終末トレインどこへいく? 第11話感想 拡散性シズルイズム。

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いい、静留ちゃん? 静留ちゃんが会いたくなくても会わせる!

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「もう無理かな……」

大きな出来事

メインキャラクター:静留

目標

 葉香と話す。

課題

 ついに池袋に辿りついた静留たち。ポンタローの手先に追われつつようやく再開を果たした葉香は、何故か静留たちのことをすっかり忘れてしまったかのような態度でふるまう。静留はこれを、葉香が自分を許していないからだと解釈した。
 葉香が2年前のことをまだ許してくれない以上、もう一度会いに行ってもまともな会話にはならないだろう。

未解決

 静留には葉香が怒っているように感じられたが、他の3人はただ葉香が記憶を失っているだけのように見えた。記憶を取り戻す手段に心当たりはない。ただ、葉香が7Gの中心である以上、葉香自身も7Gの影響を受けている可能性はある。
 葉香のことになると途端に自己肯定感がズタボロになる静留をどやしつけ、一縷の望みに賭けて7Gの起動スイッチをオフにしてみることにした。

 しかし、スイッチのボタンを押しても7Gの影響は何も元に戻らなかった。静留たちはポチに捕らえられ、葉香もポンタローによってどこかへ連れ去られてしまった。

地域の特徴:池袋□

 東京都豊島区。池袋駅には西武鉄道の他、JR東日本、東武鉄道、東京メトロの合計4社8路線が乗り入れる。
 スワン仙人の地図では茶碗蒸しのマーク。葉香姫(というかポンタロー)に逆らう者は茶碗蒸しに姿を変えられ、食べられてしまう。

 スワン仙人が観測した異変とは別に、池袋の住人には木彫りのフクロウの姿になるという異変が起きている。元ネタは駅舎東口近くにあるランドマーク「いけふくろう」だろう。現在設置されているいけふくろうは石像なのだが、このランドマークの企画当初、駅員が木を手彫りして像をつくろうとしたことがあったという。
 また、東京副都心のひとつであり地元の人以外にたくさんの人が行き交う土地柄、ここには西武池袋線沿線以外の住人も大勢残されているようだ。彼らは人間の姿を保ったまま、レジスタンス活動に参加したり、ポンタローの手先として働いたりしているようだ。

設定考察

7G回線のボタン

 第1話冒頭で葉香はボタンを3回押している。1度目を押したら世界がおかしくなったから驚いてとっさに2回目を押し、それでもまだおかしいのが直らないことに困惑して3回目を押したという流れ。
 改めて見てみれば、2回目に押したときは空が当たり前の青空になり、ビルも元の直方体に戻ろうとしていたように見える。もしかしたら、このときならまだスイッチをオフにするだけで元の世界に戻せたのかもしれない。

 今回、晶と黒木がボタンを押したときはLoftもどきのネオンサインが点灯したものの、それだけで終わってしまった。
 多少なりとも変化の兆候が見られたということは、然るべき条件が整ってさえあれば、葉香以外がボタンを押しても世界を戻せたということだろうか? 裏を返せば、今の状況下で葉香にボタンを押させたところで、ポンタローが危惧しているような世界再生が起こるかというと少々怪しいところがある。

 第9話で善治郎が今の膨張する池袋をビッグリップだのと宇宙物理学になぞらえて考察していたが、そもそも私たちが知る限りの物理学において時間が逆行することはない。そういうことが起こりうるとすれば、今ある世界が完全に破壊された後で、元の世界とそっくりな世界が改めて創造される場合くらいのものだ。
 それを実現できるだけのエントロピーが、果たして7Gボタンと葉香に残っているだろうか?

黒木と渡りゾンビたち

 保谷の環境がゾンビに合わなくなったため移動してきたらしい。

 なお、静留たちと合流したのは椎名町駅。道すがら池袋での7Gボタンの移送を目撃している。ということは、黒木たちは第9話のスワン仙人と同じく駅の逆順で旅してきたことになる。
 また、ポンタローがボタンの移送を決めたのは静留たちが池袋から逃げていった直後のこと。静留たちは椎名町駅に到着して間もなく善治郎と連絡を取っている。7G後の池袋-椎名町の距離がどのくらいあるのかわからないが、つまり黒木たちは電車並みのスピードで移動してきたということだ。徒歩で。きっとこのときも空間が歪んでいたのだろう。

ピックアップ

街並み

 こういうカオスなアートワークってとりあえず達磨とエメンタールチーズと魚の頭が出てくるよね。好き。
 寿司犬かわいい。何がかわいいって手触りよさそうなところがかわいい。ニオイはたぶんかわいくない。

池袋新聞

 今日も今日とてカオスな見出ししか無い。

 「仏子の地蔵5ミリ移動」 第10話の池袋新聞でお供えものが盗まれてキレていた件の続報。苔の一念岩をも通すというかなんというか、7G事件により与えられたロールを乗り越えようという気概を感じる。
 「巣鴨プリズン跡地にポンタロープリズン施工」 太平洋戦争の戦争犯罪者たちが数多く収容・死刑執行された巣鴨拘置所のこと。現実世界ではとっくに移転しているのだが、第1話の池袋新聞によると地下に復活していたらしい。次回獄中スタートか?とちょっと予想したが、ポチが侵入者を捨ててこいと命令されたのは雑司ヶ谷方面だから逆方向か。
 「ロシアンウォシュレット実用化へ一歩前進」 『練馬の国のアリス』3大重要アイテムのうち第8話に登場していなかった最後のひとつ。この世界、ネリアリオタク多すぎでは?

 その他、練馬高野台のカエルの反乱など、今さら劇中に出てくるとも考えにくい話題の続報が色々と報じられているようだ。

他責思考

 「なんで逃がした! お前たち全員姫に言いつけてトコロテンの刑だ! マズい、マズいぞ・・・。ボタンと姫のあの反応を考えるとふたつは離しておいたほうがよさそうだ。結構警戒していたつもりだったが、甘かったぞコノヤロウ・・・!」

 ボタンと葉香両方の管理をポチひとりに丸投げしていた時点で管理監督者としての仕事は一切やれていないんじゃないかな。
 あとこれから新しい仕事を指示するってときに懲罰の話すんな。辞めるか社内ニート化するかのどっちかにしかならんから。仮に次の仕事が上手くいったとしても多少名誉挽回できる程度で人並み以上の評価はくれないんでしょ? やる気出るかよそんなもん。

 あえて指摘するまでもなく、ポンタローは自分の果たすべき責任を少しも負おうとしていません。
 考えていることをいちいち全部口に出す態度からもそれは見て取れます。自分の意向を1から10まで全部周りの人に聞かせることで、具体的な指示を出さない自分が悪いわけじゃない、業務に必要な情報を得ているにも関わらず自発的に対処しないお前らが悪いんだ、と責任転嫁したいんです。意図的なものか無意識の手癖かまでは知りませんが。
 本人は誠実な上司のつもりなのでしょう。部下からすると仕事のタスクだけでなくマネジメント責任まで負わされるのでたまったものじゃないですけどね。そりゃ情報をもらえなきゃ自発的な仕事なんてできませんけどね、でも状況を見て具体的なタスクを組み立てるのはそもそも管理職の仕事ですよ。

 私怨が過ぎました。

 ともかく、ポンタローという人は一貫して他責思考の人間です。
 本来あらゆる活動には責任が伴うものですが、彼は自分のやりたいことを考えるだけで、その工程に必要な責任を自分で一切引き受けようとしません。だから思うような結果を得られないんです。
 7Gボタンや葉香の身柄がそんなに大事なら自分の直轄で管理すればいい。小心者らしく自分の手で守るのならそれが一番確実ですし、ポチや他の部下たちに護衛させるにしても、具体的な方法を自分で指示するだけで安心感は全然違ってきます。大事なものをハナから自分の手の届かない場所に置こうとするから無駄に神経を尖らせるハメになるんです。
 彼のようなタイプの人はとにかく極端に責任を負うことを嫌いますが、実際のところ、こういうのってできるかぎり自分で責任を負ったほうがはるかに楽ですよ。制御できない他人の都合に振りまわされないで済みますから。

 「わかっているな? お前の役目は――」
 「葉香様をお守りすること」
 「わかっているならあいつらを始末して雑司ヶ谷のずっと向こうに捨ててこい! そしてボタンを守れ。ボタンを奪われたら今の世界は変わってしまう。民衆は怒り、暴れだし、メチャクチャクチャになる。そうなればお前の好きな葉香様も無事ではいられない。姫を守ることとボタンを守ることはほとんど同じ! イコールだ! 絶対に奪われてはならない!!」

 なかなか自分の言うことを聞こうとしないポチをようやく説き伏せ、ポンタローは複雑な表情を浮かべます。

 先に表れた歪んだ笑みは、利かん坊の木偶の坊を思惑どおりに動かせた満足感やら達成感やら、あるいは全能感によるものでしょうか。
 けれどすぐに苦虫を噛みつぶしたような表情に変わります。どうして自分がここまで労力を割かなければならないのか。どうしてここまで心痛を受けなければならないのか。そういう苛立ち。

 よかったですね。珍しく自分の責任を果たしたおかげで部下を制御できましたよ。

責任範囲

 「姫には別のところにお移りいただく!」
 「なぜ?」
 「お前が取り逃がしたあいつらが姫を奪いに来るかもしれんからだ! そんなことも理解できないのか!」
 「ご本人がお望みにならないかもしれません。あの部屋はとても気に入っておいででしたから」
 「生出も小出も想い出も関係あるか! なら、姫はお前が守るというんだな?」
 「もちろんです」
 「髪の毛一本でも傷つけるようなことがあったら覚えてろよ!」

 ポンタローが徹底した他責思考なのに対し、ポチは自分が受け持つべき責任の範囲を明確にしています。

 すなわち、“葉香を守る”。

 葉香を守るために必要だと思ったことなら全て主体的に取り組みますし、反面、そうではないことについて一切干渉しようとしません。葉香の自由意志に関わる部分については特にそうです。彼は葉香のナイトであろうと意識しているので当たり前といえば当たり前ですが。
 ポンタローの認識とは異なり、そもそもポチは静留たちを捕らえようとすらしていませんでした。葉香が気を失ったあとは静留たちガン無視で部屋に運び入れていましたし、その前も葉香が混乱している様子を、自分自身も同じくらい困惑した表情で眺めていることしかできずにいました。
 それで葉香が錯乱してしまう結果になったとしても、ポンタローから排除命令を受けるまで、ポチは静留たちと敵対しようという意志を持ちませんでした。

 ポンタローが彼を気に食わずにいるのはこういうところですね。
 自分のやりたいことに対して自己責任と認識している範囲が狭すぎる。

 ポンタローが命令するとき説明したとおり、本当に葉香を守りたいと思うなら彼女の護衛をしているだけでは不充分です。ときには能動的に侵入者を排除しなければならないときもある。ボタンとの相互共鳴があるならそちらの防衛も考えなければなりませんし、葉香の心を不安定にさせる原因だって取り除くべき。
 葉香の苦しむ様子を見たならそれがわからないはずはないでしょうに、ポチはあくまで葉香の身の安全に責任を持つことだけに固執します。
 彼の望みである“葉香を守る”を達成するためには、本当はもう少し自分で責任を受け持つ範囲を拡張しようとしなければならないんです。なのに、彼はそうしない。葉香の自由意志を言い訳にして。

 責任転嫁しか考えていないポンタローに比べたらはるかにマシなのはわかりますけどね。それにしたって結局はご同類です。

 「誰?」
 「私はポチ」
 「ポチ? ポチって――、なんで?」
 「同じ気持ち。葉香様を守る」

 「葉香は、葉香は今これがいいって思ってんの!?」
 「日々勉強に勤しんでおられる」
 「でも、魔女みたいに言われてたりとか」
 「それは葉香様ご自身の問題ではない。何を言われようが関係ない。葉香様は葉香様であればよろしい」

 自分は葉香の身の安全を守るだけでいい。
 それ以外の葉香のことは葉香本人が決めるべきこと。
 そして葉香の責任範囲外のことについては、葉香のせいでも自分のせいでもない。たとえそれで葉香がいわれのない不名誉を被ろうとも。自分と葉香以外の誰かの責任だ。

 バカじゃねーの、と思います。私なら。
 ポンタローを見たらわかるでしょうに。あなたが責任を負わない部分に対し、あなたは絶対に干渉することができません。たとえどんなに大切なものであっても、自分の手の届かないところに置いてしまったら、自分の手で守ることはできないんです。
 理不尽に襲い来る不利益。そういったものから大切な人を守りたいと思うなら、本来自分に与えられた責任範囲外のことであったとしても、自分の責任で対処するしかないんですよ。
 仕方ないから手をこまねいて葉香が悲しむのを黙って見ていると? それこそバカじゃねーの。

 借りものの名前。
 借りものの立場。
 借りものの名誉。

 だから自分の意志で動けない? そりゃそうでしょうよ。他人という存在は基本的に制御不能なもの。それだから他責思考は無力なんだ。

 でも、葉香があなたを信頼してくれたのはポチさんに似ているからではなかったでしょうが。
 ポチさんみたいに、あなたという個人が、とても優しい人柄だっと思えたからこそでしょう。

 「ふふっ。ポチさんみたい。散歩が好きで、いつも一緒にいる、うちで飼っている大きな犬。それに強くて優しいんだ」(第9話)

 いったい誰に、何のために遠慮しているのか。あなたは。

自責思考が広まっていく

 「かわいいね。あなたの犬? 私も昔飼ってたんだ、ポチさんって犬。あなた、なんていうの?」

 「・・・あなたたち、何?」

 誰がどう見ても明らかに様子のおかしい葉香を見て、静留がまず考えたのはこう。

 「もしかしてまだ怒ってる?」

 自分と会いたくなかったから、わざとこういうことを言って突き放しているんじゃないか?
 そんなわけあるかい!

 静留という少女は高校2年生にしてはびっくりするほど対人スキルの幼い子です。こんなあからさまなことも本気でわかりません。私も人間関係は相当苦手な引きこもり人間ですが、さすがに静留には勝てる・・・気がする。

 「まあね。私が葉香だったら絶交くらいするよね・・・」

 「もう無理かな・・・。絶交だしね・・・」

 とはいえ、普通ならこんなことでここまでネガティブになる人はいないでしょう。対人スキルまっさらな3歳児だってここまで深く全部自分のせいだと思い込むことはないと思います。

 静留は極端なほどに自責思考の人間です。

 何気ない日常の一挙手一投足から2年越しの一大決心まで、静留はあらゆることを自分の責任のもとで行います。
 責任というと大げさに聞こえるかもしれませんが、要は何か起きても自分以外の誰かのせいにしない、誰に何を言われようと勝手だと思われようと、自分がやると決めたことをひとりで貫けるという話です。

 「すごいね、静留ちゃん。ねえ、静留ちゃんってなんで? なんでそんなすごいの?」
 「なんでそんなすごい・・・? そっか。なんでかな。やりたいからやりたいし、生きたいから生きたい、からかな?」
 「すごいなあ。私は何も・・・」(第4話)

 「そんなにイヤなら吾野で待ってればよかったんだよ!」
 「イヤとか言ってないでしょ! 勝手に決めないでよ。晶だって自分で乗りこんだくせに!」
 「玲実と撫子ちゃんが乗らなかったら乗らなかったよ!」
 「あれは・・・。あのときはイキオイっていうかね、みんなそうでしょ?」
 「――無理して来なくてもよかったのに」(第2話)

 静留のやることは全て静留の「やりたい!」という思いに依拠しています。
 だからこそ彼女は普通なら誰にもできないことを平然とやれますし、反対に普通の人なら当たり前にやる、誰かのために無理を通すという考えかたを理解することはできません。

 静留にとっては、いつでもどんなときでもまず自分の意志が真ん中にあるのが当たり前。
 そんな彼女だから――。

 「でもさあ、リアルに考えてどうなんだろうね。そういうの。だって、私ら普通の人間でしょ。そういうのってなんかもっと特別な人がやることじゃないのかなって。――ああ、葉香のこと別にバカにしてるんじゃないよ? でも、なんかものすごい遠いこと話されてる気がして」(第6話)

 そんな静留だから。
 あのとき葉香が壮大な夢を思い描いたとき、彼女が自分で責任を負いきれるのか純粋に疑問に思ってしまいました。
 なおかつ、その夢を叶えようとするなら吾野を離れることになる葉香を引き留めたくて、ついつい自分本位な理屈を捏ねてしまいました。
 相手の気持ちなんて少しも考えずに。

 静留は明らかに自分のせいじゃない問題にまで自己責任論を適用したがるから、記憶喪失の葉香の言動みたいな変なところでまで変な曲解をしてしまうわけですね。

 「なるほど。悪い意味でのゾンビだな。視野が狭く、今と己のことしか考えない。反省も展望もない」

 なるほど、自分勝手だという意味ならポンタローと似てなくもありません。
 ただ、そういう表層が生じるに至った根っこの思いは正反対。ポンタローは自分がやりたいと思ったことを周りの人にムリヤリ押しつける他責思考人間で、静留は自分がやりたいことを周りの気持ちガン無視で自分でやろうとする自責思考の子です。

 周りにいる人からすればどちらもハタ迷惑でしょうが――、そういう人に感じる印象って、たぶんそれぞれ全然違いますよね。

 さっきも少し触れましたが、他責思考の何がよくないかって、建設的な考えかたじゃないところです。
 他人という存在は基本的に制御不能なもの。たとえ私がどんなに切実に困っていたとしても、協力してくれるかどうかは相手の都合次第です。どんなに身分の差が大きかったとしても、どんなに仲がよかったとしても、助けてくれないときは絶対に助けてくれません。
 対して、自分自身の体ならとりあえずどんなときでも動いてくれるでしょう。能力的に問題解決が見込めるかはさておき、多少は解決に向けて前進することができます。進展がゼロじゃないならあとは努力次第。

 葉香の記憶喪失は静留のせいじゃありません。本来、静留に責任なんか少しもありません。
 だけど、そういうところに自分の責任を見出して、自分の力で解決に乗り出そうという建設的な姿勢は――、やはり尊いものでしょう。少なくとも私はそう信じます。

 「もう無理かな・・・。絶交だしね・・・」
 「あのね、静留ちゃん。今そんなこと言われても困るの」

 まあ、他責思考に無い自責思考の良さって建設的な問題解決能力なので、いくら自責的といえど自己完結的に諦めてしまったら何の意味もないんですけどね。

 「私は葉香ちゃんと会いたいし、静留ちゃんが会いたくなくても会う。――いい、静留ちゃん? 静留ちゃんが会いたくなくても会わせる!」

 へこたれた静留の代わりに、今日は撫子がムチャクチャなことを言います。

 もともと撫子は静留のためにこの旅に同行していました。「みんな仲よし」がモットーの撫子の旅の目的は最初から静留と少しズレていて、静留がただあの日葉香が泣いた理由を確かめたかっただけなのに対し、撫子は最初から2人を仲直りするまでを望んでいました。

 だから、これは撫子の個人的な思い。
 撫子が自分の責任に基づいて行使する、撫子自身のやりたいこと。

 吾野を出たばかりのころの撫子はここまでグイグイ行く子ではありませんでした。静留が旅を始めなければ、撫子が自分で池袋を目指すことなんてありえなかったでしょう。
 静留に感化されたんです。

 子どもの頃静留の唯我独尊な行動力に感化されて天文学者という壮大な夢を思い描くに至った葉香のように、撫子も、みんなも、静留のそういうところがすごくいいなって、ずっと思ってきたんです。

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