バーチャルYouTuberの『アイドル部』について語りたいとずっと思ってた。

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 甘ったるくもなめらかな声でみんなに癒やしと毒舌をお届けするゆるふわナイフ。植物を育てるのが趣味で、園芸部に外国人含む6万人くらいのファンがいるけれど、自身は茶道部に所属していたりする。お寿司(おしゅし)を食べれば20皿、カレーを食べれば白米2合のよく食べる系アイドル

 ひとたび笑えばニワトリの鳴き声だの皿を洗う音だの散々な言われよう。謎解きパズルが超苦手で見ている人をイライラさせてしまうけれど、不思議な愛嬌で最後にはみんなを笑顔にしてくれるポンコツ金髪ツインテ巫女。B級映画とマイナーゲームをこよなく愛するサブカル雑草魂系アイドル

 動画をつくれる、3Dモデルもつくれる、歌も歌えるマルチクリエイター。・・・の割には、みんなに散々からかわれている姿しか見かけないイジラレガール。イジられていないときはイキってドヤ顔さらして自らフラグをばらまいて、きっちり回収までしていく愛玩系アイドル。くつしたダサいもこ~。

 麻雀大好きゲーム大好きドール大好きアイドル大好きエゴサ大好き、多趣味をこなせるマルチタスクぶりときたら、麻雀4面打ちしながら平然と別の話題のおしゃべりができるほど。プロも絶賛、生徒会長に推されるのも納得の才女でありながら、女子力だけは壊滅的なインドア系アイドル

 かわいさドバドバ、侠気もドバドバ。時給200円 / 実働時間20時間オーバーでこき使える優秀な従業員を多数従え、気づけばかわいさ布教動画が量産されまくっている。常日頃から自分のかわいさアピールに余念がないし、実際かわいいうえ取って付けたようなあざとさまで抜け目ない系アイドル

 初っぱな昆虫食エピソードで周囲を戦慄させたと思いきや、実態はあくまで知的好奇心旺盛なだけだったおしとやかなご令嬢。愛する虫さんと恐竜さんのことならいくらでも解説できる教養深さを見せる一方で、ホラー演出に動じないアイアンハートの持ち主でもある、後輩系アイドル

 ギャル系の派手な出で立ちとはウラハラ、性格はとっても清楚な常識人。透き通った歌声、七色の演技力、朗々とした厨二詠唱、からの気持ちいいくらい必死な大絶叫。ホラーが苦手なのにあまりにも見事な悲鳴が好評を博していて避けようにも避けられず、それはそれとして話は変わるが実に趣深い系アイドル

 普段はバイオリンと音楽をこよなく愛する純真乙女。しかしトラックやロボットに乗ると性格が一変し、まるで富野アニメに出てくる悪役のごとく熱くもシブい名ゼリフを吐き散らかす。でも楽器を握るとまた元に戻る。ついには“清楚メトロノーム”とあだ名されるに至った、負けず嫌い系アイドル

 口を開けば「はい風紀」。規律にうるさい風紀委員長と見せかけて、やたらと押しに弱かったり買収に弱かったり芸人気質だったりする謎風紀。ノリよくイジられ上手でリクエストさばきも巧みなラジオDJとしての一面もあるものの、油断するとすぐふにゃふにゃになる隙だらけ系アイドル

 おっとりした口調で繰り出される会話のジェットコースター。話題が次から次へとコロコロ変わり、聞いている側も本人も何の話をしているのかさっぱり理解不能だが、それがどうにも心地いい。無限に続くぽかぽかおしゃべりで世界をほのぼの平和にしていく、頭のなかお花畑系アイドル

 ヅカ系のしゅっとした立ち姿、シャキシャキした語り口に、多芸きわまる特技の数々。しかしアルバイト先での逸話からにじみ出る社畜感と、自作プログラムの予期せぬ挙動に毎回企画をぶち壊される不憫さときたら。哺乳瓶を愛用している姿に何よりまず「強く生きろよ」と言ってあげたい系アイドル

 言葉少な、姿を見せること自体も少ないレアキャラ。ツッコミどころしかないのに掴みどころがないその人物像は、よくわからないうちにちゃっかり“根はまともな常識人”という評判を獲得するに至った。マイペースに独自のダウナーな世界観を表現しつづける、光属性系アイドル

 意味不明なまでに尖った個性をガン積みにしたキャラクターたちが山ほど集まっている業界があります。バーチャルYouTuberっていうんですけどね。
 けれど彼女たちは最初からご覧の有様だったわけではありません。企画時の初期設定と演者の素の性格が入り混じり、あるいは視聴者から一部要素を持て囃され、それを持ち味として取り込んだり軌道修正したり取捨選択しながらフレキシブルにキャラクターを育てていった結果、こうなったかたちです。
 なんだかよくわからない感じですが、つまるところどうしてこんなキャラクターに育ってしまったのか誰にもわからないって話です。

 たとえば『電脳少女シロ』がそうでした。
 バーチャルYouTuberの偉大なる先駆の一角、白と青をパーソナルカラーとしてデザインされた彼女は、当初その外見どおりひたすら清楚なキャラクターであり、言ってしまえば割と没個性でした。当時から多少エキセントリックな言動も無いではありませんでしたが、デビューから半年近く鳴かず飛ばずだったことからもわかるように、それは特段注目されるべき個性と見なされていませんでした。
 やがて昨年末ごろ、他のいくつかのバーチャルYouTuberが爆発的に注目を集めるようになった流れに後押しされ、彼女は再評価されるようになります。他のバーチャルYouTuberにはなかった“オタク受けする外見と声”、“コアなゲームを好む珍しい女性ゲーマー”、“時折ひどく物騒な発言を漏らすサイコパス”・・・。これまでちっとも評価されてこなかった既存のコンテンツ群から、またたく間に『電脳少女シロ』だけの強烈な個性がいくつも発掘されていきました。
 その後、彼女は視聴者たちによって発掘されたそれら個性を別のコンテンツでも繰りかえしアピールし、あるいは批判的に捉えられはじめては別の表現を模索し、さらにまたいくつものエキセントリックな言動を視聴者に提示しては試行錯誤を繰りかえし繰りかえし、とても一言では言い表すことのできない唯一無二の個性を確立していくことになります。
 今ではバーチャルYouTuber四天王(※ 5人いる)に数えられるほどの人気者となった彼女ですが、その人気のきっかけはけっして彼女自身が狙ってヒットさせたものではなく、さらにその後も視聴者と二人三脚でつくりあげていったものだったのでした。もちろんそれをつかみ取ることができた理由のひとつには彼女の不断の努力があったにしても。

 『電脳少女シロ』の運営ノウハウは彼女の後輩たちにも引き継がれていきました。
 私立ばあちゃる学園のアイドル部に所属しているという設定の新人12人は、当初簡素な2Dアバターにてデビューしました。ゆくゆくは3Dモデルにアップデートするという触れ込みでしたが、実装されるためにはある程度のファン数(チャンネル登録者5万人)を集めなければならないという目標も設定されていました。
 12体もの3Dモデルなんていきなり用意できるわけがないだとか急激に事業規模を拡大しても管理するための人材が足りていないだとか、これには様々な事情もあったことと思われますが、兎にも角にも結果としてこの施策は、彼女たちを最大限魅力的にする素晴らしい成果を上げることになります。
 まあ、結論からいえば『電脳少女シロ』が唯一無二の個性を獲得するに至った流れと同じ道を歩ませることができたんですよね。

 『北上双葉』は当時まだブルーオーシャンだったバーチャルYouTuberによるASMR配信を行ったことで、早くから非常に多くのファンを集めました。このヒットは彼女にとっても予想外だったらしく、急激に伸びていく再生数に複雑な感情を抱いていたようですが、周囲の励ましがあり、またASMR以外にも並び立つ個性を獲得できたことで徐々にその快挙を受け入れられるようになります。

 『金剛いろは』は派手な金髪に巫女衣装というインパクトあるデザインでデビューしました。公式サイトを見た感じ、どうやらキレイ系キャラとして売り込むつもりだったぽいですよ? 初回の自己紹介配信時点でそんなイメージは跡形もなくぶっ壊れましたけどね! このキャラクターはとにかく演者の気取らない人間的魅力によって人気を獲得していきました。美人だなんてとんでもない! むしろ愛嬌しかないわ!

 『もこ田めめめ』はイジられキャラです。それ以外にも様々な才能を持っているはずですが、不思議とイジられキャラとしか認識しようがありません。先輩であるシロからはやたらと猟奇的な寵愛を受け、視聴者と一緒にゲームで遊べば全力で煽られる。そして清々しく負かされる。公式サイトの紹介文ではイジられ要素は微塵も無かった気がしますが、今では立派な公式設定です。

 『夜桜たま』は雀士としての側面を積極的にアピールし、著名な麻雀情報サイトに紹介してもらえるほどになりました。しかし彼女はそれだけに留まらず、なにかと器用な演者の能力を生かして様々なジャンルの配信を手がけていきました。結果、初期アイドル部をリードしていく代表的なキャラクターになった一方で、同時にやたらと複雑な(メンドクサイ)パーソナリティを認知されていくことになります。

 清々しいほどのぶりっ子から一瞬で切り替わるドスのきいた脅迫口調。『花京院ちえり』はつくられたキャラクター感バリバリなかわいい女の子です。その最大の特徴は視聴者との関係性にあります。ちえりがかわいい子の演技をするのと同じく、視聴者にもチャット等で彼女を褒めそやす芝居が求められるんです。双方向的につくりあげる独特の雰囲気が彼女の配信をお祭り騒ぎに盛り上げていきます。

 『カルロ・ピノ』最大の特徴は初期から強固に維持されてきたロールプレイです。お金持ちのお嬢様というキャラクターイメージそのままのふるまいはまるでアニメから抜け出してきたかのようなかわいらしさ。一方で時折突飛な言動も飛び出すのですが、基本のキャラクターイメージが頑強なおかげで、何が飛び出してきても愛らしさを引き立てるスパイス程度に認識してもらえる安定感を持つに至りました。

 『猫乃木もち』はホラーゲーム実況で人気を博しました。ともするとバーチャルYouTuberのメイン視聴者層であるオタクたちからは敬遠されやすいギャル系のキャラクターなのですが、その本気の悲鳴を愛嬌として受け止められ、ズンドコ愛されていきました。最近になって「趣スケベマン」だのなんだのとフェチズムを愛する新たな一面も開花させつつあり、今もなお成長真っ盛りなキャラクターです。

 『神楽すず』はデビューしてしばらく伸び悩みました。清楚な音楽家というキャラクターイメージは魑魅魍魎跋扈するバーチャルYouTuber界では少々パンチが足りていませんでした。ところが1本のゲームをプレイしてから状況が一変します。誰も想像だにしていなかった秘められたキャラクター性が一気に開花しました。以後の彼女は2つの両極端な個性を上手に行き来し、唯一無二のキャラクターを確立させていきます。

 『八重沢なとり』は予定していたキャラクター性を妨害されるかたちで個性を確立していきました。本人は真面目にロールプレイしているはずなのに、なぜか視聴者からのツッコミが後を絶ちませんでした。というかあまりにも隙が多すぎました。そういうところにファンがつきました。本人は未だロールプレイを諦めていません。彼女と視聴者とのよくわからない攻防戦は今もこれからも続いていきます。

 『ヤマトイオリ』のキャラクター性が理解されるまでにはしばらく時間を要しました。彼女の演者は最初からあまりにも強烈な個性を持ちあわせていました。世界観が、なんというか・・・独創的でした。今となってはそれが大変素晴らしいものであると愛されているのですが、これがもし段階を踏まずにいきなり3Dモデルの身ぶり手ぶり込みで急襲されていたとしたら・・・みんな頭が爆発していたかもしれんね。

 『牛巻りこ』のつくる動画は初期から高品質だったものの、寡作ゆえに少々マイナーな立ち位置に甘んじていました。むしろそのなかなか表に出てこないところをキャラクター性と認識されているきらいすらありました。キャッチーな話題性を獲得したのはほんの一ヶ月ほど前にやっと。彼女はやっと認知された個性を最大限活用し、企画を練りに練って、毎回ファンの期待を上回るものをつくりこんできます。

 『木曽あずき』はたいへんロックなデビューのしかたで視聴者を騒然とさせました。一部にはそのうち炎上するんじゃないかと危惧する声もあったようですが、よくよく追いかけてみると案外良識を持った人物であり、・・・と見せかけておいて制作する動画で毎回困惑させてきます。彼女のキャラクター像はコンテンツからというよりも、むしろファンの間での考察によって醸成されている印象があります。

 彼女たちはそれぞれのやりかたでファンとの関係性を構築し、彼らとの相互のやりとりから、デビューしたてのころには思ってもみなかった個性的なキャラクターをつくりあげていきました。
 現在、12人中7人がすでに3Dモデルの実装を果たしています。彼女たちのために用意された新規衣装や背景アセットには、彼女たちがファンと一緒につくりあげてきたキャラクターイメージがこれでもかとめいっぱいに反映されています。
 彼女たちやファンにとって3D化はひとつの目標であり、節目であり、それぞれのキャラクターイメージを一目で確認できる鏡にもなっています。もしデビュー時点から3Dモデルを用意されていたらこれほど魅力的なキャラクターにはなりえなかったでしょう。その意味で、彼女たちがまずは2Dアバターで活動を開始し、段階を踏んで3Dモデルへ移行するという手続きを踏んだことには素晴らしい価値がありました。

 もちろんこの手法にはリスクがあります。ファンとのコミュニケーションが不充分だと誰も望んでいないキャラクターをつくりあげてしまう恐れがありますし、逆にファンの喜ぶことを何でもかんでも取り入れていったらひとつのキャラクターとして破綻します。実際、『電脳少女シロ』が現在のキャラクターを確立するまでにはそういう危うさを滲ませた時期が何度かあったように見えます。
 それがなくても、そもそも演者やスタッフたちが最初に演じようとしていたキャラクターには絶対なれませんしね。演じたいキャラクターについて明確なこだわりがある人にこの手法は向きません。そういう人は『キズナアイ』を参考にすると良さそうですね。あの運営方針は手堅い。あのキャラクターづくりも大好きです。

 いずれにせよ、『電脳少女シロ』とアイドル部の12人はこうして個性的なキャラクターを練り上げ、キャラクターコンテンツとしての成功を手にしつつあります。
 成功してくれたらいいなあと思います。
 ほら、今年は特に、芸能人の不祥事がらみでファンからの突き上げをくらう話題がいくつもあったじゃないですか。ああいう不幸なものではない、キャラクターもファンもどちらも幸せになれる関係というものを私は見てみたいんです。

 正直にいうと私は生身のアイドルが嫌いです。アイドルだけじゃなく、スポーツ選手やテレビタレント、俳優や著名な業界人なんかも。ああいう人たちって大抵どこかで本人の実像とファンからのイメージに食い違いが起きて、不幸な結末に陥りがちなので。(普段は“ヒーロー嫌い”と自称しています)
 そしてそのあたりの構造はバーチャルYouTuberも大して違いはないと認識しています。アバターを被っているとはいえ、結局のところキャラクター性の大部分は演者が担っていますからね。

 けれど同時に、アイドル本人だけでなくファンも一緒になって、みんなでひとつのキャラクターをつくっていくステキさも認識しています。
 ひとりで考えるキャラクターイメージはどうしても単調というか薄っぺらくなりがちですが、2人、3人、複数の視点が加わるとどんどん多面的に重層的になっていくと思うんです。アニメのキャラクターも放送期間が長くて複数の脚本家の手が入ったキャラクターの方が魅力的になりやすいですしね。

 ホント、成功してほしいと思います。
 他人との関わりあいが必ずしも煩わしいものではない、むしろ自分の新しい魅力に気付くきっかけをもらえるような、そういうステキな関係性だってあるんだというところを見せてくれたらなと思っています。(ちょっとエラそう)

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