ID:INVADED 第12話考察 早瀬浦局長のイド

この記事は約5分で読めます。
スポンサーリンク

私のイドと、私のつくったイドと、私の知らないこの世の未知なる殺人者たちのイドが、この世界では陳列されているんだ。

イドの主:早瀬浦 宅彦
現実における犯行手口:拳銃自殺
世界の姿:あらゆる殺人鬼の無意識とつながった虚空
被害者の立ち位置:不在
カエルちゃんの死因:早瀬浦局長による刺殺
ジョン・ウォーカー:未確認

人のタガを失った人

 「おお・・・。予想どおりだ。私は飛鳥井木記のなかに繰り返し繰り返し入りつづけたおかげで、彼女と無意識をほぼ共有している。私のイドと、私のつくったイドと、私の知らないこの世の未知なる殺人者たちのイドが、この世界では陳列されているんだ」

 飛鳥井木記は夢のなかで未来を見ることができました。彼女自身はそれが自分の夢に侵入してきた殺人鬼たちの計画を読み取ってしまうからだと解釈していましたが、やはり違っていたようです。
 彼女の無意識は、そもそも過去・現在・未来あらゆる殺人鬼たちの無意識とつながっていたようです。いわゆる集合的無意識というやつですね。どういう業なのか、よりにもよってつながっているのは殺人鬼に限られているようですが。
 早瀬浦局長は彼女の夢から得た未来の情報を悪用して連続殺人鬼候補たちを選出し、また、今回の計画を練ったのでしょう。

 ひどいイドです。
 他人の無意識に侵食されきり、おおよそ早瀬浦宅彦という人物のパーソナリティを表すようなモチーフがどこにも存在しません。これに比べたら鳴瓢の砂漠の世界のほうがよほど人間的でしょう。
 こんなものはただのライブラリ。いいや、むしろハブ(集線装置)。人間の内的世界というよりただのシステムと呼ぶのがふさわしい。

 「あなたたちの前でこんな告白をするのは気恥ずかしいが、実のところ私は実際に誰かを殺したことはないんだ」
 真実でしょう。だからこそ、彼は自殺する前に――、ミヅハノメのコックピットに座る前に、わざわざ腹にも銃弾を2発撃ち込む必要がありました。ミヅハノメに己の殺意、思念粒子を検知させるために。
 その後、タイマー予約したコックピットに座り、投入直後に改めて自殺。これは思念粒子目的ではなく、本人が言ったとおりイド嵐対策ですね。

 「なにしろ警察官だし、信じてくれなくてもいいが、私には私の正義感がある」
 そしてこれもまた真実なのでしょう。私はてっきり集合的無意識から得られる情報を私的に悪用するつもりだと予想していましたが、彼のイドの虚無っぷりを見るかぎり、この人物にそんな野心など無いだろうと信じられます。
 彼は鳴瓢以上に空っぽの人物です。飛鳥井木記の夢に潜りすぎたせいなのか、それとも元からこうだったのかは知りませんが、今の彼は殺人鬼にしか興味がありません。それを正義感と呼べるかというと、私は呼びませんが。

 「それに従い、蔵そのものを巨大なミヅハノメとし、より大きな範囲で捜査を行えるようにするんだ。そして私は引退し、後継を百貴くんに委ねる」
 当たり前です。彼の無意識はもはや人間のものではありません。もしかしたら飛鳥井木記以上にシステム的です。今後飛鳥井木記がいなくなったとしても、彼のイドの世界が存在しつづけるかぎり、ミヅハノメシステムは稼働できるかもしれません。そのような人非人を人間組織の重鎮に置くわけにはいきません。人間の罪を問うのはあくまで人間であるべきです。
 そこまで考えたうえで、百貴にジョン・ウォーカーの濡れ衣をかけたんですね。彼の取り調べは蔵の外で行われていたようです。早瀬浦局長の計画が全て完遂したとしても、これで百貴は飛鳥井木記による現実融解の禍から逃れられる。
 蔵そのものをミヅハノメにするメリットはまだ今ひとつよくわかりませんが、おそらくは百貴以外の蔵のスタッフ全員を、名探偵のように現実側から観測可能なピンとして仕立てているのでしょうか。今まさにそういうことが起こっているとおり、これであらゆる殺人鬼のイドの世界をいつでも調査することが可能になります。
 ことごとく非人道的な発想ではありますけどね。

 つまるところ早瀬浦局長が何をしたいのかといえば、それは意外にも警察官として真っ当に殺人事件の捜査。時間も空間も超越した、警察組織の調査能力の無限大拡充。
 ただし、どうしてここまでしてそんな高潔なことをしたいのかといえば、その理由が彼には欠落しています。
 いつぞや鳴瓢が自嘲して話していたのと同じように、「やれるから、やる」。それだけです。思慮もなければためらいもない。人間性の欠片もない。

(オマケ)死んだ人間を決戦に呼び込む方法

 「おやおや。・・・ふむ。やはり富久田保津は来ていないか。ふふ。なら、方策はある」

 早瀬浦局長はどういうわけか穴空きの存在を警戒していました。鳴瓢のイドの世界でも殺させようと画策していたくらいです。よほどの理由があるのでしょう。
 まして、彼は飛鳥井木記の夢を通じてある程度の未来予知ができていました。ならばそれは憶測や推論などではなく、確信。穴空きがいるかぎり彼の計画は思うように進まない、そのくらい致命的な因子だと考えられます。(どうしてなのかはわかりません)

 ですが、残念ながら彼は墓掘りの放った凶弾から本堂町を庇って死にました。
 鳴瓢と本堂町は彼の力を借りずに早瀬浦局長に立ち向かわなければならないんでしょうか?

 それは難しいでしょう。
 「バレてる?」
 「まるで俺たちの登場を予期してたかのようだな」

 何度もいいますが、彼は未来に起こりうることを知ったうえで今回の計画を立てているはずです。生半可のことはすでに先読みされているでしょう。

 ですが、それこそ穴空きを殺したあとの墓掘りの顛末がヒントになります。
 彼女はもうひとりの墓掘りのイドの世界に行き、そしてそこで実際に目当ての彼と再会することができました。ついでにいうと顔のないジョン・ウォーカーも未だその世界にいました。
 つまり、死んだ人間もその人物のイドの世界にはまだ存在しているんです。
 早瀬浦局長との決戦の舞台を穴空きのイドの世界にしたなら、その戦いにもう一度穴空きを呼び込むことはできるでしょう。

 あのヤロウ、どうせジョン・ウォーカーの姿を見たらテレポートしながら逃げるって?
 なあに。本堂町がいればこちらもバラバラのつながりを正しく認識して、一見テレポートしているように見える彼を普通に追いかけることができるでしょうさ。襟首ひっつかんで早瀬浦局長の前に突き出してしまえ。
 あるいは本堂町自身がテレポートして早瀬浦局長を翻弄するのでもいいはず。それはそれで穴空きとの共同戦線ぽくありますし。

よろしければ感想を聞かせてください

    記事の長さはどうでしたか?

    文章は読みやすかったですか?

    当てはまるものを選んでください。

    コメント

    スポンサーリンク
    タイトルとURLをコピーしました