずっと彼女のことを見てきた我らが主人公・多田は知っています。
 彼女がいつも笑顔でいたことを。どんなに困った目に遭っても努めて笑顔をつくっていたことを。
 「笑顔で生きていければ」
 それは彼女にとって、とても夢と呼べるようなものではありません。その願いは彼女自身のためのものではありません。自分を幸せにするためのものではありません。
 「きっとその日から多田くんは強くなろうと思って生きてきたんでしょうね」(第5話)
 多田は知っています。天真爛漫なように見えて、この少女が本当はずっと昔から自分を戒めつづけてきた人物であることを。
 彼女の笑顔は自分以外の大切な誰かのため。遠い昔にしでかした後悔の弁済に充てるためのものです。
 そうでなければあの写真を見ただけであんな言葉は出てこない。絶対に。
 だって、今この手に握られている小さな機械も、結局そういうものなのですから。
 「私が初めて会ったときから、多田くんはいつも写真を撮っているか、お店を手伝っているかですよ」

 放っておけないじゃないですか。そんなの。
 笑顔でいるための人生なんて。
 後悔に縛られた生き方なんて。
 だって、それを認めてしまったら、同じことをしている多田自身も一生幸せになれない。
 いいえ。それならそれでもいいかもしれません。
 自分は必ずしも幸せになれなくてもいいと考える人はいます。たとえば婚約者を深く愛するがゆえにその人への恋を果たせないシャルルのように。たとえばそれこそ、目の前にいるテレサのように。
 ですが、だからこそ放っておけるわけがないのです。
 自分が幸せになれないと認めてしまったら、自分にそっくりな目の前の彼女までもが幸せになれないということになってしまうのですから。
 だから、多田だけはその生き方を認めてやるわけにはいきません。

 もしもあなたが、彼女のことを好きならば。

 「テレサも昔何かあったのか?」
 「どうして?」
 「親父の最後の写真を見たとき、言っただろ」
 「きっとその日から多田くんは強くなろうと思って生きてきたんでしょうね」
 「あのとき、『ああそうだな』『なんでわかったんだろ』って思って。あの言葉はテレサのことじゃないかと思ったんだ」

 彼女が自分と同じで片翼しか持たない鳥だと知ったのならば。
 そのうえで彼女を自由に飛ばしてやりたいと願うのならば。
 彼女を幸せにしてあげたいと望むのならば。
 あなたはまず、自分を幸せにしてやらねばなりません。

 「戻れたらいいけど、戻れないからな」
 「一度後悔したことは二度と繰り返さないようにすればいいんじゃないかな」
 「それが、後悔した意味なんだと思う」

 どうか、あの日の後悔が、自分と彼女にとって価値あるものでありますように。
 後悔したからこそ、たくさんの楽しい日々に恵まれますように。

 後悔を思って、多田は笑います。
 目の前の少女のために。
 運命を同じくする自分のために。

 北極星よ。どうかこれからも我々を幸いなる日々へと導きたまえ。

あなたを大切に思う人を幸せにする方法

 多田にとってのその思いが、まだ恋ではなかったとしても。

 ふたりは同じものを共有しました。
 “後悔”という共通項によってふたりはつながりました。
 もし多田がテレサに幸せになってほしいと願うのならば、そのときはまず多田が幸せにならなければなりません。
 もしテレサが多田に幸せになってほしいと願うのならば、そのときはまずテレサが幸せにならなければなりません。

 さて、どうしたらいいんでしょうね。
 春から今日までの日々はふたりにとってとても楽しいものでした。明日から冬が終わるまでの日々もきっと楽しいものになるでしょう。
 その先は?
 彼と離れて、あなたはその先の人生も同じくらいに楽しく暮らすことができるでしょうか。
 彼女と離れて、あなたはその先の人生も同じくらいに楽しく暮らすことができるでしょうか。
 その別れが不可避だとして、ではどうすればいいのでしょうか。
 比翼の鳥はどうすれば一羽でも飛ぶことができるのでしょうか。

 展開がさっぱり予想できませんな! なまじ古今東西のいろんなパターンに当てはめられるだけに!

 ただ、まあ、悪いことにはならんでしょう。
 伊集院。アレク。彼らには彼らの幸せを心から願ってくれている大切な友人がいます。彼らもまた、それぞれの後悔の日からずっと続いてきた運命共同体です。
 ということは、多田とテレサは彼らのためにもなおさら幸せにならなければなりません。責任重大です。
 幸せにならなくちゃダメなんですよ。ホント。もう「大丈夫、大丈夫」とムリヤリ笑っているわけにはいきません。ぶっちゃけあれもアレクにはとっくにバレていたようですし。葬式の日には気付いていた伊集院ほどじゃないけれども。

 「お話があります、テレサ様」
 はてさて、このままでは大切なテレサも片想い中のシャルルも幸せになれないだろうという現実を前に、アレクはいったいどういう働きかけをするんでしょうね。
 伊集院並みにしか安心できない!

シェアする?

フォローする!