【二次創作】メリーミルク ―― 小さな絵本と夜空の星々の物語。

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※ けっして、絶対に、明らかに公式設定ではありません。
※ 配信を観ながら私が好き勝手にふくらませた妄想の産物です。

まっしろなお話

 遠い遠いお空より遠く。
 同じ空の下だけど、違う世界に、1冊の絵本が住んでいました。

 小さな小さな森のまんなかに、
 小さな小さな女の子の姿で、
 鈴のようなちりんちりんとした声で、
 歌うように、笑うように、
 自分に描かれた物語を読んでいました。

 声に惹かれて集まってきた羊たちのまんなかで、
 絵本はいつも楽しそうに、自分の物語を読み聞かせていました。

 絵本には昔、お父さんがいました。
 貧しい絵描きで、たったひとりの娘を愛していたお父さん。

 まれな幸いを娘の笑顔のために捧げたお父さん。
 手ずからの贈りものを箱のなかに潜めたお父さん。

 絵本は昔、お父さんの娘でした。
 けれど、ある嵐の夜、娘はお父さんの手によって絵本の姿へ変えられてしまったのでした。

 お父さんが何を思っていたのか誰も知りません。
 穢れを知らない娘を荒波から永遠に守ってあげたいと考えたのか、
 あるいは、世界で一番ピュアな少女を閉じこめて、世界で一番ピュアな作品をつくりたかったのか。

絵本の作者である男はこう語る
「あの絵本は 生きている」
「人々の記憶から消えない限り
メリーミルクは永遠に生き続けているのだ」
――おやすみ、メリーミルク

 小さな絵本は森のなか。

 ちりんちりんとしたかわいらしい声で、
 歌うように、笑うように、
 集まった羊たちに物語を読み聞かせていました。

 けっして長いとはいえない自分の物語を、
 慈しむように、言祝ぐように、ゆっくり読み聞かせていました。

まっくらなお話

 やがて、小さな小さな森に夜が訪れました。

 いつから夜だったのかわかりません。
 もしかしたらはじめから夜だったのかもしれません。
 お日さまもお月さまも、木陰に隠れて、絵本のいる森からは見えなかったからです。

 けれど、今、星がまたたきました。
 だから、今はきっと夜でした。

 美しい星空を見上げて、羊たちが口々に語ります。

 「おうし座さんは働き者」
 「ふたご座さんはお腹いっぱい」
 「かに座さんは生きもの博士」
 「しし座さんは歌がうまい」

 「おとめ座さんはスカート短い」
 「てんびん座さんはよく笑う」
 「さそり座さんはとってもおしゃべり」
 「いて座さんは雄々しく叫ぶ」

 「やぎ座さんは気分屋さん」
 「みずがめ座さんはウソが好き」
 「うお座さんはかわいいなあ!」
 「おひつじ座さんはお友だち」

 つぶらな瞳に星空を映し、
 羊たちは心に浮かんだ物語を自由に語りあうのでした。

 絵本はとっても驚きました。
 絵のないところに物語があるだなんて!
 星明かりひとつで物語が生まれるなんて!

 いつもは物語を読んで羊たちを楽しませていた小さな絵本。
 星ののぼる夜からは、自分も新しい物語に夢中になりました。

こんばんはのお話

絵本の作者である男はこう語る
「あの絵本は 生きている」
「人々の記憶から消えない限り
メリーミルクは永遠に生き続けているのだ」
――おやすみ、メリーミルク

 いつしか絵本は星々を羨むようになりました。

 だって、星のまたたきにはページの切れることがないんですから。
 だって、星はただ輝いているだけで心に無限の物語を映すんですから。

 絵本に描かれていた物語はもうすぐ終わるところでした。
 もし最後まで読み切ってしまったら、
 そのあとは、どうやって羊たちを楽しませたらいいんだろう?

 いつものように絵本の読み聞かせを聞きながら、羊たちは口々に語ります。

 「メリーミルクちゃんのお話はワクワクするなあ」
 「メリーミルクちゃんの声を聞くと気持ちが安らぐなあ」
 「メリーミルクちゃんはいろんなことができてすごいなあ」
 「ずっとメリーミルクちゃんと一緒にいたいなあ。だってこんなにいい子だもん」

 ・・・はっとしました。

 絵本が読んだ物語は、羊たちの心に染み込んで、いつしか新しい物語に育っていました。
 羊たちの語る絵本のお話は、絵本の知っているとおりの姿だったり、
 絵本が知らなかった意外な表情だったり、
 絵本は想像することもなかった不思議な冒険をしていたり、
 たくさん、たくさんの物語として、羊たちの心のなかで自由に育まれていました。

 見上げるたび憧れていた夜空の星と、
 小さな絵本は、本当はおんなじだったのでした。

 絵本に描かれていた物語はもう少しで終わります。
 けれど、絵本が読み聞かせるちりんちりんとした声は、これからもずっとやむことがないでしょう。

 小さな小さな森のなか、たくさんの羊たちに囲まれて、
 空からはいくつもの星のまたたきに見守られている絵本の物語は、
 読み聞かせるたび、笑いあうたび、いくらでも新しく生まれてくるのですから。

「あ。すごい。みなさんに見ていただけて、すごくうれしいです」
――メリーとおはなし【3D初配信】

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