メルクストーリア 第12話感想 こぼれた言葉で、世界は拓けていく。

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ありがとう。

私こそなのです。

(主観的)あらすじ

 たくさんの国を巡り、たくさんの人たちと出会ったユウとメルクは一旦王国へ帰ってきました。最後の冒険の舞台は住み慣れた我が家、生まれ故郷。
 ユウのお母さんは久しぶりの再会に我が子をぎゅっと抱きしめ、少し背が大きくなったことを喜びます。さらにはあれだけモンスターを苦手としていたユウがトトを連れていることに気がついて、お父さんに似てきたと、もうひとつ嬉しそうに微笑むのでした。

 ところでメルクには気になっていることがありました。
 自分の記憶を探すために散々ユウを旅に連れまわしてしまいました。メルクひとりでは旅ができないので仕方ないことです。けれど、そのせいで大切な友達にイヤな思いをさせてしまうのも本意ではありませんでした。
 ある朝、ユウがメルクを置いてどこかへ行ってしまいました。不安になります。

 ユウは村の近くの洞窟に来ていました。
 この洞窟には宝石のモンスターが住んでいるそうです。旅に出るより昔、メルクが本で読んで興味深そうにしていたのをユウは覚えていました。今日はそのモンスターから宝石をいくつか分けてもらえないか交渉するつもりでした。
 そう。今日はメルクの誕生日なのです。

 ユウとメルクは洞窟の奥にある花畑で合流しました。ユウはモンスターに案内されて。メルクはユウを追いかけて偶然迷い込んで。
 ユウは言います。メルクと旅しているうちに自分にも旅をする目的ができた。メルクのおかげで自分は変われた。これからも一緒に旅をしよう。
 陽の光が差し込み、それを浴びた花畑が七色に輝きはじめます。とても美しく、とても幻想的で、これまで旅先でも、もちろん村のなかでも見たことのない光景でした。

 家でたっぷり休んだあと、ユウとメルクは再び旅に出ます。
 それぞれの探しもののために。お互いを大切に思いながら。

 第1話を見た時点では、このアニメは主人公・ユウが自己肯定感を得て成長していく物語なんだと予想していました。
 感謝されるシーンがひとつひとつ印象的に仕立てられていましたから。ユウがやる気のないキャラクターなのも、モンスターを怖がるのも、癒術という人の役に立ちやすい力を持っているのも、全部そっち方面での成長を描くためなんだと思っていました。
 まあ、第5話冒頭であっさり片付けられちゃったんですけどね。物語途中で解決されるということは作品全体のテーマがもっと別にあるということです。

 じゃあ、ということで次に注目したのは無知と誤解の描写でした。
 第10話で空の国編が始まって、これ見よがしに頭の固い人たちがいっぱい登場してきたので、いよいよそういうテーマの作品として着地するのかなと考えました。
 ところが空の国編は第11話で決着し、しかも知恵ではなく愛による解決が示されました。

 その流れからの最終話。

 ・・・それにしてもメルクが超かわいかった! このアニメをつくった人たちはこの手のキャラが好きな人間のツボをとことん理解していらっしゃる。活躍こそささやかでしたが、むしろ求められているのはまさしくああいう立ち回りですとも。基本的には立ち入りすぎないポジションで、だけど一歩引いて俯瞰しているからこそ毎回問題の本質を捉えた一言を話すこともできて、ユウとは精神的に守り守られの関係、物理的には割と一方的に守られっぱなし、母親のようであり幼子のようでもあり、それでいて一個のキャラクターとして個人的な悩みを抱えもする。バカなんだか聡明なんだかよくわかんない。思考がデコボコしている。明るくて、賑やかしで、笑顔がよく似合っていて、ついでに宝石とかイケメンとかが好きな俗っぽい部分まで完備。なんといっても小さい! 小さくて小さい! イヤッホウ! カンペキじゃないか・・・。(駄文)

癒やされない人々

 「そうだな・・・。旅をしながら探してるんだ。モンスターと人間が手を取りあってひとつになる世界を、ずっと、な」
 王国で癒術というものが成立するまで、人間とモンスターは互いに争いつづけてきました。現在、使い手の数は未だ不充分ながらも、癒術の存在が王国外にまで広く知られつつあります。モンスターと共存する道はあるんだと。もう争わなくてもいいんだと。
 けれど、私たちはユウとともに見てきました。まだ癒やされていないモンスター。今まさにモンスターに困らされている人々。・・・いいえ。それどころかそもそもモンスターがいなくたって仲違いしてしまう、人間同士の間にすらある悲しい関係性。

 どうして争わなければならないのでしょうか。
 これまで見てきた人々はみんな争いたくて争っていたわけではありませんでした。むしろお互いのことが本当は大好きで、ぶつかりあうたび、すれ違いあうたび、悲しそうな顔をする人の方がずっと多いのでした。

 「しょうがないだろ。怖いものは怖いんだよ。だってあいつら言葉通じないし、何考えてるかわかんないし、癒やされてるからっていつまた襲ってくるか――」(第1話)
 モンスターと対立するならまだわかります。意思疎通できないから。わかりあえないから。わからないものって怖いから。
 だからこそ、モンスターと心を通わせられる癒術士の存在が共存のカギになるわけで。

 けれど現実には人間同士の間にすら仲違いの芽が生まれます。
 モンスターと違って言葉が通じるはずなのに。モンスターと違って気持ちを伝えられないなんてことはないはずなのに。

 「ユウさーん。・・・お母さん、ユウさん見なかったのですよ? ベッドにはいないのですよ。トトも見あたらないのです。もう、こんな美少女を置いてけぼりにしていったいどこに行ったのですよ! ・・・みゅー」
 どうしてわかりあえなくて、どうして悲しい思いをしなければならないのでしょうか。大好きな人のことですらも。

未知と不信

 「やっぱり、自分の記憶を探すためにユウさんをムリヤリ旅に連れていったのがイヤだったのですよ・・・?」
 気になってしまいます。気にしてしまいます。
 相手の気持ちがわからなくて。気持ちがわからないのは、何か自分に原因がある気がして。
 その考えかたはきっと大きく間違っていて、それでいて当たってもいるんだと思います。今話のメルクのことに限らず、メルクストーリア全12話で描かれたものたちに限らず、いろんなとき、いろんな場所、いろんな人にとって、きっとよくある話。

 ある朝、いつも一緒にいた友達がいなくなってしまいました。
 理由はわかりません。
 いつ帰ってくるのかもわかりません。
 何も教えてもらえませんでした。
 どうして?

 前もって教えてもらえなかったのは・・・自分が何か、話す気をなくすようなことをしてしまったから?
 だとしたら・・・あの人はもうできるだけ私と一緒にいたくないのかも?
 思い当たる理由は・・・そういえば。

 普段のメルクはここまでネガティブな子ではありません。
 じゃあ最近何か気分の落ち込むことでもあったのかというと、実はそういうわけでもありません。自分の無力さを気にしてはいるものの、それは日頃考えていたことであって、いつもならそのうえで明るくふるまうことができていました。
 だというのに、こんな何気ない出来事で、こんな論理の飛躍を重ねてまで、なぜか突然自分を責めてしまいます。

 あなたにも身に覚えはないでしょうか?
 自分の経験として思いだすのが難しいなら、周りの人がこうなったのを見た記憶はないでしょうか?
 きっと誰にでもよくあることだと思うのですが。

 朝起きたらユウがいなかった。それだけのこと、普通ならユウのお母さんのように「さあ?」で済ましてもいいくらいの些細な話です。
 わからないものはわからない。わからないならしょうがない。忘れているならともかくそもそも聞かされていないことなんて、それ以上いくら考えたって自分のなかに答えが見つかるわけありません。だから、普通なら「さあ?」でいいんです。
 けれどメルクは気になりました。「さあ?」だけではとても納得できませんでした。どうしても知りたくなりました。
 メルクはユウのことが好きだからです。
 好きな人のことなら何でも知りたくなるのは当然のことです。

 とはいえユウのお母さんだってメルクに負けないくらい息子のことが好きなはずです。けれど彼女は「さあ?」と言っただけでそれ以上気に留めませんでした。結局のところ朝早く出かけたってだけの話なんですからこのくらいの反応が普通です。
 じゃあどうしてメルクだけがこうなってしまったのか。
 それは、信じることができなかったからです。

 もちろんユウを信じられなかったのではありません。ユウのことは大好きで、誰よりもよく信頼しています。
 だからこそ。その人のことを信じれば信じるほど、疑うことができなくなります。
 悪いことを企んでいるんじゃないか、間違ったことをしようとしているんじゃないか。・・・ううん。あの人のすることはいつも正しい。あの人のすることはいつもうまくいく。いつもそうだった。
 ならばもし何か、その人に関係することで悲しいことが起こってしまったなら、その原因は相手ではなく、きっと自分のせい。
 自分を疑うことは他人を疑うことより簡単です。なにせ自分のことは自分が誰より詳しく知っています。悪いところ。情けないところ。探そうとすればいくらでも見つけることができます。だから、悲しいことを他人のせいにできないとき、私たちはついつい自分を悪者にしようとしてしまいがちです。
 メルクはユウを信じればこそ、自分自身を信じきれなくなってしまいました。

 「わかっているのです。――ユウさんは本当は旅に出たくないって」
 何かわからないことがあったとき。そして自分に自信を持てないとき。
 このふたつが重なったとき、私たちはしばしば自分の勝手な誤解に囚われて、誰かとぶつかったりすれ違ったりしてしまいます。

世界は優しさで満ちている

 人間とモンスターが共存するだなんて果てなき理想。だって人間同士ですら仲よくできないんですから。
 意思疎通のできないモンスターどころか、言葉の通じる人間相手であっても悲しい出来事の絶えることがありません。
 悲しいことの起こる原因がお互いの意思疎通以前の問題にあるというのなら、そもそも――癒術士が存在する意味ってあるのでしょうか?

 あります。

 「俺、この旅で、父さんの夢を追ってみたいって思うようになったんだ。メルクのおかげで俺は変われたんだよ。メルクが俺を外の世界に連れて行ってくれたから。――だから、メルク。俺と一緒に旅に出よう」
 メルクはユウを信じたために、自分を信じることができなくなりました。
 けれど、忘れないでください。
 メルクがユウを信じているように、ユウだってメルクのことを信じているということ。

 「すごく穏やかな表情に変わったのですよ。ユウさんが癒やしたのですよ」(第1話)
 「やればできる子なのです。大福さんも褒めてくれているのですよ」(第2話)
 「大丈夫なのですよ! やるだけやってみるのです。今までも大きなモンスターだって癒やせてるのです」(第3話)
 ユウは旅をはじめた当初とは見違えるほど自信をつけました。
 いつもメルクが背中を押してくれていたからです。自分を信じられないユウに代わって、メルクがユウを信じてくれていたからです。
 そのうち成し遂げてきたことが積み重なっていって、今では自分ひとりでも自信を持ってモンスターを癒やせるほどになりました。

 たとえメルクが自分を信じられなくなったとしても、ユウのことなら信じられるはずです。そしてユウはメルクを信じています。
 そこに気がつけば、メルクはもうメルクを信じるしかなくなりますよね。

 何か困ったことがあって、自分ひとりではろくな考えが思い浮かばないときは、誰かを頼ってみればいいんです。たぶん、ひとりで悩んでいるよりはだいぶマシな展開になると思います。
 「これは偶然か、神の手による必然か。どちらにせよ、それぞれの心にいるのが慈しみと寛容に満ちた優しい神であればいい」
 世のなか思ったよりか意外と優しい人が多いので。
 できることならみんな幸せになってほしいと望む人の方がずっと多いはずなので。

 だからこそ、誰もが笑って暮らせる平和な世界をつくるためには癒術士のような人たちが必要になります。
 「こぼれた言葉は世界を繋ぐ魔法。とめどなく溢れた光は君の頬包む」
 みんな意外と優しいから、つながりさえつくることができれば、思い込みで八方塞がりに陥った人のことも助けあうことができるはずだから。
 「こぼれた言葉が世界を壊していく。崩れる壁の向こうから差し出された手を」
 みんな意外と優しいから、つながりさえつくることができれば、誤解で自分を嫌ってしまう人とも信頼を差しのべあえるはずだから。

 世のなかに悲しいことが絶えないから共生できないのではありません。
 悲しいことを終わらせるために、共生するんです。

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    コメント

    1. 匿名 より:

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      全12話の素敵な感想ありがとうございました…!

    2. 疲ぃ より:

      SECRET: 0
      PASS: 83849cf6295498c96deb555e00f4c759
       読んでいただいてありがとうございます。最後の方投稿がやたら遅くなっちゃってゴメンナサイ。
       それにしても本当に脚本の良いアニメでした。国ごとに独立したエピソードを扱いながらも、なんだかんだでちゃんと全体の一貫性をつくっていましたね。最初メルクがユウをリードしていたのが最終話では逆の関係になるって流れを用意していてテーマの総まとめまでソツなく。(私が全部拾いきれたかっていうとそんなことはない気もしますが)
       2期やらないかなー。

    3. K より:

      SECRET: 0
      PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
      こんにちは。毎週感想を楽しみに読ませて頂きました。
      原作ゲームのプレイヤーとしては、アニメの話の省略、アレンジの仕方にムムムとなることもあり(一人では動けないはずのメルクが何故か飛んでいたりしたので)、新規さんがちゃんとついていけるのか不安だったりしたのですが、こうやって毎回丁寧に書いてもらえてすごく嬉しいです。
      もしよろしければ、原作もご覧ください。アニメではカットされたシーンやセリフにこそ素敵なものが多いので、気に入るのではないかと思います。
      例えば空の国。落下したユウの手を掴んだあと、広大な空の中、オルトスはこう言います。「君の向こうに世界が見える!」
      例えば死者の国。ジャントールに、エレオノールがこう言い諭します。「夢は見るものであって、棲むものではないから」
      例えば少数民族の国。ある女性がユージアに言います。「私は、この村に来てから知りました。あれが、災いの星でないことを」「凶星でありながら、吉兆であるように」……「決まりきった意味は存在せず、私達は自らの意思で、自らの意味を選びとることができる。」
      例えば妖精の国。共に行けぬことを悔やむパリストスに、王女がこう言います。「あなたの名前は、勇敢で、そして賢き者として広まるでしょう。」……「蛮勇と勇気は別のものだと、知る故に。」
      個人的にはここらへんがカットされたセリフのなかでも惜しいと思っているものです。
      ……なんて、ブログのコメント欄で書くことじゃないかもしれませんし、アニメを楽しんでるひとに原作のセリフを紹介するなんて原作厨と言われてもしょうがないのですが、こんなにメルストを最後までちゃんと見てくれた方にはぜひ伝えたくて、……悩んだ挙句コメントしました。
      余計でしたらすみません、このコメント削除してください。

    4. 疲ぃ より:

      SECRET: 0
      PASS: 83849cf6295498c96deb555e00f4c759
       喜んでいただけてこちらこそ嬉しいです。余計だなんてとんでもない。

       実のところ原作ゲームの方もちょっとずつプレイはしていて、アニメの感想を書いた後で動物の国、妖精の国、少数民族の国の1stは読了しています。
       ・・・その後全然プレイできてないんですけどね。年末年始を挟んだというのに。
       空の国とか特に省略されたシーンがたくさんあるんだろうなあというのはヒシヒシと感じた(だってゲーム版のシナリオ構造だと最後にボスモンスターを癒やす展開が必要ですし)ので楽しみにしてはいるんですが、なかなか。

       原作ゲームはアニメ版よりシーンやセリフの量が多いのもさることながら、なにより読み物としての質が高いのがステキですよね。各シナリオごとに色々と趣向を凝らしてあって驚きました。少数民族の国なんて他の2国とは全然違う作風で面食らいましたもん。聞くところによると動物の国2ndも相当凝ったつくりになっているとか・・・。
       いやあ、ホント最初はメルクのかわいさに釣られて視聴をはじめただけだったんですが、おかげさまで色々とこれまで触れてこなかった新しい世界を知ることができました。

    5. 匿名 より:

      SECRET: 0
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      疲ぃさん12話制覇お疲れ様でした。個人的に妖精の国2ndがかなりオススメなのでぜひ時間があるときに読んでみてください なかなか考察のしがいがあるミステリな百合ですよ

    6. 野暮用 より:

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      今さらですが、とても楽しく読ませていただきました。原作読んでる私でも気づかなかったメッセージが読みとられていて、感動しました!
      原作もプレイし始めていらっしゃるなら、管理人さんにはぜひとも常夏2ndをおすすめしたいです。ユーザー間では、ストーリーが抽象的すぎて難しいとも聞きますが、とにかくふわふわしてて、とてもおもしろいです。国別イベントは基本そこで1話完結しているのでどこから読んでも大丈夫なようにできています。(ただし例外としてお菓子の国3rdだけは1と2を読んでから読んで欲しいのですが…)どの国イベも1つの物語としてとてもよくできています。よければ時間のあるときに是非。また、アニメでは完結しなかったメルクの正体についても、メインストーリーを進めると次第に明かされていくようになっています。最初期のストーリーは正直あまり好みではないのですが(個人の感想)、途中から突然よくなって最終的にはどの国別イベントよりも好きなストーリーです!

      …ゲームの話ばかりですね。どうも失礼しました。

    7. 疲ぃ より:

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       せっかくオススメいただいたのでプレイしてから返信しようと思っていたのですが、すみません、予定外にプレイ時間を確保できなかったので後日ブログ記事か何かでそちらの感想を書きたいと思います。

    8. 疲ぃ より:

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       さしあたって公式サイトのイントロダクションを見てきましたが、これバケツの人の話なんですね。ロード中に出てくるマンガで存在感バリバリでした。抽象的な物語も大好物。俄然興味が湧いてきます。こちらもまた後日ー。

       基本的に自分の感じたことを好き勝手書いているだけの感想文ではありますが、それでも“楽しかった”“感動した”などのリアクションをいただけることはやっぱり嬉しいことです。ありがとうございました。

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