生徒役:電脳少女シロ、ヤマトイオリ、神楽すず
イオリさんいいですよ、先。
ずっと待ってたと思う。
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↓レジュメがガチなことで知られる私立ガリベン大学↓
出演バーチャルYouTuber
電脳少女シロ
「宇宙船に吸引力の変わらない掃除機をつけたらいいんじゃないかなって」
今回は他のふたりが絶対ウキウキで身を乗り出してくる話題なので、一歩引いたお姉さんポジションから場回しに徹するのかな?と思いきや、こっちはこっちで女の子目線からガッついてきた電脳自由人。そうか。そのポジションが空いていたか。料理上手なのはなにも食いしん坊だからというだけではないのです。
やたらと語録が豊富、そしてやたらと逸話も豊富。というのも彼女は多趣味・多芸なうえ、やたらと柔軟な発想力も持ちあわせ、ついでに傍若無人な性格なため、自由にさせると大抵常人に理解できない奇矯な言動をしはじめるからです。彼女の動画を見てなんともいえない気持ちになったときは「シロちゃんの動画は為になるなあ」と、とりあえず納得しましょう。彼女はあなたが為になることを望んでいます。
まるでアブない人のようですが、そして実際アブない人なのは確かなのですが、こう見えて彼女は共演者をよく見ています。聡明です。共演者の対応力を推し測り、ギリギリ捌ききれる程度のムチャ振りを仕掛けるのです。おかげでいつのまにか人脈の輪がずんどこ広がってきました。タチが悪いったらありゃしない。
ヤマトイオリ
「なんか、あの、5個くらいあるんですけど――」
宇宙からやって来たというのがいつの間にか公式設定として確定しつつある不思議少女。普段から身近な物理現象についての不思議に並々ならぬ好奇心を抱いていて、理解しきれない難しい解説にも諦めず食らいついています。今回の授業では広大な宇宙のスケール感にウキウキするポジションを担当していました。
彼女の人気の秘訣はなんといってもお喋り。誰もが彼女の楽しそうにお喋りしている姿を心待ちにして配信チャンネルに集まってきます。おっとりのんびりした口調から繰り出されるのは「あのねあのね!」でひらめく疾風怒濤のジェットコースター。いやさ、そよ風怒濤。幼児のように純朴な視点から語られる優しい世界の姿は私たちをいつも感動させ、いくら喋っても喋り足りない話題の多さが私たちをニコニコさせます。「ゆっくりハイペース」「性善説の擬人化」「頭お花畑」の異名はダテじゃない。
大人になるにつれて、どこかに何か大切なものを忘れてきてしまったような、なんだかもやーっとした喪失感に覚えはありませんか? それがヤマトイオリのところにあります。いつかのあの日はどこにでもあった、不思議いっぱい大冒険への入口がここにあります。
神楽すず
「たぶんこれはあまり倫理的にはよろしくない答えかもしれないんですけど」
まるでどこぞのガキ大将みたいなエピソードをいくつも持っている精神的男子小学生。強いもの、無骨なもの、大きいものが大好きです。必然、今回の授業でも男の子ロマンのカッコよさひとつひとつにウキウキするポジションを担当していました。
彼女は普通の子です。歌を歌うときは多少トチっても気にせず楽しげに歌いきり、ロボットを操縦するときはまるでアニメ脚本家が書いたような芝居がかったセリフをいつものテンションでサラッと口にします。神楽すずはどこにいても、何をしていても、神楽すずです。たとえテレビ局のスタジオで数百万画素の業務用カメラを向けられていようと、ライブ会場で合計数千ワットのパーライトに照らされていようと、彼女は普通の子であることをけっして手放しません。
どうしても失敗してしまう瞬間はあるでしょう。けれど、もしその次の瞬間にまた立ち上がっていられたら、失敗は大した失敗じゃなくなります。それこそが神楽すず。いっそ人生哲学じみている鋼のクソ度胸を引っさげて、彼女は今日も威風堂々と笑います。
授業構成おさらい(+ 補足事項)
超難問:宇宙の謎を解明せよ!
山岡先生は国立天文台の広報室所属准教授です。もちろん研究者ではあるのですが、どちらかというと広報や教育活動を本業としているかたですね。広報も教育も非常に重要なお仕事です。特に日本は学問に対する国民の関心が薄いので、その民意を反映している研究予算も必然的に少なくされてしまいがちです。ただでさえ宇宙についての学問は理論や数学の話が多くなってしまって小難しく、たとえ画期的な発見であっても私たちがその重要性を理解するのは困難なのに。
興味を持ちましょう。学問する楽しさを知りましょう。山岡先生はどうすれば私たちが楽しく、ワクワクして学問できるのかを日々研究してくれているひとりです。
前回の授業では、それこそ銀河規模の話題が多くて理論面での解説が中心になっていました。そういうスケール感にこそ私たちもロマンを感じているわけですが、せっかくのロマンの前に数字の壁が立ち塞がって、なかなかピンとこない場面も多くありました。
翻って、今回は地球を中心に置いた、比較的距離の近い宇宙についてのお話がメインになりました。それも隕石災害やスペースデブリ問題といった、今すぐにも起こりうる危険について。とにかく宇宙を身近に感じさせることを意識した構成となっていました。
宇宙についての学問に理論や数学が付きまとうのは、研究対象が直接観測できないほど遠くにあることがそもそもの原因です。このくらいのスケール感なら誰でも楽しく興味を持つことができるでしょう。それでいて、地球防衛会議だとかエレクトロダイナミックテザーだとか、男の子ロマンを刺激するワードの数々もしっかり完備。広報室長たる山岡先生の優秀さがわかる授業構成でした。
トピック1:地球に小惑星が衝突するとわかったら?
太陽系には地球軌道のすぐ近くを周回する小惑星が16000個も存在します。計算上は少なくとも向こう100年程度これらの天体が地球に接触することはないとされていますが・・・。もし想定外の事象によってこれらの天体の軌道がズレたら? もしくは太陽系外から未知の岩塊が地球に迫ってきたら?
仮に直径200メートル規模の隕石がアメリカのニューヨークに落下した場合、落下の衝撃は広島原爆のおよそ1000倍、半径15キロメートルがガレキとなって消し飛び、1000万人もの人命が失われるとシミュレートされています。
大規模な隕石災害は、実はまったくありえないとはいいきれない、そして万が一落ちると破滅的な被害をもたらす、地球規模で対策を検討しておくべき問題なんです。
これに対応すべく、プラネタリ-ディフェンスカンファレンスという国際会議がすでに10年以上活動を続けています。↑に書いた16000個の小惑星の存在や、1000万人が死ぬシミュレーションが報告されたのもこの国際会議の成果のひとつです。
「ピンポン。あの。なんかイオリ、このことについて前考えたことがあったんですけど」
「すごいね」
小峠教官、すっかりヤマトイオリへの対応を心得たようです。
「イオリが考えたのは、あの、東京ドームのもっと大きいのを2個つけて、丸にして、地球の周りを東京ドームの大っきいバージョンで覆う」
「アースドームみたいなのをつくるってこと?」
小峠教官、前々からわかってはいましたが、意外とこういう少年漫画みたいなノリ好きよね。東京ドームに対して「地球ドーム」とかじゃなくて、ちゃんとカッコいいネーミングを考えてきよる。
それはさておき、残念ながら現実的には難しいでしょう。地球全体を覆うということは特定の隕石に対する即応の対策じゃなく、前もって普段から設置しておく想定なんだと思いますが、これをつくる予算や資源はいったいどうやって捻出すればいいのか。しかも大事な日光が遮られてしまいますし、そもそも隕石を食い止められるほどの強度なんて今の科学技術では出せませんし。
「えーと、ほい。あれかな。地球を守るナントカ隊みたいなのがあって、その人たちが出動するのかな?」
「あー。地球防衛軍みたいなの、たしかに、いるのかね?」
「ね。いたらカッコいいですけどね」
小峠教官、前々からわかっていましたが(以下略)
まあ、それ専門に組織されている軍隊はさすがに存在しないでしょう。プラネタリ-ディフェンスカンファレンスも2年に1回しか催されていないくらいですし。そもそも今想定されている隕石災害は落下の10年前くらいにはすでに観測できるものと考えられているので、国連軍・・・というか、各国の軍隊を臨時で招集するくらいの時間はありそうです。
比較的正解に近い回答を出したのは電脳少女シロ。
「軌道を逸らすために、ヤリ投げ選手が宇宙に向かってヤリを投げるんです。そうするとブッ刺さって軌道が逸れます」
当然そんなので隕石に届くわけはないのですが、現在最も現実的な対策だと考えられている方法も似たようなものだったりします。
「届くよ! 世界のヤリ投げ選手はすごいんだぞ! とど・・・届きます!」
「いや、言いきったほうが勝ちじゃねえんだよ」
そもそも今の人間の力で地球に迫る小惑星の軌道を変えるってこと自体困難です。なにせ小惑星というのは直径200メートルクラスで質量100万トンほどにもなり、それが相対速度秒速20キロメートルもの速さで飛んでくるんですから。
とても現実的とはいいがたく、プラネタリ-ディフェンスカンファレンスでも隕石をどうにかする話より、いかに落下予想地点の人々を避難させるかの議論に重点が置かれているのが実情です。ただ、もし隕石自体をどうにかしようという場合、現実的なのは、何かをぶつけて軌道を逸らす方法だともいわれています。
ちなみに他には、原子爆弾等で破壊する、何らかの人工物を近づけて引力で誘導する、などの対策も考えられています。ただし前者は破片が地球全体に飛び散ってかえって被害拡大しかねず、後者は技術的に実現の算段がついていません。
なお、現在人類の運用しているロケットが地球の重力圏外へ運び出せる物質の質量は1基あたりせいぜい6トン。繰り返しますが、対する小惑星の質量は100万トンです。
・・・ムダじゃね?って感じにも思えますが、実はこの計画の想定は先ほども書いたとおり、隕石落下を10年も前から察知できた場合の話なんです。たとえほんの些細な力、周回角度1度にも満たないごくわずかな軌道変更であっても、それだけの長いスパンで考えるなら天文学的な距離を稼げるわけですね。
「なかなかスケールのでかい話ですね」
ほんとにね。たかだか太陽系内だけでの身内話ですらこんなスケールになるとは。
トピック2:スペースデブリってなに?
「私、宇宙ゴミって聞いたことがあります。なんか、ロケットとかが打ち上がるとき落とすじゃないですか、あれを。何ていうんですか? わかんないですけど。――結局回収ができないから、宇宙にさまようゴミとしてこう、残っちゃうっていうの聞いたことがあります」
神楽すずの回答がそのままほぼ正解。ただし、ここで話題に上がったのにはもう少し込み入った事情があります。
地球人類はこれまで4000回以上ロケットを打ち上げ、そのたびに地球の引力圏に回収不能なゴミをたくさん残してきました。大部分のゴミは地球の引力に引き寄せられて大気圏へ落下、燃えて塵となりましたが、未だ50万個以上のゴミがスペースデブリとして地球の周りを漂っています。
厄介なのは、宇宙空間には摩擦力が無いこと。むしろ地球の引力の影響で遠心力が働いてしまうこと。スペースデブリの大部分は直径10センチメートル未満の微細なカケラなのですが、このせいで運動エネルギーが際限なく大きくなってしまい、そのスピードはなんと秒速8キロメートル。マッハ24くらいあります。(※ 大気圏外で音速を語るのはナンセンスですけどね)
いわば半永久的に飛びつづける銃弾みたいなもので、ほんの小さなカケラであってもスペースシャトルや人工衛星にぶつかれば重大事故になりかねません。
なお悪いことに、それほど高速で飛び交っているので、スペースデブリ同士が衝突するとお互い粉々に砕け、さらにスペースデブリの数を増やしてしまいます。スペースデブリの数が増えすぎて衝突する確率が上がりすぎて、大気圏へ落ちて自然に減る数よりも、増えていく数のほうが上回ってしまう状態をケスラーシンドロームといいます。
こうなるともう手がつけられません。向こう何十年か、私たちはロケットを打ち上げること自体困難になってしまうでしょう。打ち上げた先から銃弾の雨に晒されて鉄クズになってしまうに違いありません。
「あの。スペースデブリがもっと今後、なんか10億万とかいって増えていったら、危険になっちゃうんですか?」
そして、このケスラーシンドロームはすでに起きつつあります。10億万個とかそんな悠長なスパンの話ではないのです。
トピック3:スペースデブリを減らすには?
というわけで、その対策。
「ブラックホールにエイって投げ込む。あの、全部、ゴミが出たらゴミを全部ブラックホールに押し込んじゃう」
「これはあまり倫理的にはよろしくない答えかもしれないんですけど、地球より遠い場所に持ってく」
そういう不法投棄的な発想の善悪はさておき、ここでの一番の問題は処分の方法ではなく、どうやってスペースデブリを集めるかです。なにせ秒速8キロメートルでカッ飛んでいるうえ、50万個もの数が散らばっているんですから。
むしろ処分する方法のほうがよっぽど簡単です。よくロボットアニメなんかで描かれているように、大気圏へ投げ落とせばたいがいの物質は空気空気による圧縮熱によって燃え尽きてくれます。
ひとつの手法として、人工衛星を使ってスペースデブリにエレクトロダイナミックテザーを取り付けることが考えられています。エレクトロダイナミックテザーというのは要するに電気を通す紐のこと。これを地球の磁場にまで垂らしてやれば摩擦が生じ、じわじわとデブリの速度を落として大気圏へ落下させることができるだろうという発想です。
スペースデブリの運動エネルギーの源は地球を中心に置いた遠心力です。だから、水を入れたバケツを振りまわしているときのように、ちょっとでも回転速度を緩めるとそのまま落ちてくるんですね。
ちなみにこの案はJAXA主導です。
他に、スペースデブリを捕まえるための網を発射する人工衛星をつくった会社もあります。網で絡め取られたデブリはその分重たくなって速度を落とし、地球の引力に負けて大気圏へ落ちていきます。
これはすでに実験され、成功しています。シンガポールのベンチャー企業が行っている事業で、ちなみに代表取締役は日本人です。
レーザーアブレーションを用いる手法も考案されています。レーザーアブレーションとは、物体にレーザーがぶつかったとき表面が燃える現象のこと。このときに発生するエネルギーを利用して、荒っぽくいうならレーザー照射によってデブリを大気圏へ叩き落とすんです。
これは日本の理化学研究所が主導している計画です。
・・・日本人、こういう(地味な系統の)SFっぽい技術大好きだな。
もうひとつ、クリーンスペース・ワンという、デブリを捕まえてもろとも大気圏へ投身自殺する人工衛星も開発されています。
こちらはスイス宇宙センターが実用化を進めている研究。計画だとすでに実用化されている頃合いですが、日本語のインターネットだけだと続報が見つかりません。うまくいっているといいのですが。
「・・・ということで、スペースデブリを減らすには宇宙ゴミの速度を落として大気圏で燃やす。そういうことになります」
トピックex:先生に聞いてみよう!
ここから先はヤマトイオリの質問タイム。今回の授業が楽しみすぎて、事前に5個も質問を考えてきていたそうです。
質問:月が年々縮んでいると聞いたけれど、月がなくなっちゃったら地球に何か影響があるの?
答え:月は縮んでいるのではなくて遠ざかっている。もし月がいなくなったら、地球の自転が不安定になったり、潮の満ち引きがなくなったりといった影響が出るだろう。
質問:地球の中心に近いほうが重力はたくさんかかるの?
答え:厳密に測ればそのとおり。ビルの屋上で体重を測るより、1階で測ったほうがほんのわずかに重くなる。ちなみに地球の中心では重力を感じなくなる。
(※ 重力というのは引力と遠心力の合力です。だから地球の中心に行けば遠心力は限りなくゼロになり、重力を感じなくなるでしょう。ただし全方位からものすごい圧力を受けて体が潰れます)
5個のうち1個は質問しそびれたそうです。内容は:太陽がなくなる可能性はあるの?
勝手に答えるなら:太陽にも寿命がある。赤色巨星といって、寿命を迎えた太陽は一度大きく膨れあがるため、地球上にいる生きものはそのときみんな焼け死ぬだろう。――といったところでしょうか。
残り2個はそのうちYouTubeで公開されるといいですね。
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