アクティヴレイド2nd第9話感想 警察官は正義じゃない、なんて言わせない。

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理想はひとつじゃないでしょう?

 私はアクティヴレイドの物語を大人のフリした子ども(規範)と子どもくさい子ども(理想)の対立と認識しているのですが、前期第1話からずっと待ち望んでいたセリフが今回ついに出てきました。規範だけでは善く生きられません。理想だけでも善く生きられません。だってこの世界を生きるのは規範でも理想でもなく、あなたなのですから。「想像の斜め上の、ありきたりじゃ許せない極上の夢見せて」

 初っぱなから酔っ払った文章を書くとあとの文章が続きませんね。

黒騎の依存癖

 今回の黒騎は珍しくいいとこなしですね。彼は深い教養と明晰な思考力を備えている、一見ダイハチのなかでは最も大人にみえるキャラクターです。だらしのなさ、調子のよさもいかにも大人の余裕という感じで愛嬌があります。そういう描かれ方をしてきました。
 けれど彼は稲城が絡むと一気にダメになりますね。「たのむよー。稲城さんが動きやすくなる策とか考えてくれよー」 お前はどこののび太くんだ。目の前にいるのは二頭身の猫型ロボットではなくて、世紀のロマンチスト&ペシミスト、ミュトスくんですよ?
 東京都子飼いの民間警察なんて制度はウィルウェア犯罪に対する捜査権がふたつに分断されるようなもので、警察庁所属の国家公務員たるダイハチにとっては活動の自由度が制限されるだけです。彼はそのことを理解して稲城を後押ししているのでしょうか。今回で成立してしまったので、その結果を彼がどう思うかは次回以降のお話ですね。

 彼には元々無条件に他人に依存したがる悪癖がありました。「けど俺のやり方に黙って付いてきてくれるし、仕事の相性は満点なんだ」 彼が相棒とのコンビに満足している一方で、当の瀬名からの評価は「人の話を聞こうとしないやつと?」 と散々なもの。当時の瀬名は大阪への異動を真剣に検討していたところで、実のところ黒騎とのコンビに愛着はありませんでした。
 「ダメだヤバイって! 負けたらミサイルが発射されるんだぞ! マイナス20万は俺ひとりの責任で済むけど、ミサイルによる被害は・・・」 そしてバックアップを失ったときの彼は意外なほどに脆かったりします。言っていることはごもっともですが、このとき彼の置かれていた状況は弱音を吐くことが許されるものではありませんでした。負けようが逃げようがミサイルは飛ぶのです。被害を恐れるのならばこそ、彼は最後まであがく必要がありました。そのための勇気を、彼はひとりで発揮することができません。

 はじめに稲城に懐いて以来、現在に至るまで延々と引きずってきたこの依存癖が、現在では稲城のみならず瀬名やミュトスにまでその対象を拡大しています。彼らにそれを許されているのもまたこの悪癖のおかげでもあるのですけどね。
 黒騎は「無条件に他人に依存できる」世界観を持っている分、他人もまた「無条件に他人に依存できる」ことを当然とし、すなわちいつだって自分が誰かの頼りとなれるよう努めています。その好漢ぶりが瀬名たちの信頼を勝ち得ています。
 それはいいのですが・・・。

 問題はこの依存癖が受け入れられなかったとき、どうするかですね。
 「報連相って言葉知ってる?」 手続き主義の大人の社会は、規範を逸脱する者に対して不寛容です。甘えさせてくれません。いつもなら柔軟に対応してくれるボスも、明確な法令違反ばかりはさすがに庇ってくれません。ポーカー勝負と同様、黒騎はこういう無茶が認められないような追い詰められ方をすると本当に弱いですね。
 こういうのに強いのは頑固(ただしプライベートは除く)な瀬名や、信念(やりすぎ)を持つあさみちゃんのようなタイプです。要するに他人に否定されてもなお無茶を通そうとする人種。他に道が見つからないならば、反感を買ってでも無茶を通すしか道はありませんから。「スパイダーが機密を盗み出す前に、お前たちが逮捕すれば問題はない」 今回はミュトスが代わりにこの役を被ってくれました。
 ちなみに黒騎の得意分野は逆に、飛行機事件のときのように最大限無茶を認めてもらえる場面ですね。
 今でさえこれほど脆いのに、もし最大の依存先である稲城に裏切られでもしたら、もし長年彼に向けてきた好意をすべて仇で返されたとしたら、いったい彼はどうなるのでしょうね。黒騎の「無条件に他人に依存できる」世界観は、相手がそれを受容してくれなければ成立しない、脆弱な子どもの理想です。

ボスの自己矛盾

 「大丈夫。警察官は正義じゃないから。あなたに正義があるのはいい。でも、私たちが守るべきものは法律なの。個人の正義を職場に持ち込んじゃダメよ」
 規範を大切にする大人として至極真っ当にみえるボスの信念は、彼女が慕う稲城によって自己矛盾の矢面に立たされます。
 「だから都民に理想を与えて、夢をひとつにまとめたいんだけど」「理想はひとつじゃないでしょう?」「それをひとつにするのが政治だよ。ルールはひとつしかないんだから」
 ボスが個人の正義よりも優先する法律は、稲城にとっては個人の正義を通すための道具でしかありません。ボスが法律とは切り離して許容する個人の正義は、稲城にとってはルールによって一律に塗り替えられるべきものでしかありません。主と従が反転します。
 「なるほど。ルールをつくるのが政治家。前にも言ってたもんね」 そう言って自分を納得させようとする彼女ですが、いかな賢明なる才女とてこれほど正反対の思想を即座に飲み込むのは難しいらしく、眉が歪んでいますね。

 警察は個人の正義を振りかざすことができません。なぜなら彼女たちの正義は社会が決めるものだから。社会が正義を決めて、その正義を執行するために法律をつくり、その法律に則って警察が社会正義を実現するのです。この場合の社会とは主権者の意志、すなわち民主主義国家の場合は国民の総意ということになります。
 ところが稲城が言っていることはこの逆です。実現したい政策が先にあって、その政策のために条例を必要とし、その条例を成立させるために社会正義を操作しようとしています。警察が本来実現するべき社会正義を個人の正義にすげ替えてしまおうという暴挙です。
 ちょうど同じことを今回黒騎がやらかしていましたね。個人的な都合のためにスパイダーを逮捕したいと考え、スパイダーを捕まえるために越権捜査を行い、越権捜査を行うために正式な手続きを省きました。
 ボスが黒騎を弾劾するならば、彼女は稲城に対しても同様に厳しく批判しなければいけません。

 ところが、その一方でボスには稲城の言うことも痛いほどよくわかるはずです。ダイハチはその活動をしばしば法律によって阻害されてきたのですから。そして彼女たちはそれらを違法スレスレの強引な法解釈によって乗り越えてきたのですから。
 本来、法律はギリギリ合法の範囲で運用されるべきものではありません。すべての法律にはそれを成立させた意図があるからです。社会正義にもとる行為を規制するために法律があるというのに、辛うじて侵していないからといって、その不法行為にきわめて近い行動を取ることが社会正義といえるでしょうか。
 もちろんそうせざるをえなかった理由はあります。目の前に犯人がいるというのに、肝心の法律がその逮捕を妨害するのであれば、社会正義は実現されません。そのせいで被害を広げてしまったり、犯人の生命を脅かしてしまったことも一度や二度ではありません。彼女たちは犯人たちと同じくらい、法律とも戦ってきました。
 だいたい、法律が逮捕を妨害するということは、社会正義を侵そうとしているのは犯人ではなくダイハチの側であるはずでしょう。それにも関わらず彼女たちが己の正義を信じ、犯人の悪を裁こうとしているのであれば、そこには社会正義とは別の正義が存在しているはずです。

 ボスは、ダイハチは初めから矛盾しています。守るべきものは法律? むしろあなたたちはそれと戦ってきたでしょう。警察官は正義じゃない? では社会正義にすら準拠しないあなたたちは何に則って活動してきたというでしょう。
 無駄にいやらしい言い方をしていますが、私はボスのこの自己矛盾を好ましいものと思っています。ヒーローはこうでなくては。アクティヴレイドはこうでなくては。白い子どもでも黒い子どもでもない、灰色の大人を目指さなければ。「想像の斜め上の、ありきたりじゃ許せない極上の夢見せて」

 その点、ボスに敬意を払いながらも「私が正義よ!」 を押し通す始末書メーカーあさみちゃんは、ある意味答えに一番近い位置にいるよなあと、私なんかはこっそり応援しているわけです。さすが前期成長キャラ筆頭。
 いえまあ、こんな警察官に近所で大暴れされたらたまったもんじゃないですが。

民主主義を嘲弄して独裁をはたらく者

 以下、半ば展開予想。
 先ほども書きましたが、稲城の言っていることは民主主義への嘲弄です。議会制民主主義のシステムを悪用して、民主主義の精神を破壊しようとしています。何のための選挙か。何のための代議士か。何のための議会か。たとえ稲城がどんなに崇高な理念を胸に抱いていたとしても、それがいかなるものなら我々から主権を簒奪する悪行と釣り合うというのでしょう。
 ・・・我ながら言っていることがサヨクっぽくて気持ち悪くなってきたので、さらっと書きたいことだけ書いて締めますか。このブログは政治的主張を推奨しません。

 今回稲城がやったことはヒトラーが政権を握るために行ったことと同じです。
 扇動して与しやすい敵をつくること。勝利を演出すること。武力闘争を伴わず、演説と対話によって平和的に政治的課題を解決すること。同じく平和的に民衆からの支持基盤を固めること。平和的に政敵(議会)を貶めること。
 つくづくヒトラーはえげつない手法を発明したものです。「平和」はあまりにも甘美なイメージを持っていて、ときに人の目を曇らせてしまいます。そうして主権者がフヌケになれば民主主義は形骸化し、恐ろしいことに民主的手続きを踏んだにも関わらず独裁者に政権を握らせてしまうことすらあるのです。
 民間警察という名の私兵もちゃっかり得て、さて、現代に蘇るナチズムはいかなる個人的な正義を振りかざすのでしょうか。

 あとここまで異様にフォーカスが当てられないまりもさんはスパイか、はたまた3期への布石か、あるいは真のバードかいっそミュトスの妹か。メタ的にろくな役割を想像できない!

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