返さなくていいよ。これは返すけど。
(主観的)あらすじ
写真撮影がライフワークの高校生・多田光良はある日、日本と時代劇をこよなく愛する外国人・テレサ・ワーグナーと知り合います。憧れの日本に来たばかりの彼女は何を見てもいつも楽しげで、そのくせときどき覗かせる困り顔が妙に放っておけない少女でした。彼女はツレとはぐれて迷子でした。
この日多田はテレサに4度出会い、4度世話を焼きました。不思議な縁がふたりを結びつけました。だからといってそれでふたりの間に恋が芽生えるわけではありませんが、けれどふり返ってみればこの日こそが忘れられない恋のはじまりだったのかもしれません。
そうだ、明るい恋のお話を観よう。
ウキウキして、ワクワクして、キラキラして、ちょっぴり切なくて、たぶん、ときどき苦くて。
他人の恋模様をほどよい距離感から眺めるのは楽しいものです。
むかーし、ちょっともったいないことをしました。ふとしたとき友達から「最近いい顔してる」と言ってもらえたのですが、鏡を見ても自分ではよくわからなかったんですよね。別にマンガみたいに頬が紅潮しているわけでもなく、へらへらニヤけたり、瞳がキラキラしたりしているわけでもなく。いつもどおり仏頂面のヘソ曲がりのブサイク。あのとき彼女は私のどこを見て「いい顔」と言ってくれたのやら。結局未だにわからず仕舞い。
まあ、そんなこたぁどうでもいい。
とにかく、恋ってヤツにゃもちろん自分で体験しなけりゃわからん酸いだの甘いだのもあるだろうけどもさ、一方でハタから見ているときにしか見えないステキだってあるものよ、とさ。要はそういうことなんじゃないかな、とね。たぶんね。
『多田くんは恋をしない』の多田やテレサたちはいかにもアニメアニメしたキャラクターたちです。きっとある程度デフォルメの効いたキレイゴトっぽい恋愛模様が描かれることでしょう。
(オープニングを見た感じ軽い三角関係四角関係くらいはありそうだけれど)
それがいい。
ちょうどそれを観たいと思っていたんだ。
恋の濃いところをじっとり煮詰めたラブストーリーもそれはそれでいいものですが、こと恋する楽しさを味わいたいときにはデフォルメ効かせたラブコメディに勝るものなし! なしともさ!
恋のステキなところだけを切り取ったときに初めて見える恋の良さだってあるんだよ。
恋する人たちを第三者視点から見つめることで初めて気づける恋の良さだってあるんだよ。
そんなデバガメちっくな視点から観る第1話。
じゃあ、誰の恋する顔を観たいだろう?
主人公は喜怒哀楽の薄いお人好し、多田光良。
ヒロインは天真爛漫な金髪碧眼美少女、テレサ・ワーグナー。
これから私たちはこのふたりが恋を育んでいく様を見つめていくことになるわけですが、さて、あなたはどちらの恋する表情を観たいと思うでしょうか。
物語は城郭公園でふたりが出会うところから始まります。
「すみません、写真を撮っていただけませんか」
「あ、アイキャントスピークイングリッシュ」
「え? 私の日本語、間違っていましたか?」
多田のあまり積極的でない性格が窺えるひとコマですね。英語に自信がないにしても、そもそもカタコトで挑戦してみようとすら思わないタイプのようです。
人並み以上にお人好しな彼なら、目の前の女性の頼み事を断ることに多少の心苦しさを感じていそうなものですけどね。彼らしくない・・・とまではいいませんが、せっかくのステキな気質を覆い隠してしまうそのネガティブさはちょっと気になります。
「無理・・・。バッテリーが切れてるから。換えのバッテリー、ある?」
「それが、ツレとはぐれてしまいまして。あいにく荷物も全部なくて」
「は?」
「はは・・・。ごめんなさい。これじゃダメですね。お邪魔しました」
そしてここ。
第1話で私が一番引っかかったやりとり。
ここの多田とテレサって、その後のふたりを見ると、あんまり“らしく”ないんですよね。
多田は珍しく笑顔をつくるし、テレサは珍しく沈んだ表情を覗かせます。
どうして多田は笑顔を見せたんでしょうか。
それはもちろん、あまりにもしょんぼりした様子だったテレサを元気づけるためです。
どうしてテレサはしょんぼり沈んでいたんでしょうか。
それはもちろん、ひとり異国で迷子になって不安でいたからです。
でも、テレサってそんな簡単に気持ちを沈ませるようなキャラでしたっけ?
私はまだまだ彼女のことを知りませんが、けれどこのあとズブ濡れに濡れてなお「大丈夫、大丈夫」と笑う彼女を知っています。
ホテル(宮殿)が見つからなくて焦るアレクの隣で、それでも笑顔でいる彼女を知っています。
このときだけです。彼女の気持ちが本当に沈んでいたのは。
直前直後、いかにも日本マニアの面白外国人って感じでテンション高くふるまっていたくせに、このときのテレサは本当は結構深刻に参っていたんでしょうね。
ただの脳天気に見えて、本当は意外と気丈な子なんだと思います。
一方、多田は本来あまり笑顔を見せない人物です。
冗談を言うときや誰かをからかうときですら、笑うのではなく眉毛を八の字に曲げる、いわゆるヤレヤレ星人です。(いわゆらない)
そんな彼が、テレサの困った顔を見たこのときだけ、努めて笑顔をつくりました。
いいヤツですね。すごくいい男です。
ええ。先ほどの“引っかかった”というのは、何かの伏線に気づいたとか、不自然な矛盾を見つけたとか、別にそういう話ではありません。
ああ、これからこのふたりには関係を深めていくなかでもっともっとこういうこういう表情をたくさん見せてほしいな、と。ただ、そう思っただけです。
テレサの前でなら笑顔になれる多田を。
多田の前でなら弱音を吐けるテレサを。
私はこれから彼らのそういうステキな表情をたくさん見たい。
「だ、大丈夫だよー」
強がり。
「このまま放っとけないだろ」
優しさ。
ああ、このふたりの恋する表情を見てみたい。ぶっきらぼうや天真爛漫の仮面の裏に隠れた、たくさん、たくさんの表情を、もっともっと見てみたい。
出会いをきっかけとしてお互いが変わっていく過程こそが恋物語の醍醐味です。
ふたりはまだ恋しはじめたわけではありませんが、この出会いによってふたりはきっと変わっていく、そういう物語を予感させるステキな出会いのシーンでした。
第1話を何周か見ているうちに、なんかそういうふうに思うようになったんですよね。
明るい恋のお話を観よう。
ウキウキして、ワクワクして、キラキラして、ちょっぴり切なくて、たぶん、ときどき苦くて。
これから多田たちの恋模様をほどよい距離感から眺めるのが、とても楽しみです。
ついでにサブキャラ雑感
伊集院薫
KEY作品なんかによくいる感じの悪友キャラですね。ちょっと引くくらい雑な扱いを受けているところとか。それでもめげずにギャグキャラとしての務めを全うしているところとか。どうせコイツ誰ともくっつかないんだろうなーと思わせる幸の薄さとか。
多田が多田でいられるのは、いろんな意味でこの人が傍に付きまとってくれているからだと思います。いろんな意味で。具体的には、たとえばツッコミ役はボケ役がいなければ存在感を失ってしまうという切実な意味で。
アレクサンドラ・マグリット
公式サイトで「冷静沈着なしっかり者」と紹介されているところが最大のツッコミどころでしょうか。(暴力ヒロインにはよくあること)
ついでにいうと意外にも恋愛小説が好きだということです。そういえば多田妹から『ひまわり急行』を借りて嬉しげでしたね。あの作者はおそらく彼女の知人(地図を書いてくれたレイチェルという人物)だと思うのですが、それに気づいたとき彼女はどんな表情を見せてくれるのでしょうか。おそらくこれから本作最大の萌えキャラとして頭角を現していくものと思われます。
多田ゆい
こういう演技っ気過剰な子は好きです。身内に対してやたらと辛辣な子も好きです。つまりは私のツボです。
「あ、ちなみにk君は無事でした(*´ω`*)v」
優しい。
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