スタートゥインクルプリキュア 第18話感想 私は知っている。私の全人生をもって知っている。

好きなものが人と違っていたっていいじゃない。ひかるが好きなものはひかるだけの宝物なのよ。

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→ TVerアーカイブ配信(放送後1週間限定)

(主観的)あらすじ

 ひかるのお母さんのマンガが人気マンガ誌に掲載されることになりました。うまくいけば連載につながるかもしれないと大はしゃぎです。がんばるお母さんを手伝うため、ひかるもみんなを連れてアシスタントすることにしました。

 お母さんが得意なのはSFやファンタジー作品。けれどそれらは今回の雑誌の読者層の好みではないそうです。担当編集に勧められて、今回は医療系イケメン恋愛ものを描くことになりました。すべては新連載を勝ち取るため。
 ひかるはそのやりとりを見て少しだけ残念な気持ちになりました。ひかるは小さいころからお母さんの描くマンガが大好きでした。お母さん手づくりのマンガを友達にバカにされたとき、お母さんに「好きなものが人と違っていてもいい」と言ってもらえた想い出とセットで。だから、ちょっとだけ残念でした。

 悲しいことにお母さんのマンガは連載とはなりませんでした。描き慣れない題材の評判は芳しくなく、なかにはお母さんの才能を疑う声まで。好きなだけではどんなに努力してもマンガ家を続けられない、現実の厳しさを痛感します。自分のイマジネーションに自信が持てなくなります。
 けれど、それでもひかるはお母さんのマンガが大好きでした。小さいころにもらった手づくりマンガを今も大切にしていました。そんなひかるの嬉しそうな顔を見て、お母さんはあのとき自分が言った言葉を思い出すのでした。

 お母さんはもう一度連載を目指してがんばることにしました。今度は自分らしいマンガ作品で。
 担当編集も今回のことを反省して、売れスジを意識するより自分がお母さんの作品を面白いと思った感性を大切にすると約束してくれるのでした。

 私は裏方大好き人間なので、こういうときは基本的に裏方(今回は編集者)の味方です。
 マンガはマンガ家ひとりで描くものではありません。マンガ家が自分の作品に全力で集中できるよう、トレンドを読んだり雑誌のカラーについて助言したりするのは編集者の大切な仕事です。「好きなだけではマンガは描けない」というのは現実にそのとおりかもしれませんが、マンガ家がそういうことで悩まずに済むよう、代わりに悩んで考えて支えてあげるために編集者がいるんです。

 一昔前、『鋼の錬金術師』という大人気マンガ作品がありました。
 無名の新人の連載作品ながら当初から大々的にメディアミックスが企画され、連載開始からわずか2年でアニメだゲームだと優れた派生作品が次々制作された作品です。元々の原作マンガの面白さだけでなく、これら派生作品の評判も相まって、この作品の人気は当時不動のものとなりました。
 ところで、このマンガ初期のメディアミックス作品群は原作と少々雰囲気の異なるものばかりでした。原作はいかにも少年マンガらしい、熱くて明るいムードを持った作品なのですが、アニメやゲームではやたらとダークで重苦しい表現がなされていたんですよね。そもそも原作マンガ初掲載時の雑誌の煽り文からして「本格ダークファンタジー」とか書いてましたし。実際初期の数話だけなら原作もダークファンタジーやってましたし。
 たぶん、編集者としてはこのマンガをダークファンタジー作品として売り出すつもりだったんだと思います。マンガ家さん本来の作風がそうじゃなかったというだけで。その齟齬が原作とメディアミックスとのギャップとして出たんだと(私は)思っています。

 で、この作品の場合は結果的にどちらもヒットしたんですよ。たぶん、製作しさえすればどちらの路線でも継続して売れるポテンシャルがありました。
 けれどこの作品の場合は作品群の人気が絶対的なものになった時点で、後発のメディアミックス作品の雰囲気を原作に近い、熱くて明るいものに統一したんですよね。原作マンガの作風も「初期の苦い後味どこ行った?」って感じでどんどん変わっていきました。
 世間の潮流を見てマンガ家に提案を出すのが編集者なら、マンガ家の適性を見てその売りかたを考えるのも編集者です。もちろん失敗することだってありますが、総じて編集者はマンガ家の味方になるための仕事です。マンガ家のような個人事業主ですら、そのイマジネーションをたったひとりでかたちにしなければならないとか、そんな孤独な話ばかりではありません。
 私たちの生きるこの現実は冷たく厳しいけれど、その一方で意外と優しく暖かかったりもします。

 ひかるのお母さんはかつてひかるに向けて優しい言葉を贈りました。その言葉はひかるを救い、ひかるの心のなかで大切に守られ、育まれ、お母さんが辛い気持ちになったとき、今度はひかるからお母さんへと返されました。
 自分の好きなものに打ち込んでいるとどうしてもひとりでいることが多くなりがちですが、それでも、私たちはひとりではありません。あなたの思い描くものを好きになってくれて、がんばるあなたを支えたいと思ってくれる誰かはきっとどこかにいます。

 ねえ、ブルーキャット。

ダイスキに想い出を添えて

 「ひかる。好きなものが人と違っていたっていいじゃない。ひかるが好きなものはひかるだけの宝物なのよ。だから大事にしてね」

 ひかるはお母さんの描いてくれたマンガが昔から大好きでした。
 今回描くことになった恋愛ものとは違う、子ども向けの優しいタッチで描かれたファンタジー作品。ひかるが宇宙のことを好きになったのには、遼じい(や、もしかしたらお父さん)だけではなく、お母さんが描く空想の世界の影響もあったのかもしれません。
 けれど、ひかるがお母さんのマンガを好きになったのは、それがひかる好みのファンタジーやSFだったからというだけではありません。

 「ウチの雑誌で売れるのはズバリ! イケメン! 恋愛! 医療もの!」
 「私そういうジャンルニガテだからなあ・・・」
 「――そうだ!」
 今のひかるは宇宙のことが大好きで、しばしばそっちの方向に思考を引きずられもしますが、それでもお母さんが別ジャンルのマンガを描くことには反対しません。むしろアイディア出しに協力しようとします。もちろんアシスタントとしても精一杯手伝います。
 そちらは構わないんです。いつも以上の努力をしてでも連載を目指すお母さんのことは応援しています。

 ただ、それとは違うことでちょっと悲しくなりました。
 「タイトルはズバリ、『恋せよイケメンドクター』! 絶対にヒットしますよ!」
 「・・・わかりました。これで描いてみます。“売れる”マンガを描いて、必ず連載を勝ち取ってみせます!」
 お母さん本来の作風を「売れない」と否定して、全く別のストーリーを提案する編集者の熱弁。
 「売れる」にアクセントを置いて、マンガを描くことより連載を勝ち取ることに重きを置くお母さんの決意。
 「連載のかかった大事なマンガだもん。絶対いい作品に仕上げてみせるわ」
 そして、疲れているのにムリしてがんばっているお母さんの背中。
 それが、悲しくなりました。

 「ひかる。好きなものが人と違っていたっていいじゃない。ひかるが好きなものはひかるだけの宝物なのよ。だから大事にしてね」
 だって、お母さんは昔「好きなものを大事にしなさい」と教えてくれたからです。「好きなものが人と違っていたっていい」とも。
 その教えは当時のひかるの心を救いました。先日大きな挫折をしてしまったときも、友達が「ひかるのイマジネーションが好きだ」と言って支えてくれました。
 ひかるはお母さんのこの教えが正しいことを知っています。お母さんと、そして友達が証明してくれました。今のひかるが元気に立てているのは、お母さんのくれた優しい言葉が本当に正しかったからです。
 なのに、今のお母さんはそうじゃないように見えます。
 だから悲しくなりました。

 かつて、ひかると同じように幼いころ受け取った言葉を大切にしつづけた女の子がいました。
 「いちか。いつも笑顔でいなさい。いちかが泣いたらね、パパもママも友達も、みんな悲しくなるの。いちかが笑ったらみんなも楽しくなるわ。だから、いつも笑顔でいなさい」(『キラキラプリキュアアラモード』第31話)
 元気と笑顔のプリキュア・宇佐美いちか。彼女がいつも笑顔でいたのは、お母さんがそうするように教えてくれたからでした。笑顔でいればみんなが楽しくなる。そして自分も楽しくなれる。だから、どんなに辛いときもつとめて笑顔でいるよう心がけていました。
 「だって、だってさ。お母さんが教えてくれたんだよ。私が笑顔でいればみんなも笑ってくれる。みんなが笑ってくれると私も笑顔になるんだ」(『キラキラプリキュアアラモード』第31話)
 幼いころに教わったその言葉を彼女はまだ正しく理解できてなくて、ときに呪詛のごとく自分を苦しめてしまうこともありましたが、それでも彼女はこの魔法の言葉を大切に胸に抱きつづけました。ときどき苦しむことがあっても、それを差し引いて余りあるくらい、この言葉は彼女の人生を元気と笑顔とでキラキラに彩ってくれたからです。『キラキラプリキュアアラモード』はそういう物語でした。
 宇佐美いちかは知っています。彼女のこれまで14年間の人生をもって、お母さんのくれた言葉がたしかに正しいものだったって、いろんな経験を通して知っています。

 先ほどもしれっと書いたように、ひかるにもお母さんの言葉が正しかったんだって確認できる出来事が最近ありました。
 「ねえ。このへんにかわいい飾りとかあったらいいなあ」
 「あの。このあたりに違う色を足してみるのはいかがでしょう」
 「私、こんなロケット――乗ってみたいルン!」(第9話)
 みんなヘトヘトに疲れきっていたのに、ひかるのイマジネーションに乗っかることでみんな楽しく過ごせた日。
 「スターは遠く離れた宇宙からフワを呼んだルン。イマジネーションの力で。すごい想像力ルン。スターの想像力のおかげで、私、プリキュアになれたルン!」
 「スターが、ひかるがいなければ、私はみなさんと楽しくお話しすることもありませんでした!」
 「ひかるのイマジネーションはね、みんなを思って、結びつけてくれるんだ。みんなを新しい世界に連れて行ってくれるんだよ!」(第11話)
 自分の思いつきのせいでみんなに迷惑をかけてしまったと思っていたのに、そのみんながひかるのイマジネーションを大好きだと言ってくれた日。

 お母さんの言葉は本当に正しかったんだって確認できる出来事はひかるの人生のなかでいくつもありました。おそらく私たちが観ていないところでもいくつもあったことでしょう。だって、ひかるはこれまでひたすらずっと、お母さんの教えてくれたことを守りつづけてきたんですから。
 試行期間は無限大。試行回数も無限大。だから、ひかるは14年間の自分の全人生をもって、お母さんの教えてくれたことが正しいって知っています。
 「私、想像してたんだ。宇宙を。ずっと。ずっと。ずうっと。想像してたんだ。だから大好きなんだ。宇宙のこと、わかってないかもしれない。けど私、大、大、大好きなんだ!」(第11話)
 幼いころに教わったことって、何気ない言葉でも大きく人生を変えてしまうことがあります。

 だから、悲しくなりました。
 当のお母さんに自分の全部を否定されてしまったような気がして。

タイムカプセル

 「みんなに手伝ってもらって、あんなにがんばったのに・・・」
 ひかるのお母さんは失敗しました。
 それも、みんなにたくさん迷惑をかけておきながら失敗してしまいました。
 どこかで見たような無様な失敗っぷり。

 こういうとき、ひかるならどうすればいいのか知っています。なにせ最近経験したばかりです。
 「私、お母さんのマンガ好きだよ。お母さんの描くファンタジー!」
 応援してあげたらいい。好きって言ってあげて、挫けそうな心を支えてあげたらいい。そうして、また自分の好きなもののためにがんばってもらえれば。
 けれど、ひかるのその言葉はお母さんには届きません。
 「好きってだけじゃダメ! 連載が持てなきゃマンガ家は続けられないのよ!」
 お母さんはひかると違う人生を歩んでいて、ひかるとは違う挫折を経験してきて、たとえ親子といえど、あくまでお母さんとひかるとは別の人間だからです。

 いいえ。

 ひかるとお母さんとは別の人間ですが、だからといって言葉が届かないだなんてことはありません。
 少なくともひかるにはお母さんの言葉が届いていました。
 「お母さん。私はお母さんのマンガ大好きだよ。たくさんのイマジネーションが詰まってて、ドキドキハラハラの連続で、主人公はどんな逆境にも負けない! そんなお母さんのマンガに私は勇気をもらったんだ!」
 かつて自分の好きなものを貶されてひとり泣いていた女の子は、今、胸を張って自分の大好きなものを誇れるようになりました。
 「マンガだって? アハハ! そんな落書きのために必死になるなんて、あんたはお子ちゃまね!」
 「誰に何て言われても好きなものは好き!」
 かつて自分の好きなものを貶されてひとり泣いていた女の子は、今、大好きなものをバカにされても毅然として私は私だと言い張れるようになりました。
 「スター!」
 かつて自分の好きなものを貶されてひとり泣いていた女の子は、そうして今、大好きなものを共有できる友達と巡り会いました。
 星奈ひかるはかつてお母さんが教えてくれた言葉どおりに、ガンコで、傲慢で、誰よりも自分の大好きなものにまっすぐ真摯な、ステキな女の子に成長することができました。

 ひかるが今の星奈ひかるになれたのは、彼女ひとりの独力ではありません。
 お母さんのおかげだったり、友達のおかげだったり、遼じいのおかげだったり、いろんな人の影響を受けながらひかるは大きく成長してきました。
 あらゆる人はみんなそれぞれ別の人間ですが、だからといって通じあえないわけではありません。星奈ひかるの全人生をもってそのことを証明します。今のひかるがある理由のひとつは、間違いなくあのときお母さんがくれた言葉のおかげでした。

 「お母さん。――ありがとう」

 だから、ひかるの言葉はちゃんとお母さんに届きます。
 ひかるという子の存在自体が、お母さんのこれまで全部のことを肯定してくれます。
 彼女は自分の大好きなものにまっすぐ真摯なまま健やかに大きくなっていて、そしてその好きなもののひとつは、お母さんの描くマンガだから。
 「よし、決めた! 私もう一度連載目指す! 自分の好きなものはその人だけの宝物だもん!」
 雑誌の向こうにいる読者たちはお母さんにとって他人ですが、それでもきっといつかこの思いは届くでしょう。
 だって、お母さんの言葉は確かにひかるに届いたんだから。
 だって、ひかるの言葉は確かにお母さんに届いたんだから。

 「メチャメチャ面白いじゃないですか! どうして早くこれを描かなかったんですか!」
 「これからは自分が面白いって気持ちをもっと大事にします。先生! 連載目指してがんばりましょうね!」
 お母さんとひかるの全人生をもって、この思いが正しいことを保障します。

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