私たちには戦う力はありません。だから、従いつづけるしかないのです。
生け贄の娘
冒険の書9
勇者ヒイロ記す。
ふざけるな、と思った。
ここジパングには生け贄を捧げる風習があるらしい。
やまたのおろちという強力な魔物が現れ、その魔物に屈服させられ、魔物に言われるがまま定期的に若い娘を差し出しているらしい。
魔物を討伐できない以上、そうするしかないことはわかる。
彼らは彼らなりの正義で最善を尽くそうとしていることはわかる。
だけどこの国の人々は生け贄に選ばれた娘たちに同情的だった。
逃げだそうとする娘たちを哀れみ、探すし捕らえはするものの、探す側も「どうか見つからないでほしい」と祈っているらしい。
なかにはわざと生け贄を逃がそうとする者までいるようだ。
それなら戦うべきだろう。
自分たちに力が足りないなら戦える人を探して、助けを求めるべきだろう。
報復を恐れるのはわかる。だけど、今の時点でとっくに不幸のどん底じゃないか。
そうだ。つまるところ私は頼ってほしかったんだ。
国の長だというヒミコという女は、私たちが外国人だというだけで話を聞こうともしなかった。
それはまあ仕方ない。だけど、私たちがそういう扱いを受けたのを見たうえで、他の誰も私に助けてほしいと言ってくれなかった。
ソーリョクさんに聞いてみる。
「これで私が勝手にやまたのおろちを倒しに行くのは悪いこと?」
ソーリョクさんは答えた。
「それは当然お前の身勝手だろう。だが、だからといって何もしないことが正しいことだとは私も思わない」
少し考える素振りのあと、言葉はさらに続いた。
「迷うな。お前は勇者だ。うしろには私たちもついている。お前が間違ったことをしようとするなら、そのときは止めてやる」
私はやまたのおろちが棲むという火山に向かった。
冒険の書10
勇者ヒイロ記す。
火山の奥地には急ごしらえながら装飾だけは豪奢な祭壇があって、そこにこれ見よがしに人骨が散らばっていた。
魔物の巨大な顎で骨ごと噛み砕かれたようで、いったい何人が犠牲になったのか、全員、全身の骨がちゃんと残っているのかすら見当もつかない。朱塗りの舞台が、まるで濡れそぼったまま渇かない血溜まりのように見えた。
やまたのおろちはそこにいた。
私をあざ笑うように5つの首が一斉に吠え、山火事のような炎と太い牙とで絶え間なく攻撃を仕掛けてきた。
炎はとっくに対策済みだ。噛みつきにしても、私もマソホたちも、鈍重なお前に捕まることはない。
時間だけ長くかかった戦いは、終始私たちの優勢で進んだ。
首を3つほど斬り落としてやったところで、やまたのおろちはようやく自分の劣勢を悟ったらしく、空間を歪ませてどこかへ逃げていった。
迷わず追う私たち。
歪んだ空間はジパングの社に繋がっていた。
やまたのおろちはどうやらヒミコに化けていたようだ。特に驚きはなかった。ただ腑に落ちた。ジパングでただひとり、ヒミコだけが生け贄を捧げることを何とも思っていないようだったから。
「我の真の姿を見た者は貴様らのみ・・・。口を閉ざし、おとなしくしていれば命は見逃してやろう。それでどうだ・・・?」
やまたのおろちが今ここに逃げ込んだということは、おおかたジパングの人々を人質に取ったつもりなのだろう。
知るものか。
私は勇者だ。勇者として、果たすべき使命を果たすだけ。
卑怯にも人質を取るというなら、その手がかかる前にお前の首を残らず斬り落とすだけだ。
そうする以外に、私はジパングの人たちを救ってあげられる方法を知らない。
さすがに疲れてそのまま眠ってしまった夢のなかで、またいつもの不思議な声が響く。
今日ばかりはこの声じゃなくて、できればマソホたちの夢が見たかったなとふと思った。
・・・私、褒めてほしかったのかもしれない。
ステータス画面のスクショ忘れた。
旅立ちまでの時系列まとめ(純然たる自己満足&備忘録)
※ オルテガに関しても容赦なくオリジナル設定を入れています。
49年前
シュアン(0歳):レーベ村の農家の三男(第4子)として生まれる。農地を継げる見込みは薄いため、村の戦士から剣の手ほどきを受け、王宮の兵士を目指すことにした。
44年前
オルテガ(0歳):一代騎士の長男(第1子)としてアリアハン城下に生まれる。初等教育を受けるも、剣術以外はサボりぎみ。
33年前
シュアン(16歳):王宮の兵士として就職。将来有望と見なされ、期待される。
31年前
ソーリョク(0歳):アリアハン東端にある村の農家に長男(第1子)として生まれる。2年後に生まれる妹と仲睦まじく育つ。
28年前
オルテガ(16歳):市井の自由戦士として活動を開始。魔物退治をしながらアリアハン大陸全土を冒険してまわる。
26年前
シュアン(23歳):魔物退治の任務で共闘したオルテガ(18歳)と意気投合し、彼とバディを組むため自由戦士に転身する。
21年前
オルテガ(23歳):メラの呪文を習得。市井の戦士としては稀少な呪文の使い手として名を上げ、指名依頼が尽きない日々を送る。
19年前
オルテガ(25歳):アリアハン城下へ疎開しにきた19歳女性に一目惚れ、結婚。以後、活動範囲をやや縮小するも多忙なことは相変わらず。
シュアン(30歳):オルテガとのバディを解散。兵士時代のコネクションを使って町道場を開く。
18年前
ソーリョク(13歳):故郷の村に大規模な魔物の群れが襲来。家族全員を失い、アリアハン城下町の孤児院に引き取られる。
オルテガ(26歳),シュアン(31歳):戦士団を率いてソーリョクの村の救援に駆けつける。
16年前
ヒイロ(0歳):オルテガ(28歳)の長女(第1子)として生まれる。
マソホ(0歳):アリアハン商会会頭(26歳)の3女(第6子)として生まれる。ヒイロより5ヶ月ほど早生まれ。
ソーリョク(15歳):孤児院の神父に文字を教わりつつ、独学で攻撃呪文の勉強を開始。
13年前
ソーリョク(18歳):初めて火の呪文に成功、勇者として旅立つ直前のオルテガに男泣きで祝福される。
オルテガ(31歳):勇者としてアリアハンを出立。数日かけて南方の海を泳いで渡り、ノアニール近くの海岸からロマリア大陸に上陸する。
シュアン(36歳):オルテガとともに旅立つも、泳いで海を渡る勇気が持てず間もなく脱落。命拾いする。
12年前
ヒイロ(4歳):シュアン(37歳)の町道場に入門する。
10年前
マソホ(6歳):シュアン(39歳)の町道場に入門する。
6年前
アリアハンに数年ぶりに商船が寄港。オルテガの訃報が届けられる。
ヒイロ(10歳):父の無念を晴らそうと胸に誓う。見舞金を持って来た国王の使いに交渉し、宮廷魔術師たちから呪文を学ぶ機会を得る。
ソーリョク(25歳):実力が認められ、異例の若さで宮廷魔術師として王宮へ招聘される。
5年前
ソーリョク(26歳):机上軍事演習で初めて総大将役を任せられ、惨敗。王宮内での評価をやや下げる。
4年前
ヒイロ(12歳):剣の試合で初めて師匠シュアンに勝つ。翌週、王様に拝謁し勇者として認めてくれるよう要望、16歳になるまで待てと断られる。
マソホ(12歳):ヒイロがシュアンに勝つのを見た日、父親のコネクションを使い緊急に王様に謁見を求める。翌日、道場の門下生を辞し、商人の修業を開始する。
シュアン(45歳):上記の出来事から1ヶ月後、マソホから4年後の旅への参加を打診される。快諾。
2年前
マソホ(14歳):呪文を使える旅の仲間を探すも、市井にはよい呪文使いが見つからず、国王に癒やしの呪文の使い手を斡旋してくれるよう打診する。
1年前
マソホ(15歳):ルイーダに言い寄ってきた外国の旅人から幸せの靴を買い取る。
2ヶ月前
マソホ(16歳):旅の仲間の選抜に難航し、国王からの推薦があったソーリョク(31歳)を妥協ぎみに受け入れる。
旅立ちの日(ヒイロ16歳の誕生日)
ヒイロ(16歳)
マソホ(16歳)
ソーリョク(31歳)
シュアン(49歳)
オルテガ(生きていたら44歳)
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