あの森へ戻り、敵を討ち、小童どもを助ける。それが、おぬしの願いじゃろう?
(主観的)あらすじ
生徒たちを守るために戦い、けれど大きな戦禍に飲み込まれ、何も守れぬまま全てを失いました。
なお、ここまででスカウトしたのはドロテア、マリアンヌ、イグナーツ、ベルナデッタ、ハンネマン、マヌエラ、アロイス、カトリーヌ、シャミア、ツィリルでした。
残る他学級の生徒たちは今後敵に回り、殺しあうことになるのでしょう。
感想
最後の瞬間、シンファニカがとっさに守ろうとしたのは大司教・レアでした。愛する生徒たちではなく。
正直にいうならいけ好かない人でした。口では博愛を謳いつつ、腹の中に私的な願望を隠しているのが不愉快でした。人命より信仰を重要視する価値観が気に入りませんでした。この人は信用したくないと心から思いました。
シンファニカの選択はゲームプレイヤーたる私の意志ではありませんでしたが、仮に私に選択権が委ねられたとしても、おそらく私も同じ判断をしたでしょう。
人が死ぬのを見るのは悲しいことです。
名前も知らない敵兵たちを何百となぎ払っておいて今さらだけど。
そしてその判断の結果、レアも生徒たちもどちらも守れないまま倒れ伏すことになってしまうのだけれど。
ここのところ、ディミトリの様子が明らかにおかしくなっていました。
ダスカーの悲劇を主導したひとりが義姉だと悟って以降のことです。「殺す、殺す」と醜い妄執を隠さなくなり、傷つくことを厭わず殺しあいに臨みたがり、シンファニカの諫める声も届かなくなっていました。
ディミトリの一番近くに仕えるドゥドゥーは動じずいつもどおり付き従っていました。
「殿下はエーデルガルトの首を望まれた。俺にとって・・・戦う理由はそれで充分だ」
この子ならそう言うだろうと納得しつつ、それでも「それでいいのか?」と問うてみると、彼はそう言うだろうと容易に予想できた言葉を重ねました。
「良いも悪いも、ない。殿下の憎悪は、俺の憎悪だ」
・・・けれどその言葉と裏腹、彼はシンファニカが「それでいいのか?」と問うてきたことに、どこか嬉しそうにもしていたのでした。
普段からディミトリのことを“獣”と呼んでいたフェリクスは、彼の変貌を見てもさほど動じていませんでした。
「・・・ようやく本当の顔を見せたな、ヤツは。かつて俺が見たあいつと同じ・・・、殺しと血を好む、獣の顔を」
フェリクスにしてみれば、むしろ普段のディミトリの方こそ羊の皮を被っていただけ。何も驚くことはありません。
けれど彼は以前こうも言っていました。
「おい・・・。悪いことは言わん。早くあの猪を檻にでも繋いでおけ。上の空なのか知らんが、剣も精彩を欠く。あのまま放っておけば死にかねんぞ」
妄執に囚われた姿の方が本来のディミトリだと言いつつ、けれどこのありかたが本人にとって望ましいものだとは彼も思っていないようでした。
いつも飄々とした顔で、しかし冷静に周りを見ているシルヴァンは思考を働かせます。
「・・・あいつが4年前の事件をずっと引きずってるのは、わかってたさ。仇を討ちたがるのも、まあ・・・わかる。目の前で家族も仲間も皆殺しにされたんだ。けど・・・、本当にそれだけだと思うか?」
ディミトリが本格的におかしくなっていったのは仇の正体がエーデルガルトだと知ってからでした。
シルヴァンは彼が義姉に並ならぬ好意を抱いていたのを知っていました。子どもながらに彼女のため贈るべきものを一生懸命考え、その想い出を恥ずかしさ半分、今も大切にしていたんです。「好きな女に短剣を贈った男」として今もからかうネタとして通用するほどに。
そんな彼がエーデルガルトに対して単純に憎悪だけを抱いているわけがありません。ディミトリはここのところあまり寝付けていないようでした。彼女が今もあの短剣を懐に抱いていたことを知って以来。
幼馴染みのひとりでありながら、イングリットだけは他の生徒たちと一緒に、ディミトリの豹変に困惑していました。彼女はダスカーの悲劇当時、許婚を亡くしてふさぎ込んでいたためです。彼女はそのころのディミトリを直接知りません。
けれど、そんな彼女の視点だからこそ見えてくるものもあります。
「・・・お前は、あんな痛々しい末路を理想に掲げようというのか」
「痛々しい、末路・・・? いくら殿下のお言葉でも、聞き捨てなりません。グレンは、あなたのために命を捧げた。なのに、そのような言いかたは・・・!」
「お前はあいつの最期を見ていない。・・・だから、そんなことが言える」
ディミトリにとって4年前に体験したことは復讐心として今の彼を支えるものでありながら、同時にどうしようもなく呪わしい記憶でもありました。
イングリットのように愛の深い娘なら、どんなことがあっても愛すべき人を純粋に愛しつづけられるかもしれません。けれど、ディミトリにとって一途な思いを強いられることは重荷でした。
そんな彼が復讐ひとつに寄って生きつづけるのは、どんなにか辛い日々だったでしょう・・・。
シンファニカは、そんなディミトリの最も心かき乱されている時期に、そして周りの生徒たちも彼のことを心配しながらどうしようもできずにいた時期に、――姿を消してしまいました。
身の程に余る多くのものを守ろうとして、一番大切なものひとつすら守りきれませんでした。
レアを守ろうとしたあの選択は誤りだったのでしょうか。
けれど、彼女なら、私なら、きっと何度やりなおしても同じ選択を繰り返したでしょう。
では、シンファニカは教師として不適格だったのでしょうか?
その答えは、今はまだ、出ません。
教師としてあまりにも大きな悔恨を抱えながら、物語は5年後へと時を進めます。
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