そして 伝説が はじまった……!
ロト伝説 序文
冒険の書23
戦士シュアン記す。
精霊ルビスの導きにより虹の橋をかける秘術を手に入れ、我々はついに大魔王が待つ城へ突入した。
先頭を進むは三種の神器を身にまとったヒイロ。さらにオルテガの兜をブルーメタルで改修し、神器のひとつ光の鎧と揃いの意匠にあつらえた。
神代から伝わる武具の威力はいずれもすさまじいものだったが、ヒイロ自身は慎重な構え。後続のソーリョクが呪文を唱え終わるまで敵の攻撃をいなすことに徹し、大規模攻撃呪文で討ち漏らした魔物の損耗率を見定めては、剣と呪文を使い分けて掃討する。
そのほうが消耗が少なくていい、とあの子は言う。
旅を始めたばかりのころはそれぞれがそれぞれの得意なように戦えばいい、治癒役だったゆえ自分が真っ先に消耗していてもただの自己責任だ、と言って譲らなかった彼女が、いつの間にかずいぶんと仲間に頼るようになった。
視野が広がったのはマソホの働きに気付いたおかげだろうか。それぞれの得意分野にを認め頼ることを覚えたのはソーリョクの影響かもしれない。自分だけでなく仲間を守ることの強みを理解したのは――、自惚れでなければ、俺がサマンオサで見せた戦いがきっかけなのかもしれない。
つくづく良い戦士として育ったものだ。成長の天井がまるで見えない。
大魔王を倒したあと、この子はいったいどんな活躍をしていくのだろう。
ここに来る前、リムルダールの街でオルテガの手記を見つけた。
記憶を失ってラダトームに流れ着いたあいつだったが、この世界を旅するなかで朧気に記憶を取り戻しつつあったようだ。我々の世界での旅の光景や、家族の顔をふと思いだすことがあったという。それがいったい誰だったのかまではわからなかったにしても――。
「他の誰かを巻きこむわけにはいかない。皆、魔物の脅威に疲れきっている。俺ひとりでやらねばならない・・・」
「俺は家族ではなく戦いを選んだ男ということか。・・・そうかもしれない。俺ならそうするだろうと思う自分がいる」
「今は悩んでいる暇はない。大魔王を討ち滅ぼす、そのときまでは。俺ひとりで成し遂げてみせる」
オルテガ。見ているか。
お前が取りこぼした大切な思い、ヒイロが確かに受け継いでいるぞ。
お前は悲しむ家族を背に、たったひとりでアリアハンを旅立った。
だが、同時にお前は人を愛する男でもあった。お前と旅路をともにしたという戦士たちの話をいくつも聞いた。帰りを待つ家族のことを愛おしそうに語っていたと、各国の酒場でたびたび語り草にもなっていた。こちらの世界でも魔物に襲われていた妖精族の命を救ったというではないか。
お前はいつも、けっしてひとりではなかった。
最後の最後にお前を独りにしてしまった我が身を今さらながら不甲斐なく思う。せめてお前の娘だけは絶対に独りにしないと約束しよう。
今のヒイロは、誰かとともに歩めることのありがたさをよく理解している。かつてのお前のように。
冒険の書24
勇者ヒイロ記す。
父が息を引き取った。
ゾーマの城の奥深く。巨大な魔物と激しい一騎打ちを戦いぬいた末の、劇的な死だった。
全身古傷がないところを探すほうが難しいほどおびただしい数の傷跡が刻まれたその肉体は、ずっしりと重かった。年齢はシュアンさんより少しだけ下という話だったか。顔にはたくさんのシワが彫り込まれ、髪も半分くらいは白髪になってしまっている。
戦士としての全盛期はとっくに過ぎているだろうに、それでも、私の父は未だ偉大な戦士のままだった。
神の力も借りずにたった独りでここまで辿りつき、たった独りでここまで戦いぬいたアリアハン最強の勇者。
正直、顔なんて全然覚えていなかったけれど、それでもこうして最後に子として看取ってあげられたことを嬉しく思う。
父はいつも私たち家族のことを思いながら旅していたのだという。そんなこの人を、最後の最後、帰ってくるべき場所として迎えてあげることができた。
最後に笑って、眠らせてあげることができた。
父に愛された子どもとして。次代の勇者として。
彼がやり残した全てを私が引き継ごう。
世界を平和にするんだ。そして、母さんを安心させてあげるんだ。
城の最奥では大魔王ゾーマが玉座にふんぞり返っていた。
やつのもとへ向かおうとする私たちの行く道を、おそらく側近なのだろう、見るからに強そうな3体の魔物が阻む。
私たちが死闘を演じる様を、大魔王はニタニタと愉快そうに眺めるばかり。
それがお前の敗因だ。
勇者オルテガがひとりで旅立ち、やがて短い訃報だけがアリアハンに帰ってきたとき、大勢の人たちがあの日彼を見送ったことを後悔したのだという。
王様に、私の母、シュアンさん、ソーリョクさん、酒場のルイーダさんも。
私が勇者の称号を継いで旅立つことを誓ったとき、何かとお節介を焼いてきたのはそのせいだったそうだ。
父のときにはそれができなかったから。
私、あのころはひとりのほうが余計なものを背負わなくていいと思っていた。
結局、私はみんなの準備が整うまで3年も足止めさせられて。頼んでもいないのに私の旅にはマソホやシュアンさん、ソーリョクさんが一緒にくっついてきて。泣きそうな顔で手を振る母さんの見送り姿まで見せられることになって。
・・・そのおかげで、私は今、ここにいる。
魔物を3体とも斬り伏せたところで、ようやく大魔王は大儀そうにゆっくりと腰を上げた。
大魔王。ひとりじゃないって、強いんだよ。
竜の女王から受け取り、精霊ルビスに力を込めてもらった光の珠を頭上に掲げる。
まぶしい閃光に灼かれ、たちまち大魔王が纏っていた闇の気配が弱まっていく。
大魔王はこの程度なんということもないという顔をしているけれど、残念ながらもう、勝敗は決している。
私はひとりじゃない。
私はみんなのために戦うし、みんなもそんな私のことを支えてくれている。
私はみんなのためにも、絶対に負けるわけにはいかない。
大魔王。お前に負けられない理由はある?
無いなら私が勝つ。私たちみんなで勝つんだ。
冒険の書25
賢者ソーリョク記す。
大魔王は思いのほか弱かった。
そういえば魔王バラモスのときにも同じことを思った記憶がある。
勇者ヒイロも最後の一太刀を入れたとき、いかにも勝って当たり前という顔をしていたから、おそらくこの勝利は必然だったのだろう。単純な話、私たちは大魔王よりも強かった。
強くなった、と言うべきか。
ようやく会えたオルテガ殿をヒイロが看取ったとき、私は正直なところ、ヒイロは悲しみに暮れるものだと思っていた。
最初は外面が親切なだけで人の心などわからない娘だと思っていたが、旅を続けるなかで本当のこの子は外面そのまま、内面まで優しい子だとわかった。特に家族や身近な人への情は人一倍篤いようだった。
だから、いくら顔も覚えていないような父親であっても、その死は相応に辛いものだろうし、きっと打ちひしがれるだろうと。
実際の彼女は微笑んでいた。涙を流したのはむしろオルテガ殿だった。
すでに目は見えず、耳も聞こえないということだったが、ヒイロはそんな父親を優しく励ますようにして、事切れるまで絶えず声をかけつづけた。
オルテガ殿が安らかに息を引き取ったあとは、彼の額に静かに口づけをし、それきり振り返ることもなくまっすぐに城の奥へと進んだ。
あのとき彼女はオルテガ殿の残した全てを引き継ぎ、従って勇者としてもオルテガ殿以上に強くなっていたのだろう。
彼女はもう、未来しか見据えていなかった。
そういう強さもあるものなのだ。
この旅を経て私が学んだ、きっと世界で最も偉大な真実だ。
大魔王は死の間際に不吉な予言を残した。
いつか再び、新たな闇の存在がこの世界を脅かすと。そのきざしはすでに現れていると。
それも、ヒイロの寿命が尽きる、はるか未来で。
なんら問題は無い。
ヒイロはオルテガ殿の強さを引き継ぎ、オルテガ殿を越える勇者となった。
ならば当然、いつか遠い未来においても、今のヒイロをも超える偉大な勇者たちがこの世界を守りつづけるだろう。我々の意志はこれからも未来へ継がれていくはずだ。
崩れゆく大魔王城から脱出し、ラダトーム国王へ討伐を報告すると、ただちに宴が催された。
魔王バラモスを討伐したときアリアハン王城で聞いたものと同じファンファーレが奏でられ、やはりこの国と我々の故郷は根を同じくしているのだな、としみじみ実感していたところ――。
ふと、この世界と我々の世界のつながりが途切れていることに気がついた。
これまでは目には見えないつながりがどこかにあって、ルーラの呪文で世界を行き来できていたのだが。・・・その感覚がなくなった。今はアリアハンにたどりつける気がしない。
ギアガの大穴は精霊ルビスがラダトームの民をこの世界へ導くためにつくった通路だったはずだ。大魔王を討ったことで閉ざされるようなものではないはずだが・・・?
真相を知るためには精霊ルビスを問いたださなければならないが、いったいどこに行けばかの神に会えるのか皆目見当もつかない。
母親に報告することを何より楽しみにしていたヒイロにどう伝えたものか、私は説明に窮し、その日は結局何も話せずに終わり――。
翌日、私たちはヒイロの旅の荷物がなくなっていることに気がついた。
冒険の書26
賢者マソホ記す。
ヒイロがいなくなって10日が過ぎた。
あの子がどうしてひとりで旅立ったのか、大方の予想はつく。
お母さんが心配なんだ。
オルテガさんが亡くなって、そのうえもしヒイロまでいなくなってしまったらって、ずいぶん憔悴していたようだから。
ヒイロ、お母さんを元気づけたくて大魔王を倒すことにしたようなものだから。
悲しいことばっかりだったけどもう絶望しなくていいんだよって伝えたくて。お父さんががんばっていたことはムダじゃなかったんだよって証明したくて。
ソーリョクさんは今、ラダトームの建国神話をもう一度調べ直している。
シュアン先生は・・・、のんびりしたものだ。ヒイロがいつか帰って来るものと信じて、街の子供たちに剣を教えるとかしている。
ヒイロを追いかけて旅立とうとしているのは私だけ。
まあね。ヒイロなら私たちを置いて二度と帰らないなんてことありえないし、探しているのはどうせルビス様だろうから、いざとなっても追いつきやすい。
何も言わずにいなくなったことは怒ってもいいと思うけど、それもまあ、ヒイロだから。
私が追いかけることにしたのは、単純に私がそうしたいからだ。
ずっと、ヒイロの背中ばかり追いかけていた。ヒイロは私の目標で、それから、絶対に手が届かないってわかってる、私の劣等感の象徴だったから。弱い自分を認めたくなくて、だから私の代わりにあの子に認めてほしくて、中途半端なことにしかならない道を自分で選んでいた。
今はただ、あの子の力になりたい。そう。私はあの子の力になれる。あの子にできないことが私にはできるって、私自身でちゃんと知っている。
シュアン先生から手帳を預かった。旅のあいだコツコツ調べていた、オルテガさんの旅の記録をまとめたものだ。ヒイロが帰る方法を見つけたときは一緒にアリアハンに届けなきゃいけない。
さて、次はどこへ行こうか。
たぶんルビスの塔ではない。そんなに簡単だったらヒイロはもう帰ってきている。
ソーリョクさんに新しい手がかりがないか聞いてみて、ダメだったらとりあえず妖精の祠に行ってみよう。
夜空の星が見えるようになったから船で遠洋航海できる可能性ができた。ヒイロと合流できたら2人を誘って、未知なる大陸目指してまた4人で冒険してみるのもいいかもしれない。
できることはたくさんあるし、やらなきゃいけないこともまだまだある。
未来はここから広がっていく。時間は私たちが勝ち取った。もう誰も絶望しなくていい。
さて、次はどこへ行こうか。
やたらパラメータが伸びているのは今まで全然使ってなかった種をまとめて消化したせいです。
キャラクター設定(完全版)
ヒイロ(勇者;いっぴきおおかみ)
名前は「緋色」と「ヒーロー」のダブルミーニング。
【過去】――何が自分をつくったのかという認識
1【誰の役に立ちたいか】(A+C)
父親の無念を晴らし、母親を心から喜ばせてあげたい。
ヒイロは遅く生まれた子どもだった。父オルテガが勇者として旅立ったとき、ヒイロはわずか3歳。
父との想い出はほとんど残っていないが、まるでお祭りのような大声援に送られて旅立っていったことは今でも鮮明に覚えている。
ヒイロにとって、父親とはそういう誉れ高い人だ。
父の訃報が届いたとき、使命を果たせなかったことを責める者はアリアハンにひとりもいなかった。ただ、誰もが悲しんだだけだ。
特にヒイロの母親は深い悲しみに暮れ、昼のうちから酒場に入り浸る日々が数年間続いた。ただし、そんな母も子育てに手を抜くことだけは絶対にしなかった。剣の道場から帰る夕方、アルコール臭い母が毎日温かな食事と必死の作り笑顔で出迎えてくれたものだった。
2【誰に支えられているか】(B+D)
誰にも支えられてなどいない。
才能豊かなヒイロは4歳から剣の道場に通いはじめ、メキメキと頭角を現していた。
10歳の誕生日の日に父の訃報を聞くと、彼女はただちに勇者の使命を受け継ぐと心に決め、以来ますます修行に明け暮れるようになった。父親を死なせてしまったことへの償いを申し出るアリアハン王に直接交渉し、宮廷魔術師から魔法の手ほどきも受けた。
剣でも魔法でも、勇者と呼ばれるにふさわしい実力を身につけている自負がある。
ヒイロはもともと一人で旅立つつもりで準備を進めていた。仲間を連れているのは王様から懇願されたからにすぎない。
3【嬉しかった想い出】(B+C)
剣の師匠を試合で打ち負かした日のこと。
ヒイロが剣を学んでいた道場の師匠は、父オルテガに次いでアリアハン2番手の剣の使い手・シュアンである。ヒイロは10歳で父の勇者の称号を継ぐことを決意し、12歳でついに師を超えたことを証明してみせた。
これでようやく王様から旅立つ許可を賜れる。このときはそう思っていた。
4【傷ついた出来事】(A+D)
12歳で旅に出立つことが認められなかったこと。
アリアハン王は剣の腕前だけでは勇者として旅立つことを認めてくれなかった。16歳になるまで待てと言い、理由は説明してくれなかった。アリアハンには自分より格上の戦士がおらず、あと4年も国内に留まったところでこれ以上強くなれるわけではないとヒイロは反発したが、結局聞き入れられることはなかった。
【現在】――自分は何者なのかという認識
A【がんばっていること】(1+4)
勇者としての名誉を汚さないこと。
ヒイロは常に期待される人間であらねばならない。父が出立したときのように、自分が勇者でありつづけることは、それだけで多くの人に希望を与えられるのだから。
ヒイロは常に勝利する人間であらねばならない。父オルテガの訃報が届いたときのように、勇者の敗北は多くの人を絶望させてしまうのだから。
B【任せてほしいこと】(2+3)
勇者は万能だ。
剣の腕で誰にも負けるつもりはないし、自分の身ももちろん自分で守ることができる。仲間が傷ついたときは治癒の呪文だって唱えることができる。それだけのことができるようになるまで修練を重ねてきた自負もある。
特に、今回の旅の仲間で治癒の呪文が使えるのは(どういうわけか)ヒイロだけだ。
C【よく気がつくこと】(1+3)
敵の力量を見抜くこと。
ヒイロは功を焦っているが、同時に敗北が許されないことも理解している。また、幼いころから同格の稽古相手がいないことにも悩まされてきた。
敵の力量、特に勝てる相手かどうかを見抜く冷静な眼力は、彼女にとって絶対に必要なものだった。
D【耐えがたいこと】(2+4)
子ども扱いされること。
父親はたった一人で魔王討伐の旅に出た猛者であり、ヒイロもまた比類ない才能を受け継いでいる。
だというのに、アリアハン王からは年齢だけを理由に旅立ちの時期を遅らされた。ヒイロはそのことを今でも恨んでいる。
子どもであることが実力を侮られる原因になるのなら、早く大人になってしまいたい。
【未来】――これまでの総括とこれからの夢
α【自分の手で守りたいもの】(1+2+3+4)
勇者オルテガという希望の象徴を失い、絶望に沈みつつあった人々の心。
ヒイロが勇者になるべく奮起したのは、結局のところ身近な人たちのためだった。
母親の落ち込みぶりが見ていられないという事情もあった。父親が志半ばに倒れたことを無意味に終わらせたくないという義憤もあった。
誰もヒイロに勇者になれとは言わなかった。だが、それでいてヒイロ以外の誰も立ち上がろうとしなかった。みんなうつむいてばかりいた。だから、ヒイロが勇者として立ち上がることにした。
β【自分にまだ足りないもの】(A+B+C+D)
周りの人々が自分という個人を大切に思ってくれていることに気付いていない。
ヒイロは自分が個人的な義務感や名誉欲ではなく、みんなのために勇者になろうとしていることにある程度の自覚があった。だからこそ、アリアハンの人々が自分の旅立ちに非協力的だったことに苛立ったのだ。
視点を少し変えることができたなら、それはまだ幼いとすらいえる自分が大切に慈しまれているだけだと気づけただろうに。生まれついての天才で、大抵のことで大人顔負けの実力を持ち合わせていたヒイロだからこそ、大人たちが非協力的である理由を“年齢”という自分の数少ない弱みに安易に結びつけて考えてしまった。
γ【いつか叶えたい理想の自分】(α+β+1+A)
支えてくれる大勢の人の意志を代表して、未来を勝ち取る。
ヒイロは誰に頼まれたわけでもなくみんなのために勇者を志し、そして彼女の周りの人々も頼まれるまでもなく若き勇者を支えようと力を尽くしてくれた。ずっとひとりで戦っているつもりだったヒイロ。しかし、振り返ってみれば最初から、自分が守っているつもりの全ての人々にむしろ守られていた。
それに気付いたとき、彼女にとって勇者の使命は「負けられない戦い」から「負けるはずのない戦い」に変わっていた。
シュアン(戦士;つよき)
名前は赤系の和の色「朱殷」から。
【過去】――何が自分をつくったのかという認識
1【誰の役に立ちたいか】(A+C)
アリアハン王。
シュアン自身はアリアハン王に拝謁したことはないが、聞くところによると王は勇者オルテガを死地へ送ってしまったことを今でも悔やんでいるらしい。ヒイロのことも、才気を示した4年前にはあれこれ理由をつけて勇者の使命を拒み、それとなく旅立ちの用意を整える時間をつくってくれた。
シュアンを今回の旅に直接誘ったのはマソホだったが、実はそのあと王命も届いている。愛弟子であるヒイロを大切に気遣い、最大限の支援を行おうとしてくれる王のことを、シュアンは心から尊敬している。
2【誰に支えられているか】(B+D)
冒険の仲間たち。
シュアンはヒイロとマソホの剣の師匠であり、彼女たちがいかに優れた戦士かよく知っている。ソーリョクについても知りあいの兵士たちから伝え聞く話だと掛け値なしの天才とのことだ。自分が彼らを守る必要はないだろう。
弟子たちに教えた剣は、もともとアリアハンの街を防衛することを想定していたため、守りを強く意識した型だ。ならば経験豊かな戦士として自分が果たすべき役割は、教えた型とはまた違う、仲間たちに背中を預けてひたすら剛剣を叩きつける戦いかただろう。
3【嬉しかった想い出】(B+C)
ソーリョクが一角の人物として大成していたこと。
オルテガがソーリョクの故郷の村の救援に向かったとき、実はシュアンも同行していた。ただ、ソーリョクの救出自体には直接関わっていないため、その後の動向はオルテガ経由で伝え聞くだけだった。そのためオルテガが勇者として魔王討伐に出立して以降はどうなったか知る機会がなかった。
オルテガの旅立ちから6年後、シュアンはソーリョクが史上最年少で宮廷魔術師に抜擢された話を、王宮勤めの兵士たちの口から聞くことになる。
シュアンはオルテガがこの朗報を知ることがないことを残念に思い、また、旧友が気にかけていた青年の成長を我がことのように喜んだ。
4【傷ついた出来事】(A+D)
13年前、オルテガに置いて行かれてしまったこと。
シュアンはオルテガの旧友であり、10年来の冒険仲間だった。
彼がアリアハン大陸を出立するにあたり、当然シュアンもついていくつもりでいた。だが、オルテガはロマリア大陸まで海を泳いで渡る決断をした。シュアンはそのような超長距離の遠泳などできない。彼の強行軍の最初の第一歩すら同道できなかった自分の不甲斐なさを、シュアンは今も恥じている。
以来、いつかまたあるかもしれない旅立ちの日に備えて、実は密かに水泳の訓練を重ねていた。いざないの洞窟を開通させる手段があると知ったときは腰が砕ける思いだった。オルテガ・・・!!
【現在】――自分は何者なのかという認識
A【がんばっていること】(1+4)
勇者オルテガの足跡を辿る。
シュアンはオルテガの旅に同行できなかったことを恥と感じており、また彼と最も親交が深かったひとりとして彼の旅の軌跡に人一倍強い関心を持っている。
アリアハンの人々もまた郷土の英雄オルテガのことを愛してくれている。もし各地に残るオルテガの足跡をまとめ、彼の武勇伝を故郷に持ち帰ることができたなら、きっと多くの人が喜んでくれることだろう。
シュアンは魔王討伐の傍ら、世界各地の町や村に滞在するたび、現地の人々にオルテガのことを尋ねてまわっている。
B【任せてほしいこと】(2+3)
若者たちを生きて帰すこと。
シュアンは旅の仲間の3人を高く評価している。今年49歳にもなる自分などより、彼らはアリアハンにとってはるかに重要な者たちだ。
その思いはアリアハンに残る多くの人たちにとっても同様だろう。彼らはもう二度と勇者を失いたくないからこそ、ヒイロの旅立ちにしっかりと時間をかけて準備させてきた。
そんな若者3人の旅に同行させてもらう唯一の老兵は、アリアハンに残り無事を祈る全ての人々の代表と見なして差し支えない立場だろう。シュアンは自分のことをそのように考える。何があろうと無事に3人をアリアハンへ連れて帰らなければならない。
C【よく気がつくこと】(1+3)
誰かを気遣う人の良心。
シュアンは人間の本質が善性であることを知っている。たとえそうではないと言う者がいたとしても、シュアンの知る限り確かにこの世界はそのようにできているのだ。
人が誰かを思うとき、そこには必ずどこかに慈しみやいたわりの気持ちが篭もっている。シュアンはそのように信じている。必ずそこに“有る”と確信しているわけだから、シュアンは誰よりも人の良心の有り様を鋭敏に捉えることができる。
D【耐えがたいこと】(2+4)
力不足で仲間の期待に応えられないこと。
旅の仲間たちは皆優秀だ。特に、ヒイロはすでに自分を超えている。それはわかっている。
だが、シュアンにも年長者としてのプライドがあった。頼られたいと思う。期待に応えたいと思う。それは必ずしも最も優秀なものにしかこなすことのできないことではないはずだ。仲間たちが自分よりも若く優れていることを言い訳に努力を怠るというのはシュアンの本意ではない。
いつまでも自己研鑚を欠かしたくないと思う。少なくとも、仲間たちに置いて行かれてしまうまでは。
【未来】――これまでの総括とこれからの夢
α【自分の手で守りたいもの】(1+2+3+4)
未来ある若者たちのために全身全霊を捧げたい。
シュアンには誰に言われたわけでもなく、自分がすでに一世代前の人間だという認識がある。死んだオルテガと同世代だからとか、自分を越えた弟子ができたからとか、無意識の中に色々と理由はあるのだろう。
あの手この手でヒイロを守ろうとするアリアハンの人々にシンパシーを感じて仕方がない。何かの間違いで旅の仲間になってしまっただけで、心情的には自分はあちら側の人間なのだと感じている。だからこそ、何があってもヒイロたち若者を守りぬきたいと思う。
β【自分にまだ足りないもの】(A+B+C+D)
自分もまた尊敬を集めている一角の人物だという意識が薄い。
シュアンはそれなりに名の知れた道場主であり、古くは多くの命を救った一流の戦士でもあり、アリアハンの軍や自由戦士たちとのコネクションも太くて固い。それにも関わらず、ヒイロの旅立ちに際してあっさりと道場を閉め、同行を快諾している。
旅の道中もマソホからは未だ先生と呼ばれ、ソーリョクからも人生の先達として慕われていた。サマンオサでの戦い以降ヒイロからも改めて敬意を払われている。
だが、それでもシュアンはすでに半ば隠居気分だ。おそらくこの姿勢は死ぬまで変わらないだろう。
γ【いつか叶えたい理想の自分】(α+β+1+A)
未来を守りきったのち引退し、後進たちを遠くから見守りたい。
ある意味で、シュアンにとって勇者の使命とは他人事なのだ。
大人として次の世代には希望ある未来を渡したい気持ちはある。まさにそのためにヒイロたちとともに戦ってきた。理不尽な運命を押しつけてきた神々に怒りもした。
だが、肝心の未来が守られたことさえ見届けられたなら、あとは全て若者たちのもの成し遂げたことも、やり残したことも、全部丸ごと彼らに開け渡して、自分は同志である街の人々とともに若者たちの右往左往する姿を微笑ましく見守るのだ。
マソホ(商人→賢者;ぬけめがない)
名前は桃系の和の色「真赭」から。
【過去】――何が自分をつくったのかという認識
1【誰の役に立ちたいか】(A+C)
ヒイロ。
マソホはヒイロの幼馴染みだ。商人の家の生まれながら、第6子であり家の仕事を継ぐことを求められていなかった彼女は、将来兵士になるつもりで12歳までヒイロと同じ道場に通っていた。
同い年の彼女が弱冠12歳で師匠を超え、並々ならぬ決意で勇者の使命を継ぐつもりでいることに気づいたとき、マソホは今さら追いつけそうにない剣の腕以外のところで彼女の使命を支える手段を考えるようになった。
2【誰に支えられているか】(B+D)
兄や家族。
マソホの家はアリアハンで一番の商家である。ただし、現在のアリアハンには他国との通商がほぼ無いため、そこまで大きな商売をしているわけではない。家業を継ぐのは長男と他に1~2人の補佐がいれば充分だった。
そのため、マソホは読み書き程度は習っていたものの、12歳まで商売を教わったことはなかった。
マソホが商人の心得を一から学ばせてほしいと頼み込んだとき、すでに家の跡取りと決まっていた長男自らが面倒を見てやると言ってくれた。他の家族も、多忙な跡取りがそのような役目を引き受けることに反対しなかった。むしろ、それぞれできることの範囲で彼の負担を分担してくれた。
3【嬉しかった想い出】(B+C)
幸せの靴を買い取ったこと。
アリアハンを旅立つまでにつくることができた、商人として唯一の実績である。
幸せの靴はもともと、船でアリアハンに来た珍しい外の国の旅人が、酒場の女店主ルイーダを口説くために見せびらかした一品だった。ルイーダは友人であるヒイロの母親から、自分の娘が勇者として旅立とうとしていることをひどく気に病んでいることを打ち明けられており、彼女の心労を少しでも和らげるため、旅人に体を許してでもこの神器を手に入れようと考えていた。
ルイーダから事情を聞いた当時15歳のマソホはすぐさまアリアハン王に面会した。次代の勇者のため国庫から資金を供出してくれる確約を引き出し、さらに自分の家からも融資を取りつけたうえで、莫大な金銭と引き換えに旅人から幸せの靴を買い取る交渉に成功した。
王様とマソホ自身の意向により、この買収の件はヒイロに伏せることとし、幸せの靴は彼女の16歳の旅立ちの日にルイーダから手渡される段取りとなった。
4【傷ついた出来事】(A+D)
12歳のヒイロが本気で勇者を目指していることに気づけなかった。
マソホは道場に通う近い年齢の子どものなかではヒイロに次ぐ2番手の実力者であり、彼女のライバルかつ親友であるつもりだった。それが、ヒイロがたった12歳で師匠を超える剣の実力を示してみせたとき、自分は彼女のことを何も理解していなかったのだとイヤになるほど思い知らされた。
ヒイロが人並み外れた努力をしていたことは知っていたが、まさかそこまで鬼気迫る思いで打ちこんでいたとは想像もしていなかった。自分の生半可な剣の腕では彼女と同じステージに立つことすら憚られるように思われた。
それがどうにもくやしくて、マソホは剣術を磨く以外のところでヒイロを支えるための道を模索しはじめるようになった。何でもいいから彼女を上回れる分野をつくりたかった。
【現在】――自分は何者なのかという認識
A【がんばっていること】(1+4)
自分の存在意義を見つけること。
ヒイロが旅の仲間を必要としていないのはよくわかっている。彼女に置いていかれないためには、何かひとつでも彼女には絶対にできないことで貢献してみせなければならない。そう思う。
B【任せてほしいこと】(2+3)
この旅の渉外を受け持つこと。
ヒイロは本質的に他人への興味が薄い人間だ。勇者の責務として旅先で出会う人々に愛想よく接し、頼まれごとも快く引き受けてはいるが、彼女個人の関心は魔王バラモスにしか向いていない。
本人も気づいていないところでストレスを感じていることだろう。できるだけ誰かと接する役目は代わってあげたいと思う。ヒイロはきっと、自分のこの立ち回りにすら興味を持たないだろうけれど。
C【よく気がつくこと】(1+3)
人の善意について。
ヒイロを手助けしたいという人は、おそらくヒイロ本人が思っているよりはるかに多い。たとえば彼女の母親やルイーダ、アリアハン王だってそうだ。旅先でも彼女の人柄を気に入って援助してくれた人はたくさんいる。
それはヒイロが世界を救う勇者だからではなく、彼女がひたむきで善良で、ともすると触れただけで壊れてしまいそうなくらい、いつも張りつめているからだ。放っておけないのだ。彼女は。
D【耐えがたいこと】(2+4)
いつか自分がほどほどのところで満足してしまうかもしれないことを怖れている。
マソホが旅の準備をはじめたのは12歳の時分であり、出立のときであるヒイロ16歳の誕生日まで4年間しか猶予がなかった。
本当は傷を癒やす僧侶になるべきだと考えていたが、街の神父に相談したところ、たった4年では修業が間にあわないと告げられてしまった。かといって自分の剣の腕ではヒイロの役に立てそうにない。家業を頼り、商人の道を選んだのは苦肉の策でしかなかった。
自分はいつもそうだ。何事も中途半端で、仕方なしに手元にあるカードのなかから取捨選択してばかりいる。
【未来】――これまでの総括とこれからの夢
α【自分の手で守りたいもの】(1+2+3+4)
自己否定したくなる弱い心から己を守るため、誰かに認めてもらえる自分になりたい。
マソホはつまるところ、ヒイロに認められたかった。自分自身ではどうしても認めてやることができない自分のことを、同い年でありながら才覚でも志の高さでも常に先を行く彼女に一言賞賛してほしかった。
周りの大人たちが誰も皆ヒイロの実力を認めていた(当の本人は誤解していたが)からなおさら、彼女に認められることができたら、自分も全能感を得られると夢想していた。
β【自分にまだ足りないもの】(A+B+C+D)
自分の優れた部分を誇りに思えずにいること。
実際のところ、マソホはヒイロに不得手なことが多くあり、自分がその大部分をフォローしてあげられることを最初から認識していた。それにも関わらずいつまでも自己効力感を満たせず、妙に卑屈になっていたのは、そもそもヒイロとの比較で自己評価を決めていたせいと言うほかない。
マソホにとってヒイロは理想だった。憧れの人だった。そんな色眼鏡で自分と彼女を較べていたのだから、自分が劣って見えるのは当たり前のことだった。
γ【いつか叶えたい理想の自分】(α+β+1+A)
ネガティブな気持ちに囚われず、ただ自分がやりたいと思ったことをできる人。
結局のところ、マソホはヒイロのことが好きで好きで仕方ないのだ。寝ても覚めても考えているのはヒイロのことばかり。ヒイロが何をするとしても手伝えるように常にあらゆる用意を絶やさない。
今まさに心の底からやりたいと思っていることができているのに、どうして卑屈になる必要があったんだろう?
余計な肩の力が抜けたせいか、今さら自分が5ヶ月だけ早生まれだったことを思いだした。お姉さんぶりたい気持ちがムクムクと湧いてきている。
ソーリョク(魔法使い→盗賊→賢者;あたまでっかち)
名前は緑系の和の色「草緑」から。最後賢者になったので緑感なくなっちゃいました。
【過去】――何が自分をつくったのかという認識
1【誰の役に立ちたいか】(A+C)
自分自身。
ソーリョクはアリアハン国に仕える若き宮廷魔術師だ。アリアハン出立現在で31歳。25歳という異例の若さで王宮に招かれたが、6年経った今でも彼が最年少のままだ。
なお、オルテガの娘ヒイロが呪文を学ぶべく王宮に通っているという噂は聞いていたが、彼女の相手は古株の魔術師たちがしていたため、直接の面識はなかった。
ソーリョクはただ、強くなりたい。最強の魔法使いと呼ばれるようになりたい。
王国の知恵を司る宮廷魔術師ながら、実のところソーリョクの本質は脳筋であった。
死ぬまでに一度は世界を巡る旅に出て、見識を広めてみたいと考えていた。しかしそれもまた、知識の量がそのまま呪文の強さに直結する、魔法使いという職だからという理由でしかなかった。
2【誰に支えられているか】(B+D)
戦士シュアン。
実際に接してみた勇者ヒイロはなかなかの難物で、一見人当たりがいいようでいて明らかにこちらに興味を持っていない。旅の方針について意見を求められることはないし、戦闘で頼りにしてもらえることもない。
その友人だという商人マソホもまた、どうやら国王には回復呪文の使い手を要望していたらしく、初対面から露骨にガッカリされてしまった。
最年長のシュアンだけが自分の居心地の悪い立場を気遣ってくれる。彼は読み書きを習ったことがないそうだ。旅の合間、せめてもの礼として教えてあげたいと思う。
3【嬉しかった想い出】(B+C)
勇者オルテガに救われたこと。
故郷の村を焼かれたとき、救出に来てくれたのがオルテガだった。生き残りはソーリョク含め、片手で数えられる程度だった。家族を失い呆然としていた少年のことがよほど気がかりだったのか、その後オルテガはたびたび孤児院に見舞いに来てくれた。
最初の1年はほとんど何も考えず何の感情も湧かず、人形のように過ごした。
次の年になると魔物に復讐したいと考えるようになった。トラウマによるものか目の前に人が近づくと腰が引けてしまうため、剣は早々に諦めた。養父である神父は僧侶の道を進めてくれたが、ソーリョクは攻撃呪文にこだわった。
修業を始めて3年。やっと手のひらの上に小さな火を灯せるようになると、たまたまその様子を見ていたオルテガは妙に感激した様子で肩をバシバシ叩いてきた。「俺が呪文を使えるようになったのはお前より5つも上のころだ」「お前は天才だ」「自分の才能を見つけられるのは誰にでもできることじゃない」「きっとすぐ一人前になる」「誰かを守れるようにもなる」「お前を助けてやれてよかった」――。
さんざっぱら褒め殺しにしたうえで最後にニカッと笑ったオルテガの顔をソーリョクは生涯忘れることはないだろう。
この人が、私を救ってくれたんだんだ。
4【傷ついた出来事】(A+D)
自分のせいで家族をいっぺんに失ったこと。
ソーリョクは13歳のとき、生まれ故郷の村を魔物の群れに焼かれている。
目の前で妹を食い殺されたことに逆上し、敵うはずもない魔物に向かっていってしまった。結果、とっさにかばってくれた父親まで失うはめに。振りかえると一緒に逃げるはずだった母親も別の魔物に頭をちぎられ、すでに事切れていた。
全部自分のせいだ。できもしないことをするべきではなかった、と悔恨を今でも引きずっている。
【現在】――自分は何者なのかという認識
A【がんばっていること】(1+4)
魔王討伐を成し遂げたい。
勇者ヒイロの旅に同行することに個人的な感情こそないが、魔物を憎み、平和な世界をつくりたいという純粋な気持ちなら、実はソーリョクこそが一行のなかで最も強く持っている。
B【任せてほしいこと】(2+3)
強力な攻撃呪文で敵を撃ち倒す役目になりたい。
ソーリョクは個の武勇こそ優れているが戦略眼が未熟、というのが王宮内での評価だった。本人も生来の気質として自分が一本気で視野が狭くなりやすいことは重々承知しているし、英雄というものへの子どもじみた憧れを未だ捨てきれずにいる自覚もある。
しかし、自分は攻撃呪文を極めたいのだ。攻撃呪文に自信があるのだ。とはいえ、自分以外の勇者一行は全員並々ならぬ剣の使い手ぞろい。必ずしも呪文の使い手に攻撃参加は期待されていない。
攻撃呪文は諦めて、もっと搦め手を学ぶ必要があるのだろうか。理想と現実の狭間でソーリョクは葛藤している。
C【よく気がつくこと】(1+3)
他人の才能を素直に賞賛する。
かつてソーリョクは覚えたばかりの魔法を勇者オルテガに絶賛され、そのときの感動に突き動かされて宮廷魔術師の地位まで上り詰めた。ソーリョクにとっては相手の才能を賞賛することこそ、最上級の友誼の証だ。
また、単純にソーリョクは才能豊かな人が好きだ。その才能が戦いの技であればなおのこと尊敬する。勇者ヒイロの一行は全員が才能にあふれている。正直やや居心地が悪いことは否めないが、内心ではこのメンバーで旅ができることに心躍っている。
D【耐えがたいこと】(2+4)
勝手な行動を取ること。
ヒイロは何もかも自分ひとりでやろうとするし、マソホはマソホでヒイロが見落とした部分を目ざとく見つけては全部自分でフォローしようとする。シュアンは歴戦の戦士として為すべきことを完璧にこなしているように見えるが、それもどういうわけか弟子の2人に戸惑われ、結果チグハグしているように感じる。
もちろん、それはソーリョク自身だってそうだ。普段の旅路でも戦場でも、自分の行動ひとつひとつがどれもイマイチ求められていないことをひしひしと感じる。
この一行は個々の能力は素晴らしいのに、どういうわけか連携がうまくいっていない。
かつて勝手なことをしてしまったせいで家族を亡くしたソーリョクにとって、この奇妙な連携の悪さは非常に気に障る。
だが、なまじ自分自身がそういうことを苦手としている自覚があるだけに、どう口出しすればいいのかもわからない。
【未来】――これまでの総括とこれからの夢
α【自分の手で守りたいもの】(1+2+3+4)
自分は強い人間だ、という自信。
ソーリョクは強さというものに執着している。元はといえば魔物に家族を奪われた無力感で始まったことだが、その後勇者オルテガに激賞され、破滅的な感情からはすでに解放されている。今はきわめて単純な、ある種子どもじみている、強さへの憧れがあるだけだ。
その憧れを、ソーリョクは人生をかけて叶えようとしている。どんな苦難も逆境も恐れない。
β【自分にまだ足りないもの】(A+B+C+D)
自分にはない価値観と交わろうとする勇気。
ソーリョクは自分が思う強さに固執するあまり、「強い」ということにも様々なありかたがあることに考えがまわっていない。せっかく他人の強さを素直に認められる柔軟な頭があるというのに、その実力者たちがどうしてそんなに強いのかという部分は考えようとすらしない。その結果が、魔法使いとしては一流なのに宮廷魔術師としての戦術眼は落第というチグハグさだ。
彼に必要なのは、自分の正しさを疑い他人を参考にしてみようという、学びのきっかけだった。
γ【いつか叶えたい理想の自分】(α+β+1+A)
優れた使い手たちと助けあい、高めあって、集団としての強さを極める。
かつてソーリョクが目指していたのは個としての強さの極みだ。もともと彼は一本気な性格で努力も厭わなかったから、もしかしたら旅立たずとも夢を叶えていたかもしれない。
しかし、ソーリョクはこの旅で仲間と力を合わせることの強さを知った。自らの力を極限まで高めたうえで、それはそれとして自分がさらなる力を行使しうる可能性を体験した。
現存する全ての呪文を習得し、大魔王を打ち倒した今も、彼の様々なアプローチからの自己研鑚は終わることがない。
コメント