お母さん。私ね、夢があるんだ。
知りたい人が多いであろうネタバレをいっこだけ
テレビシリーズ終盤の展開にガッカリした人は絶対観るべきです。
きっとあなたが期待していたのどかの姿がここにあります。
私の知るのどかは確かにこういう子だった、と胸を張って断言できます。
テレビシリーズ終盤終盤の展開が好きだった人にもオススメできます。
のどかのキャラクターイメージはテレビシリーズと地続きです。
生きているかぎり戦いつづけることを誓い、負けないための戦いを標榜し、絶対に諦めない彼女だからこそ、この映画の物語を紡ぐことができました。
金月龍之介はベテラン脚本家です。ちょっとロマンチストでポエミストなきらいはありますが、登場人物の心の弱さと希望の拠りどころを拾い上げる手腕に関しては天下一品です。この人がキャラクター解釈を取り違えるということはありません。
たぶん誰にも意味が伝わらないネタバレをいっこだけ
我修院サレナは『テイルズオブエターニア』のシゼルです。
本当にあらゆる意味でシゼルです。
ただし、ネレイドに取り憑かれているという意味ではありません。
(これだけならシゼルを知っているオッサンオバサンでもどういう意図で言っているのか事前に理解することはできないはず・・・)
舞台設定について
ストーリーの骨格にあんまり影響しない割にちょっとややこしい設定なので解説します。
設定把握につまずいて肝心のストーリーが頭に入らなくなるのももったいない話なので、多少は事前情報を頭に入れておいたほうがいいかもしれません。ネタバレにはならないはずです。
今作の舞台は東京です。
のどかたちは“ゆめアール”という次世代のエンターテイメントを体験しに東京へやって来るわけですが、これはどこか特定のアミューズメントパークで遊ぶというわけではありません。
ゆめアールとは、“ゆめペンダント”というアイテムを持って心に夢を思い描くと、その夢が実体を持って目の前に現れるというものです。ステキな服を着たいと思えばいつでも着替えられますし、美味しいものを食べたいと思えばテーブルにごちそう満載、空にアートを描くこともできますし、妖精みたいなペットを連れ歩くことだってできます。
想像するだけで自由にオブジェクトを生成できるAR(拡張現実)のようなもの、とイメージすれば近いでしょうか。ただし、呼び出した夢は実際に触ったり食べたりすることができます。他人が呼び出した夢も同様に共有されます。
これを、東京の中であればいつでもどこでも自由に体験することができます。
すでに3ヶ月前からサービスが始まっていて、東京の街は現実と非現実がごちゃごちゃに混在した、華やかな光景で彩られています。渋谷のハチ公像なんかも耳が宙に浮いていたりとユニークな姿に様変わりしています。一方で、高架下やホテルの部屋など、人通り少ない場所は現実そのままの姿を保っています。車なんかも普通にそこらを走っています。
冷静に考えるととんでもなく壮大な話ですね。SFアニメだったら不遜な輩の悪用が社会問題になっていそう。
なお、ゆめアールが現実にできる夢はあくまでオブジェクトだけです。
「ダンサーになりたい」「大きな大会に出場したい」といった類いの夢はゆめアールではどうにもできません。それっぽいシチュエーションを再現して体験するくらいが限界です。
ゆめアールを楽しんでいる人たちはみんなそれをわかっていて、けれどガッカリしている様子はありません。むしろ夢に満ちた光景を楽しむことで、夢そのものを身近に感じ、自分の夢を叶えるための励みにしているようです。
“奇跡の花”が開花すれば本当に夢を叶えられるという話も出てきますが、いつ開花するのか、誰の夢が叶うのか、詳しく知る人はいません。
劇中では様々なかたちの「夢」が語られます。
ゆめアールでかたちにできる夢、自分でいつか叶える夢、あるいは寝ているときに見る夢など。そのあたりだけ区別できるようにしておけばストーリーの理解につまずくことはないでしょう。
尺について
尺はカツカツです。パンパンです。これまでもたいがい限界ギリギリまで詰めこんでいましたが、今回さらに記録更新しました。
前説は光の速さでぶっ飛んで、バンクもツメツメ、オープニングやエンディングにも涙ぐましいくらいのアレンジが入れられています。Yes!プリキュア5が登場する背景設定も別枠ボイスドラマになりましたしね。ここからさらに詰めるとしたらいよいよセリフを早まわしにするしかないんじゃないかってレベル。
それだけ描きたいこと盛りだくさんってことではあるので、映画の内容には期待していいと思います。
(さすがにダンスのツギハギっぷりはどうかと思いましたが)
あ、尺といえばスタッフロール中にテレビシリーズ未公開(だった気がする)カットがいくつか出てきましたよ。
Yes!プリキュア5の客演について
今作は『HUGっと!プリキュア』の秋映画以来久しぶりにYes!プリキュア5のチームが登場するのが大きな売りとなっています。
もちろん6人ともしっかりセリフがありますし、バトルにも参加します。
バトルに関しては期待されるものがだいたい網羅されているんじゃないでしょうか。割と最初のほうから登場しますし、口上も言いますし、バンクに依らない個人技演出、ヒーリングっどプリキュアチームとのコラボレーションもバッチリです。今回バトルの作画に力が入っているので見応えという点でもガッカリさせません。
ストーリーには(※ 尺がパンパンだったのもあって)意外に深く絡んでこなかったですね。どうしてのどかたちのバトルに駆けつけられたのかすら語られませんでした。
ただ、このあたりは3月27日から映画館でスマホを使って視聴できるボイスドラマで語られるようです。同時に来場者プレゼントとしてイラスト色紙も配布開始するということなので、気になるかたは27日以降に映画館へ足を運んでみるといいんじゃないでしょうか。
どうせプリキュア映画は同じ作品を3回くらい観ても飽きないわけですし。
とはいえ、ストーリーへの絡みが少なくとも、どうして他のチームではなくYes!プリキュア5がこの映画に呼ばれたのかは、当時からのファンならわかるつくりになっていると思います。
あの立場はたしかに夢原のぞみにしか務まらない。というか、のぞみが選ばれた理由を考えることでアレがどういう基準だったのかストーリーへの理解が捗るというか。のぞみってそういえばそういう理由でプリキュアになった子でしたもんね。なるほど、って感じです。(※ ネタバレ感想で早く語りたい渇望)
ストーリーについて
のどかは優しい子です。諦めない子でもあります。
それに尽きます。
そういうのどからしさが存分に掘り下げられた映画でした。
彼女以外にこの映画の主人公は務まらないでしょう。彼女が主人公でなければああいう結末にならなかったでしょう。
プリキュアの映画としてはかなり重たい部類に入るストーリーです。(※ 元々ヒーリングっどプリキュアのメンバーってみんなシリアスですしね)
ゲストキャラクターひとりひとりに切実な思いがありました。どうしようもない事情がありました。みんながみんな苦しんでいました。
ここから彼女たちはどうしたらいいのか? と聞かれたとしたら、きっと気持ちに余裕があるはずの私たち視聴者でも妙案を出すことはできなかったでしょう。そのくらいの手詰まり感。
気持ちはわかる。だが手は出せない。そんな感じ。
だって、他人事だし。
興味がないから助けないのではありません。
現状相手のことがよくわからないから。限られたことしか知らないから。どうしても知ることのできない部分は絶対にあるから。
わからないことが不安で、知ることのできない部分が怖くて、教えてもらえないことそれ自体にも心かき乱されて。
私だったらこうするかもしれない。
だけどあの人が同じことをするかはわからない。
同じことして救ってあげられるのかわからない。かえって苦しめてしまうかもしれない。
わからない。わからない。わからない。
だって、あの人は私じゃないから。
あの人のことがわからない。
わからないから、怖い。
怖くて何もしてあげられない。
・・・お互いに。
その閉塞感に斬り込んでいくのがのどかです。
テレビシリーズでも主に中盤で散々やってきたことです。
初めてケンカした友達、長いこと仲違いしていた老人たち、何も要望してくれないお客様、使命を果たすことしか頭にない精霊さん――。
理解のしようもない相手と向きあって、それでものどかたちは少しずつ少しずつ、彼らとわかりあう術を身につけていきました。
今作はその集大成。
テレビシリーズのラストバトルではちょっと違うテーマを取り上げていたので見せてもらう機会がなかった、のどかなりの方法論が提示されます。
コメント
ブンビーさんの大活躍映画じゃなかった!(分かってた)
観に行くかどうか決めてなかったなりに、一応予習としてTwitterを見て回りました。
なんだか難しい話らしいと察し身構えてたので助かりました。
ゆめアール、『敵を浄化したい』みたいな願いは無意味ということに?
ちょっと期待してしまってましたけど、そう都合よくはいかないものですか。
ヒープリ最終盤は今でも議論が盛んみたいですね。
強いて私が文句を言うなら、秋頃予約販売してた妙に平和な感じのキュアグレース&ダルイゼンのお喋りぬいぐるみは何だったんだよ?!ってことでしょうか。
あれ、音声を全部技名とか掛け声とかにすれば立派な戦いごっこにできるのに。
ブンビーさんは「お、いるな!」と心の中で愛でるもの。
ゆめアールで浄化はできないでしょうね。
そういう本当の意味での“夢”を叶えられるのは、xxxxxとかxxxxxとかの、もっと直接的に夢と結びついているアイテムだけでしょう。実際、劇中でも奇跡を起こしていましたし。
片やお喋りぬいぐるみ、片やシリーズ構成のインタビューでの発言と、今回両方の立場に「公式」の証拠が挙がっているので、あの議論は風化するまで終わらないでしょうね。こういうこともあるから私は劇中に出していない“作者の考え”を信用しないんです。
たしかプリキュアのオモチャって、何年か前にも劇中に登場しない技だかフォームだかを収録していたことありましたよね。プリキュアに限らずああいうのって割とよくある話だと聞きます。
他方、脚本家がインタビューで明かした裏話も、実はその場のノリで考えたリップサービスだったり、スタッフ間で共有していたわけじゃない個人的な見解だったりというのは意外によくある話。ひどい場合だと、内部で揉めている問題について、片方の意見だけ外部で語ることで既成事実化を目論む人までいます。
私としては、物語中盤で積み重ねていたテーマ性と終盤の展開が食い違って見えたっていう、自分の主観が全てですね。