それなのにお前たち豚野郎どもは、腐れ外道のエライヤツラの思うがまま。
2期は第1話、第2話とダイハチがまともな大人を演じていて個人的には違和感バリバリだったのですが、「私が正義よ!」 と盛大に拗らせたあさみちゃん再誕の第3話、ミュトスのロマンチストぶりが相変わらず微笑ましい第4話と続いてあっという間に元通りに。この流れを汲んでの第5話は大人になりきれないボスと黒騎を尻目に、ゲストキャラが大人として巣立つ瞬間を描いた瑞々しい物語。
楽観視していた運命はイジワルで
アイドルやスポーツ選手、起業家、声優、漫画家・・・私個人の価値観ですが、基本的に生身の人間を崇め奉るのって好きじゃないんですよね。二次元最高!
だって窮屈じゃないですか、偶像。彼らの「らしさ」を決めるのが彼ら自身ではなく、彼らを見ている誰かの「理想」になってしまうレッテル。それを求められるのが舞台上だけというなら仕事として割り切れもするでしょうが、往々にして彼らは私生活にまでそれを強いられてしまいます。それがどうにも不健全で。
そのあたり二次元は良いですよ。なにしろ彼らには私生活がありません。彼らはどれだけ理想を押しつけられても破綻しません。舞台袖で大勢のスタッフが頭を捻らして、彼らを頭のてっぺんからつま先までヒーローたらしめてくれます。とても健全な偶像です。(たまに舞台袖でスタッフが大ケガしているのは悲しいことですが)
前置きが長くなりましたが、そんなわけでここにも誰かの「理想」に縛られて「らしさ」を喪失した少女がひとり。反体制派地下アイドルMivv。メタルな歌詞をポップの旋律に乗せて、彼女は今日も笑顔で腹を掻っ捌きます。
そのキャラクターは彼女が本当に演じたかったものとはほど遠いようですが、誰にも振り向いてもらえないよりだいぶマシ。カワイイのとかイジラレとか大食いとかミリオタとか、どうせこれまでもさんざん自分とは違うワタシを演じてきたのだから、Mivvだって単なるその延長線上。ファンがついてくれるだけ、きっと本当にやりたかった夢にだって、今の方がずっと、ずっと近づけているはず。
「そっかあ。こういうことやりたかったんだ」 ・・・けれど、心に刺さるその言葉。本当の彼女「らしさ」を知っている昔の友達は、今はめったに会いに来てくれません。
一方、知らず知らずに他人に「理想」を映してしまっている人たち。
ボスの稲城への信頼はなんなのでしょう。恋心にも見えますが、今はまだなんとも。少なくとも、これまで稲城は彼女の信頼に応え続けてきたということでしょうか。あるいはボスの方も稲城からの信頼に応え続けてきた背景があるのかもしれません。人は一方的に頼る/頼られる関係よりも相互的な関係の方により強い絆を感じる傾向がありますから。
黒騎の方はもはや盲目。信仰と言って差し支えないほどに強く稲城の影響を受けています。彼が優しい目をして語る稲城の思い出話は、ハタから見て人格破綻者にしか思えない手加減無しの凶行でした。1期で黒騎だけやたら少年犯に容赦がなかったのはこのせいかと妙に納得させられてしまいます。今の黒騎の口から語られるからこそ美談ですが、当時は彼も畏怖していたように、本来の稲城はもっと得体の知れない人間なのではないかと予感させます。
ダイハチの作戦を却下するという「理想」の稲城らしからぬ態度を目の当たりにしてなお「個人的な理由で反対しているわけじゃないでしょう」「わっかんないよー?」 と、楽観して/おどけてみせる彼らの稲城への信頼は「理想」のまま、揺らぎません。
大人になるほどに彷徨える理由がある
年齢ばかり重ねたって、誰しもどこかしらはいつまでも子どもです。みんなそれぞれ経験してきた人生が違うのですから成長にムラがあって当然。その現実をどこまで許容できるか、どの部分を拒絶できるかが、きっとその人の世界観の基礎となるのだと思います。
世の中には大人になりきれない大人がいます。アクティヴレイドに登場する犯罪者のほとんどはそういったアダルトチルドレンです。痛い腹を探られて、甘いお菓子に釣られて、子どもな部分をいいように操られ、大人たちはロゴスのような賢しい子どもたちのオモチャと成り果てます。
今や時代遅れ・・・と思いきやここ数年再ブームとなった学生運動に酔っ払った近藤もそのひとり。「都内の治安を混乱させ、都政の信頼を失わせよう」 なんて本当に冗談みたいなプランですね。万一捕まっても軽犯罪で済むというのは一見クレバーですが、そもそもこれは「さんざん混乱させたらきっと誰かが立ち上がってくれる」という甘ったれた責任転嫁を前提としています。だから軽犯罪程度のお手軽リスクで世の中を変えられると思っちゃう。思想も意志もない単なるゲリラごっこです。現実を見ず、現実に立ち向かおうともしない彼は、もののみごとにどこかの誰かに利用されました。
あるいは稲城への盲信によって自己を形成した黒騎も大人になりきれない大人のひとりです。「警察は正義じゃない」 と仕事における個人の正義を否定しつつ、無感情なシステムにもなりきれない矛盾を抱えるボスも同様。理想の自分を己に課す瀬名や、夢想の正義を追い求めるあさみちゃんもいます。
もちろん己を欺瞞した反体制派地下アイドルMivvもそのひとり。
・・・まあ章頭に書いちゃったのですが、要するに誰しもが大人になりきれない大人なんです。さんざん指折り数えてみるまでもなく。理想の大人を完成させた大人なんて、たぶんこの世に存在しません。だって万一完璧な理想の自分になってしまったら、それ以上何かをする動機付けなんてなくなってしまうでしょう? それはあなたにとって理想の大人でしょうか。
けれど、それでも「大人だ」と評価される人は確かにいます。完璧な大人なんていないのに。そういう人たちと、近藤のようなアダルトチルドレンはいったい何が違うのでしょうか。
遠回りも空回りも日常サバイバー
世の中を白と黒で分けたがる人たちがいます。稲城とか。「お前はどっちの道を行く」 もしひとときでも黒い方に染まってしまったら、その人は永遠に黒いままなのでしょうか。一度白くなれたなら、それから何があっても黒く染まらずに済むのでしょうか。
例えばミュトスという名のロマンチスト系不殺主義国家テロリストがいましたが、稲城にとって彼はどちらに見えていたんでしょうね。あの子、個人的な目的を果たすためだけに国家機能を麻痺させる重犯罪者のくせに、最低限のインフラや治安は維持するお人好しですよ。享楽主義のドッグにミサイル渡しておいて人的損失ゼロを求めるとかどんだけ拗らせてるのやら。
「普通じゃダメなの? 素直なのを歌いたいんだけど」
壬生知衣子という少女は、ありのまま自分のままアイドルになることを夢見ました。無垢で素朴な理想です。けれど現実は厳しく、ただの普通の少女には誰も振り向いてくれません。
幸運にも才能あるプロデューサー近藤に見出され、少女は反体制派地下アイドルMivvとしてひとかどの人気を得ました。しかし今の彼女は歌いたい歌を歌えません。プロデューサーの悪事を知っていても止めることができません。愛するファンたちがそれに巻きこまれていても守ることすらかないません。
白いままの彼女は無力でした。黒い人に手を引かれて(あるいは利用されて)上がった舞台でも、やはり彼女は無力でした。だって運命はイジワルだから。だって大人になるほど彷徨うようにできているから。ただ白いだけで、ただ黒いだけで、選んだ道をまっすぐ進むことなんてできません。
ならば夢に近づくためにはどうしたらいいでしょう。サバイバー(困難を切り抜けていく人)になるしかないんじゃないですかね。だって白くたって黒くたって結局まっすぐ進めないんですから。遠回り空回り上等、白とか黒とか関係なく目の前にあるもの全部を使って、ぐにゃぐにゃあっちこっち回り回るのは骨が折れるでしょうが、それでも困難にぶつかって足を止めるよりずっと夢に近づけるはずです。
壬生知衣子は反体制派地下アイドルMivvにならなければそもそもファンがつきませんでした。しかし路線変更した彼女にファンがついてきたのは、近藤の悪事に反発して「ファンの人たちを使って変なことをしないでよ」 と真心を示した彼女の純朴さによるものでした。
白い壬生知衣子「らしさ」も、黒い反体制派地下アイドルMivvという「理想」も、彼女が夢を叶えるためには必要なものだったのです。白だの黒だのはっきりした色に対して、灰色というどっちつかずの色は一見してみすぼらしいですが、実はその色は黒と白を併せて止揚したもの。
「ありがとう、テロリストさん」 目の前にある全てを糧とするその強かさ、要領の良さ、そして夢に向かってひたむきに努力する意志。近藤にはなかった現実と戦うための力を彼女は備えています。彼女は大人です。灰色の大人です。
ところで展開予想
バードの正体って本当に八条だったんでしょうか。ミュトスですら生声だったのに、なんであの人だけ性別を偽るなんて無駄な手間かけてたんでしょう。しかもその割にオフ会に抵抗なかったようですし。ひょっとしてバードは元々別にいて、八条が途中でその身分を乗っ取ったんじゃないでしょうか。とするとバードの枠に女性キャラ・・・ミュトス妹とかが入るかも?
ちょうどもう一枠正体が確定していないキャラがいるので、(消去法で)八条は元々そちらだったということで。「やられる前にやっちゃいな!」とか「おめでとうございます! Likoがインストールされた環境は全てミュトスのものとなりました」とかやたらテンションが高かったベヌウさんのことです。
それからもう一枠、ヘビアイコンの人も正体確定していないんですよね。稲城が都知事選に立候補するきっかけになった事件だったのでおそらく稲城だと思われますが・・・。知恵の実とヘビって関係で考えるとベヌウと何かつながりがありそうですが、はてはて。
ちなみに魔法つかいプリキュア!の感想を読むとわかるのですが、私の展開予想はよく外れます。
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