そっか――。王子様も色々大変なんだね――。
(主観的)あらすじ
ユーゴのもとにひとつの情報が入りました。過去にアデルが組織した“抵抗軍”が、拠点を置いていたインヴィディアから出奔したそうです。インヴィディア国王にはアデルから話を通していたのですが、どうやらかの国が約束を反故にして彼らを自国戦力に組み込もうとしたようでした。行き場を失った彼らのため、アデルはやむなく自分の領地に受け入れました。
自らも一時帰還し、抵抗軍の当座の生活環境を整えた後はしばらく穏やかな時間が流れました。アデルは領民や抵抗軍からよく慕われていて、シンたちは何の気兼ねもなく訓練したり身体を休めたりできました。
やがて法王庁のマルベーニ助祭からメツの所在についての情報がもたらさせます。次の旅の目的地はイーラの王都に決まりました。
抵抗軍
アデルにとっては頭の痛い問題ですね。
「戦で住む場所を失った人や、あちこちの敗残兵の寄り合い所帯さ」
抵抗軍とは名ばかりで、実態としては組織化された難民と認識すべき集団のようです。
武装しているのは単に出自として敗残兵を多く含んでいたことと、組織としての大義を持たせる必要があったためでしょう。彼の言動からしてもおそらく本気でメツに対抗するための軍隊として組織したわけではないと思います。
字面は物騒ですが、要は難民政策ですね。
なまじ兵力を持っていることが厄介で、だから旗揚げは自領ではなくインヴィディアになりました。そして他国に拠点を置くということは、その国に負担を求めるための大義名分が必要ですから、そのために都合の良い言い訳としてメツの討伐を謳ったと。
そう。こういう集団を自領に置くのって甚だ都合が悪いんですよね。傍目からは他国の兵を吸収して自領の軍備を増強しようとしているように見えてしまいますから。
特にアデルの場合は王位継承権4位の割に能力が高く、他の王族から警戒されているようですからなおさら。万一クーデターの用意を疑われてしまったらたまったものではありません。
じゃあ武装解除して普通の難民のように扱ったらいいんじゃないかというと、それはそれで問題が発生します。
本編でのアーケディアが良い例ですね。集団としての目的がなければ人々は怠惰になり、いたずらにタダ飯を食い潰すばかりか、暇を持てあまして治安を乱します。
本来なら難民にはただちに何らかの職を与えるべきなのですが、この混迷した世界ではそれが何よりも難しい。アデルの肥沃とはいえない領地では充分な畑も用意できませんし。必然、敗残兵たちを活用して軍隊として組織し、世界的な問題に取り組む名目を掲げて他国の援助を受けるしかないわけです。
ところが一旦は受け入れてくれたはずのインヴィディアが突如態度を翻してさあ大変、と。
まあ国家間紛争の真っ最中なので兵力は喉から手が出るほど欲しいでしょうしね。そもそもこの当時のインヴィディアってたしか単一王家に統一される直前だったか直後だったかで、政情的にも不安定だったはずですしね。母国から冷遇されている王子との契約なんざ二枚舌上等でしょうね。
いっそ皇帝と親交があるスペルビアで旗揚げした方が良さそうなものですが、そうしなかったということは、そっちはそっちで問題があったんでしょうか。
この時点ですでに軍事大国&メシマズということは、本編と同じで土壌がだいぶ枯れているのかもしれません。あるいは皇帝はユーゴとはいえ実権は兄が握っているようなので、迷惑をかけすぎると彼の立場が危うくなるという都合もあるのかもしれません。
まあ、いずれにせよ結論としては、現状のアデルの立場マジヤベエってことで。
抵抗軍の誰かがアデルに「前線に立たず自分を大切にしてほしい」みたいなことを言っていた気がしますが、うん、彼らを受け入れた時点でだいぶ身を削っていますよね。
このあと王都に向かうようですが、いったい王宮でどんなことを言われてしまうのやら。
まったく。他人を助けるために自分を犠牲にしなければならないなんて、つくづくままならない世界です。
自由な魂、不自由な生命
「らしくなかったね。あなたってけっして迷ったりしない人だと思ってたから」
「そうありたいとは思ってるけどね。実のところずっと悩んでいる。――ヒカリのドライバーになってから、ずっと」
強い力には資格が要る、とアデルは言います。おそらくはブレイドのことだけではありません。上のとおり、為政者としての権力だって似たようなものです。ユーゴと話しているときの口ぶりからすると、彼はこちらにもたいがいウンザリしている様子ですね。
それでも、捨てられません。
強い力があればそれだけたくさんの人たちを救えるからです。
力が足りなければ目の前で苦しんでいる人たちを救えなくなってしまうからです。
いつかのマルベーニのように。
だから、大きな力を得る機会が与えられたなら、彼らはなんとしても強くならなければなりません。彼らが優しい人間であるほどに。
彼らの自由な魂はこのクソッタレな世界に縛られず、己が善であると信じることを心の赴くままに為すことができます。
けれど、それを為そうとするたびに、こなさなければならないことがどんどん重くのしかかってきます。
ままならないものです。
本当の意味で何にも縛られない存在というものはどこかにいないものでしょうか。
そう考えたとき、アデルが希望を抱くのが、おそらくはヒカリ(ないし全てのブレイド)なんでしょうね。
彼は後にこう語ります。
「いつの日にか、我々人が天の聖杯にふさわしい存在となれたときのため、彼女を後世に託そうと思う」
「人がより良き存在として生きることができたとき、彼女はきっと応えてくれるだろう」
「これは我々人間が越えなければならない試練だ。でなければ君たちとともに歩む資格はない」
ヒカリはブレイドなのに自分の意志で奔放に行動して、しかもブレイドゆえにその力を振るう責任をドライバーに預けることができます。
まあ、実際はアデルが自由にさせることを望んでいるというだけなんでしょうけどね。生きかたを縛ろうとしたら、マルベーニの意志を反映して世界を破壊しつくそうとしているメツのように、いくらでも不自由にできるんでしょうけどね。
「言葉で言うほど簡単ではないさ。僕もまだ君の力を出しきれていない」
「そう? 私は結構精一杯なんだけど」
「底知れないってことさ」
その意味でも、強い力を持つからにはそれに足る資格を得たいと思います。
人間が自由を愛する魂を持つほどに。人間にとって最も近しい友人には、誰よりも自由であってほしいと願ってしまいます。
さて、今のところ“自由”を他人事のように捉えているシンは、この物語の果てに何を思うか。
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