スタートゥインクルプリキュア 第17話感想 たったひとりの正しい人。

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悪いけど、任せられないわ。信じられるのは自分だけなんで。

(主観的)あらすじ

 新しいプリンセススターカラーペンの反応を追ってゼニー星へ向かうと、再び怪盗ブルーキャットと鉢合わせることになりました。ブルーキャットはひかるたちに共闘を持ちかけます。それはつまり、プリキュアに泥棒を手伝えと・・・?
 現在プリンセススターカラーペンを持っているのはオークションのときに知りあったドラムス。彼はひかるたちとブルーキャットにゲームを持ちかけました。お宝がほしければ屋敷の警備を全て破ってみせろ。
 ひかるたちの気持ちと無関係に、嫌が応にもブルーキャットと協力することになってしまいました。

 ブルーキャットはさすがの盗みの技術。自分だけでなくひかるたちの特技もうまく利用して次々トラップを切りぬけていきます。ひかるたちがプリキュアに変身してくれればさらにうまくいくといいますが、いくらなんでも悪人以外を相手にプリキュアの力を使うわけにはいきません。拒否します。
 ブルーキャットの方もさしてこだわる様子はなく、実際、変身せずとも無事に宝物庫にたどり着くことができました。

 きらびやかなお宝の数々のなかで、ブルーキャットは惑星レインボーから散逸した宝石たちにひときわ強く執着しているようでした。むしろそれ以外のお宝は盗み出しても貧しい人たちに配ってしまうのだとか。
 惑星レインボーの宝石を見るブルーキャットの目は優しくて、心から笑っているように見えました。

 ところがドラムスはそれが気に食いません。自分のコレクションがお宝の価値を理解できない一般人の手に渡るくらいなら壊してしまったほうがマシだと言って、惑星レインボーの宝石を含むお宝全部を壊そうとしはじめます。
 ひかるはプリキュアに変身することに決めました。
 相手は悪人じゃないかもしれないけれど、それでも、さっき優しく微笑んでいたブルーキャットの笑顔を守りたいと考えて。

 ドラムス早くも再登場! とか無邪気に喜んでいられたのも束の間、とても珍しい展開があった今話でした。

 プリキュアが敵組織のモンスターと戦うため以外の目的で変身したことなんて過去に何回あったことでしょう。ぱっと思いつく範囲だと『フレッシュプリキュア!』の桃園ラブたちが家族に秘密を明かすため変身したときと、あとは『ハートキャッチプリキュア!』の来海えりかが部屋掃除のためにプリキュアの力を使おうとしたときくらい? 映画の敵はいつもの組織と違うとか、修行するときは敵がいなくても変身するとか、そういう細かい話はあるにしても。
 プリキュアは日常を守るヒーローです。だから日常の範疇にとどまる障害に対しては自分の本来の力だけで努力し、プリキュアの力に頼るのはその日常が非日常の暴力で理不尽に奪われようとしているときに限っていました。(来海えりかのアレはともかく)
 彼女たちはプリキュアの力が非日常のものであることを理解しています。みだりに濫用してはならないと誰かに釘を刺されずとも、彼女たちは当然のようにその力を日常を守るためにしか使ってきませんでした。(そういうものだからこそ変身ヒーローには“変身”をキーとして力を解放するプロセスがあるんです)
 そういう意味で、今話ひかるがノットレイダー相手じゃなくても変身する決断をしたのはとても珍しい展開でした。

 星奈ひかるはある意味傲慢な人物です。カッパードらの侵略行為に彼らなりの理屈があることを聞かされながら、それでも自分は宇宙が好きだから守るんだと、彼らの理屈を正面からつっぱねてみせた人物です。
 そんな彼女だからこれまでのプリキュアたちとは違う珍しい決断をすることにも納得がいきます。今の彼女には、他の何者にも振りまわされず自分の心のなかの道理だけでものごとを判断できる、自分だけのイマジネーションがあります。

 今話、ひかるは非日常の力を、非日常の怪物を倒す目的以外のために振るうことを決めました。プリキュアとしてとても珍しい決断です。
 それは・・・つまるところ、彼女がプリキュアらしくないということでしょうか?

正義の力

 「あなたのレーダーを使えばプリンセスの力も見つかるし、他のお宝のありかもわかるってわけ。ね。だから協力しましょう」
 「まさか、あなたと一緒に泥棒をしろと?」
 「そんなのダメに決まってるでプルンス! 誰が協力するかでプルンス!」

 プリキュアは子どもたち憧れのヒーローです。あどけない視聴者たちの手本となるお姉さんとしてふるまうためにも、正義にもとる行為には断固反対します。ついでにいうと、今後プリキュアになるであろうブルーキャットにも、だから今回義賊だという言及が追加されました。

 とはいえ第15話の感想文でも書いたとおり、“怪盗”の物語はそれはそれとして魅力的なもの。
 ドラムスがゲームに仕立ててくれたことで、ひかるたちはヒーローでありながら怪盗と同道することを両立できるようになります。こういう物語進行がさらっとできる点もドラムスみたいなキャラクターのよいところ。私、あのキャラクター好きです。
 まあそれはともかくとして。

 「マトモにやっても勝ち目はないわ。でも、プリキュアに変身すれば勝てるかも」
 「それはダメです! ワルモノではないかたがたをやっつけるわけにはいきません!」

 繰り返しますが、プリキュアは子どもたちの手本となるべきヒーローです。安易にスーパーパワーを使うことはできません。
 誰の人生にも日常のなかで障害が立ち塞がることはありふれたこと。プリキュアを見ている子どもたちにもいつかその日は訪れるでしょう。ならばプリキュアはヒーローとして、普通の子どもたちにはマネすることができない“ズル”で障害を乗り越えるべきではありません。
 プリキュアは日常を守るヒーローです。日常を守りたいのであれば、たとえ自分の手に非日常の力が握られていたとしても、日常のなかで安易にそれを行使するべきではありません。誰に言われずとも、誰よりも日常というものを愛している少女たちならばこそ、日常の障害は日常に属する力だけで乗り越えるべきだと当然に心得ます。

 こういうことをさらっと説明するにはまどかが適役ですね。ヒーローとしては当然あるべき姿ですが、物語上ひかるたちは誰かから“プリキュアはかくあるべし”とはっきり教えられているわけではありません。4人のなかでこういうこと(ある種メタな話)をこういうシーンで適切に言語化できるのは、元々お父さんから様々な道理を教え込まれているまどかだけでしょう。
 まあこの話も余談なのでさておき。

 「さすがに変身したほうがいいわよ」
 「わ、わかってるルンルン・・・!」
 「よーしよしよし! 宇宙ケルベロス、キラヤバー! かわいいねえ! かわいいねえ!」

 たとえどんなに大きな障害であっても、できることなら日常の障害は日常に属する力だけで乗り越えるべき。

 そういう流れからの、これです。
 「みんな! プリキュアに変身だよ!」

 「君、そしてモノの価値のわからないさもしい一般人にくれてやるくらいなら、すべて潰したほうがマシだ! コレクションはまた買い集めればいい。これも! ヌハハハハ! 宝は渡さない!」
 けっこうに理不尽な物言いですが、日常から逸脱しているというほどではありません。誰にでも当然に立ち塞がりうるありふれた障害です。なにせ他人というものはもともと、自分のなかのモノサシだけでは絶対に計りきれない、とてつもなく理不尽な存在なんですから。
 ならばこれも本来ならプリキュアの力を行使すべき対象ではありません。
 「やっぱりまずはペンを譲ってもらえないかドラムスさんと交渉してみよう」
 たとえば冒頭でえれなが言っていたような、日常の範疇に収まる手段で問題解決の手段を探るべき障害ではあります。まずは自分が非日常の存在になってしまわないことこそが、自分たちの日常を守るということの一番肝心な部分です。

 けれど、ひかるはここでプリキュアの力を行使することに決めたのでした。

ひかるの正義

 「どんな理由があっても、大好きな宇宙を、星座を、星を、地球を奪うなんて、私、イヤだ!」(第11話)
 ひかるは宇宙が大好きです。今はたったそれだけの理由でノットレイダーたちの蛮行に対抗しています。
 ノットレイダーたちにも何か事情があるのかもしれない。もしかして宇宙の星々に守るほどの価値はないのかもしれない。自分より他の誰かのほうがよほど道理を心得ているのかもしれない。今の自分はまだ知らないことだらけ。
 それでも、私が大好きって思うから、私は守るんだ。

 彼女はただ、自分の感情ひとつだけを根拠に、ノットレイダーたちの侵略活動に対抗しています。

 今回の決断もその延長線上。
 「サングラスしてたってわかるよ。あの宝物が大切なものなんだって」
 今話でひかるが戦おうとしたのは本来のプリキュアの敵ではありません。ドラムスです。
 けれど、ひかるにとってはそんなの些細な違いでしかありません。どちらにせよひかるは守りたいと思ったものを守ることにしただけなんですから。
 「だからどうした!」
 他人がどう思おうが関係ありません。
 たとえドラムスの行為に彼なりの理由があったとしても、彼から見れば守るほどの価値がなかったとしても、ひかるにとってはそんなの関係ありません。ひかるの守るものを決めるのは他の誰でもなくひかるなんですから。

 それがはたしてヒーローとして正しいありかたかというと、正直、私は今疑問に思っています。こんな暴論、こんな専横で理不尽な力を行使されるのでは、周りにいる人はたまったもんじゃない。
 ただでさえ自分の行動意図を説明するのがヘタクソなひかるです。今の彼女は人知を越えた天災、台風だとか稲妻みたいなものとそう変わりありません。たまたま今のところは私たちにとってもワルモノだと感じる相手に矛先が向いているだけであって。

 では今の彼女がヒーローらしくない、プリキュアらしくない人物かというと、それも違います。
 「私はフワを、フワを・・・フワを守るー!!」(第1話)
 だって、今私が疑問を感じている彼女のこの性質って、実は第1話の初変身から特に変わっていないんですから。

 ひかるはフワを守るためにプリキュアに変身しました。
 いかなる困難をも無視して。誰の忠告をも振ききって。ただ、目の前で怖がっている友達を守りたいがために。
 これ以上なくヒーローらしい動機です。プリキュアシリーズの定番でもあります。実際、歴代のプリキュアたちもほとんどが似たような動機で初変身を果たしていました。これ以外って、むしろ『キラキラプリキュアアラモード』に多かった自分の信念を守るための変身や、『ふたりはプリキュア』などの自分の意志と連動していない変身くらいじゃなかろうか。
 私はひかるの初変身を見てプリキュアらしいと納得しました。ならばひかるは今もプリキュアです。ひかるのプリキュアらしいところは最初も今も変わっていません。

 私の感覚ではヒーローらしくないと感じている部分こそが、不思議なことに、ヒーローらしさのド定番。

今の正義

 今回、章題に“正義”という言葉を使いました。
 おそらく大多数の人にとっては安易に使うことを好ましく思わない言葉。陳腐すぎてネガティブな語感を纏ってしまっている言葉。そもそも今話の物語に“正義”なんて単語は出てきていないんだから、感想文に混ぜて語ること自体ナンセンスかもしれません。
 けれど、私は今回のひかるの決断に彼女にとっての“正義”を感じたので、この言葉を使うことにしました。

 今どき“正義”と聞いて、誰にとっても絶対に正しい普遍の概念だと考える人なんてそうそういないでしょう。アニメで、マンガで、小説で、映画で、あるいは社会問題に関する種々の言論のなかで、私たちは子どものころから「そんな都合のいいものなんてない」と、イヤってほど教え込まれてきました。
 実際、自分の目で世のなかを見ても普遍の正義なんて無いと感じられます。むしろ頭で考えてそもそもそんなものあるべきじゃないとすら思うことがあります。

 ここでいうひかるの“正義”とはそういうものです。
 彼女にとっては正しいこと。他の人にとってはもしかしたら正しくないかもしれない、一方で正しいと感じる人もなかにはいるかもしれない。そんなふわふわしたつかみどころのない価値観。

 彼女は以前、そういったものの存在に大いに苦しみました。
 「宇宙行ったり、ララたちと一緒にいたから、私、はしゃいでたかも。新しい友達ができて、宇宙にも行けて、とってもキラヤバー!な毎日で。みなみじゅうじ座――サザンクロスは天文台からは見えないけど、宇宙なら見えるかなって、みんなを誘ったの。でも、そのせいで・・・」(第11話)
 自分がきっと良いことだと信じていた行いが裏目に出て、失敗して、みんなに迷惑までかけて。それで、これからどうしたらいいかわからなくなっちゃったことがありました。
 「星にはその星の良さがある! 厳しい星だけど、厳しいからこそきれいなの!」
 「ぬくぬくとした環境で生きるお前が知ったふうな口を!」
(第10話)
 「乗っ取るって、住んでる人たちのこと考えないの!?」
 「だからあんたはお子ちゃまなのよ。何もわかってないくせに。さっきの言葉、そっくり返すわ!」
(第11話)
 自分が当然に正しいと信じていた価値観を否定されて、言い返せなくなったこともありました。

 これを乗り越えるために選び取ったのが今の彼女の正義。
 「旅人はね、サザンクロスを見ながら遠くで待つ大切な人や、新たな大陸を思い描いたんだ。サザンクロスは人々に進む力を――イマジネーションをくれる星座なんだよ」(第11話)
 もっと自分を信じてみることにしました。間違うこともあるかもしれないけど、自分と違う考えかたもあるかもしれないけど。それはとても怖いことだけれど――。それで足をすくめてしまうのは、もっと恐ろしいことだから。

 「スターの想像力のおかげで、私、プリキュアになれたルン!」
 「スターが、ひかるがいなければ、私はみなさんと楽しくお話しすることもありませんでした!」
 「ひかるのイマジネーションはね、みんなを思って、結びつけてくれるんだ。みんなを新しい世界に連れて行ってくれるんだよ!」
(第11話)
 誰よりも前を歩み、そのありかたをもって誰かの手本になれる人。
 ヒーロー。

 ひかるのありかたは誰にとっても正しいものとは限らないでしょうが、それでも彼女はひとつの正義を持って前に進みつづけることをもって、確かにヒーローです。
 もしかしたらまたどこかで失敗するかもしれません。誰かを困らせてしまうかもしれません。けれど、正義ってもともとそういうもの。みんなそれぞれ違うもの。
 そんなどうしようもないことを心配しているよりまずは、前へ。

 何を長々と、しかもどちらかというと第11話の内容に多く触れて語っているのかといえば、ブルーキャットのことです。
 「悪いけど、任せられないわ。信じられるのは自分だけなんで」
 彼女もひかると同じように自分で決めたこと最優先で行動する子ですが、ひとつだけ明確に違うところがあります。
 ひかるは自分が間違うことがある、自分の他にも別の正しさがあることを知ったうえで、それでも自分の気持ちを優先する子です。
 一方でブルーキャットはそもそも自分以外を信用していないそうです。周りが間違っていると思うから自分だけを信じていられるわけですね。

 まあ、たしかに。
 リーダーシップを取ってひかるたちをうまく使い、数々のトラップを突破してみせた彼女の手腕はみごとなものでした。彼女の指示なしでひかるたちはドラムスとのゲームに勝つことはできなかったでしょう。
 「プルンス!」
 「・・・え?」

 一刻も早くドラムスの手からリモコンを奪わなくてはならない、という肝心のときに限ってとっさに動いてくれない愚鈍な他人。けれど初めから大して期待していない彼女はそんな場合でも次善策を取ることができます。誰より自分が一番正しいことができるって確信しているから。

 ・・・けれど。
 もし自分の判断がどこかでどうしようもなく間違ってしまうことがあったなら、そのとき彼女はどうするつもりなんでしょうね?

 ひかるの場合は自分が間違う可能性を知っています。今の自分の正義以外にいろんな正義があることを知っています。
 けれど、ブルーキャットの正義は、今彼女が持つひとつきりしかないんです。

 (・・・というわけで、気がついたら私のひかるへの評価が昨日書いたコメント返しから180度変わっていた不思議)

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    コメント

    1. ピンク より:

      私はブルーキャットを「実は自分すら信用できない子」と捉えました。

      ケルベロスが接近してもまだララたちに指示を飛ばす余裕があったのに、お宝を壊されかけた時プリキュアが対抗するまで何もできなかったのが気になったんです。
      あれだけ「目的のためなら手段を選ばない」を体現したようなキャラクターとして行動してたのに。
      ぱっと見通り強気な性格であれば、戦えなくてもせめて大声で叫ぶくらい造作もないだろうに。

      なんて、ただの考えすぎならいいんですけどね。

      おまけとして、自分を信用できない理由も併せて推察してます。
      故郷(惑星レインボー?)で外見的特徴が周りと違うとかで迫害された、という超絶後ろ暗いものですw
      「シルクハットの下が猫耳付き(希望的観測)」「今のところ、人間と動物を足して割った外見のキャラがブルーキャット以外にいない」という決め手に欠けた前提付きになりますが。

      • ピンク より:

        送信したあと気づきましたが、ドラムスに化けた時シニヨンが見えてましたね。
        あれが外見的特徴なら最後の予想は見事はずれてるかも……?

        そして今回言及されたのに猫尻尾を見落としてました。

      • 疲ぃ より:

         他人を頼るのがニガテな人ってとっさに叫べないものですよ。いえまあ、私のことなんですが。
         周りに助けを求めようって発想がないと大声で周りに伝えるという習慣がそもそも身につかなくて、むしろ大声によって自分の弱みを教えてしまうことへの抵抗感(ムダなプライド高さ)が声を反射的に引っ込めてしまうというか。社会に出てから困ったので意識的に周りを頼る習慣を身につけようと心がけているんですが、子どものころから身に染みついた反射行動ばかりはどうにも根深くてなんとも・・・。
         (↑ここまで自分語り)

         あの子は自分が信用できないというより、本当の自分が自分でもわからなくなってしまったんだと思います。
         今話ラスト、強気な高笑いに反してサングラスの奥では妙に寂しそうな瞳をしていたチグハグ。あれは周りに対して自分を隠そうとしているんじゃなくて、もはや自分にすら自分らしさを表現できなくなっているということだと思うんですよね。そういえばマオの歌の歌詞もそんな感じでした。(個人的にはそれならそれで怪盗ブルーキャットを“自分らしさ”として自己承認してもいいのに、とも思うのですが)

         ところで昨日プリキュアとしての姿が発表になって、猫耳付きなのが確定的に観測されましたね。おめでとうございます。(コメント返しに時間かかりすぎ)

    2. 東堂伊豆守 より:

      そもそも……プリキュアが”傲慢”ではなかったことなんてありましたっけ?
      あくまでも”日常”を守るヒーロー。日常を侵略しにきた”非日常”を撃退するためにのみ”力”を行使するヒーロー。ーーーーーーこれって今どき流行りの呼び方をするなら「ワタシ達ファースト」ってことですよね。「自分達の幸せだけ考えていればそれでいい」「ワタシ達の日常の外で”他の人の日常”がどうなっていようと知ったこっちゃない」。考えてみれば初代コンビの決め台詞「闇の世界のしもべたちよ。とっととお家へ帰りなさい」てのも、「アナタ達が他所でどんな悪事を働こうと、ワタシ達は一切関知しない」宣言とも言えるわけで、およそ特別な”力”を手に入れたヒーローには相応しくないエゴイズムではある。
      まあ、そうは言ってもこれまでプリキュアが”日常生活圏専守防衛”に徹していたお陰で、プリキュアシリーズは「年端もいかない少女を職業戦士化させずに済んだ」「自己犠牲を美化させずに済ませられた」わけではありますし、もしこの先の展開で星奈ひかるの傲慢さ(エゴイズム)を漂白させ”全宇宙を救う大義”に目覚めさせた場合、いよいよひかるが”幸福の王子”だの”メサイア”だのに成り上がって(成り下がって?)しまいかねない怖さは感じるんですが……いや、あるいは、シリーズ16作にして遂に”全宇宙の原罪を背負ったプリキュアの昇天”にまで踏み込むつもりなのか……?!
      ……さすがにこれは大仰に過ぎるとは思いますが、ただ、今作のプリキュアチームって”個人の幸福追及”より”全体の奉仕者たること”をより強く志向していることは確かであるように思われます。第一メンバー6人中4人まで(フワ、プルンス、ララ、香久矢まどか)が公務員(もしくは公務員に準ずる者)出身で、更にプリキュアの立ち位置自体が「スタープリンセスの代理人・フワによって任命されたスターパレスの衛兵」と非常に”公僕”度合いが強いチームなんですよね。
      と、ここで……「信じられるのは自分だけ」と言い張る怪盗ブルーキャットさんについての憶測なんですが……。
      彼女は”お上”とか”お役人”とかに対して猛烈な不信感・嫌悪感を持っていて、”自力救済”以外に”理不尽”に立ち向かう手段はない、と確信してしまった人間なのかもしれません。「惑星レインボーが災厄に見舞われたとき、スターパレスは何をしてくれた?星空連合は何をしてくれた?……何もしてくれなかったじゃないか!!」「もうお上なんか信じない。お役人なんか当てにしない。ワタシが自力でレインボーを救ってやる!」という具合に。
      そう考えると、プリキュアチームの中で真っ先にブルーキャットとの間を詰めてきたのが”民間人”コンビ・星奈ひかると天宮えれなであったのは必然の展開だったのかもしれない、んですが、果たして……。

      • 匿名 より:

        元々、プリキュアは「戦士」なので公僕度は高いです。異国や異世界、あるいはこの世界を守る・救済するために現れるのがプリキュアです。

        それがあまり意識されないのは、変身者が「プリキュアという立場」を無視して、自分の意思で自分の目的のために戦うからです。

        分かりやすいのは魔法使いプリキュアでしょうか。その世界のプリキュアの役割は魔法界とナシマホウ界をつなぐことです。しかし、みらいとリコはプリキュアの力を楽しい日常を邪魔する厄介者を追い払う手段ぐらいにしか考えてません。

        このプリキュア本来の役目と変身者の意識のズレこそがプリキュアがプリキュアたる由縁ですね。

        今作も初変身時の動機はフワを守りたいというものなので、そこは変わりませんね。ただ、最近はフワが狙われることがないのでその辺りの動機付けは弱くなってますが。

        • 疲ぃ より:

           私と私のブログは“客観的に見てその人がどういう存在なのか”は基本的に問題にせず、あくまで“本人は自分をどう思っているのか”を基準に考えることにしています。私たちの目は自分の頭部にしかついておらず、このため、私たちはそもそも主観的にしかものごとを観測できないからです。
           だから“変身者が「プリキュアという立場」を無視して、自分の意思で自分の目的のために戦う”というのなら、おっしゃるとおり、それこそがプリキュアらしさ。(なので、もし今後自分の都合を捨てて誰かのためだけに戦うプリキュアが現れたら“プリキュアらしさ”という概念は変化するかもしれません / 今のところそういう未来は来ないと思っていますが)

           ノットレイダーたちって第3話でフワ狙いを早々に打ち切っているんですよね。それでもひかるたちはフワを守るために変身したし、その後も誰か(何か)を守るために戦いつづけています。客観的な状況関係なしに主観的な動機でもって戦えています。
           そういうところ、プリキュアって面白いですよね。

      • 疲ぃ より:

         プリキュアが傲慢じゃなかったこと? ないですよ。(断言)
         自分たちの都合で自分たちの日常を守るために戦うのがプリキュアです。むしろ自分の都合以外のために戦うほうが不誠実だとすら私は思います。おっしゃるとおりこの枠を踏み越えてしまうとヒーローに自己犠牲の色が出てしまいますし、現実にも、たとえば政治なんかで為政者が自分の都合を考えなくなると大義に振りまわされて本当に必要な施策ができなくなってしまうものです。(だから現代の選挙制度では地方ブロックごとに票をとりまとめてそれぞれの利益誘導を推進しているわけで)

         ひかるの傲慢さはたぶん漂白しようにも漂白できないと思いますよ。あれはもう性根とも呼ぶべき根源的な“彼女らしさ”です。彼女が改めるべきなのは傲慢さじゃなくて、むしろその自分らしさを周囲に理解してもらうための協調性、あるいは表現力です。

    3. 匿名 より:

      自分は「プリキュアの敵」はもうひとつあると考えてます。

      それは「世の中の理不尽」です。上手く説明できませんが、初代は理不尽な目に遭いながら理不尽な要求と戦いました。キリヤはドツクゾーン出身というだけで助けることが出来ませんでした。全てを呑み込む力を持っていたジャアクキングは自身すら蝕んでいましたが、その命は九条ひかるという形で生き残りました。ハピネスチャージとHugっと!のラスボスは理不尽な目に遭い絶望し、本人すら理不尽を押し付ける側になってしまった存在です。

      今回、ドラムスのやろうとした「貧しい人に宝物を渡すぐらいなら壊してしまおう」というのは直接的にはブルーキャットの盗みとは関係ありませんし、宝物自体に罪があるわけでもありません。理不尽です。だから、そんな理不尽をはね除けるためにプリキュアの力を行使する決断をした。そういう解釈もできます。

      まあ、比重としてはブルーキャットの笑顔を守ることの方が大きそうですが、ひかる自体、一様には見えない多面的な人物なので。

      • 疲ぃ より:

         理不尽は世界のあらゆるところに存在していて、たしかにプリキュアは『ふたりはプリキュア』の時代から一貫してその理不尽に抗ってきました。
         ただ、これまでこの概念が擬人化するときは敵組織の人物や怪物としての姿を取るのが定番だったので、今回ドラムスとして現れたのは珍しい展開だなというのがそもそもの話です。
         今話の私の感想文は、どうしてこんな珍しい展開を描写したのかな?という疑問からスタートして、「今話はこの理不尽をただすことを主題にしているのではなく、この理不尽と向きあったときのひかるやブルーキャットの心の問題にフォーカスしているんだな」と解釈したものですね。今回ひかるはドラムスの理不尽さを改めさせようとまでは考えず、単純に自分たちにとって大切な宝石を守るためだけに戦いました。

        • 匿名 より:

          そういえば、小説『ふたりはプリキュア』で雪城さなえは「その人を変えようとしちゃいけない。」と言ってましたね。

          • 疲ぃ より:

             実は小説版はまだ全部で2作しか読んでいなくて、『ふたりはプリキュア』は未読なのですが、このアニメなんか初変身からして自分たちの身を守るためにやむなくって感じで変身しましたからね。最近のシリーズに多い“妖精を助けるため”とか“友達を助けるため”ですらない。その後もしばらく(特に美墨なぎさは)変身したがらなくて、それでも敵に理不尽に日常を壊されるから仕方なく変身していました。一方雪城ほのかの方はなぎさより順応性が高くてすんなりプリキュアを受け入れていましたが、それができたのも彼女が周りに振りまわされない独特の世界観の持ち主だったからでした。
             彼女たちは自分たちの日常を守るために戦いました。だから彼女たちの敵はあくまで日常を乱す外敵(非日常の怪物)でしかなくて、その戦い自体が彼女たちの考えを変えることはありませんでした。

             ふたりがケンカしたときもお互いが譲歩するかたちで和解したわけではありませんでしたね。むしろ当初はそれを期待して失敗していました。相手に変わることを求めず、単純にお互い自分を知ってもらうことで仲直りしていました。
             『ふたりはプリキュア』の物語はなぎさとほのかのふたりの関係が主軸で、結局のところその関係性においてそれぞれ変わっていきはするんですけどね。お互いに相手が変わることを求めるのではなく、お互いを知ることで自分が変わりたいと思う自発的な意志によって、ふたりは成長していきました。

             あらゆる意味で彼女たちは日常の守り手であり、彼女たちの心は理不尽な日常侵犯にけっして振りまわされることなく、彼女たちが変わるときはいつだって自分らしい日常のただなかでした。

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