超人女子戦士ガリベンガーV 第69話感想 テントウムシと海賊の食い合わせってどんなだよ。

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生徒役:電脳少女シロ、音霊魂子、花京院ちえり、アルス・アルマル、周防パトラ

盗撮ですよ、そんな、ひとのずっと。よくないですよ。なに形が違うぐらいで照れてるんですか。――見て。誰もついてきてないですよ。

出演バーチャルYouTuber

電脳少女シロ

「僕、頭まで入ったら頭皮低温ヤケドして終わるんで」
「そっかそっか。直火だもんね」

 .LIVE最大の繁忙期といえる年末年始が近づき、いつも以上に毎日忙しそうにしているバーチャルタレント。それでも多忙の合間を縫って後輩たちの文化祭に遊びに来てくれるとのこと。ところで、道すがらすれ違った子どもが何を怖がっていたか気持ちを理解できたのでママの才能があると主張していましたが、それはむしろ3歳児の才能だと思います。
 「いるだけで○○な子」という表現がこれほど似合わない人物もなかなかいないでしょう。いればだいたい何かしています。傍若無人に暴れてみたり、賢く機転の利くトークを繰りひろげてみたり、斜め上にカッ飛んだ名言を連発してみたり、他の共演者を気遣ったり、イジりたおしたり、あるいはゴキゲンにキュイキュイ笑っていたり。ちょくちょくワケワカンナイこともやりたがりますが、そういうときは「シロちゃんの動画は為になるなあ!」と、とりあえず納得しましょう。彼女はあなたが為になることを望んでいます。
 まるでアブない人のようですが、そして実際アブない人なのは確かなのですが、ああ見えて彼女は共演者をよく見ています。聡明です。共演者の対応力を推し測り、ギリギリ捌ききれる程度のムチャ振りを仕掛けるのです。おかげでいつのまにか人脈の輪がずんどこ広がってきました。タチが悪いったらありゃしない。

音霊魂子

「はえー・・・。デュフフ! アハハハハハハ!」

 あおぎり高校ゲーム部部長の3年生。ただし後輩に写真部と美術部も加わり、ついでにいうと本人もゲームよりASMRにハマっているため、だいぶ前からゲーム部とは名乗らなくなりました。初期設定ちょっと厨二病入ったローテンションキャラだったタイプのご多分に漏れず、現在ではヨゴレもイケる系の常識人として元気に活動しています。
 今となっては貴重になってしまった“アニメの登場人物なのに話しかけたら答えてくれる”みたいな立ち位置のバーチャルYouTuberです。あおぎり高校のメインチャンネルでは今ドキのギャグアニメ風なノリの短編動画を、個人チャンネルではエッチ路線のASMRを中心に配信しています。私としてはアドベンチャーゲームなんかのテキスト読み上げに光るものを感じますね。初見のテキストをすらすら読むことができるのはひとつの才能です。びっくりするくらい漢字を読めないのはさておき。
 総じて、YouTuberらしい無軌道なテンションに任せてぶちかます芸よりは、声優みたいに声の芝居をしっかり聞かせる演目のほうが得意な印象です。ただし台本に難しい漢字は御法度です。英語もやめてあげてください。理科や社会の知識も九九も絶対に振らないで。

花京院ちえり

「恐ろしいですよ。そんだけかわいいと」
「そうでしょ。いつも『かわいい』しか言えなくて恐ろしいでしょ? ありがと」

 ハロウィン配信で従業員の時給を200円に再設定したと思ったら、よみうりランドイベント冒頭でしれっと3円まで減給してくれた、やりおる社長。最近恐いものは共城住宅のお隣さんと労基だとのこと。得意な喜怒哀楽はぶっちぎりで哀。かわいさ極まって愛くるしい子なので仕方ないですね。
 花京院ちえりの特徴はなんといってもかわいいことです。彼女は自分の外見がかわいいことを信じていますし、内面もかわいくふるまおうと心がけていますし、ファンにもかわいいと言ってほしいと呼びかけています。理想のため地道にがんばる努力の人です。彼女は花京院ちえりがかわいくあるためにありとあらゆる努力を欠かしません。女は度胸、ちえりはかわいい。今日もちえりちゃんはかわいいなあ!
 そんなわけで彼女の配信の空気は全体的に茶番じみています。まず彼女自身が「ちえりちゃんはかわいい」と宣言し、すかさずファンも「ちえりちゃんはかわいい」と唱和することで、花京院ちえりというバーチャルなアイドルをみんなでかわいく盛り上げていく――。一種の観客参加型演劇が彼女のメインコンテンツとなっています。

アルス・アルマル

「はい、テロリストは?」
「斧持ってきた、間違えて。武器を間違えてしまった」

 どこかの異世界と深夜の日本を行ったり来たりしている駆け出し魔法使い。その生活時間に反してまるで子役俳優のような舌っ足らずな喋りかたが特徴で、当然のごとく早口言葉も超苦手です。でも口調の幼さに反して意外と年齢16歳とのこと。マジで?
 得意属性は雷とのことですが、実際に雷を落とすよりは閃光のような頭脳のキレとして生かすほうが得意なようです。周りにどういう反応を期待されているのか瞬時に理解して、ときにリアクション芸、ときに煽り芸とフレキシブルに立ち回ります。ちなみに攻撃手段としても魔法より爆発物のほうが好み。C4! C4!
 またの名をアタマ・マルマル。もしくはお饅頭。睡眠時間泥棒。いやさ、むしろ睡眠時間マフィア。小峠教官にテロリスト呼ばわりされる前から物騒な通り名はあったようなので安心していただきたい。夜中にお饅頭という取り合わせもまた罪深いと思います。

周防パトラ

「フランス人海賊は略奪に協力させられたのにお宝も逃げられて、食料もなくそこに取り残されて――」
「うわ、かわいそう!」

 最近職場の屋根裏部屋からどこかのビルの屋上に引っ越したらしいアポロチョコ付き大型犬。前の住まいは床に布団を敷いていましたが、今は床一面に段ボール箱が敷き詰められているご様子。その住居が魔界の女王様にふさわしい格なのかといえば、当の本人がのほほんと全く気にしていないようなので議論するまでもありません。
 なにかと多芸なクリエイター気質で配信活動の幅広く、特に作詞作曲ができることで知られており、同じ喫茶店で働くメンバー全員のオリジナルソングも手がけています。イジられキャラだけど中心人物。あるいは尻拭い担当。美少女へ向ける極まった性的関心にさえ目をつぶれば、目をかすませれば、あいや、目を背けさえすれば、そこそこ常識人です。
 彼女がひときわ力を入れているのがASMR。より心地よい音を求めて50本ものマイクを買い集め、生音採集のためのロケハンも厭いません。根っからの音屋さん。それもこれも全てはファンを寝落ちさせたいがために。

授業構成おさらい(+ 補足事項)

超難問:テントウムシの謎を解明せよ!

トピック4:なぜ2匹の恋は実らない?

 2匹のよく似た見た目のテントウムシの画像が提示されました。それぞれオスとメスなんだそうです。
 ですが、この2匹はつがいになっても子孫を残すことができません。それはなぜでしょうか?

 「恋が実らないといったら初恋。つまり、テントウムシは初恋しかしない。だから実らない、この子たちは」
 ここのところ乙女系オタクだったことを隠さなくなってきた花京院ちえりの回答。
 絶滅待ったなしなのではー?
 ちなみに、実際のところ昆虫は体力の続くかぎり何度も、複数のパートナーと交尾をします。ただし交尾にはたいへん体力を消耗しますので、交尾の回数が多い個体はそのぶん寿命が短くなる傾向があるようですね。
 一方で、産卵するためには交尾は生涯に一度だけでいいようです。1匹のオスの精子を受け取っただけでメスは何度でも産卵することができます。じゃあどうして複数回の交尾を繰り返すのかというと、そこはぶっちゃけよくわかっていません。
 合理的な生命活動を考えるなら、初恋でイタすに越したことないでしょうね。

 「オスとメスなんですよね? オスとオスだったら実るとか・・・? 関係ないですかね」
 音霊魂子にはもうちょっと自信を持っていただきたいところ。せっかくマジメな顔でアホなこと言えるナイスな度胸があるんですから。
 オス×メスのカップルがNGでオス×オスがOKだとしたら性別というシステムの存在意義を根幹から否定してしまいますが、さすがにそういう実例は無いようです。ゴキブリのようにオスがいないときでもメスだけで単為生殖できる昆虫ならいます。
 なお、自然界において同性愛はびっくりするくらいありふれた営みだったりします。キリンなんてつがいの実に9割もが同性カップルだとよく語られていますね。じゃあ、どうしてそんな不毛なつがいができてしまうのかというと、これもまたよくわかっていません。たくさんの学者たちがパリピな動物たちのアオカンをド真面目に観察してド真剣に考察してきましたが、怪しげな説が唱えられるばかりで、これといって有力な結論は出てきていません。案外、自然界というものは私たちが考えているほど合理的にできていないのかもしれません。

 「すごくいい香りがする子たちで、コウノトリさんたちが本当は子どもを運ばきゃいけないのに、匂いに釣られて業務を放棄しちゃうのかなって思いました」
 「あー、なるほどね」

 電脳少女シロの回答。
 何がどう「なるほど」なのでしょうか。神楽すずさんはどう思います?
 小峠教官も手慣れたものです。これが現在のガリベンガーVの環境です。どんな突拍子もない発言もたいがい許容されますが、そのぶん大喜利するなら電脳少女シロと競りあう覚悟と胆力が要求されます。

 キーワードは「求愛のエラー」
 実は先ほど提示された2匹、それぞれ全く別の種なんです。片方はナミテントウ、もう片方はクリサキテントウといいます。見た目があまりにそっくりで、模様が複数バリエーションあるのも共通しているため、長いあいだ研究者たちからはほぼ同種だと見なされていました。実際には生活圏が違いますし、幼虫を見比べると明らかに見た目から異なっている、別種です。
 別種だから子孫を残すことができないわけですが、どういうわけかこの2種、出会うと求愛行動を示します。種の保存と繁栄にまったく役に立たない、この不可解な行動様式を指して“求愛のエラー”と表現しています。

 実はこの求愛のエラー、ナミテントウとクリサキテントウに限らず、いろんな動物たちのあいだで観察されています。なかには他の種を一方的にレイプするものまで確認されています。
 これを利用した新しい生物農薬を開発しようとしている研究者もいるようですね。元々“不妊虫放飼”といって、不妊化させた害虫を大量生産・大量散布することで地域の害虫たちの繁殖活動を妨害し、根絶させる手法が実用化されているのですが、これには害虫の種類ごとに不妊虫の生産場をつくらなければならず、コストがかさんでいます。だから、求愛のエラーをうまく利用することで、1種類の不妊虫を使って複数種の害虫を一度に根絶できないかと期待されているようです。
 もっとも、求愛のエラーを示すには示すものの、思ったより積極的じゃなかったり、近くに同種がいればそちらに優先して求愛されてしまったりと、なかなかすんなりとは実用段階に進めずにいるようです。そういえば私も好き好んで洋モノを嗜むことはありません。

 「あとは・・・。形が違うのでハマまらないっていうのがあって」
 「ああ、そもそも形が違うからハマらない」
 「実は昆虫の見分けって、すごい似ている種類の『これとこれ何が違うんだ?』っていうの見分けるとき、結構そこだったり違うんですよ。コレとコレがハマるから同じ種類だとか、よく見たら形が違ってハマらないからそっくりだけど違う種類だとか」

 すごい!
 『超人女子戦士ガリベンガーV』なのに、まるで深夜番組みたいだ!
 こういう話題なら呼ぶべき出演者を間違えてない? ミライアカリとか犬山たまきとか連れてきたほうがいいんじゃ? とか思わなくもないですが、どうやら今回わぴちゃん先生の出演が決まったこと自体収録の前日だったらしく、もちろんそれまで授業テーマすら決定していなかったようで。だったらしゃーなしですね。Tokyo-Hotの汁男優疑惑でひとネタ持っている小峠教官がいてくれて良かった。(※ そういえばあっちの番組も意外と攻めたネタが多くてブイ子がかわいいことになっていますね)

 話題はさらにディープに進み、テントウムシの交尾映像まで出てきました。オスがひとまわり体の大きなメスにしがみつき、まるで踊っているかのように激しく体を揺り動かしています。
 いわゆる『てんとう虫のサンバ』(1973年 チェリッシュ)ですね。(※ いわゆらない) 「赤青黄色の衣装を着けたてんとう虫がしゃしゃり出て、サンバにあわせて踊りだす」ってやつですね。(※ やつじゃない)
 わぴちゃんによると、この交尾はガリベンガーV1本分くらい、長いと2時間くらいも続くそうです。人間の世界でも一時期ポリネシアンセックスとか流行りましたよね。スローフードの流行からスローセックスが提唱されるって斜め上にもほどがあると当時思ったものです。

 「わぴちゃんを見てた! かわいいー!」
 「かわいくねえよ。テントウムシの交尾盗撮してんだぞ。何がかわいいんだよそんなやつ」

 よし、今日も無事オチたな!

トピックex:もっとテントウムシを学ぶ!

 「完全変態」
 「完全変態だったんだね」
 「はい。完全変態ですね。私じゃないですよ」

 テントウムシは卵から幼虫として生まれ、サナギを経て、成虫になります。幼虫時代と似ても似つかない姿の成虫になることを“変態”といいます。中学校生物の教科書に見つけてきっと流行語になるだろうなと身構えていたら案外流行らなくて肩透かしするやつです。自分以外の中学生は思っていたより大人でした。
 テントウムシのようにサナギの過程を挟むものを“完全変態”、サナギにならないものを“不完全変態”といいます。他に“過変態”、“多変態”、“無変態”という用語もあるので、変態に興味のあるかたは各々じっくり調べてみましょう。

 なお、テントウムシの幼虫は結構ショッキングな見た目をしています。番組に出てきたのはナミテントウの幼虫ですね。ちなみに前話の感想記事でも書きましたがトホシテントウはもっとキツい見た目をしています。

トピックex:先生に聞いてみよう!

 「テントウムシって悪い虫なんですか? いい虫なんですか? 害がありますか?」
 島根もとい音霊魂子からの質問。

 「これはですね、完全に人間目線の意見になっちゃうので、その人の立場によるかもしれませんね」

 これは案外難しい問いかけです。有害か無害かというのは客観的に推し量れないものだからです。

 ナミテントウは農作物を荒らすアブラムシを食べてくれるので、一般的には益虫とされます。同じくナナホシテントウや、カビを食べるキイロテントウも、その意味では間違いなく益虫です。
 テントウムシの仲間にはオオニジュウヤホシテントウのように草食のものもいます。こちらは農作物に被害をもたらすので害虫ですね。
 この視点だけで語るならまだシンプル。種ごとに益虫か害虫かはっきり二分できます。

 前話の感想記事でも書いたとおり、生物農薬として海外に持ち込まれたナミテントウは様々な地域において、現地の生態系を大きく乱しています。この場合、農業には有益なナミテントウであっても凶悪な害虫と見なすことができるでしょう。
 また、テントウムシはコシネリンを放出するため、たとえ農作物そのものに食害をもたらさなかったとしても、その体液が付着しただけで作物の商品価値を落とす場合があります。代表的な事例だとワイン用のブドウなどですね。あれはそこまで丁寧に洗浄することなくそのまま潰して発酵させますので。
 このように、農業に関わる部分ですら、ちょっと視点を変えただけで益虫だったものが害虫へと印象を変えます。

 さらに別の視点。
 テントウムシをかわいいと感じる人たちがいます。一方でキモチワルイと感じる人たちもいます。写真やイラストで見る分にはかわいくても、いっぱい群れているのを実際に見ると生理的に受け付けないって人たちもいます。
 特段害をもたらさなかったとしても、見るだけでイヤ、そこにいるだけでイヤ、そういう虫のことを“不快害虫”と呼ぶことがあります。比較的新しい概念です。
 窓を開けたらそこに大量のテントウムシが! ・・・とかなら自己責任で駆除するぶんまだかわいいほうで、最近では「街路樹に毛虫がついてる!」みたいな話が行政へ“クレームとして”飛んでくる事例が相次いでいます。昔はくだらないと一蹴されていたクレームですが、現代では不快害虫として社会的に認知されているため、大マジメに対応しなければならなくなりました。
 こちらは時流によって害虫の定義が変わった事例といえるでしょう。
 それどころか人によっては同じ時代に生きていてもなお理解できないことかもしれませんね。

 そもそもの話、どんなものであれ“良い”か“悪い”かで分類するということ自体が独善的なことなんです。
 私たちの思考に“客観的”という概念は根本的に存在していません。
 なぜなら私たちは自分の目の前にある現実を、自分の眼球を通して、そして自分の脳みそを通してしか認識することができないからです。私が感じる私の感覚はいつだって私のものでしかありません。私はあなたの眼球も、あなたの脳みそも、使わせてもらうことができません。自分以外の感覚で、自分の目の前の現実を理解することなんて絶対に誰にもできません。
 誰にとっても正しい客観的事実が実在するなんて甘ったれた幻想。私とあなたとはどこまでも他人です。生まれも育ちも考えかたもまるで違う、別の世界に生きている、別の人間です。分類の定義を自分以外の人と当たり前に共有できると考えること自体が大間違い。誰かと通じあいたいのなら、まずは相手が自分と違う価値観を持っていると認める努力から始めましょう。
 おそらく、ここ1、2年間のバーチャルYouTuberをとりまく話題を見聞きしてきた人なら骨身に染みて理解していることでしょうけれど。(※ 他にもゲハとかね。売りスレとかね。政治とか、芸能ニュースとか、昔からね)

超難問:海賊の謎を解明せよ!

トピック4:海賊最大のタブーとは?

 「デキてるの。LOVEぅ」
 周防パトラの回答。
 だいたい合ってる。資料画像の2人がデキてるわけじゃありませんが、コレがタブーなのは要するにそういう理由です。

 「あの、左のかた、ウサミミを付けてるように見えて。海賊はさ、カッコいいイメージを保ちたいんですよ。なのにかわいさを出してしまったから罪に問われてるんじゃないかと思いますね」
 電脳少女シロの回答。
 こういう荒っぽいお仕事ほどイメージが大切なのは事実です。ナメられているとムダに血が流れます。先々週の本編でも習いましたね。
 ウサミミっぽいかどうかはさておき、腰回りがすらっとしていて、その割にお尻が大きくて、猛々しい顔立ちの割にセクシーな印象を受けるのは注目すべきポイントでしょう。モデルとなった人物が本当にこういう体型だったのかはわかりませんが、おそらく画家は明確にそういう意図でもって描いています。

 「斧持ってきた、間違えて。武器を間違えてしまった」
 模範的テロリストの回答。
 海賊だって斧くらい使うわ! 絡まったロープを切るときとか!
 というか、海賊は必ずしも専業ではなく普段は普通に漁師や商船の人夫をしていた者も大勢いた(※ 海賊船は出航するたびに港で乗組員を募集していた)ので、生活用品で武装する者がいても何の不思議もありません。

 キーワードは「ジョン・ラカム」。ややこしいので注釈しておくと、このジョン・ラカムや資料画像の2人は、冒頭で話題に上がっていた海賊の掟のバーソロミュー・ロバーツとは無関係です。
 資料画像の2人の名前はアン・ボニーとメアリ・リード。男装していますが、実は女性です。

 一般に、海賊は自分たちの船に女性を乗せることを嫌がりました。少し想像してみればわかること。女性がわざわざ男装してまで船に乗り込むということは、ほとんどの場合、彼女たちが乗組員の誰かの情婦だということです。そんなズル、女日照りの海賊船では不和の原因になるに決まっています。
 陸と違って海上では発覚したからといって即座に追い出すこともできないのがまた厄介。ヘタに生かしておくより殺して海に捨てたほうがまだ穏便に済みます。
 バーソロミュー・ロバーツの定めた海賊の掟でも「“女をたぶらかして男装させて船に連れ込んだ者は”死刑に処す」と、わざわざ厳密に規定されていました。

 アン・ボニーはジョン・ラカムではない別の夫を持つ女性でした。ラカムと不倫関係になったことで住んでいた街の実力者を怒らせたため、ラカム共々陸にいられなくなり、彼の海賊船へ駆け落ちするしかありませんでした。

 一方のメアリ・リードは元々オランダ軍人でした。軍船で働くため男装をしていたのですが、その軍船がジョン・ラカムの海賊団に襲われ、そのまま女性だと見抜かれることなく海賊の一員にされてしまったのです。
 ちなみに彼女が女性であることを最初に知ったのはアン・ボニーでした。懲りない放蕩娘のアンはラカムという者がありながら、まるで美少年のように顔立ちが整っていたメアリにコナをかけ、それでお互い女性であることが発覚、意気投合したのでした。

 女だてらに海賊の黄金時代を生きぬいた彼女たちは物語の題材としてうってつけ。
 後世、彼女たちは勇敢な女傑として様々に語られるようになりました。そのぶん男どもが情けなく描かれたのはお約束。

トピックex:もっと海賊を学ぶ!

 「海賊は陸地に基地のようなものは持ってたんですか?」
 アルス・アルマルの質問。

 当然、それぞれ拠点となる港を持っていました。物資を買い付けなきゃいけませんし、戦利品を売り払うルートも必要です。船だって年中海に浮かんでいられるわけじゃありませんしね。
 先々週のキーワードのひとつとして出てきた「ザ・リパブリック・オブ・パイレーツ」も本来はイギリス領バハマ諸島にあった拠点群のことです。

 「海賊に恐いものってあったんですか?」
 電脳少女シロの質問。

 色々あるでしょうが、やはり一番は食糧問題。船上だと積み込める食料にどうしても多くの制限がかかり、様々な問題が生じました。この時代の船乗りたちに特に恐れられていたのは壊血病。保存食中心で生鮮品の少ない食生活ではどうしてもビタミンCが不足してしまうんですね。
 壊血病の対策として柑橘類が有効なのは船乗りたちのあいだで経験則として知られていました。柑橘類は皮が厚いため船上でも日持ちし、また、ネズミにも食われにくかったことも大きなメリットでした。
 ライムは当時すでにイギリス海軍でも採用されており、私掠船として海軍のノウハウを大いに受け継いでいた海賊たちも当然ながら大量のライムを積み込んでいました。ラム酒とライム、ミントでつくる定番カクテルのモヒートなんかはフランシス・ドレイクの考案だとされていますね。
 他に、真水を積み込んでもすぐ腐ってしまうことから、水分補給にはもっぱらワインを飲んでいたといいます。もちろんジョッキで。コーカソイドとモンゴリアンのアルコール耐性を一緒にしちゃいけない。

 「海賊同士の争いとかあったんですか?」
 小峠教官の質問。

 バーソロミュー・ロバーツの海賊の掟に「船上で仲間同士が争うことを禁ずる。全ての諍いは陸に着いた際に当人同士の決闘により決着をつける」というものがあります。船上でケンカしても誰も得しません。
 海賊船同士が戦うこともめったにありませんでした。基本的に商船より金目のものを積み込んでいることが少なく、それでいて商船より武装は強力なんですから当然です。

 ヘンリー・モーガンという、“海賊を裏切った海賊”という異名を持つ海賊がいます。
 イギリス海賊である彼はもちろん私掠状を持っていましたが、私掠状というのはあくまで敵国の商船を襲っていいという許可証。本来なら陸地にある都市まで襲っていいわけではなかったのですが、彼は構わず都市略奪を繰り返していました。
 そんな荒くれ者である彼は、あるときフランス海賊と共謀して、中米の大都市であるパナマ市を襲撃しました。都市略奪に長けている彼だからこそできた大胆な事業だといえるでしょう。パナマ市はこのとき一度地図上から消滅します。
 攻撃はつつがなく成功しました。ただ、悪名が知られすぎていたためかパナマ市民の都市脱出は想定よりも早く、せっかく大都市の襲撃に成功したにもかかわらず、モーガンは思ったよりも戦利品を手に入れられませんでした。充分に分け前を分配できないと悟った彼はフランス海賊を置いてとっととパナマ市から撤収してしまいました。
 “海賊を裏切った海賊”というのはこの逸話によるもの。どこまでもろくでもない無法者って感じですね。心底嫌われていたのか、「このとき本当は大量の財宝を隠し持っていたのではないか?」という噂がまことしやかにささやかれています。もちろん真相は闇のなか。
 なお、都市襲撃までして派手に敵国を苦しめていたため、その無法ぶりとは裏腹、当時のイギリス本国ではきわめて人気の高い海賊でもありました。肖像画でやたら豪奢な服を着ているのはこのためです。なんとナイトの叙勲までされています。後に弾劾されてその地位を取り上げられちゃうんですが。

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