終末トレインどこへいく? 第12話感想 傷つけ、間違って、失敗して、それでも許して、許されて。だから孤独じゃない。

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それは呪いじゃないよ。願いだよ! だって私、吾野にずっといることになってもどっかに行くことになっても、そんなこと関係なしに考えてくれてるの、嬉しいもん!

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「いつもって何だっけ」

大きな出来事

メインキャラクター:静留

目標

 葉香とちゃんと話をする。

課題

 葉香がポンタローに連れ去られてしまった。吾野柔術でも敵わなかったポチまで立ちはだかる。なにやら世界の命運までかかっているようだ。なお悪いことに葉香自身は自分たちのことを覚えていない様子。
 それでも、葉香とちゃんと話しあって、ちゃんと謝りたい。それだけだ。

解決

 撫子たちや黒木とゾンビたち、それからポチの協力を得て、静留はついに葉香と話しあう機会を得た。
 葉香はあの日のことをまだ怒っていた。静留に失望していた。

 けれど、今の静留はあの日の静留とは違う。西武池袋線の旅路を経て、知らないことやわからないことに挑戦することが楽しいと思えるようになった。壮大な夢に挑戦したいと願ったあの日の葉香の気持ちが、今ならわかる。
 今度こそ、葉香の夢を応援したいと心から思うようになった。

 静留のせいで夢に挑む熱量を失ってしまった葉香。そんな彼女のため、静留はもう一度、かつて葉香が憧れていたヒーローその人になる。

設定考察

池袋なくして姫もなし

 「池袋を中心とした7Gエネルギーは彼女を中心に発生している。池袋と持ちつ持たれつ。彼女が池袋を生かし、池袋が彼女を生かしている」
 「葉香様の命を削ってか?」

 「葉香様が苦しんでいるのは7Gのせいではないのか? 7Gを止めればその苦しみは無くなるのか?」
 「そうか! 7Gが魔女王の葉香ちゃんをつくり、葉香ちゃんが7G世界をつくった!」
 「――ボタン!」

 尺が足りなかった(予定していたエピソードを削った)んだろうなあというのをひしひしと感じさせる、若干唐突感のある設定開示。
 とはいえ、これまでの話を総合するとだいたいの事情は察することができる。

 「世界は収縮し、池袋は膨張し、世界の法則は混迷の度を深めておる」
 「“膨張”ってそれ、繁栄の言い間違い?」
 「違う! 膨張だ! 池袋がいびつに膨れあがっているのだ!」
 「膨れあがったあとはどうなるんですか?」
 「消える」

 「エントロピーの増大。宇宙の膨張のミニマム版。ビッグリップ。シャボン玉消えた、壊れて消えた」(第9話)

 7G事件後の世界は池袋だけが膨張を続け、他の地域は縮小しつつあった。この現象を善治郎は熱力学的に解釈していた。すなわち、エネルギー量が高まるからその地点は膨張し、対してエネルギー量が低くなる地点は縮小するのだという法則。
 どうやらポンタローは葉香に池袋以外の地域に関心を持ってほしくなかったらしく、葉香は情報統制下で軟禁状態にあった。おおかたこの世界の歪つさに気付かれたくなかった、ないし、家族や友人に接触されたくなかったからだろう。
 7Gのエネルギーは葉香を中心に発生しているため、葉香が興味を持たない地域は次第にエネルギー供給が少なくなっていったのだろう。それで池袋以外の世界は縮小しつつあった。

 一方、池袋は葉香にとって7G前からの憧れの地。葉香は池袋が楽しい場所だと信じて疑ってなかったし、自分の意志で自由に改変してますます理想的な場所に変えることができた。それでエントロピーが増大していた。
 ただ、池袋には帰る場所を奪われたレジスタンスがいる。彼らは世界をつくり変えた7Gと葉香を憎み、葉香の前で度々池袋を中傷していた。
 葉香は自分のつくった池袋の楽しさを疑いつつあった。そう遠くない未来、葉香が池袋への興味を失ったとき、池袋もまた熱を失って縮小しはじめるところだったのだろう。

 静留に将来の夢を否定され、ポンタローに記憶まで奪われた今、葉香の心に残された楽しみは池袋だけだった。池袋は葉香の全てだった。
 だから池袋を中傷されたら葉香も傷つく。池袋が失われたら葉香も失われる。反対に、池袋が葉香にとって楽しい場所である限り葉香も不滅。そういう関係だったのだろう。

 「葉香ちゃん。今、楽しい?」

 撫子が指摘したとおり、葉香は今まさに池袋への熱を失いつつあるところだったようだ。

 「ボタンはどうした!?」
 「なんか怪しげに隠してあったけど、押しても何も起きなかったよ」
 「ダメだ! 追いかけるのなら持ってけ! お前たちの目的は何だ!?」
 「葉香ちゃんを取り戻す?」「それ」「あと、世界を元に戻す?」「それもまあ、あるかも?」

 だからこそ、葉香と7Gの関係を断つことが葉香の命を救うことにもつながる。
 これはそういう意味を持つ設定だったと考えられる。

事件解決後の世界

 「その通り。川も同じように流れていても、その水は違う。街も、人も、世界もそうだ。同じようにみえて違う。変わっていくのだ」

 スワン仙人のセリフは鴨長明の『方丈記』冒頭の一節を念頭に置いたもの。

 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」(『方丈記』)

 戦乱の時代を耐え忍んだ鴨長明は世の無常なることに悲しみを込めて著していたが、好奇心旺盛なスワン仙人はむしろ世界が変わりゆくことにワクワクしている。
 『方丈記』執筆時点ですでに隠居の身だった鴨長明と、見るからに生涯現役のつもりらしいスワン仙人。自らの終末を受け入れているか、そうではないかによっても、流転しつづける世界への認識は変わる。
 私がまだ終わりたくないのだ。だったら、世界だってまだまだ終わるわけがない。

 7Gのボタンを押した葉香が望んだものは未来だ。夢を叶えようとすることを静留が応援してくれる、そんな未来。
 極論、彼女が望んだことはそれだけだ。期せず池袋に縛りつけられていた閉塞的な生きかたをやめたかっただけ。静留たちが世界を元に戻すことにそれほど関心を持たなかったように、葉香もまたそういったことにはあまり興味がない。
 これからの世界は、彼女たちの未来を求める熱量だけを元にして再生成された。

 世界は依然としてトンチキな物理法則に支配されている。
 善治郎たちの予想と異なり、案外世界は今も7Gの影響下にあるままなのかもしれない。
 
 構うものか。
 いずれにせよ、未来は取り戻された。池袋への熱を失いつつあった葉香は、これから宇宙エンジニアの夢に向かってますます熱い思いを昂ぶらせていく。
 7Gの影響下から解放されていようと、本当はそうじゃないとしても、いずれにせよこの世界はまだまだ終わりそうにない。

ピックアップ

制作のギリギリっぷりがよく伝わってくる1コマ

 バーチャルボーイネタをツッコもうとしてスクショしたらたまたま撮れたやつ。
 (前後を見るかぎり単にレイヤーが1枚抜けただけであって、いうほど作画崩壊しているわけではない)

ギンバイカ

 第4話の感想文で一度記述した文章だが、(中途半端すぎて私自身どこで書いたか忘れていたので)再録。

 ギンバイカは常緑樹であることから不滅を象徴する縁起物として扱われ、西ヨーロッパでは古くから結婚式によく飾られてきた。花の美しさからアフロディテやデーメーテールなど女神ともしばしば結びつけられる。
 花言葉は「愛」「祝福」など。

 吾野に転校してきた葉香が最初に興味を持った、想い出の花。

ロマネスコ

 ブロッコリーの仲間。食感はほろっとしていてカリフラワーのほうが近いかもしれない。「世界一美しい野菜」としばしば称される。
 絶対花言葉とか意図されていないだろうが、あえて紹介してみると「小さな幸せ」もしくは「お祭り騒ぎ」となる。

Unbeliever

 絶望していました。

 「遠いよ。吾野から星とか宇宙とか銀河系って無理無理無理。あまり大きいことを言うと恥ずかしいっていうか、ある程度現実と折り合いつけてくもんじゃん」

 「ていうか無理だよね、葉香には。まあ私もか。私たちってことだよね」

 「何、ごめんって!? 知らないからね、葉香のことなんか!」(第6話)

 自分でも情けなくなるくらいショックを受けていました。

 静留は自分の殻に閉じこもっていた私を引っぱり出してくれた子で、他にもたくさん友達に囲まれてる子で、いろんな場所に連れ回してくれて、吾野のわけわかんないノリに馴染ませてくれて、いつも根拠のない自信にあふれていて、いつもこんな私のことをたくさん褒めてくれて、信じてくれて、夢を応援してくれるって約束してくれて、きっと私なんかと違って本当はどんな夢だって叶えられちゃうすごい子。
 静留なら応援してくれるって思ってた。
 お互い大きな夢を語りあえるって、叶えるのが難しくてもお互いを励みにがんばりあえるって、当たり前のように思ってた。

 違ってた。

 本当の静留は平凡な子でした。口では勇ましいことばかり言っているけど、将来のことを真剣に考えたこともなくて、夢なんてひとつも持ってなくて、だから勉強する気もなくて、いつもふざけてばかりで、当たり前のように吾野の内側に篭もろうとしている小さい人間で、挑戦する前から諦めていて、そのくせ言い訳がましくて。
 ずっとそこに留まったまま、腐っていけばいいんだって、呪いました。そのくらい憎かった。あの日の言葉が。

 「大丈夫? 立てる? 立って、ほら! へえー! 中富さん、そんな顔だったんだ!」(第3話)

 「吾野柔術免許皆伝になってアリクイと戦いたい! めっちゃ賢くなりたい! なんかめっちゃ、キノコが食べられるようになりたい! 小人を絶対見つけたい!」(第4話)

 「いい、いい。葉香がいいならいいの。写真撮ろ! 前髪記念だ!」(第3話)

 「勉強って何のためにやるのかな。わけわからん」
 「わからんってことを確かめるため、かな?」
 「葉香もときどきわけわからんこと言うよね」(第5話)

 「私も! 私も応援する。葉香のこと応援する。むちゃくちゃ応援する。――あのピカーって輝く約束の星に約束する!」(第4話)

 だって、静留ってものすごくカッコいい子だったから。自慢の友達だったから。憧れだったから。

 だから本当の静留がそこまですごい子じゃないってわかったとき、なんだかヒーローの中身のオジサンを見たみたいで、まるで神様みたいに実体のない存在を信奉していたみたいで、実はそれまでの自分は静留のありのままを見ようとしていなかったみたいで、なんだか無性に悲しくなりました。
 すごい静留が応援してくれるっていうから壮大な夢を見る勇気を出せたのに、静留が本当はすごくない子だったというなら、なんだか急に不安になってきたのでした。

 静留が「自分には無理」っていうなら、私にだってできるわけない。静留が遠いっていうなら、私なんかの手が届くわけない。静留が恥ずかしいっていうなら、私なんか何も期待する権利ない。

 全部全部、静留ありきでした。
 葉香が夢見たもの全部、静留と一緒にいて、静留を追いかけていたから、挑む気になれました。

 空っぽの葉香は、だから池袋を目指しました。
 そこに何があるのかよく知らないけれど、きっと楽しい場所なんだろうなって、自分の心に残った数少ない小さな憧れを頼りに。

 「やっぱり街はいいね。賑やかだと気持ちもアガるし。静かだと――。静かなときに何かあると落ち込むっていうか。静かでもいいんだけど、いや、えっと、どうだっけ・・・? とにかく。都会もいいってこと」(第9話)

 そうして、葉香は「池袋の魔女王」と恐れられる存在になったのでした。
 2年間、池袋での当たり障りのない日々に耽溺していたのでした。

 「・・・でもさ、今は変わらない世界っていうか」
 「膠着状態だよね」
 「もっと悲惨だよ。縮まっていくらしいから」
 「私は変わりたいし、変えていきたい! 葉香も“本当”はそうだと――」

 久しぶりに会った玲実が、撫子が、晶が、そして静留が、意味のわからないことを言ってきます。

 葉香のつくった池袋はそんな世界じゃありません。もっと賑やかで、もっと楽しい場所。朝はポチに起こされて、ポチのつくった朝ご飯を食べて、学校ではポチが先生役になって勉強して、たまに○○タローとかいうおべっか使いに不愉快な気分にさせられて、夜はポチが悩みを聞いてくれて――。そういう何事もない、穏やかな日々。池袋はそんな、とっても賑やかで、楽しい場所、の、はず。
 ひどく癇に障ります。まるで今の自分のことを丸ごと否定されているような。

 静留たちみたいなことを言う人、みんな嫌いでした。
 そうだ。こういう勘に障ることを言ってくる人、静留たちが初めてではありませんでした。

 「出たな、魔女め! 消えてしまった世界を返せ! 何もかも全部消しやがって! ・・・とぼけるな! お前と、お前の起こした7G事件のせいで世界はメチャクチャだ!」

 「このままなんぞまっぴらごめんだ! 前の世界に戻せ! お前の力は知ってるぞ、池袋の魔女。お前がつくった池袋なんぞ紛い物だ――!」(第9話)

 茶碗蒸しに変えた人たち。
 どうしてあんなに必死なのか、命がけで私に憎しみをぶつけてくる、こちらを不快にさせるためだけにわめき散らす、意味のわからない人たち。

 2年ぶりに会った、懐かしい、かつて友達だった人たち。

 どうしてそんなに私を否定しようとするの?

 「――勝手に『本当』とか決めつけないで!!」

Crusade

 「あのさ。なんか・・・、許してほしいわけじゃないんだ。最悪――、最悪っていうか、許してくれなくてもいい。ただ葉香を傷つけたことだけは謝りたくて! ゴメン! ホントの気持ちじゃなかった。・・・嘘。ちょっとはホントだった。あのね。私バカじゃん。バカだから葉香がすごく偉く見えて、葉香が偉いぶん自分がどんどんダメになってく気がして、だから、わざとイヤな言いかたした。でも。それも。それがダメダメだったってこと、今ならわかる」

 謝ったところで何かが変わるなんて思っていませんでした。
 もしも葉香が絶交だって決めたならそれはもうきっと覆せない。許してもらえるかどうかは全部葉香次第で、自分はその裁可に身を委ねるしかなくて、だからきっと、これは意味のない旅。自己満足でしかない謝罪。
 自分なんかが葉香を吾野に連れて帰れるなんて最初から思ってなかった。みんなが着いてきてくれたのはうれしいけど、だから迷惑だとも思った。絶対落胆されると思った。一緒に来たこと、あとで後悔されると思った。
 一瞬葉香と言葉を交わして、どうやらまだ許してもらえていないようだと思ったとき、もう諦めようと思った。葉香の気持ちを曲げさせる権利なんて私にはない。これ以上私のワガママに葉香を付きあわせるわけにいかない。
 それでもしつこくここまで来たのは、ポンタローとかポチとかよくわからない大人たちが付きまとっていて、なんだか葉香は自分の意志でここにいるわけじゃないかもしれないって、そんな気がしたから。それだけ。

 ひっぱたかれました。

 どうやら多少なりとも葉香自身の意志はここにあるようです。
 怒ってくれているようです。嫌ってくれているようです。よかった。それなら、この前と違って言葉が届く。

 「私が言ったことを謝りたかった! あと、葉香のやりたいことを信じるし、支えたいし、応援したいって言いたかった!」

 これは静留が最初に吾野から持ってこようとしていた言葉。
 今思えばこんな上っ面の言葉を葉香が喜んでくれるわけがない。もちろん心はちゃんと込めている。だけど、その私の心が最初に葉香を傷つけた。私の心は葉香の敵だ。敵がどんな甘い言葉を並べたって、それで葉香が信じて耳を貸してくれるわけがない。

 「――つまんないよ、先や結果がわかってるって」

 今ならわかる。何を言ったって、そう簡単に葉香が許してくれないことはわかる。それだけのことを自分が言ってしまったんだって今ならわかる。
 だけど、聞いて。

 「知らないことやわからないことは、あればあるほど楽しいよ。あのね。吾野から池袋まで、すごい大変なことがいっぱいあって、でもすごい楽しかった! 全部吾野にいたら知らなかったこと!」

 聞いてほしい。

 これは葉香を説得するための言葉じゃない。
 ただ、私が体験して、私が感動しただけのこと。
 ただの私の旅の感想。
 葉香にとっては全然関係ない話かもしれない。だけど私が聞いてほしい。葉香に聞いてほしい。だって、私は葉香が好きだから。昔みたいに葉香とお喋りしているのが好きだから。

 「私は変わりたいし、変えていきたい! 葉香も本当はそうだと――」

 だから、自分の言葉の何がそんなに葉香の勘に障ったのか、静留にはわかりません。
 これは静留の個人的な決意表明で、個人的な過去の反省。本来ならあえて葉香に聞かせる意味はない言葉です。
 ただ、聞いてほしかっただけ。

 「すごいね、静留ちゃん。ねえ、静留ちゃんってなんで? なんでそんなすごいの?」(第4話)

 頭空っぽの自分が何も考えずに語った夢でも真剣に聞いてくれた葉香。
 葉香の前なら自分は本当に何でもできるような気がしていた。
 だから、もし少しでもこの言葉が届いてくれるなら、認めてほしい。許してくれなくていいから、ただ、ここにいる私のことを認めてほしい。

 そんな、身構えない、飾らない、静留の素直な気持ちから出た言葉こそが、やっと葉香の心に突き刺さるのです。

 「――勝手に『本当』とか決めつけないで!!」

The Reformation

 「葉香ちゃん。今、楽しい?」

 それは、今ここにいる葉香を否定しなければならない唯一の理由。

 静留に夢を否定されて、子どものころから信じていたもの全部一度に失って、それで葉香が縋りついたものが池袋でした。
 もともと葉香がどのくらい、どうして池袋に思い入れを持っていたのかは劇中で語られません。けれど、それは静留に対する信仰ほどではなかったように思います。川原で水切りをしている静留に茶化されても気にしていませんでしたから。
 葉香にとって池袋は代用品でした。2年前静留に壊された、夢のかわり。
 夢を壊されて、そうすると自分がこれから何を頼りに生きていけばいいのかわからなくなったから、仕方なく縋っていただけのもの。

 「このままじゃいけない」というのは、吾野を出発する前から誰もが薄々感じていたことでした。
 吾野の大人たちはいつか自分が野生化することを漠然と予感していて、だけど仕方ないからそれを受け入れていました。静留たちも、それは嫌だなと思いつつ諦めていて。
 西武池袋線の旅路では色々な人たちに出会いました。東吾野のキノコ人間たちや大泉学園のウライズミンたちは吾野同様、どうしようもない閉塞感をあるがまま受け入れていましたし、稲荷山公園前のドクターや清瀬で出会った渡りゾンビたちは、それでも自分たちにとって望ましい未来を目指し抗っていました。
 静留たちは――、どうやら後者の気質のようでした。吾野にいたころはなんとなく終末を受け入れていたものですが、たくさんの地域を冒険しているうち、どうやら自分には今できることを精一杯やるほうが性に合っているらしいと自覚するようになりました。

 願わくば、葉香にもそうあってほしい。

 だって葉香は友達だから。
 大好きなんだから。

 だからこの旅で学んだ大発見を、どうか葉香にも聞いてほしいから。

 「葉香。もっかい世界を動かそうよ」
 「でも、できなかったら辛い・・・」
 「うん。叶わなかったら辛い。でも私、葉香のこと応援するから! うん。メチャクチャ応援する! がんばれって言う! やらないで後悔するよりもやって後悔するほうが全然いい。だから応援する!」

 葉香は今が楽しくないんだといいます。
 自分のために池袋に執着していたけれど、その実、池袋にすがりついていることが自分でも辛いと。
 だけど他に大切なものがないから仕方ない。

 夢は2年前に壊された。憧れは2年前に幻滅した。だから池袋しかなくなった。

 ――だったら、もう一度あの約束の星に誓おう。

 葉香にとって、静留がまだヒーローだったころの約束。
 静留ならきっと何でもできると信じていたころで、だから、その静留との約束ならこのうえなく頼もしいと信じられた約束。
 あのころの信頼が今でも通用することを、今度こそ示そう。

 私は今でもあなたの友達で、ヒーロー。

 だから、葉香は安心して夢を追いかけて。

 2年前のあの日以来、葉香が静留を呪っていたというのなら。
 実は静留だって誰にも知りえないところで密かにお呪いをかけていました。

 「地球と月が一番離れたところがアポジーで、あとは近づくだけだから」

 少しでも葉香の気持ちを理解したくて、静留は柄にもなく勉強していたのでした。
 これから葉香が吾野に留まるとしても、宇宙工学を学ぶため遠くに行ってしまうとしても、静留の心はずっと、いつまでも、葉香とともにあります。

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