生徒役:電脳少女シロ、角巻わため、もこ田めめめ
カツラつくったらハゲるんじゃなくて、ハゲたやつがカツラつくるんです。
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↓レジュメがガチなことで知られる私立ガリベン大学↓
出演バーチャルYouTuber
電脳少女シロ
「プラスチックがなかったらあなたたちはできていなかったということは、プラスチックがなかったらよかったなって思ってますよ。ええ。科学の発展を恨んでますよ」
「でもさ。この番組が生まれたのはシロたちがいたからだとするとさ、そうすると英二がご飯を食べれるのはシロたちのおかげだからさ」
「いいや。この番組がなくなっても飯は食えます!」
バーチャルYouTuber黎明期にデビューし、今なお最前線で活躍の場を開拓しつづけている始まりの人。清楚で暴虐で奇矯で蠱惑的な独特の感性は、誰もの頭を為にする、華やかな魅力に満ちています。一方で共演者やスタッフへ心配りを欠かさない細やかさがあったり、多様な価値観へ理解を示す聡明さもあったりしますが、それらは基本的にギリギリまで相手を追い詰めるためにこそ発揮されるので油断は禁物です。
角巻わため
「これプラスチックですかね。たぶんね」
「これは何弁当だろう? おいしそう」
「なんか下が茶色いよ? カレーかな?」
「いやいや。弁当当てクイズじゃねえんだよ」
いかにも草食動物らしく、見た目のふわふわ感に反して割と攻撃的なところが目立つ羊。ド畜生羊などと呼ばれることもありますが、わざわざ指摘されるまでもなく羊は畜生だと思います。羊なので誰とでもすぐ仲よくなることができますが、羊なので仲よくなるまでは割とガッツリ警戒するところもあるようです。ゲームの羊とシンクロしてドドドドドとヘッドバンギングかましたシーンはあまりに有名。
もこ田めめめ
「めめめも羊でしょ。羊2人いるってこと? なんだよその世界」
「そうだね。うん。でもわためちゃんのほうが純度高い羊だよ」
「あそう。結構なパーセンテージ羊なの?」
バーチャルYouTuber界きってのマスコットキャラクター。わかりやすいキャラクター性と親しみやすさ、人なつっこさ、ちょっと湿度高めな愛嬌で老若男女問わず人気のある子です。たぶん。色々と小器用で、やらせてみればたいがい何でもこなせるのですが、気分屋なので飽きたら全然やらなくなります。あのねぇー。えっとねぇー。と間延びした空気感もまたかわいい。のんびりしたいときにどうぞ。
超難問:プラスチックの謎を解明せよ!
特別講師&授業テーマ雑感
一昔前までSF小説におけるロボットへの蔑称といえば「ブリキ野郎」だったわけですが、最近では「プラスチック野郎」のほうがメジャーになったようです。そのくらい、プラスチックとはいかにもテクノロジーの象徴らしくあり、なおかつ私たちのごく身近にありふれている素材だということですね。
もはやプラスチックは私たちの生活に欠かせないものであり、むしろあって当然の、水や空気に並ぶ存在といっても過言ではないのかもしれません。ほとんどのプラスチックが石油からつくられているということを知らない人もずいぶん増えました。一部のプラスチックは石油以外のものからつくられているということを知らない人もまだまだたくさんいます。そのくらい、私たちにとって“プラスチックはプラスチック”。身近にあって当たり前のものとなりました。
木原信浩先生は神奈川大学の副学長さんです。専門は有機化学と高分子化学。話しかたひとつ取っても絵に描いたような理系研究者、ガチガチにロジカルな考えかたをする人柄だということが伝わってきますね。
例えば現在の先進化学では人工石油を精製するといいつつ実際には特殊な藻を育てて抽出するという工程を踏んでいたり、人工肉といっても結局のところ元となる動物の細胞を人工培養したものであったりしているわけですが、木原先生はこういった高度な高分子物質合成を人間の化学技術だけで実現しようとしている研究者のようです。生物だって結局のところ体内では物理現象によって物質合成しているわけで、いちいち彼らを培養する手間なく直接人間の手で必要な合成反応を起こせたとしたらメチャクチャ効率的なわけですよ。完全にSFの世界ですね。
また、木原先生は“酸化分解性ポリマー”という新しいプラスチックの発見者でもあります。悪化の一途を辿るゴミ問題への対策として、現在、生物分解可能なプラスチック素材が注目を集めているわけですが、酸化分解性ポリマーはこれと全く別のアプローチによりゴミ問題を解決しうるエコロジー素材です。調べていてとても面白いと思ったので、あとで紹介しますね。
トピック1:この中でプラスチックはどれ?
「先生はプラスチックがお好きなんですか?」
「・・・?」
「――そう言われると、ってことですか?」
「まあ、プラスチックは私の研究対象のひとつですけども、プラスチックひとつでやっているわけではないので」
のっけから先生のなんとも微妙なリアクションからスタートした今回の授業。
これで興味を持って、私も先生の研究内容をちょっと調べてみようと思ったんですよね。めっちゃ難しいことばっか書いていましたが、面白いことを考えるかただと思いました。それこそSF小説を読んでいる気分でしたよ。
上でも書いたとおり、先生の一番の関心事はあくまで生体内での高分子物質生成のメカニズムを人の手で再現することのようです。プラスチックも高分子物質なので思いっきり研究対象ではあるんですが、あくまで関心事はマテリアルそのものではなくメカニズム、プロセス。一応そっちが本業なわけではないと。たぶんそういう意味なんでしょうね。
さて。先生は最初にテレビ朝日の楽屋部屋の写真を持ってきて、この中でプラスチックが使われている製品はどれかと質問してきました。
プラスチックがいかに身近にありふれているかを確認するための導入ですね。
答えはペットボトル、お弁当の容器、壁紙、座布団の中綿、それから座椅子などに使われているベニヤ合板やティッシュペーパーなんかにもプラスチックが含まれています。これですらまだほんの一部にすぎません。写真に写っているものほぼ全てに何らかの形でプラスチックが含まれています。
副音声のほうで「ベニヤ合板の接着剤までカウントするのはズルくない?」みたいなツッコミも入っていましたが、このあたりは“プラスチック”をどういう定義で捉えるかによるんでしょうね。天然漆までプラスチックに含めているあたり、木原先生にとっての定義はだいぶ広く設定されているようです。
キーワードは「熱可塑性」。
そもそも「plastic」という言葉自体が“可塑性の”とか“造形された”などといったニュアンスの形容詞が名詞化したものなんです。(※ 厳密には熱による可塑性だけとは限りません)
多くのプラスチック素材は熱すると柔らかくなる性質を持っていて、その状態で自由に成形することができます。そういった性質を指してプラスチックと呼ばれています。だから、定義によっては石油製品に限らず、形状にも囚われず、漆や接着剤までプラスチックに含めることができるんですね。
ちなみに、プラスチックでありながら熱に強く温度変化による可塑性を示さない性質のものもあります。ややこしい話ですが、実は人工ゴム(エラストマー)もプラスチックと同じ石油製品で、色々とプラスチックと共通する性質を持っていたりします。
このように、プラスチックという言葉ではニュアンスとして不正確すぎるので、研究者の間では“レジン(樹脂)”という呼びかたのほうが一般的なようですね。話を聞いている感じ、木原先生もレジンのニュアンスでプラスチックの定義を設定しているものと思われます。
「ポリポリポリポリ」
「ポリポリポリポリポリポリポリ!」
「みんなポリポリいってますよね。『poly-』っていうのは“たくさん”って意味なんですね」
プラスチックに共通する性質のひとつに、高分子であることが挙げられます。プラスチックをミクロの視点で見てみると、小さな分子がいくつもくっついて出来ているんです。例えばポリエチレンはエチレン(C2H4)がいくつも鎖のように連なった構造をしています。
このあたりが木原先生本来の研究分野と重なる話になります。生物がつくる複雑な高分子物質も、細かく見ていけば小さな分子の集合体。それをいかにして連結させるのかが木原先生の研究テーマで、だからこそ、先生の研究にとってプラスチックの話は切っても切り離せない関係にあるんですね。人工プラスチックもまた石油に含まれる低分子物質を化学的に連結させることでつくられているわけですから。
トピック2:人工プラスチックで最初に作られたものは?
「タオルとかもそうじゃない?」
もこ田めめめの回答。
化学繊維だとポリエステルなんかがよく使われていますね。木綿や羊毛に比べて吸水性に優れ、乾きもいいという特徴があります。最近はマイクロファイバーといってふわふわもこもこのタオルも売られていますね。あれもポリエステルです。
「歯磨き粉とかも接着剤なのかなって」
電脳少女シロの回答。
調べてみると“プラスチックフリー”を謳う歯磨き粉というものがあるらしいですね。マイクロプラスチックの議論の影響で最近人気が高まっているようです。ただ、プラスチックが使われているのは増粘剤ではなく主に研磨剤としてですね。
「最初だから必要なものだと思うんですよね。ふんどしかな」
角巻わための回答。
ふんどしはむしろ木綿などの自然素材でつくられているものが多いですかね。今日日好き好んでふんどしを履いているのはもれなく酔狂ですから付加価値マシマシ。なかにはシルク素材を使ったプレミアムなふんどしなんてものまであるようです。・・・いやいやいや。シルクって湿気にも摩擦にも弱いでしょうに。股間に向いた素材じゃない。
「最初だから必需品を」というのは良い視点ですね。授業に厚みをつけてくれる素晴らしい不正解です。
キーワードは「セルロイド」。かつて象牙でつくられていたビリヤードの球の代用品として販売されました。
先生は1963年と言っていましたが、正しくは1870年の発明ですね。1963年はポリエチレンの発明者がノーベル賞を受賞した年のことだと思われます。
「その当時コロジオンというものがあって、それはですね、木綿を加工して溶けるようにしたものなんですね。ちょっと化学的に変えてやると溶けるようになるんですね。ある日そのコロジオンってやつが入っていた瓶を割っちゃって、漏れてですね、固まった。そうするとプラスチックの薄い皮膜じゃなくて塊がちゃんとできたんですね。で、すごい固いんですよ。あ、これいいなあ、と。で、なんとかしてそれを柔らかくできないかと色々なものを混ぜ込むことを検討しました。クスノキから取れる樟脳って物質がありましてね、その樟脳ってやつを混ぜてやると柔らかくなるってことを見つけて、そしてビリヤードの球をつくるようなセルロイドというプラスチックが人工のもとつくられた」
このあたりちょっと複雑な経緯なので詳しく書きます。
セルロイドの元になった樹脂が発見されたのは1856年のこと。発見者はイギリスの印刷業者・アレキサンダー・パークスです。コロジオンは当時写真撮影に使われていたので、印刷業者にとって身近な商売道具だったんですね。
パークスは固まったコロジオンに「パークシン」という商品名をつけて売りだそうとしました。ただ、硬い塊なのはいいのですが、硬いばかりで加工しにくく、そのままではこれといった用途が思いつかなかったため大して売れなかったようです。
パークシンが「セルロイド」になったのはもう少し後のこと。この時代は環境主義が流行していたこともあり、アメリカの大手ビリヤードボールメーカー・フェラン・アンド・コレンダー社が懸賞金をかけて広く代替素材の発明を募っていました。
1870年、これに応募したのがアメリカの発明家・ジョン・ウェズリー・ハイアット。ハイアットはパークスからパークシンの特許を買い上げ、加工の難しかったこの素材を商品化するべく試行錯誤し、最終的に樟脳を配合することにたどり着きました。樟脳入りのパークシン樹脂は熱を加えるだけで簡単に柔らかくなり(※ =熱可塑性(plastic))、これにより手間をかけずに丸い球の形に加工することができたわけです。
当時ビリヤードの球に象牙が使用されていたのは、象牙がほどよい硬さで、壊れにくさと加工しやすさを両立していたためです。彫刻刀で簡単に彫れるんですよね、象牙って。硬く、それでいて加工コストもかからないセルロイドは象牙の代替品としてまさにうってつけでした。
世界初のプラスチック素材であるセルロイドは、このように複数の発明家の手を経て完成されたんですね。
「生活必需品をつくろうということになりますと、それまでの古い材料を置き換えるのがものすごく大変」
角巻わためが言っていたような生活必需品じゃダメな理由がよくわかるエピソードでもありますね。
そもそも環境保護の観点から象牙を使えなくなったからこそ、セルロイドが発明されたんです。ビリヤードの球のような娯楽用品ですらこのくらいのきっかけがないと代用品の需要がないんです。生活必需品なんてどんなことが起きようとそうそう生産が絶やされるわけがないんですから、新素材の最初の利用先として選ばれることがまずないことがよくわかります。
トピック2-2:セルロイドの弱点ってなに?
「ハゲやすい」
角巻わための回答。
たぶん、塗装がはげやすいとかそういうつもりで言ったんじゃないでしょうか。ちなみにセルロイドは溶かすことでラッカーとしても使用できる素材です。塗料との相性はむしろいいほうです。
誤解かどうかはさておき、小峠教官も先生もいい感じにノってくれて面白かったのでそのまま進行しました。
正解は発火性。セルロイドは燃えやすい素材でした。
透明で着色もしやすかったセルロイドはかつて映画のフィルムにもよく使われていました。ところがセルロイドはきわめて火元になりやすい物質。当時の映画館はしばしば火事を起こしていたようです。現在では消防法で所持を規制されています。
ちなみに、同じ理由でビリヤードの球の素材にすることも規制されてしまいました。摩擦熱が出ますからね、ビリヤード。
それからニオイが強いので食器として利用することはできませんでした。太陽光や酸素に反応して強酸性のガスを発生し、周辺の金属を腐食してしまう性質もあります。カツラに使うことは無いでしょうが、まあ、長時間被っていたら毛根も死ぬでしょうね。
トピック3:ペットボトルのリサイクルで作れないモノは?
「1番じゃないかなあ。だって、あまりにも固さが全然違うじゃん。柔らかくできるとはいえ。だから1番だと思う」
「やっぱ、伸縮性がプラスチックにそこまであるとは思えなかったので1番」
もこ田めめめと電脳少女シロの回答。
ペットボトルの素材はポリエチレンテレフタレート。対してストッキングの素材はナイロン系繊維です。たしかにまったくの別物ですね。先生としては同じプラスチックでも素材が違うことを指摘してほしかったところでしょうが、ナイロン素材最大の特徴は伸縮性のよさとしなやかさであり、2人が言っていること自体は的を射ています。
「2番かなあ。やっぱ本物の毛を使ってほしいなあって」
角巻わための回答。
本物のクマの毛を使っているぬいぐるみはあんまり聞きませんが、羊やアルパカの毛を使ったものはそう珍しくもありませんね。そこらで市販されていたりクレーンゲームの景品になっていたりするやつはだいたいポリエステルですけど。
なお、ポリエチレンテレフタレートは・・・、ポリエステルの一種だったりします。
キーワードは「マテリアルリサイクル」。
プラスチックのリサイクル方法は大きく分けて3つあります。
1つはマテリアルリサイクル。
回収したプラスチックを洗浄した後、溶かしてそのまま再利用します。ペットボトルはキャップとラベル以外単一素材なうえ、少なくとも飲料容器に使う分には汚れも残りにくいため、このマテリアルリサイクルに向きます。リサイクルによる素材の劣化も比較的少ないほうですが、それでも飲料用ペットボトルよりは洗剤容器やポリエステル繊維として再生されることの方が多いです。
一時期キャップは別に回収しようという運動が流行りましたが、キャップの素材はリサイクルによる劣化が著しいうえ他の用途で使われた場合の回収率が悪く、マテリアルリサイクルに向きません。実際のところあの運動で集められたキャップは普通に埋め立てられていました。なお、PET素材のリサイクルの観点からしても、回収ペットボトルの洗浄の過程で他素材はきれいに除かれるようになっているので、あえて分別する意味はありません。
1つはサーマルリサイクル。そういえば私の地元の焼却場周辺にも温水の市民プールがありました。あれってそういうことだったのか。
多くのプラスチック製品は普通に燃やされています。元が石油ですからよく燃えます。以前はダイオキシンが発生するということで社会問題になったこともありましたが、あれは低い温度で不完全燃焼させたときに発生するものです。現在の処理施設の性能ならほとんど発生しません。
なお、ペットボトルに関しては素材に塩素が含まれていないので、塩素化合物であるダイオキシンはそもそも発生しません。
1つはケミカルリサイクル。
プラスチックを溶かすのではなく化学的に分解することで、他の用途に再利用します。とはいっても、結局大半は燃料油に加工されるんですけどね。
ただし、ペットボトルに関しては先ほどもあったように単一素材かつ回収率が良いため、他のプラスチックよりも再利用方法の選択肢を広げることができます。近年、ペットボトルを元の材料に戻してまたペットボトルとして再利用するための研究が進んでいます。
トピック3-2:リサイクルでペットボトルができない理由
マテリアルリサイクルするたびに劣化していくからです。
ただし、劣化の程度はゴミの出しかたによっても変化します。
多くの自治体では飲料用ペットボトルと調味料や洗剤などのPET容器を分けて回収に出すよう指定されているはずです。これは飲料用とそれ以外では残留する汚れの程度が全然違ってくるためです。
2017年、中国が海外からリサイクル用に送られてくる廃プラスチックの受け入れを拒否する声明を出しました。ぶっちゃけ商売にならないからです。
分別され丁寧に洗浄されたペットボトルならともかく、分別や洗浄が不充分だったり、他のプラスチックゴミと混ぜられていたりすると、マテリアルリサイクルに使えません。サーマルリサイクルで熱資源として利用しようにも、熱資源は貯蔵がききませんし運搬もできないので需要に限度があります。熱資源に変換することすらできず埋め立てるのでは大損です。
ろくに洗わなかったり指定されたとおり分別せずに回収に出したペットボトルは引き受け手がいなくなってしまうので、くれぐれも分別ルールはよく守るようにしましょう。処分コストがかさんで収集料金に跳ね返ってくるだけならまだしも、もし埋め立て処分場が満杯になったらいよいよどうしようもなくなります。
トピック3-3:リサイクルの重要性
なぜリサイクルしなければいけないのか、という話で木原先生はとても興味深い視点から語ってくれました。
論点がゴミ問題の一点のみ。資源の有限性とかそういう話は一切取り上げません。
プラスチックゴミは自然分解されない。だから回収しろ、と。
そうなんですよね。そこなんですよね。だからサーマルリサイクルもある程度までなら有りになるんですよね。
ぶっちゃけ、やろうと思えば石油以外からでもプラスチックはつくれるわけで。ゆくゆくはエネルギー問題にぶつかるにしろ、今直近で深刻なのはゴミ問題のほうなんですよね。
プラスチックは自然界で分解されません。そもそもそのほうが人間にとって都合がいいからです。
現在最も大量に製造されているプラスチックはPET素材、ペットボトルの原料です。人間にとってプラスチック最大の利点は衛生的な容器であることです。プラスチックは虫やカビ、菌類などによる腐食をほとんど受けず、中に入れたものの状態を衛生的に保ちます。自然界で分解されないこと自体に価値があるんです。
だからこそ、生分解性プラスチック(※ 自然に分解されるプラスチック)はごく一部の用途以外では流行りません。現行の製品もびっくりするくらい品質が向上していません。
実はあれ、普通に土中に埋めても3年とかその程度じゃ土に還らないんですよね。そんなに早く腐食されてしまうプラスチックじゃ容器として衛生を保てないから。土中でならそこそこ早く分解される製品であっても、一度海に流されてしまうと何十年と分解されなくなってしまいます。海中の環境まで想定しようとすると普段使いに支障をきたす性能になるからです。
プラスチックのごみ問題が深刻になるのは、プラスチックの用途からして必然だという側面があります。
「プラスチックが無かったら人間ってどうなっちゃってたんでしょうか?」
「戦後、石油からつくられる様々なプラスチックが身のまわりに溢れるようになってプラスチック時代を迎えました。それとともにですね、人類の寿命というのがどんどん伸びていっているわけです。何故かというと、それはプラスチックが衛生に直接働きかけるからです」
たとえ別側面に課題があったとしても、その偉大な価値を安易に否定してはいけません。
ちなみに。
このゴミ問題を解決できるかもしれないのが、木原先生が(研究中偶然に)発見した酸化分解性ポリマー。
この素材、普通のプラスチックと同じく虫やら菌やらによる腐食を受けないのですが、次亜塩素酸ナトリウム(※ つまりキッチンハイター)で簡単に溶けます。生分解性プラスチックと違って自然界に還るわけではありませんし、溶けたあとの溶液をリサイクルする方法も(見込みはあるものの)まだ確立できたわけでは無いようですが、とりあえずゴミ問題を解決するという要件には過不足なく適合します。
この酸化分解性ポリマーについて、木原先生の研究室のwebサイトには以下のようにあります。
研究者らしい冷静で現実主義的な視点が色濃く表れていて、私はすごくユニークな文章だと思いました。
環境問題への対応として生分解性ポリマーに注目が集まっています。しかし、生分解性ポリマーは、微生物が食物とすることができるものですから、硬くて丈夫なポリマーではありません。そもそも、生分解性=微生物が繁殖するポリマーは非衛生的で使用に耐えるものではありません。分解性であることを最大限に生かすためには、分解は勝手に起るのではなく、こちらが意図したときにだけ起こるものでなければならないのです。酸化分解性ポリマーはまさにそのようなポリマーなのです。
Reserch in Kihara Laboratory
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