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ID:INVADED 第3話考察 花火師のイド

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そうだ。生きてても死んでてもどっちでもいい。そういうことだ。がんばれ。お前の世界観の証明までもう少しだからな。

イドの主:花火師
現実における犯行手口:花火玉を混ぜ込んだ仕掛け爆弾で無差別殺人
世界の姿:四方を滝に囲まれスナイパーから狙撃される塔
被害者の立ち位置:不在(そもそも犯人が被害者の顔を知らない)
カエルちゃんの死因:胸元を狙撃
ジョン・ウォーカー:未観測

普通のシリアルキラー

 これを書いている時点で第6話まで視聴済みなんですが、今のところ花火師のイドの世界が一番素直な芸風だと思います。

 「おい! グズグズするな! 早く隠れろ!」
 「何やってんのよ、あんた! 早く隠れて!」
 「いいよ、いいよ! もうそこでじっとして死ねば!」

 元戦場カメラマンの花火師は知っていました。
 この世の地獄とはどういうものなのかを。
 元戦場カメラマンの花火師は知っていました。
 極限状態で人間はどうあるべきかを。
 元戦場カメラマンの花火師は知っていました。
 平和ボケしきった日本人が知らないホンモノを。

 命の危機にさらされたなら、人間は自分の身を守るべきです。恐慌すべきです。救えそうな他人とは助けあい、救いようのない狂人は見捨てるべきです。生存のために最大限の努力をするべきです。
 そうある“べき”だと、花火師は知っていました。

 「好きとか嫌いとかじゃない。ただ、ホンモノなだけだ」
 「そういう空っぽな、現代の人間の精神を捉えているんだ」
 「今の人間の空っぽぶりを露わにしてやったんだ。どんなやつらも、死んでも生きててもどうでもいいやつらばっかなんだ」
 「人の生き死にに価値なんてないんだ」
 「心底そう思ってるし、それを知っているんだ、俺は。人の命に価値なんかない。俺のもあんたのもあんたのかわいい娘さんのもな」

 4年前にホンモノの地獄を見たあの日まで、そう、知っていたつもりでした。

 「人は放っておいても死ぬ。老いて死ぬ。病気で死ぬ。事故で死ぬ。でも――、お前のもたらす死は常に大量死だ。大勢が死ななければ。虐殺じゃなければ。お前にとっては、死じゃないんだ」

 爆弾テロの現場。中東の紛争地に生じたこの世の地獄。
 それは、彼の想像していたものとまるで違っていました。

 そこに転がっていたのはただの死体でした。
 ただ命を奪われただけのその他大勢。ただ肉片になっただけのその他大勢。カメラのファインダー越しに見つめてみても何のドラマ性も映し出されてこない、ただのその他大勢。
 「凄惨な」「傷ましい」「理不尽な」――。テレビや新聞で見るぶんには情緒に訴えかけてくる鮮烈なニュースであったとしても、実際にホンモノを見てみれば案外この程度のもの。

 そこには、“死んでも生きててもどうでもいいやつら”しかいませんでした。
 そこでは、“人の命に価値なんか”ありませんでした。
 “人間の空っぽぶり”が露わになっていました。
 なんて滑稽な。この世の地獄は、平和ボケした日本人どもの街と何ら変わりありませんでした。

 どこにいようが人間は変わらない。そういう真実を、ホンモノの地獄を見てきた花火師だけが知っています。

 「みんな! ランダムに逃げて、狙われにくくするんだ! みんながんばれ! スナイパーを誘い出すんだ! ・・・ハハ。死ぬなー」

 命の危機にさらされたなら、人間は自分の身を守るべきです。無駄だが。恐慌すべきです。無意味だが。救えそうな他人とは助けあい、救いようのない狂人は見捨てるべきです。どちらにせよ空っぽだが。生存のために最大限の努力をするべきです。生きようが死のうが同じだが。
 そういう、ホンモノを知らない平和ボケどもが、殺されて空っぽのホンモノに変わる瞬間を、イドのなかの花火師は心から嘲笑っていました。
 俺だけがホンモノを知っているんだ、と。優越感に浸っていました。

 だから、東京で爆弾テロを起こしてみせたんですね。
 その爆弾で誰が死のうがどうでもよく、その爆弾で何人死のうがどうでもよく、ただ、凄惨な事件現場を恐れもせず、呑気に落ち着いて、人の死を死とも思わず見物する、精神的に空っぽな野次馬たちを眺めたいがためだけに。
 中東で見た空っぽの死体と何も変わらない、精神的に空っぽな人間どもを東京にも現出させるためだけに。
 それみたことか、と不特定多数にマウントを取るためだけに。

 「確かに写真に写すものはこの世の現実だろう。お前にとってのな。薄っぺらい人間たち――。でも、その薄っぺらさはお前のものだ」
 「なあ。爆弾を爆破して、その野次馬の写真を撮るまで。あるいは撮りながら。シャッターの合間に。お前は何を見ていた? 野次馬ばかりを見つめてたんじゃなくて、“地獄”の美しさに心を打たれてたんだ」

 “地獄”は爆弾テロの現場などではなく、想像力を欠いた野次馬どもの背中に。そしてその光景を透かしてあの日の地獄を眺める花火師自身の心のなかに。

 薄っぺらい“ホンモノ”。

 花火師のイドの世界は、彼自身の持つ殺人衝動のかたちと完全に一致していました。
 彼にとって本当に重要だったのは、爆弾テロという手段などではなく、何でもいいから凄惨な殺人現場と、そこで彼好みの“空っぽ”となった人間たちだけ。

 カエルちゃんを殺したのは花火師です。
 カエルちゃんは彼の手にかかり、空っぽとなって死にました。

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