
――好いとうよ。

「映画デート」
エピソードトラッカー
主人公1:ケバ子
「楽しい。同じものを見て感想を言いあうのって、やっぱり楽しい」
目標
大切な夏の想い出をつくる。
課題
春からずっと伊織への片想いを続けているが、未だデートすらまともにできていない。
本来もう少しチャンスがあるものと思っていたが、実家の畑仕事に駆り出されることが決まって、今年の夏はもうほとんど残っていない。
結末
【失敗】
勇気を出して伊織とふたりきりで遊びに出かけたが、肝心の伊織にはその意図が全く伝わらなかったようだ。普通に友達として一日遊ぶだけで終わってしまった。
心の変化
【ポジティブ】
デート自体は成功したといえないものの、ケバ子は甘酸っぱい気分を味わうことができ、改めて伊織への思いを強く募らせるようになった。
キーキャラクター
伊織
肝心なところでだけ変にニブい男。PaBの今の環境が好きすぎて仲間内での関係性を変えたくないと思っているフシがある。無意識にそっちの可能性を思考から排除しているのかもしれない。
清子,恵子,かなこ
ケバ子の友人たち。面白半分で恋の相談に乗ってくれた。「自分から誘ったことないからわかんない」とのことだが、別に「誘われた経験ならたくさんある」とも言っていない。日中に待ち合わせする計画なのに映画と夕食以外のデートコースを誰も提案しなかったあたり、だいぶ怪しい。
エピソードトラッカー2
主人公2:伊織
「なあ、ケバ子。お前さえよければここで暮らさないか」
目標
経済的な問題からケバ子を救う。
課題
ケバ子が経済的な問題で実家に帰ってしまうらしい。引き留めたいが、お金の話となると一介の大学生に取れる対策はほとんど無い。
結末
【達成】
なんとか知恵を絞りだしたアイディアはどれもトンチキで論外だったが、そもそもケバ子は一時帰省するだけの話だったらしい。大学を辞めるとか休学するとかの深刻な話ではなかったようだ。
心の変化
【ポジティブ】
心配して損した気分だが、ともあれよかったと思う。これからもPaBの仲間として一緒にバカ騒ぎできそうだ。
キーキャラクター
梓
ケバ子の恋愛感情を把握している唯一のPaBメンバー。先に相談を受けていた立場を使って、恋の応援のつもりで伊織に揺さぶりをかけてみたところ、斜め上の方向に突っ走られてしまった。
耕平,千紗
ケバ子を大切に思う友人として伊織に協力した。耕平はいつもどおりバカだった。千紗のほうは伊織がやっていることがおかしいことに気付いていたが、だからといって特に対案が思いつかなかったのか、止めなかったようだ。
ピックアップ
ケバ子部屋

ところでこの部屋、至るところに化粧品を置いてある割にどの画角から映しても姿見が見当たらない・・・。
スキンケア系がほとんどっぽいから要らないっちゃ要らない(メイクは洗面台でやってるのとか?)かもしれないけれど、それにしても鏡を見る習慣がないんだろうか?(だからケバメイクに疑問を持たなかったのか)
BGM

デートなのを忘れて映画に熱中してしまう(かなこのメッセージで我に返る)シーンなんだから、さすがにBGMおかしくない!?
すいとうよ

シェイカーごとカクテルを提供する居酒屋なんてものも世のなかにはあるんだろうか?(むしろ氷もカクテル材料もテーブルに載っていないのに何に使うんだ?)
謎光源

どこから何の光が当たっているのかはさておき、ちょっとオシャレな撮影効果。
人物の色味だけ青系に変えてあるのが、2人で特別なムードのなかにいるって感じでここは普通にロマンチック。
月食

割とマジメなシーンなだけに、絵本みたいな欠けかたをしている月がものすごく気になる。地球と月の間に大きめの彗星か何かが入り込んだんだろうか?
「おそらく1だな」

バカの言うことだからわざわざツッコむような話でもないが、現実的には年度末評定が1の場合、そもそも単位を取得できないから高校を卒業できない。(1学期や2学期の評定が1なだけならなんとかなる)
オタク部屋

耕平の部屋の様子が何故か原作と大きく異なる。(ケバ子の部屋は割と忠実に再現してあるのに)
オタクの汚部屋について深いこだわりを持つ作画スタッフでもいたのだろうか?
同棲スターターセット

いやまあ、伊織や耕平ならエロ(and 萌え)の供給だけあれば生きていけるのかもしれんが・・・。
一歩踏みだす
「・・・私だけなのかな。あのサークルでそんなことばっかり考えてるの」(第3話)
みんなバカ騒ぎ(+たまにダイビング)して楽しむことしか考えていないPaBにおいて、ケバ子はひとり心苦しさを感じていました。
ケバ子がPaBに入会した目的は伊織に近づくためでした。最初から恋愛目的でした。
なのに、周りの誰も浮いた話題を出すことなく、自然体で距離が近い伊織と千紗も(少なくともPaBでは)甘い会話を一切しないのです。
自分がやっていることはみんなが守っている不文律を逸脱する行為なんじゃないか。みんなが楽しもうとしていることを自分はぶち壊そうとしているんじゃないか。そういう不安がちらつきます。
「私、思うんだけどさ。サークルに求めるものって人それぞれじゃない? 私は仲よしごっこで満足する気はないの」(第8話)
そんな悩み多きケバ子にとって、桜子が持ち込んだPaBの外の価値観は新鮮でした。桜子本人は気に入らないものの、その考えかたはケバ子の心のつかえをちょうどよく取り除いてくれました。
たとえばケバ子や千紗は男どものバカな飲みかたがそこまで好きではありません。特に千紗はPaBに所属している目的はダイビング1本です。たとえば梓の脱ぎ癖を先輩たちは普通にネタとして受け入れています。しかし、伊織や耕平はエロい目でも見ています。恋愛もその延長線上。
たしかに、PaBに求めるものはみんなちょっとずつ違っていてもいいのかもしれません。
「わー! 送っちゃったー! ・・・恥ずかしいなんて言ってられない。私にはもう時間がないんだから」

別に、夏が実質もう終わってしまうというだけのこと。伊織と仲を深めて告白するチャンスなんて、秋でも冬でも、この先まだまだあります。
けど、ある意味ではちょうどいいきっかけだったのかもしれません。桜子のような覚悟が決まっていない自分が一歩踏みだす勇気を持つには、何でもいいからきっかけが必要でした。
「・・・私、今だけ恵子のこと嫌いになってもいい?」
「よくわかんないけどダメ」
その意味では、つくづく頼もしい友人たちでした。いろいろ控えめなケバ子ひとりでは、せっかく勇気を出してもすぐ無難な方向に軌道修正してしまいかねません。無難に、無難に。
相手は伊織なんだからなおさらです。普段みんなを引っぱっているのは彼。自分がせっかく踏み出した最初の一歩を引っ込めたら、伊織ならそのぶん一歩踏み込んでくるでしょう。
面白半分、悪ふざけ半分。本気のアドバイスも十二分。合わせて220%もの応援を受け取って、いざデートへ。
「今日はアウトボックスを見るんだろ?」
「え?」
「違うのか?」
「ううん! 私もそれ見たいと思ってたの。でも、どうしてその映画って思ったの?」
「そりゃあ、あのラインナップならな。あいつらが一緒だったらアウトボックスは見られないもんな」
もっとも、そこまで一大決心を持って挑んでみても、結局は出鼻から伊織のペース。
デートプランが穴だらけだったことにも悪いところはありますが、そもそも伊織が自然体のままイイ男でした。
さらっとカップル割りで映画のチケットを買ってくれたり。
時間が空いたら(自分の用事とはいえ)共通の趣味のショップに誘ってくれたり。
話題をどんどん出してくれて、どんな話でも楽しそうに聞いてくれて、盛り上げてくれて。

やっぱり、好きなんだなあって自分のことながらしみじみ思います。
伊織が好き。
それも、ただ伊織という人が好きなだけじゃなくて、いつもの伊織が好き。
バカみたいに騒いで、自分が楽しみたいように楽しんで、こちらをグイグイ巻き込みに来てくれる。そういう伊織らしさが、何より好きでした。
「――好いとうよ」
うっかり口からこぼれたその言葉。

たぶん、伊織はケバ子が何を言ったのかちゃんと気付いています。
気付いたうえで聞こえていないふりをしました。
この人は本当に、心から、変わらない日常が好きだから。
今はまだ、この思いは届きません。“いつもどおり”と“新しい関係”を天秤にかけられたら向こうを選ばれてしまいます。
「千紗は好き嫌いがはっきりしてるね」
改めて、伊織に好かれたいと思います。
慣れないデートで慣れないリードをしている自分に合わせてくれる人じゃなくて、いつもどおりの伊織に好きになってもらえる愛菜になりたいと思います。
現状、おそらく伊織に一番気に入られているだろう異性は千紗。伊織の日常に一番踏み込める可能性が高いのは千紗。
伊織はひとつのことに夢中になっている人が好きなんだっていつも言っています。その条件に合っているのは間違いなく千紗。
別に伊織はそういう人が“恋愛対象として”好きなんだって言っているわけではありませんが、それでもケバ子が好きな伊織は、普段どおりの伊織なんです。いつもの伊織に好かれるのが一番嬉しい。・・・だから、千紗のことが羨ましい。
「・・・何かついてる?」
「目と鼻と口がついてる」
「愛菜にもついてるでしょ」

大丈夫。まだ負けたわけじゃない。
たしかに、目と鼻と口くらいなら、千紗にも自分にもついている。
ここにずっと留まりたい
「愛菜ね、家の事情で実家に帰るんだって。愛菜の学費に関わることみたいでね。いわゆる家庭の事情ってやつ」
完全に騙されていたやつ。
梓としては、ケバ子がPaBに入会の相談に来てくれた時点で伊織目当てだということは知っていましたし、帰省することもわざわざ先に相談しに来てくれたくらいなので、彼女が何を心気にしていたのか全部把握しています。
ケバ子のためにちょっとだけ伊織の喪失感を煽ってやろう、くらいの狙いでした。
「まあそんなわけだからさ。愛菜に会える時間には限りがあるってこと。覚えておいて」

もっとも、こういうとき伊織が想像の斜め上を行く謎の発想力で突っ走ってしまうこともわかったうえでのことでしたが。
梓は後輩思いであると同時に、とりあえず面白いことも好きでした。
「そうか、その手があったか。たしか水樹カヤのウェットがあったよな。あれ200万くらいで売ろうぜ!」
ああ見えてよっぽどテンパってたんでしょうね。
いつもの伊織なら(野島たち以外には)ここまで倫理的にぶっ壊れたことは言わないと思うんですが、今回全体的にいつにも増して暴走気味です。
なにせ、問題が金です。いくらバイトを始めたとはいえ、貧乏学生の伊織の力じゃ本来解決しようがない難題。
こういうの、プリキュアシリーズでもよく見かけるパターンです。
中学生の立場ではできることがあまりにも少なくて、本来なら大人の力を借りなければ解決できない問題が目の前にある。なのに自分たちだけで解決しなければならない。
そういうときプリキュアがどうするかといえば、まあ、どうにかするわけですよ。大抵は素直に大人の力を借りて解決するわけですが、少なくとも諦めるとか妥協するとかいう選択肢はありません。プリキュアは諦めない生きものです。
そして、伊織も汚いプリキュア。
諦めないわけですよ、やっぱり。たとえ自分の力じゃどうにもできない無理難題だったとしても。
まずは奨学金。
それがダメそうならアルバイト。
うまく促せないなら多少人倫にもとる作戦も視野に入れる。
それはさすがに千紗のストップが入ったから、仕方ない。自分たちの手持ちのものを売ってお金をつくる。
それですらうまくいかないなら、いよいよ最後の手段。
「なあ、ケバ子。お前さえよければここで暮らさないか」

捨て猫か何かを拾うみたいな。
食事やら何やら面倒見てもらう前提の下宿生活で部屋代だけ浮かせてもそこまで家賃安くならないでしょ。というか母屋に(伊織が追い出された)空き部屋があったはずだし。
伊織の発想のおかしなところは、最初地に足ついた現実的なアプローチから順に検討していって、どんどんムチャクチャで実現可能性の薄い作戦に着地しようとしていくところです。
フツーに追い詰められてるんですよね、伊織って。毎回。
現実的な解決策を手放すのが早すぎるせいの自業自得ではあるんですが、こんな感じで割としょっちゅう自分の限界を試されているのが伊織という男です。不可能を可能にすること前提。人事を尽くして奇跡を待つ。こういうところがまた実にプリキュア。
でも、それだけに剥き出しの真心で取り組んでいることがよく見えるのも確か。
「梓さんから話は聞いた。家の事情で帰らなきゃいけないんだって? お前はどうしたい」
「私は、帰りたくない」
「そうか。だったらここにいればいい。生活は苦しいかもしれないが、支えられるよう努力する」
伊織は当たり前の日常を大切にします。
自分自身のことはもちろん、耕平のオタ活や、桜子の恋に至るまで、周囲にいるあらゆる人が自然体で望んでいること全てを応援しています。
そして、ケバ子も伊織のそういうところが好きなのです。
「ウチがんばっとうやろ? ね、ものすごくがんばっとうやろ? 化粧もくさウチなりに研究して、慣れん服装もして、一生懸命ノリも合わして――。・・・最初はネタ扱いでもいいと思ってた。仲よく楽しくできるならそれでもって。でも、あの連中ミスコン終わって飲み会になったら『もう充分笑ったから帰っていいよ』って。やっぱり無理に変わろうとするんじゃなかった。結局、私は何をしても笑われる側で、あいつらは笑う側なんだ」
「何言ってんだ。人を笑うだけ、人に笑われるだけなんてヤツいるわけないだろ。――面白いもん見せてやる」(『ぐらんぶる』第4話)
初めて出会ったあの日。自分も人のことを散々ケバいケバいと言っていたくせに、その裏にあったケバ子なりの努力を知って、しかもその努力が踏みにじられたことを知って、伊織は味方になってくれました。
人に笑われるだけのヤツなんていないって言って、本当に笑わせてくれた。
人を笑っていたヤツがみんなに笑われているところも、本当に見せてくれた。
自分の一番がんばっていたことを尊重してくれるヒーローに出会って、あの日、ケバ子は恋をしました。
誰もが当たり前の日常を過ごせるようにしてくれる、いつもの伊織らしさに、恋い焦がれるようになりました。

だから、ケバ子の日常生活を守ろうとあれこれ考えていたことが全部取り越し苦労だったと知って、プリプリ怒っている伊織を見ていると、ああ、やっぱり自分はこの人のことが好きなんだ、とケバ子は実感するのです。
「でも、しばらくいないのは本当だから。私のいないあいだ、あんまり楽しい想い出つくらないでね」
この人が守る日常のなかに、自分もずっと一緒にいたい。改めてそう思う出来事でした。



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