自分の背負うべきものを背負わなきゃダメだね。
白椿 蒼
(主観的)あらすじ・・・のつもりのポエム
ヨーロッパのどこだか古い習わしでは、四つ葉のクローバーを見つけたら誰にも見つからないよう隠しておきなさい、と言われるそうです。
幸運はたやすく奪われるもの。妬まれるもの。むしろ不幸を呼び込みうるものというわけですね。
ひとつの魂を分けあって生まれた双子は、双子ゆえの満たされなさに苦しんできました。
双子だから喜びは半分こ。双子だから悲しみも半分こ。そんなことではいつまで経っても人並みの幸福にありつけません。
片割れから全てを奪えば、あるべき私になれるだろうか?
もしくは片割れに全てを押しつけたら、正しい私になれるのだろうか?
双子の目の前にはそれぞれ2つの選択肢がありました。
姉の前には、自分が殺人犯になるか、それとも殺人犯の姉妹になるか。
妹の前には、生きる地獄に苦しむか、それとも死んで落ちる地獄に苦しむか。
どちらを選んでも絶望には変わりない。
だから選べませんでした。
だから、双子の片割れに選択を委ねようと考えました。
自分が得るべき幸福も不幸も半分ずつ奪っていった、憎き片割れに。
片割れたちは愚かにも、喜んでお互いの片方を選び取っていきました。
「お前が持っているものは本来私が(得るべき / 受けるべき)ものだった!」
「これで私は(あるべき / 正しい)私になれる!」・・・と。
どちらを選んでも絶望には変わりないのに。
姉は殺人犯の姉妹となって、生きる地獄に身悶えることになりました。
妹は殺人犯となって、死んで落ちる地獄に身を投げることになりました。
ひとつの魂を分けあって生まれた双子は、絶望もふたり仲よく分けあったのでした。
東京まで出てきたの何年ぶりだっけな。
朝ごはんにバーガーキングを食べて、お昼ごはんにゴーゴーカレーを食べて、帰り際にタピオカチーズティーを飲んで、おみやげにプレスバターサンドととらやの羊羹を買って帰りました。それ以外はせいぜい東急ハンズでいい感じのティーポットを買ったくらい。
我ながら清々しいほどの田舎者感。せっかくだから地元じゃ食べられないもの・・・と、考えると必然的にチェーン店巡りになります。だって、小洒落たカフェのランチなんて、映えを気にせず味もそこそこで妥協するならおおむね自分でつくれるし。食べもの以外はだいたいネット通販で物欲満たせるし。その点、地方に来ないチェーン店ごはんには「ネットで見たものを食べた!」というブランド価値がある。ロマンがある。話題性がある。良き!
まあそんなことはどうでもいいんだよ。
良い映画でした。
けっして華やかな映画ではありません。出演俳優は一流じゃないし、CGアニメの品質もMMD作品に毛が生えた程度、ハリウッド映画のスピーディーさに慣れているとワンシチュエーション映画は展開が遅すぎると感じる人も少なくないでしょう。そのいずれも予算の都合なんだろうなあと窺わせるつくりなのでなおさら。
ただ、俳優にはしっかりと演技指導がつけられているようで、ただ声色を変えただけ、テキトーに人気俳優をマネしただけ、みたいなナメた三文芝居は一瞬たりともしていません。CG品質の安っぽさも演出で可能なかぎり隠していて、最初から批評するつもりでもなければ気に障らない範疇に収まっています。複数シチュエーションを用意できたら表現の幅をもっと広げられたでしょうが、舞台演劇の心得があるらしいスタッフ陣の味付けによって一幕劇ならではの面白さがこってりと出ています。
とにかく“強い”脚本を核に、バーチャルYouTuberの目新しさ、全編CGアニメという美術的自由度、一幕劇ならではの淡々と積んでいく叙情、いくつもの地殻が渾然一体となった確かな引力。そして何より、低予算ゆえに露骨に垣間見える手づくり感、熱量が、若い演劇バカたちのデタラメな地下演劇を観せられたときのようにズンと心を殴ってきました。
ドラマとは人が描くものなんだという、血の通った体温をしっかりと感じさせてくれました。
・・・こういう雑にポエムめいた評をつけていると加齢臭がニオっていると言われそうでアレですね。
ぶっちゃけ私は自分の感じた思いをそのまま文章にするのが苦手なんだ。小学校中学校では作文の授業のたびに居残り食らって、高校受験も大学受験も就職試験も論文試験は捨てろと指導されていたレベルで。
というわけで、いつもの感想っていえるのかどうなのか微妙な感想文を書いていきます。
マトモな感想文が読みたきゃ他を当たってください。久しぶりに芝居の味がする芝居を観られたのでテンションがだいぶ歌舞いています。
紅い幸福、若しくは罪
姉の紅は、(本人の言を信じるなら)妹を不幸にしたいがためだけに両親を殺しました。
彼女は妹が幸福になることが許せませんでした。
彼女は妹が不幸になることに無上の喜びを感じていました。
なぜなら、双子は本来1人の人間として生まれてくるべき魂が2人に分かれて生まれてきてしまった存在だからです。
紅が人並みの幸福を得るためには、だから、妹の幸福を根こそぎ奪いつくすほかありませんでした。
花屋の正社員になったんだって? なんてステキなこと。
だって、紅は昔からお花が好きだったから。きっと運がよかったから就職できたわけじゃない。紅がお花を好きだったから、必然的にそういう幸福な運命を引っぱって来れたんだ。
高校を卒業できたんだって? それもステキ。
だって、紅は一生懸命妹を不幸にしてやったんだから。きっと妹はイジメられただろう。卒業まで通いつづけるのは大変だっただろう。それでも今残っているものは無事卒業できたという結果だ。不幸を全部妹に押しつけるからこそ、紅は高校を卒業できたという幸福な結果だけを享受できる。
妹の近況を聞くのは楽しいひとときでした。じっくりと、今の彼女の内面、骨の髄まで味わいつくしたくて、テーブルに咲き乱れる花々の間隙から妹の幸福を凝視しつづけました。
だってそれらは全部、明日からは私のものになるんだから!
今の妹は紅が持っていない幸福をたしかに持っていました。それら幸福を醸成するまでの間、紅は刑務所で服役していたからです。やはり姉妹の幸福と不幸は連動している!
だからこそ、今が妹から根こそぎ奪いつくす最良のタイミングでした。自分は何もかもうまくいっていない、こんな今だからこそ。姉と妹の天秤がかつてないほど傾ききっている今だからこそ。
あなたを呪ってあげる。
どうか不幸になって。
お願いだから不幸のどん底で死んで。
あなたが全てを失わないと、私は本来あるべき私になれないの。
蒼い不幸、若しくは罰
妹の蒼は、自分を姉のような不幸へ落としたくて複数の殺人を行いました。
カウンセラーの先生に思考を誘導されたせいでもあるでしょうが、おそらくは元々そういう欲求を胸に淀ませていたんだと思われます。病的なまでに満たされない思いがあったからこそ、彼女はカウンセラーの差し出した手に縋ったのですから。
彼女は出所した姉が幸福で満たされる日を夢見ていました。
彼女は出所してからも不幸そうな姉を見て静かに壊れていきました。
なぜなら、双子は本来1人の人間として生まれてくるべき魂が2人に分かれて生まれてきてしまった存在だからです。
蒼が人並みの不幸を得るためには、だから、姉の受けた不幸を全て自分のせいにするほかありませんでした。
そう。紅が妹の幸福を略奪しようとしたように、蒼は姉の不幸を簒奪したいと考えたんです。
双子だから。嬉しいことも、そして“辛いことも”、全部半分ずつに希釈されてしまっていたから。
何もかもを普通の人間の半分しか享受できない人生なんて、そんなの、自分が生きているのか死んでいるのかわからない。
桔梗先生のカウンセリングを受けるうち、姉が自分の罪を肩代わりして罰を受けていることを思い出しました。
それまで何となく満たされない思いを募らせていた理由にようやく得心がいきました。やっぱり先生はすごい!
そうだ! 姉が本来自分の受けるべき不幸を奪っていったから、だから蒼は満たされなかったんだ!
しかたないので自分にふさわしい罰を受けるために改めて人を殺してみました。
どういうわけか、その殺人はうまいこと隠しとおせてしまいました。不思議と蒼は人畜無害そうに見えてしまうようです。
きっと、今も姉が不幸を独占しているせいです。あの姉が不幸を手放さないかぎり、私はたとえ死んでも満たされない!
姉に根掘り葉掘り聞かれるのは居心地の悪いひとときでした。「すごいね」と言ってくれる声が不快でした。姉に今の自分の顔を見られたくありませんでした。
きっと姉は自分のことを恨んでいるはずです。もしかしたら殺したいとすら思っているかもしれません。たとえば、ほら、手土産のクッキーに毒を仕込んだりして。
だけど殺されてやるわけにはいきません。他の人にならともかく、少なくとも姉妹の不幸を独占している姉にだけは。
てっきり恨み辛みを吐き出すために来たのかと思っていました。蒼の罪の意識を刺激して、それでスッキリして、これからは前向きに生きていこうって考えているものかと。
それが、今度は蒼を殺して成り代わるつもりで来たんだというのです。ろくに隠し通すための計画も立てずに。バカげています。どうせまた罰を受けます。この期に及んでまだ不幸になるつもりです。
何しに来たの? 早く私を解放してよ!
お願いだから不幸にさせて。
どうか不幸のどん底で死なせてよ。
あなたが全て返してくれないと、私は本来の正しい私になれないの。
完全な魂。そして爪あと
殺人犯になるのがいいかな? それとも殺人犯の姉妹のほうがいいのかな?
生きるほうが地獄かな? それとも死んでからが地獄なのかな?
双子の姉妹はどちらも選べませんでした。どちらもろくでもないことが明らかです。
けれど姉は、そして妹は、どういうわけかお互いの選択肢なら簡単に選ぶことができました。
私は私の続きを生きるの。生きてあなたの幸福を奪いたい。
私は自分のために死ぬの。あなたを不幸にした殺人犯という汚名が欲しい。
酷いオチですね。
双子の姉妹がそれぞれ無いものねだりをした結果、結局そもそもの起点に帰ってきてしまうんですから。
双子は本来1人の人間として生まれてくるべき魂が2人に分かれて生まれてきてしまった存在。嬉しいことも悲しいことも半分ずつで分かちあう。だからこそ2人とも満たされずにいた。・・・なのに。
2人の前に、それぞれ2つの選択肢。
それを姉妹が仲よく1つずつ分かちあう。
なんだよ。結局それで満足なんじゃないですか。
それ、絶対2人で1つの存在じゃないわ。片割れの幸福だか不幸だか、いずれにしろ全部自分のものにしなきゃ人並みになれないなんてこと絶対にないわ。
だって、結局仲よく分けあって、それで満足してるじゃないですか。あなたたち。2人合わせてちゃんと2人分のものを持っているじゃないですか。自分たちが生きているのか、死んでいるのか、それにすらちゃんと答えを出せるんじゃないですか。2人いっしょでなら。
散々傷つけあったくせに、ずいぶん仲よしなことで。
シロツメクサの花言葉は「幸運」、「復讐」、そして「私を思って」。
白いツバキの花言葉は「崇拝」、「敬慕」。
スタッフロール明けて本当のラストシーン。
蒼に成り代わった紅は、もうすっかり蒼の声色も、所作も、筆癖までも自分のものにしていました。けれど、花々の間隙からこちらをじっと凝視する癖だけは、なおも紅のまま。
花屋を続けられているということは、結局蒼が犯した殺人もバレなかったのでしょう。罰を受けるべき運命は蒼のもの。この件について紅は罪だけ担うことを求められています。
「絶望しないでね」
2人の魂は混じりあい、ただ1人の存在へと昇華されました。
だけど双子の姉妹は、せっかく個として完全となった魂に、かつて双子だったという爪痕を残さずにはいられない。
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