オルテガという名に心当たりはないか?
ラダトーム国王
冒険の書20
戦士シュアン記す。
少し、ヒイロたちをアリアハンに置いてこなかったことを後悔している。
アリアハンを発った我々はまずネクロゴンド地方へ向かった。ソーリョクが覚えていたのだ。最後の鍵を発見した祠にて、この地域に全ての災いが出ずるギアガの大穴という場所があると、情報を得ていたことを。
ネクロゴンドといえば魔王城があった地域だ。魔王バラモスはその大穴を潜ってこの世界へやってきたのだろう。我々はこの世界最大の災いといえば魔王のことだと思いこんでいた。だからこの情報にそれほど価値があるとは思わなかったのだが、魔王とは別に大魔王が存在するなら話は変わってくる。おそらく、そいつは今も穴の向こうにいるはずだ。
だが、実際に行ってみるとギアガの大穴は濃密な瘴気に覆われており、降りるどころか近づくことすらできなかった。
手詰まりかと思われたが、そこで今度はヒイロが思いだした。大魔王の宣戦布告があった翌日の朝、どこかの高い山に立ちこめる霧が晴れる夢を見たと。預言である可能性が高い。
場所はマソホが知っていた。オーブの情報を集めていたとき船乗りたちから聞いた話に、ロマリア大陸カザーフ村西側に広がる未踏域に、雲を突き抜けるほど高く険しい山があるという情報があった。結局その地域の探索を始める前にオーブが6つ揃い、それきりになっていたと。
高山の頂では神の使いだという白い竜が我々を待ち構えていた。闇を払い光を取り戻す神器・光の珠を与えるから、大魔王ゾーマを討伐してほしいと。
俺が不愉快に思っているのはそのことだ。我々は神の尖兵になった覚えはない。
ヒイロが勇者になったのはオルテガの無念を晴らすためだ。母親の絶望を拭うためだ。アリアハンの人々の心に希望を取り戻すためだ。我々、人のためなのだ。
大魔王ゾーマを倒さなければ遠からず人は絶望に支配されてしまうだろう。だからあの優しいヒイロが再び立ち上がるのはわかる。
だが、それでは我々の心がついていかないのだ。
魔王退治の使命ですら、わずか16歳の少女に全てを押しつけるのは気の毒すぎる、大人として情けないばかりだと彼女の旅立ちを散々渋り、せめてできるかぎりの用意をと時間をかけたのが我々だ。
せっかく彼女があの小さな体に不相応な大役を果たしたばかりだというのに、これ以上また頼らなければならないのか。まして、我々だけではなく神の期待まで背負わなければならないのか、あの子は。
ギアガの大穴の向こうにはラダトームという人間の国が広がっていて、そこでは人々が半ば絶望と共生するように、力ない目で日々を暮らしていた。
国王に謁見すると、なんとこの国にオルテガが現れたという話をされた。
我々にしてみれば寝耳に水だったが、王はどうやら我々がオルテガを探してこの国に来たものだと思いこんだらしい。
記憶は失っていたそうだが、あのタフな男はつまり、火口に落ちてなお生き延びていたわけだ。早く旅を終えて成長した娘の顔を見たいと言っていたものな。きっと死ぬに死ねなかったに違いない。あいつらしい話だ。そうか、生きていたか・・・。
ラダトーム王の話によれば、オルテガはしばらく国王の食客としてしばし逗留し、傷を癒やしていたものの、ある日ふらっとどこかへ消えてしまったのだそうだ。
それもまたあの男らしい。おおかた、絶望に慣れきった目をしているこの国の民をあわれに思い、記憶など取り戻すまでもなく大魔王を討伐するべくもう一度奮起したのだろう。
大魔王討伐の旅はオルテガとともに行きたかった。
そうできていたら、あの才気あふれる若者たちをこれ以上苦しめることなく、平和に暮らせる未来だけを与えてやれたというのに。
端書き
賢者ソーリョク記す。
パルプンテの呪文を復活させた。
その逸話だけがおとぎ話のように噂されるのみで、いかなる呪文書にも詳細が書かれておらず、実在すら疑われていた幻の呪文だ。
世界中に細々と残っていた曖昧模糊な逸話を収集し、私なりの解釈でそれらを統合・再現する理論を編みだした。もともと荒唐無稽な噂話が多かっただけに効果が安定せず、実用には縁遠いが、呪文を編みだすという試み自体ここ数十年誰も成し遂げられずにいたことだ。
然るべき場でこの成果を発表しさえすれば、あらゆる魔術師たちが私を世界最高の魔法使いと認めることだろう。
であれば、今私が考えるべきはこれから先どのように自己研鑚していくかだ。
魔法使いとしての頂に達し、正直なところ目標を失ってしまったことは否めない。己の魔法力を高めてゆくにも、このままでは無意識に心構えが弛緩し、成長は頭打ちになってしまうだろう。
パルプンテの呪文をより洗練させるという道もあろうが、上記のとおりこれは実用性に難がある呪文だ。大魔王討伐の旅でやることではない。
賢者の力を得てからのマソホは成長めざましく、今や魔法力で私に追いつかんばかりだ。才能があるというだけでなく、彼女の場合は勇者を支える者でありたいという高い目的意識が、なおのこと成長を促進させているのだろう。
私も追いつかれるまでおとなしく待っているわけにはいかない。
実は少し前、ギアガの大穴を通る手段を求めて世界を巡っていたときに、2冊目の悟りの書を発見していた。
マソホには「いつか魔法使いの道を極めたときのために」と譲られたのだが、今が使いどきだろうか?
新たに癒やしの呪文を学び、現存する全ての呪文を修得しようと挑むことは、私にとって更なる成長を果たすための、そこそこの刺激にはなるだろう。
ただ、その道はすでにマソホにリードされている。私が賢者の呪文を全て修める前に、先に彼女が極めてしまうだろう。それでは面白くない。最近になってさすがに自覚したのだが、私はどうも自分で思っているより大人げない性格らしい。
我ながらくだらないとしかいいようのないことで頭を悩ませていると、ふと、オーブ探索の旅で同行したカナリアという男が見覚えのない呪文を唱えていたことを思いだした。
一時パーティを離れ、1人ルーラの呪文でアリアハンに戻って話を聞いてみると、どうやら盗賊の間に口伝で広まっているレミラーマという呪文らしい。
盲点だった。
カナリアが言うには、さほど難しくない、おまじないのようなものだという話だが、稀少な呪文であることには違いない。賢者の知識を使いこなすマソホもこれは一度も使っていなかったように思う。
決めた。
私は短期間だけ盗賊の技を学び、そのあとで悟りの書を開いた。
私はこの世界に現存する全ての呪文を学んだ唯一の人間になろう。
余計な寄り道をしただけに、大魔王討伐までに賢者の呪文全てを修得できるかはわからない。そのときは平和になった世界で研鑚を続けるだけだ。
賢者の呪文を極めたあとはまた新しい呪文を考案してもいい。大魔王を打ち滅ぼしたあとなら、そんな半ば道楽気味な研究に人生を捧げてみるのも悪くない。
ソーリョクにはゲームクリアまで魔法使い一筋でいてほしかったんですが、今回のリメイクは思いのほかレベルアップのペースが速かった・・・! しかもマソホの賢さやMPの伸びが予想していたより良く、あと数回のレベルアップで追い抜かれてしまいそう。
それは最強の魔法使いを目指していたソーリョクにとっていくらなんでもかわいそうすぎる話。
正直今さら盗賊も2人目の賢者も要らないんだよなと思いつつ、フレーバーのためだけに転職させることにしました。(クリア後コンテンツは色々マゾいらしいので手を出しません)
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