わかってるよ! それでも、夢見たいんだよ!
「付け焼き刃に御用心」
気になったポイント
女子高生誘拐事件に小戸川が関わっているとの噂
ドライブレコーダーのデータを押収するための方便ではなくて、まず先に噂があったらしい。
柿花もドブも大門兄から聞いている。ボス黒田とヤノも同じ噂を知っている。ということは、噂の出所はやはり大門兄? ヤクザさんチームだけじゃなく柿花にまで噂をバラまいているのなら、大門兄がハメようとしているのはヤクザさんチームではなく小戸川のほうか。
ただし、ヤノ陣営だけが何故か小戸川の名前を知らない様子。ヤノは大門兄から直接聞いたわけではない?
ドブがドライブレコーダーのデータを奪った理由
これは本人の言うとおりユスりのためと考えていいか。
ただ、情報の出所と、それを知ったドブのリアクションが引っかかる。自宅での独り言の件を知っていたり白川と接触していたりするあたり、ドブは別件で小戸川をマークしているものと思われる。なのに、せっかく掴んだ面白いネタをこんなケチなシノギのために浪費しているのがなんともチグハグ。自分の頭で判断している感じがしない。
何者かが誘拐疑惑の噂とユスりの提案をセットでドブに吹きこんだと見るべきか? 何者かというか、まあ、大門兄だけれど。
壊れたドライブレコーダー
脈絡なくアップになったと思いきや、ちゃっかりケーブル切られてるのね。ちなみにドブが乗りこんで来た時点ではまだ壊れていない。
ヤノが接触してくることを想定しているのなら今回もSDカードだけ奪って機器は生かしておいたほうが・・・まあ、どうせ気付かれるか。ドブですら手抜かりなかったわけだし。
「病院の前の公園で待っています。」
着信したのは深夜2時。ということは準夜勤か。これで翌日のシフトが日勤とか看護師の労働環境怖い。
「少しばかりのシェリーとファッジブラウニーでも食べながらゆったり西海岸でも歩いてきたら?」
シェリーは熟成段階でブランデーを添加した白ワインのこと。アメリカ人の好みは甘口。
ファッジブラウニーは甘ったるいチョコレートケーキ。カルディで売っているポロショコラみたいなやつ。
アメリカ西海岸は年中暖かくて晴れの日が多い。ハッピーなヒッピー野郎どもの聖地。
ジブン昼何食べるん!?
昼のグルメロケという話だったはずだが、何故か18時に放送している。再放送?
この番組がすでに放送しているということは、Aパートから数週間は経過しているはず。つまり白川が小戸川と会った目的は剛力失踪の件でのアリバイづくりではない。
ところでランチ取材のロケで4本撮りって可能なんだろうか。4本目撮りはじめるころには夕方になってない?
折り紙のアルパカ
ちょこちょこ普通の動物も存在する世界だってことをアピールしてくるな、このアニメ。
「モツ鍋とすき焼きならどっち派かな??」「やっぱモツだよね!! どの部位が好き!?!?!?!?!?!?」
フィーリング合ってる合ってるゥ。
瞳そらさないで
「定点カメラで景色をずうっと早まわししてるだけの映像あるでしょ? あれ見てるとすっごい焦ってくるんだ。太陽があっという間に沈んで、星が動いて、雲が流れて、時間が流れてることを否応なしに突きつけられるというか」
白川のメッセージ受信から2時間も過ぎていたり、ホモサピエンス馬場の番組が早くも放送開始していたり、柿花が自分の過去を振りかえって述懐していたり、とかく時間の流れというものを印象づけてくる第3話。
なんというか、うん、DEENの辛気くさい失恋ソングがやたらと頭をよぎるお話でした。
「俺さあ、高校のときはそこそこモテたじゃん。でも社会に出ると、見た目とかさ、仕事ができるとかできないとか厳しいじゃん。やっぱ歳とともにそういうの諦めつつあったんだけど――」
かつては手が届いていた絶頂。けれど、老けて、萎えて、鈍って、弱って、日ごとしょぼくれていく自分。
若いころは何もせずとも無限にあふれ出る活力に身を任せ、自分はきっと一角の人間になれるんだと無邪気に信じていました。けれど歳を取るにつけ限界を感じ、どうせ何者にもなれないんだと諦めるようになります。
永遠なんてどこにもない。
実際に年齢を重ねたオッサンオバサンだけじゃなく、今まさに絶頂のただ中にいる若者ですらも知っていることです。
だって、何者にもなれなかったつまらないオッサンオバサンどもの実例がそこらに掃いて捨てるほど転がっているんですから。
それでも自分なら、と信じていられるのはほんの一瞬。夢につまずき、停滞を感じるようになると、結局自分もオッサンオバサンどもの同類だったことを痛感して、次第に焦るようになります。
自分はまだ若い。まだ間にあう。そんな幻想に浸っていられる猶予すらわずかな時間だけ。だって、自分の絶頂期はちょっと前にもう終わってしまったんだから。それだけはすでに体験済みなんだから。
今ならまだ間にあうかもしれない。今ならまだ一角の人間になれる可能性が残っているかもしれない。少し前の自分よりは見込みが目減りしているかもしれないけど、今ならまだ、間にあう。
・・・だけど、もし今日もイマイチだったら? 今日も変わりばえのない一日だったら? 明日の私は、きっと今日よりもっと衰えてる。
これからの人生は未知の領域です。だけど、徐々に衰えていくことだけは知識として知っています。
焦り。
「無駄な時間なんてなかったと思ってるよ。ただ、Time is moneyっていうじゃん」
過ぎ去った時間は金なり。待ち受ける時間は鉄くずなり。
まだ自分で体験していない若者ですら知っていることです。
まだ可能性の残されている若者ですら焦りを覚えることです。
「前も言ったけどさあ。俺らのスペック、婚活市場じゃ需要なしだぜ?」
だったら当然、わかっているはずのことです。
なあ、オッサン。
なあ、オバサン。
自覚はあるよな?
「だからこそだよ。28歳のナースが、なんで俺? って」
「そりゃあ、スペックをも凌駕するフィーリングってやつだよ」
そりゃあもちろん自覚はあるでしょうとも。
私たちは衰えた。若いころよりずいぶんとしょぼくれてしまった。
知っていますとも。
わかっていますとも。
だけど、明日の私は、きっと今日よりもっと衰えてる。
だから今の自分はまだマシなほうだ。
今ならまだ間にあうかもしれない。今ならまだ一角の人間になれる可能性が残っているかもしれない。どんなに見込みが薄くとも、どんなに限界を感じていても、未来の自分に比べたら、まだ。
「わかってるよ! それでも、夢見たいんだよ!」
きっと何者にもなれなかった私たちは、それでも未来よりはマシな今の可能性に縋りたくなってしまう。
夢であるように
「・・・何が目的なんだ? 俺と会って、白川さんは何のメリットがあるんだ」
小戸川は信じません。
今の自分の可能性を。
今の自分に優しくしてくれる人たちのポジティブな言葉を。
全部、逐一イヤミな言葉で皮肉ります。世を拗ねた陰キャ高校生みたいに、いつもいつも。
今の自分の可能性に縋ってしまわないように。
「存在を疑ってるわけじゃないよ。ただ、――騙されてるんじゃないのか?」
「妬んでんのか?」
「柿花。妬んでるから言ってるんじゃない。冷静に考えろよ。さっきお前が言ったんだ。俺たちは婚活市場じゃ需要ないんだろ」
夢を見るのは危険だ。
どうせまた悪夢にうなされることになる。
きっと何者にもなれない私たちは、きっと未練がましく何者かになろうとするたび、きっとまた無駄に傷ついてしまうだけだ。きっと。きっと。
「お前・・・。フィーリングをウソのスペックが凌駕してるじゃねえか」
夢を見たくなる気持ちはわかります。
だって、このままだとお先真っ暗なんです。
夢に現実を変える力はないかもしれません。だけど、それでも、現実を変えることができるのは夢だけなんです。
どんなにうらぶれようと、どんなにしょぼくれようと、何者にもなれないままオッサンオバサンになってしまおうとも、それでも、幸せな未来を掴むためには夢見ることを諦めちゃいけないんです。
それだけは絶対の真理です。
柿花は正しい。未来を諦めないつもりなら。
「死ぬのが怖くないのか? 死んでもいいやつが妙な正義感出すんじゃねえよ」
「怖いよ。どうしようもなく怖い。でも、面倒くさいことに巻き込まれるくらいなら死んだほうがマシさ」
「そうだ。仲間に危害加えよう。誰にしよっかな。あ、お友達、何つったっけ、柿花だっけ?」
「柿花か・・・。あいつも死んだほうがマシかもな」
だからこそ、・・・さっさと終わっちまえばいいのに。
今この瞬間、理不尽な力によって強制的に人生を終えることを強いられたなら、今さら未練がましく可能性に縋らないで済むのに。
柿花は正しい。まだ未来を諦めないつもりなら。
でも柿花は間違っている。どうせ私たちは何者にもなれないのだから。
もがけばもがくほど、みっともなく苦しんで溺れ死ぬだけなのだから。
「どうなんだ、その後。白川さんとは」
「いつになく鬱陶しいな」
「前回から好き度アップした?」
「木星くらい」
「いや、かなりじゃねーか」
ほら、世のなか拗ねているつもりでいても、結局どこかで期待してしまう。
「――迷惑? たまにこうして会って話したり、連絡取ったりするだけでも、迷惑ですか?」
こんなオッサン相手でも世のなかってやつは案外優しい。
どうせ一番肝心なものだけは寄越すつもりがないくせに。
夢だけは見せようとしてきやがる。
いつまでもダラダラとグダグダと諦めさせまいと、あの手この手で甘い言葉をささやいてきやがる。
「ねえ、小戸川さん。どうして眠れないの?」
「眠りかたを忘れたんだよ。どうやってたっけなって」(第2話)
さっさと終わっちまえばいいのに。
夢なんてもう見たくないのに。
柿花は、――正しい。
このまま君だけを奪い去りたい
「断るよ。お前は犯罪者には違いない。そんなやつの片棒担ぎたくない」
「殺すって言ってもか」
「お前に人は殺せない。プライドだけは一人前の小悪党が」
撃ってみろよ。その瞬間、今お前が縋りついているわずかな可能性も一緒に霧散するぞ。
何者かになりたいんだろう?
ボスに気に入られて、一角の人物として認められたいんだろう?
自分から手放せるものかよ、夢を。自分の可能性を。
もしそんなことを簡単にできるようなら、世のなか何者にもなれなかったオッサンオバサンどもがこんなにも転がっちゃいない。
いつまでも夢だけ見せようとしてくるこの世に見切りをつけて、さっさと自殺でもするだろうさ。
生きているということは、お前は半端者だということだ。
「死ぬのが怖くないのか? 死んでもいいやつが妙な正義感出すんじゃねえよ」
「怖いよ。どうしようもなく怖い。でも、面倒くさいことに巻き込まれるくらいなら死んだほうがマシさ」
だから、小戸川がドブに従おうとしないのは本当に正義感でも何でもありません。
ある意味において心底死にたがっているだけです。
自分では夢を見つづけることもさっさと死ぬことも選べない、未練がましい半端者だから、誰かに終わらせてもらいたいだけです。
「そうだ。仲間に危害加えよう。誰にしよっかな。あ、お友達、何つったっけ、柿花だっけ?」
「柿花か・・・。あいつも死んだほうがマシかもな」
「冷たいな、小戸川君。でもちょっと動揺してたよ。本当は虚勢張ってるんだね。誰にしよっかな。タエ子。――白川。・・・ここかあ。小戸川君のウイークポイント」
半端者。
きっと、柿花よりドブより小戸川が一番の半端者。
白川の名前を聞いて動揺したのは、もちろん彼女との交友関係まで知られているのが予想外だったからです。
けれど、彼女が本当に自分のウイークポイントかというと、・・・実際そのとおり。
彼女は明らかに何らかの意図を持って小戸川に近づいています。
あからさまです。最初からわかりきっていることです。
小戸川は柿花ほど無邪気に自分に向けられる好意を信じるつもりがありません。
だけど、それでも、縋ってしまう。
彼女を好きになってしまう。
彼女のなかに、どうせ叶いっこない夢を見てしまう。
小戸川は誰より半端者だから。
小戸川は、結局のところ今を生きているのだから。
だから、見たくもない夢を、見てしまう。
「・・・小戸川。早いとこ結婚したらどうだ」(第1話)
もし結婚したとしても、まあ、安らかな眠りにつけるようになるわけではないでしょう。
ただ、人並みに夢を見るようになるだけです。
柿花のように。ドブのように。
樺沢や、今井や、芝垣や、馬場や、毎夜タクシーに乗り込んでくるありとあらゆる人々と同じように、小戸川も夢を見るようになるだけです。
追い縋ったところできっと何者にもなれはしない、儚い夢を。
私たちが生きているこの世は、しょぼくれたオッサンオバサンにすら、どうしようもなく優しい。
「柿花。妬んでるから言ってるんじゃない。冷静に考えろよ。さっきお前が言ったんだ。俺たちは婚活市場じゃ需要ないんだろ」
「だからフィーリングが――」
「会ったこともねえのにフィーリングも何もあるかよ」
「メールのやりとりしてるつってんだろ。見ろよほら、こんなに」
「ちょっとお前のプロフィール見せてくれ。――寄越せって。寄越せ!」
なにせ世のなか拗ねたふりをしている小戸川ですら、他人に優しくするのを辞められないくらいなんですから。
絶対に叶うわけがない夢を見ている柿花を、それでも見捨てられないくらいなんですから。
この世は私たちに夢を見せようとしてきます。
叶えさせるつもりもないくせに。
なのに。それでも。
きっと、きっと、と。
これから衰えていくばかりの若者たちを、衰えゆくからといって死ぬこともできないオッサンオバサンどもを、叶いっこない夢に縋りつかせて、無様に、哀れに、もがき苦しませようとしてきます。
優しいから。
夢に現実を変える力はないかもしれません。だけど、それでも、現実を変えることができるのは夢だけなんです。
「別に、いつ逃げたっていいんだぜ」(第1話)
逃がしてたまるものか。
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