夜は短し歩けよ乙女 感想 なんやかんやあってなんやかんやしたよ! やったね!

酔っ払ってんのか!(ツッコミ)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

※ このブログは基本的にネタバレに配慮しません。
※ この記事はいくらか私の地が見え隠れしていますが気にしないでください。

(主観的)あらすじ

 先輩とかいう名前の青年は恋していました。黒髪の乙女とかいう異名を持つ清楚な女傑に片思いしていました。けれど青年は冴えない男だったので、日夜ストーキングに勤しみ、運命の赤い糸とかいう嘘っぱちロマンティックをでっち上げようとしていました。
 ある夜、友人の結婚式に招かれた青年と乙女はなんやかんやあって、パンツをひん剥かれたり飲み比べしたりしていました。またある夜はなんやかんやあって汗だくで幼女の絵本を競り落としたり蒐集家の魔の手から希少本を解き放ったりしていました。またある夜はなんやかんやあって文化祭でなんやかんや。風邪をひいたらなんやかんやでなんやかんやあってなんやかんやなんやかんや。

 んなこたどーでもいい!

 つまりは青年と乙女はなんやかんやあってなんやかんやしたのでした。めでたしめでたし。

 ネタバレを避ける気はないのですが、そもそもあらすじなんてどーでもいいんですよね、この映画。
 なんやかんやで無敵最強エキセントリックな黒髪の乙女がなんやかんやして、一方なんやかんやで滑稽盆暗ロマンティックな先輩がなんやかんやするのがメインの映画なので、ストーリーなんてどーでもいい。そんなものよりなんやかんやでなんやかんやしていることこそが重要。ビバなんやかんや。

 一応断っておきますが、プロット自体は緻密に練り上げられてあります。そうでなければテキトーになんやかんや大騒ぎしたってちっとも面白くありませんとも。
 「アレってソーだったのかよ!」「ソレ一度限りのネタじゃなくて今さらココに繋がってくるのかよ!」 みたいなギミック目白押し。きわめてテクニカルな脚本運び。ただしその全てがどーでもいいなんやかんやのために仕込まれています。
 ついでにいうと、そういったテクニカルで複雑ななんやかんやが、さりげなく先輩と黒髪の乙女の恋愛模様に説得力を持たせているという、これまたワケワカンナイ迂遠で猪突猛進なシナリオデザインになっていたりします。すごいよ?
 舞台上で自分に言い訳しながらキスシーンを演じようとするふたりに当然のごとく強制キャンセルがふりかかるあたりで、「あー、これ惚れても仕方ないわー」とか思っちゃいますから。(※ 感性には個人差があります)

 とりあえず、クライマックスでゲラゲラ声出して笑ってしまってゴメンナサイ。自宅でお酒飲みつつ遠慮なくバカ笑いしながら観たいので一刻も早く円盤化お願いします。
 というかバカルディ持ち込んでも怒らない映画館と、一緒にバカ笑いしてくれる観客200人ほど、誰か用意してください。そして気持ちよーく寝オチしたい。映画は静かに座って観るものという日本の文化をこれほど恨めしく感じた作品はありません。クソが。

ちなみに私がこの映画を見に行ったきっかけ

 学生時代に教授がこの原作本を褒めちぎっていたんですよね。読め読めウルサかったんですが、学生のくせに読書離れ真っ盛りだった私は情けないことにスルーしてしまいました。
 何て言っていましたっけ。たしか「高校生たちが遠足(原義)するだけのお話なんだけど、10代ならではの心理と人間関係の描写が瑞々しくてたまらない!」とかなんとか。

 そんな記憶がちらっと脳裏をかすめたので、ポスターを見た瞬間から観に行くことを決めていました。青春ドラマなのにどうしてこんなヘニャヘニャでいかにもアングラオタク大歓喜な絵柄になっているのかは、まあ、気にならないでもありませんでしたが。
 当日、入場特典として配布された掌編小説のノリがトチ狂ってて面食らいもしましたが。(映画本編よりはおとなしかった)
 今こそあの日の無礼を水泡に帰すとき! 教授、アレなかったことにしてください! ゴメンね!! と、喜び勇んだ私は細かいことを気にしませんでした。

 映画冒頭、いかにも清楚そうなヒロインがドリンクを飲み、彼女の喉をバレーボール大の塊が滑り降りていった時点で、私は察しました。
 「あ、何か盛大に勘違いしてる」

 今ググってみたところ、どうやら私が記憶していた小説は恩田陸の『夜のピクニック』だったようです。「夜」しか合ってねえ!

 おーけー、それならそれで頭切り替えて楽しんでやろうじゃないか!
 ・・・ところでこの明らかに本題とは関係ないどーでもよさげなプロローグ、いったいいつまで続くんです? (上映開始から30分後時点の感想)

レベルデザイン

 というわけで、原作から監督まで本っ当に予備知識ゼロで観に行ったのですが、これがなかなかよくできた映画だったのは上記あらすじを見てわかるとおり。
 特にレベルデザインが秀逸でしたね。映画にあるまじき感想ですが。

 最初の章である飲み歩きは、今にして思えば比較的おとなしい、観客として飲み下しやすい作風でした。
 主にセリフで紹介されるキテレツな人物設定、ラリっているようなとりとめのない展開は、まあ確かにシラフの観客たちの石頭をかち割るには充分な破壊力です。ですが、「あ、そういうアレなノリなのね。よくあるよくあるー」と、納得できる程度には常識の範疇でもありました。
 青春映画を観に来たバカの頭を混乱させることなく、瞬時にアングラ演劇を観るときのような心構えに切り替えさせてくれる程度には加減してくれていました。
 そもそもが劇中に酔っ払いしか出てきません。とすると、このエチルアルコールをたっぷり染み込ませたようなくっだらないストーリーは酩酊感を表現しているのかな、と納得することもできます。常識に片足突っ込んだままでも辛うじてストーリー展開に付いていけます。
 いわばこの映画のチュートリアルですね。乙女が背景に華を咲き乱れさせつつニセ電気ブランを飲み下している間に、観客たるお前らはさっさと酩酊しとけ、後がツラいぞと、親切にもモラトリアムをくれているわけです。

 古本市からが本番。こいつらシラフのくせに現実とファンタジーの境界を反復横跳びしてやがる! と、観客たちはまたもや石頭をかち割られるわけですね。ようやくこの映画の趣旨を理解し、さっきまでの飲み歩きが本題と関係ないプロローグなどではなく、むしろ最初から本題そのものだったと認識を改めさせられます。そして割れた頭蓋にラム酒やら赤玉ワインやらをとくとく注ぎ込まれます。
 乙女無敵だなーとか、青年カッコワルイなーとか、李白さん便利だなーとか、展開自体は飲み歩き編のパターンを踏襲しています。そんななんやかんやを追いかけていると、学園祭総局長の女装癖とかパンツ総番長の林檎PCとかゲリラ演劇とか、インパクトの強すぎるフックが次の展開のための伏線をさりげなく私たちの脳裏にインプットしてくれます。

 続いて学園祭。酔っ払ったストーリー展開はここで最高潮に達します。おーい、観客どもーちゃんと酩酊してるかー?
 まず夜中に学園祭ってどういうことだよとツッコみたくなりますが、個人的には入場ゲートに「オクトーバーフェスト」と書かれてあった時点でどーでもよくなりました。まだ飲む気かよと。まあビールなんて出てこなかったんですけどね。
 ここで事前にばらまかれていたいくつもの伏線が回収され、しかも一点に収束します。ちょっとだけ推理小説風味。あたかも名探偵の推理シーンのごとき目まぐるしい展開。あっちでドカーン、こっちでババーン。な、なんだってー!? 次々と真実が明らかになっていきます。主人公とヒロインには一切関係ないところで。
 最終的に落ち着くべきところに落ち着いたラストシーン、劇中のギャラリーたちと一緒に思わず拍手喝采しかけましたよ私。セックスとかシチュエーションとかの頭のネジ飛んでる要素を度外視すれば、どこにでも転がってるベタなお話なのにね。ムダにミュージカル風味に場を盛り上げやがるのが悪い。いやー、なんのかのいっても学生時代のしょーもないパッションは何年経っても胸のうちに燻ってるものですね。
 あ、オクトーバーフェスト(=収穫祭)って伏線回収的な意味でしたか。なるほどなー。

 急転直下、風邪編。いきなりファンタジー控えめな(比較的)地に足の付いた展開。この急ブレーキは酔っ払った観客には辛い。このあたりからもう私はケラケラ笑いっぱなしでした。ブレーキがはじけ飛んでワケワカンナイテンションになっちゃいましたよ。
 これがまた意外と良いセリフの連続なんですよね。黒髪の乙女が李白に説いた人間みんな繋がっている理論なんてフツーに感動しました。言ってること自体はひねくれているんですが、ヘリクツこねまくりなこの映画においてはいっそド正論で、輝かんばかりに勇往邁進。いかにも乙女の乙女チック乙女道。え、なんでこんなシリアスしてるのあなたたち。
 「夜は短し歩けよ乙女」とタイトルコールされたところで、さて、クライマックスに踏み込む準備は整った。
 ちなみにここでさらりと今までのストーリーが全部一夜の間の出来事だったと明かされました。えー。

 というわけで最終幕、お見舞い編。厳密にはたぶん風邪編とひと繋がり。スタッフロールで春夏秋冬ってパート分けしていましたし。けれどいきなりアクセルべた踏みしやがりますもんで、テンションの乱高下に付いていけません。
 先輩の「外堀を埋める」作戦の本質が、実は本丸に踏み込まれることを恐れていたヘタレスピリットの表れだと暴露されます。きわめてグラフィカルな表現でダメさっぷりをこれでもかとアピールします。片思い中のくせに向こうから近づかれると逃げ腰とかホント何なのこの人メンドクサイ。だからこそふたりを応援したくなるのですが。
 乙女の無敵の直進っぷりは、そんな先輩のヘタレとカッチリ噛み合って割れ鍋に綴じ蓋。逃げ腰の相手には正面から歩いて距離を詰めていくのが一番。いえまあ黒髪の乙女さん最強すぎて綴じ蓋って感じはあんまりしないのですが、実際こんなヘタレとぴったり合っているんですからやっぱり綴じ蓋です。実際あんな無遠慮にまっすぐ来られたら私も恋愛ハートへし折られるかもしれません。自分のネガティブシンキングが肥大して。
 ・・・といった内容の話をきわめて抽象度の高い演出でキラッキラに描いていきます。いきなりこんな画面を突きつけられたら理解が追いつかなかったかもしれません。しかし観客たちは飲み歩き→古本市→学園祭と、順序立ててこのトチ狂った映画のノリに慣らされて(酩酊して)います。どういう物語を描いているのか理解するのにさほど困ることはありません。
 最後は先輩が男を見せてハッピーエンド。状況的には乙女に追い詰められて逆壁ドンされてようやく素直になった、くらいの情けない場面のはずなのですが、なぜかやたらとカッコよく見える不思議。

 こんな感じで、順序立ててケレン味だらけの演出を叩き込んでくる映画です。
 起承転結とか序破急とかの定番概念で説明するより、スーパーマリオブラザーズなどを語るときによく用いられるレベルデザインという概念で語った方がわかりやすい構造だと思います。本来受動的な娯楽たる映画のくせに、なぜかビシバシ観客を調教してくる、そんな作品。
 あー、口に酒瓶突っ込まれてイッキコールされたい。

似たもの同士

 アウトプットしてぼちぼち酔いも醒めてきたので、ちょっとだけ黒髪の乙女の魅力にも触れておきましょうか。

 なんであんなエキセントリックなヒロインがここまで地味顔なの!?

 まあそれはいいです。むしろグッドです。いっそ最高です。
 そんなことより、あの子意外と先輩と似たもの同士ですよね。無敵に我が道を行くキャラクターと見せかけて、実はハートの奥の奥の奥、心の根っこの部分は案外ヘタレてるというか。
 他人のためならいくらでもムチャできます。他人の借金のために飲み比べに挑めます。(ウラ電気ブランを飲みたいという私情込みでしたが) 初対面の神様のためにワルモノのテントを台無しにできます。(大してものを考えていなさそうでしたが) 縁の薄いパンツ総番長とのキスに抵抗を見せません。(なりゆきに乗っかっているだけでしたが) けれど、先輩とのキスだけは「これは演劇」という言い訳を必要としました。
 あの時点でどこまで先輩を気にしていたかはわかりません。彼女が恋心の萌芽を自覚したのはもっと後のことです。けれどある程度は特別な感情があったのでしょう。いつもなりゆきに流されてばかりの彼女がキスに抵抗感を覚える程度には。
 先輩の本丸に踏み込むときも、最後の最後でヘタれます。王手をかける寸前でスカートに穴を空けて落ちていきます。
 他人の都合にならいくらでも流されるくせに、自分の恋愛に関わる話になるととたんにヘタれる彼女。他のことなら何でも物怖じしないくせに、恋愛観だけはぼんやりさせたままろくに規定できない彼女。まさに乙女。先輩そっくり。

 あの抽象化の効いたお見舞いシーンはしみじみステキですね。
 ヘタレ全開で心の本丸を防衛しようとする先輩。
 そんなもの意に介さず本丸に直進していく乙女。
 いっそ自死しようとするたわけた先輩。(しかも自分に対する言い訳付き)
 けれど最後の最後で先輩に手が届かない乙女。
 そんな最後の最後だけは手を差し出して乙女をリードする先輩。
 ヘタレ×勇往邁進という意味でも、ヘタレ×ヘタレという意味でも、男気×ヘタレという意味でも、あらゆる意味で割れ鍋に綴じ蓋。きっと先輩がストーキングしなくても、このふたりの間には赤い糸が通っていました。

 総合するとストーリーなんてどうでもいいような映画ではあるのですが、けれどその芯に通った恋愛要素はやっぱりかわいらしいなあと、ステキだなあと、そう思うわけですよ。ケレン味に酩酊しながら、ゲラゲラ笑いながら。地味顔かわいい!

自主マーケティング

 総じて思いっきり人を選ぶ映画です。レベルデザインこそちゃんとしていて、のめり込みやすくはしてありますが、さりとて結局あなたがこの手の視聴体験を好むかどうかは別の話。
 どちらかというと大学生くらいの若い人向きな映画でしょうか。あるいは若い頃のバカを黒歴史にせず思い出として残しておける人向き。夢見がちとかアングラ好きとかの要素があるとなお良し。そういう人なら気持ちよーく酩酊できるでしょう。
 逆にフィクションにカッチリした現実感を求める人には絶対向きません。プリキュアを語るときヤボな茶々を入れずにいられない人とか。(私か) あと絵がちょっと昭和志向というか独特なデフォルメを効かせたテイストなので、そこに抵抗感を感じる人は最後まで受け入れられないかも。

 単純な品質自体はズバ抜けて高いです。去年から続くアニメ映画の高クオリティぶりは今年も延長戦真っ盛り。特に演出のトリップ感と脚本の練り込み具合については絶賛しますよ。私ので良ければ折り紙つけちゃいます。
 人を選ぶとか絶対向かないとか書いちゃいましたが、それでも自分に合うかどうか、一度くらい観て確かめてみることをオススメします。もしかしたら新たな世界が見えるようになるかもしれない宝くじです。ハズれても補償できませんけどね。割は悪くないはずです。こういう趣向を好きになれる素養があるなら絶対にハマれる、いい映画ですよ。

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