この世界の話。(作:木曽あずき) 感想

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 バーチャルYouTuberについて何か書こう書こうとずっと考えていたのですが、結局最初に書き上がった記事が何故かこれ。こういう映像作品、好きなんですよね。探しかたのコツを知らないので見る機会はそう多くないのだけれど。

注意:この感想文は作者の製作意図を考察したものではありません。あくまで私が勝手に感じ取ったことを書いたものです。
注意:作者の普段の言動や他作品の傾向はできるかぎり考慮から外しています。

だいたいの流れ

 中央に小高い丘のような瞳。その上空から1本の指がまっすぐ眼球を指差すように伸びている。指を挟むようにして一対の眼が宙に浮かび、時折まばたきしている。
 上手側(向かって右側)に朽ちかけたビル群。
 下手側(向かって左側)に動かない柱時計、バス停、ポスト。空中に空飛ぶお城。

(0:00)上手ビル群上空にガス状の何かが発生。中心部にニヒル気な表情を浮かべた何者かがいる。
(同)上手側から白い女が歩いて来る。
(0:10)白い女が丘の上に立ち、瞳に骨を投げ落とす。同時に下手バスストップ奥に十字型の墓標が2基生えてくる。少女は登場時と同様にゆっくりと上手側へ帰っていく。
(0:16)下手側から3人の女が現れる。そのうちの1人が丘の上へ追い立てられ、瞳のなかへ蹴落とされて消える。残った2人は下手側へ帰っていく。うち1名は単眼。
(0:25)上手ガス塊の奥からページの千切れたノートが2冊飛んで来て、瞳に吸い込まれていく。
(0:30)中央の指を伝ってベビーカーが降りてきて、そのまま瞳に落ちていく。ベビーカーのなかには童子らしき何かがいる。
(0:35)上手から単眼の猫が現れ、特に何事もなく下手側へと通過していく。
(0:43)同じく上手から単眼の童子が走ってきて、丘のふもとで一度ふり返りつつも、そのまま下手側へ走り去る。
(0:49)下手側から白い服の天使が巨大なズックを持って飛んで来て、空中上手側の眼のなかに消えていく。ズックのなかに眼球。

(0:54)時計の針が動きだす。同時にBGM再生開始。
(0:56)上手から白い女が現れ、丘を避けるように大回りして下手へ去っていく。
(1:00)指の裏から照明器具が現れ、そのまま延々と振り子のように揺れつづける。この照明器具は指以外のオブジェクトとは重ならずにすり抜ける。
(1:05)上手から黒い服の女が4人歩いてきて、全員瞳の中へ飲まれていく。
(1:23)上手から全身真っ黒な女がゆっくり這ってきて、瞳の中へ消えていく。

(1:40)上手から黒い服の天使が2人連れ添うように飛んで来て、下手へ去る。
(1:50)上手から四角いマスコットが歩いてきて、特に何事もなく下手へ去っていく。
(1:57)上手ガス塊の奥から紙飛行機が飛んできて、高度を下げつつ下手側へ去っていく。
(2:03)上手から単眼の女が歩いてきて、特に何事もなく下手へ去っていく。
(2:16)上手から竜の頭を持つ人物が現れ、特に何事もなく下手へ走り去っていく。
(2:25)上手ガス塊の奥から投げ槍が飛んで来て、瞳のなかへ落ちていく。

(2:30-2:35)既存のオブジェクト以外何も登場しない空白。

(2:35)瞳のなかから上空へ、白い服の天使が後ろ向きに飛び去っていく。
(2:38)下手からパナマ帽を被った死神が現れ、丘を登りつつも瞳に飲まれることなく、指を伝って上空へ消えていく。
(2:45)上手から白い女が歩いてきて、自ら瞳のなかへ降りていく。
(2:53)白い女が瞳のなかへ消えるとほぼ同時にノックの音。次いでガチャガチャと乱暴にドアノブをひねる音。
(2:55)瞳から黒い樹状のものが伸びてきて、上空の指とつながる。

まとめ

瞳へ落ちたもの:女が投げた骨、蹴落とされた女、ノート2冊、ベビーカー(中身入り)、黒服を着た4人の女、這う女、投げ槍、白い女。
瞳から出てきたもの:後ろ向きの天使、樹状の何か。
元の方向へ帰ったもの:骨を投げた白い女、1人を蹴落とした2人の女。
地上を通過したもの:単眼の猫、単眼の童子、白い女、四角いマスコット、単眼の女、竜頭の人物。
空中を通過したもの:ズックを持った天使、黒い服の2人の天使、紙飛行機、パナマ帽の死神。

瞳に飲まれるということ

 最初に骨が投げ込まれると、丘の瞳のすぐ近くに墓標が生えてきます。
 おそらく縁起のいいことではないんでしょうね。なにせ骨だし。墓標だし。

 他に落ちていったものも大半がまあろくなものではありません。いじめられっ子っぽい女に、薄気味悪い黒服の女たち、痛そうな投げ槍。
 ノートとベビーカーは判断に困る感じ。どっちかというとかわいそうって感想が先に来ますね。全体の雰囲気が暗いのもあって、なんとなく黒歴史ノートとかイジメで破られたノートとか、捨てられた子ってイメージが浮かんでしまいます。
 白い女はその後の展開と合わせてもあまり悪いもののようには見えないので、これは例外かな?

 逆に素通りしていったものたちに限って見た目がかわいいものばかりなんですよね。猫とかマスコットとか竜頭の人とか天使とか死神とか、みんなデザインも凝っていて普通にかわいい。でもそういうキャラクターに限って素通り。一部の子なんて露骨に大回りして避けていきます。

 つまるところこの丘の瞳は姥捨て山かゴミ捨て場みたいな存在として見なされているんでしょうか。
 そういえば空中に浮かんでいる眼も瞳を別方向にそらしています。周囲も廃墟。唯一華やいだ雰囲気があるのは空中城ですが、コイツ存在感あるくせに全編通して一切物語に関わってきません。おのれ。他人事の構えか。

瞳が見つめるもの

 丘の瞳の目前には常に1本の指が突きつけられています。この瞳の立場に立って考えてみるとこの環境、ストレスがハンパありません。近い近い。爪伸びすぎ。怖い怖い怖い、怖すぎる。
 あと上手にいるガス塊。イヤな表情ですよねー。投げてくるものも紙飛行機に投げ槍と、ろくなもんじゃありません。悪意を感じちゃいます。
 それから空中に浮かんでいる2つの眼は先ほども書いたとおり目を合わせてくれません。

 この瞳から見える世界はろくなもんじゃありません。
 かわいいキャラクターたちに限ってみんな視界外を通るしね。

 さて、そんな不吉かつ扱いの悪い丘の瞳さん。
 あるときふと転機が訪れます。ズックを担いだ天使さんが視界を横切りました。
 まあ横切っただけであって、彼女もこの瞳に対して何かするわけではないのですが、それでも瞳にとってはなかなかに大きな事件だったようです。
 彼女が視界に入ったタイミングで時計が動きだします。BGMまで奏でられはじめます。無音だった世界が多少は華やぎはじめます。曲調はムダに不吉だけど。

 よっぽど嬉しかったんだろうな、と思います。
 だって、私がこの瞳の立場だったら嬉しいですもん。こんなろくでもない私の近くに、あんなステキな人が通りがかってくれるだなんて。世の中クソッタレな連中ばかりじゃないんだなって、希望すら感じますよ。実態としては彼女にガン無視されているにしても。
 世界に美しいものがあると知れただけでも希望は湧きあがるものですよ。
 私は生涯所帯を持たない見込みですが、それでもジャスコとかで親子連れを見かけると、嫉妬するんじゃなくて不思議と幸せな気分になりますしね。ステキなものはいつだってステキなんです。たとえ自分がどんな存在であったとしても。

 そうとも。この丘の瞳には知りようがありませんが、彼の周りにあるものは案外イヤな連中ばかりじゃないんです。
 視界外では割と頻繁にかわいいマスコットキャラクターたちが闊歩しています。案外丘の周りは賑やかです。
 そういう子たちに限って瞳に近寄ってきてくれないのが残念ではありますが、この丘の瞳を取りまく世界は、けっして彼が知りうるほどクソッタレなものじゃありません。

その瞳と関わりを持つもの

 その流れでいうと、私は上手にいるガス塊のことも実は嫌いになれないんですよね。
 彼は丘の瞳に対して能動的な行動を見せてくれる数少ない登場人物のひとりです。
 紙飛行機を飛ばしてきました。それから槍を投げ込んできやがりました。たぶん善意ではないよなあと思います。性格ねじ曲がってんなあとは思います。
 けれど、それでもそういうふうに丘の瞳に関わりを持とうとしてくれる人って本当に少ないんですよね。あとは自殺志願者みたいな黒い女たちと、白い女くらいか。
 だから、我ながらどうかとは思いますが、あの憎たらしいガス塊が丘の瞳の近くにいてくれることが割と嬉しい。なんといってもコイツだけはちゃんと瞳の方を最初から最後まで見ていてくれるし。

 ガス塊が槍を投げ込むと、瞳のなかから天使が飛び立ちました。
 どう解釈したものか。
 このキャラクターも見た目かわいいので、丘の瞳にとっては彼女が去っていくのは不幸せな出来事だったかもしれません。たとえば心のなかに隠していたステキなものへの憧憬が失われたとか、そういったイメージでしょうか。
 あるいは彼女も名残を惜しむように丘の瞳のほうを見つめながら飛び去ってくれたので、それはそれで瞳にとって救いになりえたと考えてもいいのか。

 まあどちらでもいいさ。
 そういった諸々の出来事を踏まえた果てに、丘の瞳はひとりの白い女と再会することになります。おそらくは動画の冒頭で骨を投げ込んできた女です。
 でもそれってガス塊と同じで、丘の瞳に対する数少ない能動的な行動のひとつだったんですよね。
 どういう心変わりがあったのやら、彼女は瞳のなかをのぞき込むと、今回は自分の身を瞳に預けてきました。
 なんとなーく、瞳のなかから天使が飛び立ったことが関係している気もするのですが、よく考えなくてもこの想像は全くの無根拠です。無根拠ですが、もしそうならなんとなく嬉しく思います。一連の出来事全部が幸せな結末に結びついていく感じがして。

 トントン、トントン。ガチャガチャ、ガチャガチャガチャガチャ。
 なんにせよ、この白い女は会いに来てくれたんだなあと。これでもう丘の瞳はひとりぼっちじゃなくなるんだなあと。そんな思いがします。
 ・・・なんか明らかにムリヤリこじ開けようとしてるけれども。
 でもそういうものよね。ものっそい情けない言い分ですが、強引にでもこちらのパーソナルな領域に踏み込んできてくれる誰かがいてほしいときも、あるんですよね。正直。
 よっぽど気持ちが滅入っているとき以外は逆に警察を呼びたくなるけれども。(自分勝手にもほどがある)

 一連の物語の果て、白い女を飲み込んだ丘の瞳は、今度は自分から身近な人(身近な指)に向かって枝を伸ばします。作中で初めて、瞳の方から主体的に他者とのコミュニケーションを持とうとします。
 先ほどから聞こえる音と相まってなんともグロテクスな絵面ですが、私にはこれがそう悪い光景には見えないんですよね。
 自分を取りまく世界がそう捨てたものじゃないと知って、誰かと接する喜びを覚えて、それらによって、丘の瞳は今度は自分から挑戦していきたいと思う意欲を得られたのでしょうか。

 そうだったらステキなことだなと思います。彼のこの試みがうまくいったらいいなと思います。

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