あなたの16歳の誕生日、ルビス様に代わってヒイロに呼びかけたのもこの私。あのときはずいぶんと失礼なことを言ったかもしれません。許してくださいね。
(そもそもあんな辛辣な性格診断する必要あった?)

冒険の書21
賢者ソーリョク記す。
ここ数日ほどラダトームの建国神話を調べている。
というのも、大魔王の居城に辿りつく方法が見つからないのだ。
大魔王城自体はラダトームから肉眼で見えるほど近くにある。ただ、問題はその城が建っているのが絶海の孤島だということだ。
島の沿岸は全周不自然なほど切り立っていて、船で上陸することができない。岩肌を強引によじ登ろうものなら無防備な背中を翼持つ魔物たちに襲われてしまうことだろう。
ラーミアを連れてこられたらよかったのだが、どういうわけかギアガの大穴を潜りたがらない。かの不死鳥は神の使いだということだから、世界が違えば神も変わり、宙舞う加護を受けられなくなるのかもしれない。
そうだ、神だ。
我々はこの世界に来るとき、神の使いだという竜の女王の助力を得た。大魔王とはどうも、人間のみならず神々にとっても相当な脅威であるらしい。
こちらの世界にも精霊ルビスと呼ばれる創世神がいるということだ。
精霊ルビスはたいへんに慈悲深い女神で、かつて我々の世界に存在していた古代の超大国ムーが神を裏切った咎で神罰を受けることになったとき、せめて罪のない民だけでも逃がそうと、ギアガの大穴の向こうにこの世界を創造したのだという。
「ムー」といえば、アリアハン大陸の古い呼び名も同じくムー大陸という。歴史書に残らないほど遠い神話の時代、アリアハンは世界全土を残らず征服していたというが、もしやそれがムー帝国だったのだろうか。
曲がりなりにも宮廷魔術師である身としては非常に興味深い話だ。だが、さしあたってそれは本題ではない。
精霊ルビスは現実に顕現し、人間たちを守るため大魔王に戦いを挑んだそうだ。
長い戦いの末に女神は敗北。今はどこかの塔に幽閉されているというが・・・、つまり私たちの手で救出することさえできれば助力を得られるかもしれない、というのが私の考えだ。
神頼みとはバカバカしい話ではあるが、現に私たちは竜の女王に会っている。さらに、ここラダトームには神話ゆかりの品々が多く残されてもいる。
建国神話に語られる三種の神器。その実物が、ほんの数年前魔物に奪われるまでラダトーム王城に祭られていた。
それぞれ未知の金属で鍛えられた武具であり、建国から数百年たった今も新造同然の輝きを保っていたという。実用品としても申し分なかったそうで、もし魔物の襲撃から守りきり、然るべき勇者に与えられていたなら、必ずや大魔王打倒の一助になっていただろう、と国王は悔やんでいた。
また、それとは別に私たちは太陽の石と呼ばれる宝玉を手に入れている。これも神話ゆかりの品だ。
魔物の襲撃があったとき使用人の誰かがとっさに隠したのだろうか。本来あるべき祭壇ではなく、人目につかない物陰にひっそりと隠されていた。
これだけ神話ゆかりの品々が現実に残されているのなら、精霊ルビスが顕現しているという話も事実である可能性が高い。他にあてもないのだ、神を尋ねてみるのはけっして分の悪い賭けではないだろう。
と、仲間にそんな話をしたところ、マソホからは「ソーリョクさんって調べ物とかする人なんだ・・・」、ヒイロからは「いや、でも結論はものすごくソーリョクさんらしいと思うよ」と、きわめて不本意な反応が返ってきた。
まったく。いったい私を何だと思っているのだ。
冒険の書22
賢者マソホ記す。
精霊ルビスを探して大陸中を巡っている途中、妖精族が住む小さな祠を見つけた。
ソーリョクさんが調べてくれたラダトームの建国神話によると、妖精族とは精霊ルビスがこの世界を創造するのを助けた眷属だって話だ。
妖精たちのうちひとりはルビスの使いとしてヒイロに夢の預言を授けてくれていた人だったらしい。彼女は私たちに協力を惜しまなかった。
精霊ルビスが幽閉されている塔の正確な位置を教えてくれたし、それから、ラダトームでは失伝してしまっていた神話時代の出来事についても細かい事実を教えてくれた。
ここに来る途中の洞窟で見つけた美しい盾こそ三種の神器のひとつ、勇者の盾だったらしい。ミスリル銀でできているそうだ。
ミスリルといえば現代でも少量ながら流通している素材で、メタルスライムの表皮から採取されているはずだ。ただ、古代では鉱石として採掘されていて今より広く流通しており、素材としての純度を高める精錬技術も段違いだったとのこと。私たちが知っているのはただ硬いだけの金属だけど、この盾に使われているものはメタルスライムの性質同様、魔法の力を阻む力があるらしい。
三種の神器の2つ目、光の鎧は青く輝くブルーメタルという金属でできているとのこと。ミスリル銀よりもさらに硬く、身につけた人の生命の力を活性化させる効果もあるんだとか。
鉱石の状態ですでに不純物がない、海より深い青色を湛えた、それは美しい石なんだそうだ。それを聞いてヒイロがあっと声を出した。ブルーオーブを探して入った地球のヘソという神殿で、そういう石が壁に埋まっているのを見たらしい。
今度採りにいこう。ブルーメタルといえば、オルテガさんと旅したことがあるというドワーフのおじさんも欲しがっていたはずだ。
三種の神器の3つ目、王者の剣はオリハルコンでできているそうだ。オリハルコンは金色の金属で――、それこそまさに、今シュアン先生が履いている幸せの靴がオリハルコン製なんだそうだ。
・・・本当にオリハルコンだったのか。たしかに、子鹿の革よりしなやかなくせに、これまでの長旅で全然すり減る様子も無くて、もしかしたらと思ってはいた。
「ネリーの祈りが巡り巡って勇者の助けに――」 妖精たちが懐かしそうに目を細めていたけれど、きっとこれも私たちが知らない創世の時代の話なんだろうな。
オリハルコンは神の国の万能金属。薄くなめせば革より柔らかく、しかし剣として鍛えれば他のどんな金属もたやすく斬り裂いてしまえる。人間の世界には存在せず、古代に神がもたらしたものがわずかに残るだけだという。
ラダトームとアリアハンの前身、ムー帝国は鍛冶神ガイアからオリハルコンの武具製造の委託を受けたことで繁栄した。ただ、そうやってつくった武具を愚かにも自分の国のために横流しし、神の怒りに触れたせいで滅亡することになったそうだ。
この独特のなめらかな金色を私たちは最近も見た。ひとつはドムドーラの街の馬小屋で見つけた不思議な石。もうひとつは城塞都市メルキドの研究者がどこかから拾ってきたという、いくつかの破片に分かれた剣の残骸。
王者の剣は魔物たちに奪われたあと、その力を脅威に感じた大魔王に砕かれたのだという噂を聞いた。あれがそうだったのか。
修理する方法はあるのか聞いてみたが、ルビスの使いもさすがにそこまではわからないらしい。そもそもが神々のなかでも唯一、鍛冶神ガイアにしか鍛えることのできない特別な金属なんだとか。
でも、ガイア神は古代ムー帝国にオリハルコン製武具の製造委託をしていたわけだよね?
ということは、必要な技術なり道具なりさえあれば、人間でもオリハルコンを扱えるってことのはずで――。
たしか、マイラ村で知り合った腕のいい鍛冶屋がジパングの特別な家系の生まれだって話していたはずだ。ヤマタノオロチから逃げてこちらの世界に迷いこんだんだけど、途中どこかで家宝のハンマーを無くしてしまったとかなんとか。
ムー帝国は当時あちらの世界全土を支配下に置いていたという。その遺物がジパングに残っていても不思議ではない。
もう一度詳しい話を聞きに行ってみよう。




三種の神器(=ロト装備)の素材の話とか、ムー帝国とか、あと幸せの靴のネリーの話とかはファミコン版当時エニックスから刊行されていた『アイテム物語』からの引用です。メタルスライムの表皮がミスリルだっていう設定は『モンスター物語』から。
ムー帝国がアリアハンの前身だって話は私の勝手な創作。ただ、アリアハン大陸だけ現実の世界地図には存在しないことから、アリアハンのモデルがムー大陸だという考察は昔からありました。
『アイテム物語』でガイア神がオリハルコン加工のためムー帝国にもたらしたものは太陽の石と月の欠片であって、別にハンマーというわけではありませんでした。
でも、わざわざリメイク版の追加イベントで「ガイアのハンマー」なんて名前を出してきたということは・・・、そういうことですよね?
オルテガの兜をブルーメタルで改造すると「光の兜」って名前になるのも、光の鎧の素材がブルーメタルだっていう当時の設定準拠なんでしょうね。
ロト装備初出のファミコン版『ドラゴンクエスト』には頭装備という概念自体が無かったので、攻略本のイラストなんかでは兜もセットで鎧一式って扱いになっていましたからね。
まあ、それはそれとしてちゃんと装備部位があるはずのロトの盾も何故か登場しなかったんですが。ファミコン版最強装備である水鏡の盾もロトの盾と同じミスリル銀製、とかいう設定が後のシリーズで生えてきたので、実はこれが本物のロトの盾だったんだって説もありましたっけ。(DQ1の水鏡の盾は店売り品ですが)
・・・変なところで原作をすげーリスペクトしてるな、このリメイク!
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