詞も曲も本編の物語とよくリンクしてある、きわめて出来のいいキャラクターソング集だと思います。
ぜひともそれぞれの主役回と一緒にお楽しみください。
Take Me Up Higher / アンジェ
乱逆と再生の歌。
まるで吹きすさぶビル風に熱気を絡ませたようなスタイリッシュな曲に乗せて歌われるのは、気高く闘争に身を投じる決意表明です。
他の4人の詞に比べて、アンジェの歌うこの詞にはネガティブなフレーズがずいぶんと多分に含まれていますね。彼女はかつて王女として一度死に、地位も友人もすべて失ったドン底から、今日までずっと歯を食いしばって這い上がり続けてきました。彼女の周りにはクソッタレな理不尽どもが当たり前の顔をして闊歩しています。
諦めるのは簡単。言い訳するのもやむなし。けれどそんな弱気な態度じゃ失ってしまったあの日には決して手を届かせられはしない。
スパイとかいうろくでもない境遇に身を浸しながらも、アンジェは高く高くその手を伸ばし続けます。
だって、彼女は頭上に浮かぶ太陽がいかに暖かかったかを知っているから。
絶対に取り戻してやると固く決めているから。
あのぬくもりを取り返すべく、彼女はそこら中のクソッタレどもを片っ端からグーパンでブッ飛ばし、高く高く這い上がり続けます。
彼女はそうやって、壁を越えてここまで来ました。どんな急斜面でも屁でもないって顔でスルスル登っていくトカゲのように。
この曲の何がカッコイイって、こんだけネガティブ要素が散りばめられていても、恨み言だけはひとつとして出てこないところですよ。
「Take me to the higher place for no escape’s in sight」
誰のせいにもせず、どんな理不尽にも屈さず、ただ己が力で運命を乗りこなしてやらんと邁進する気高さ。この子のそういうところ、私好きです。むしろ自分で自分を追い込みたがる節があるのだけはちょっとハラハラしますが。
Under the Moonlight / ドロシー
情愛と信頼の歌。
メロウなバラードに乗せて歌われるのは甘やかな少女の愛。体裁としてはラブソングですが、実質的には父親への慕情であったり友人たちへの友情であったりの換言となっています。
曲調が大人っぽいのに歌詞はやたらとあどけない、このギャップがまさにドロシーって感じでいいですね。あるいは松田聖子。
少女のくせに気骨だけはやたらとぶっとい面々のなかで、ドロシーは傷ついたとき寄りかかる誰かを必要とする、少女らしいか弱さをずっしり残した子です。なんでこの子スパイやれているんだろう。
けれど誰かを必要としてしまう彼女のその性質は、同時に彼女の強さでもあるんですね。泣きたいというなら飛んでいこう。噛み合わない歯車はほっとけない。自分が弱いくせに、誰かのためならそんな考えができてしまう。
言ってしまえば貧乏クジの専門家。これといった大きな活躍を見せていないドロシーですが、それもそのはず、彼女の性向はいつだって誰かを立てることに向いているんです。スポットライトはあなたに任せた。
「どんな辛い日も傍にキミがいた」
そう思える弱さがあるからこそ、
「私たちの結ばれた絆、2人で歩いてゆく Destiny」
何があっても素朴な信頼を胸に、密かに祈りつづけられるのでしょう。この子のそういうところ、好きです。
閃光刀歌 / ちせ
誇りと信念の歌。
ちせたんめ、ピコジャカとテクノを叩きつつ、チャキ、キィンと刀を打ち鳴らしとけばオタクは釣れるとでも思っているんでしょう。くそっ、カッコいいな!
未放送の第9話ではきっとそういう話を扱うんだろうなあと予想していた内容ドンピシャなこの曲は、戦うべき相手を正眼に見据える怜悧なモノノフの瞳を描きます。
何のために刀を振るうのか。ジュブナイルにありがちなその根源的な問いに、この曲はAメロでいきなり答えてしまいます。さらりと。
「流れ馳せる君への思い」
「誓い合った信念」
ちせの刀は振るう理由ごときで迷いません。そんなものハナから腹に据えています。その程度の話題にサビをくれてやるものか。
己を固く定めているからこそ、彼女の瞳は閃光のごとく鋭く、斬るべき敵の姿をまっすぐ見据えています。世界の歪み。人の心を濁す闇。要は「壁」のことですね。
それだけ押さえてあればあとは何も要りません。サビはひたすら斬って斬って斬り捨てる、モノノフらしい生き様で彩ってしまいましょう。
その凜とした道行きが孤高なものではなく、むしろ孤独を否定するためのものであるあたりが、いかにもプリンセス・プリンシパルらしい少女性であり、ちせのかわいらしさです。だから好き。
リトルブレイバー / ベアトリス
奇跡と不屈の歌。
子どもっぽいメルヘンなアップテンポに乗せて語られるのはベアトリスの半生。コッテコテのEngrishすら独特の味わいに変えてしまうあたり、いかにも彼女らしいですね。
「枯れていた心に水を与えてくれた」
プリンセスとの出会いがどれほど劇的にベアトリスの生き方を変えてしまったのか、彼女自身の視点から語られます。
それは彼女にとって、降って湧いた奇跡でした。なにもかも諦めていた泣き虫に対して、自分の能力とも行動とも一切関係なく、優しく差しのべられた救いの手。
そりゃプリンセス大好き人間にもなりますわ。
ベアトリスは神様による救済を信じません。けれど、その一方でこの世界に奇跡があることを知っています。それはプリンセスのようなステキな人の手による、あくまで人為的なものです。
彼女は信じています。あの日もたらされた奇跡は人為的なもの。ならばどんな苦しいことだって挫けずがんばっていれば必ず乗り越えられる。
だからこそ彼女はどんな苦境においても無敵の“普通”を守っていられるんでしょうね。
「答えの数は無限大。どれを選ぼう」
ここまで自然体な前向きさを見せられたらもう完敗ですよ。この子が膝を折るイメージがまるで想像できない。
「強くなる私の物語は続く」
私この子超好き。
Into the Sky / プリンセス
想い出と希望の歌。
コッチコッチと時計の秒針のごとく規則正しく拍子を刻みながら紡がれるのは、昨日から今日へと手渡される希望の旋律です。
静謐でありながら壮大で心を熱くして、ホントきれいな曲ですよね。インストもください。
主人公こっちじゃね? とかツッコミたくなるくらいかっこいいフレーズだらけでまとめられていますが、アンジェさんどうかご安心を。プリンセスがこんなになったのはかつてのあなたのおかげですし、たぶんこれから実際に手を動かすことになるのもあなたです。
大切な友達と引き離されてしまった10年もの時間。しかし強かな彼女はその時間すらも味方につけました。
弱かった昨日を脱ぎ捨てて、強くなる今日を迎えるために。
悲しかった昨日を飲み下して、光差す今日を歩むために。
「今歩き出して、昨日の私に goodbye」
「思い強く hello 新しい今日に」
孤独な時間は想像を絶するほどに長いものでしたが、時計の針が回りつづける限り、時間は常に彼女の力となってくれました。
「Thinking back on everything. Fill my hands with memories」
振り返ってみれば結局この10年は始まりの想い出だけで両手いっぱいに満たされていて、すなわち、この10年は結局のところ「壁」を壊したいと願ったあなたと私の希望のためだけに存在していた。
カッコつけて言ってみればそういうことになるかと思いますが、彼女が己に課した凄絶な努力を考えると空恐ろしいものがありますね。理不尽や苦難すらも望む未来のためには必要なものだったと、全部まるごと積極的に肯定しているわけですから。
私この子大好きなんですけど、そのあたりに思いを馳せるとどうにも胸が痛い感じ。
本当ならこんな過酷な運命、10代の少女に負わせるべきものじゃないんですよね。ですがフィクションを好む私たちって基本的にめっちゃえげつないもので。
だからせめて、すべてが終わったそのときには、少女らしくみんなで笑って暮らしてくれたらいいのだけど。
コメント
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この文章に激しく同意です。
彼女達の境遇や個性についてとても魅力的に書かれていて素敵な文章でした。
ありがとうございます✨
チセの所でだと思うのですがプリンセス・プリンシパルがプリンセス・プリンセスになっていますよ。違うアニメになっていたところが少し気になりました。
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ご指摘ありがとうございます。急ぎ修正いたしました。
それにしてもつくづくいいアルバムですよね。キャラソンとしても、純粋に楽曲としても。
今もスマホに常駐させています。