それより、両親がいなくなった俺に生活費を送ってくれた人に幸せな姿を見せたいなとは思う。
「長い夜の過ごし方」
気になったポイント
東京都長嶋聡くん高校生
この子いいよね。歳相応版小戸川って感じで。ホモサピエンスのうち芝垣の仕事ばかり批判しているのはこの年頃特有のひねくれたファン精神なのか、それとも単純にアンチなのか。前者かな?
白川の好きな人
たぶん剛力先生よね。向精神薬6000錠盗むとかイヤがらせしてるし。『We Are The World』わざわざチェックしてるし。
小戸川ではない。あんな目線の合ったドアップ写真、大して仲よくもない段階でいつ撮る機会があるというのか。人づてに手に入れたとして、あんなの誰がどういう話の流れで渡すというのか。
「いっつも湯船入らないよな小戸川」
水難事故か。
しほ18歳東京
顔にスタンプ被せてあるのはサクラだってネットのおじちゃんたちが言ってた!
「ドラレコって・・・。わかりました。探してみます。運転手の名前わかりますか?」
たぶん小戸川が行方不明の女子高生を乗せた疑惑の件なんだろうけれど、いったいどこから伝わってきた情報なのか。あれ十中八九大門兄がドライブレコーダーのデータを押収するためにテキトー言った方便よね。
タクシーのサンバイザーに差してあるやたらファンシーなペン
白川を乗せたときは無かった。あるのが確認できるのはアイドルオタク今井がタクシーを降りたシーン以降。
白川のLINEアイコン
なにその寂しい私アピール。
ホモサピ馬場がプレイしているゲーム
少なくともこの世界、普通の動物がいるらしい。
ドブの拳銃
撃鉄上がった状態で引き金に指かけてどうする。
寂しがり屋どもの夜更け
「あんたは何か後悔してるのか?」
「看護学校行くのに奨学金借りたことかな」
「なんで後悔?」
「あのころは意地張って親に頼りたくなかったけど、頼ってみればよかったなあって」
「まだ返せてないのか?」
「ううん。返せた」
おそらく同性に見られたらドン引かれること間違いなしなLINEアイコンを使っている白川が不思議なことを言います。その真意はまあ、察しろということですね。このアニメの作風的に。
「でもさ。マジメな話、小戸川の両親が帰ってきたときに嫁でもいりゃさぞかし喜ぶだろ。孫の顔も見せてやりたいだろ」
「それより、両親がいなくなった俺に生活費を送ってくれた人に幸せな姿を見せたいなとは思う」
「ナントカ育英会みたいなとこだろ」
「ん・・・」
少なくとも小戸川は察したようです。共感したようです。彼女のことを意外と気に入っているそぶりなのもそのせいなんでしょうか。
まあね。金の切れ目が縁の切れ目ともいいますもんね。
私、今でこそ大抵何をするときでもおひとり様エンジョイ勢なんですけど、学生時代はオゴりオゴられで友達同士しょっちゅうご飯食べに行ってたんですよね。割り勘できるときでも基本誰かしらが交代でオゴっていました。
借りをつくっておけば、それを返すという口実でまた誘うきっかけにできるからです。
・・・途切れるのが怖かったんでしょうね。今思えば信じられないメンタルしてたなあ、我ながら。自分では寂しがり屋は演技のつもりだったはずなんですけど。
長い夜の過ごし方。
「自己肯定感低すぎでしょ、市村さん」
「だって、元々素顔でやってて結果がこれだもん。むしろ三矢さんが自己肯定できてるのヤバくない?」
「私、なんだかんだ親に愛されて育ってるからかもしれないです」
「ヤバ。それたしかに大きいかも。私なんかずっと親から『お前には無理だ』って言われて育ったし。ヤッバ」
縁が、自分が間違いなくここに存在していることを信じさせてくれる。
ナントカ育英会だなんて事務的に金銭支援してくれるだけで、別に血の通った交流とかあったわけでもないでしょうに。それでも、ささやかな縁に縋りたくなる夜はあるのでしょう。
両親という、普通の人ならごく当たり前に享受できるであろう縁を得られなかった小戸川なら、きっと、なおさら。
もし奨学金を借りず親のお金で看護学校に通っていたなら、今ごろ私はその分のお金を親に返していたのだろうか。親はいちいち返せと言ってきただろうか。無利子無担保、そして無期限。ひょっとしたら向こうは貸しっぱなしで構わないと思うのかもしれない。貸したという意識すら持たないものなのかもしれない。
だけど、それでも、私には借りができる。いつまでも。いつまでも。きっといつまでも。
――奨学金だから、返せてしまった。
「今から会えませんか」
「病院の前の公園で待っています」
無いものねだりです。こんなの。
自分でもどこまで本気なのか知れないささやかな縁に縋って、長い夜をやり過ごす。
溺れる者のワラ
「・・・どうやったらバズるんだよ。チクショウ」
ここにも寂しがり屋がひとり。
14万リツイートも稼いだツイートにぶら下がるリプライになんとなく目が向きます。
先日の初バズ2万リツイート。
14万リツイートと比べたらこれもだいぶショボい数字に見えてしまいますが、今問題なのはそこではありません。
リプライ。大事なのはそっちです。傾向と対策、大事。バズることに貪欲な樺山なら当然チェックしたはずです。そして見たはずです。現実には自分の思いつきがウケたわけじゃなく、たまたま背景に映り込んでいた人物が話題になってバズっていただけだという現実を。
そして決心します。それならそれで、もう一度バズるためには――。
うん。こいつ絶対ろくなこと考えてないな。
「あー。仮面したまま外恥ずかし。売れるわけなくないですか、市村さん。仮面つけたままじゃ二階堂さんみたいに太客つかないし」
「仮面取ってもファンなんてつかないよ私なんて」
もがく。もがく。売れるはずのない仮面の裏で。
片やアイドル活動の裏で配信業。(そのせいで本業が疎かになっているっぽいけれど)
片やアイドル活動の裏で出会い系サイト。(サクラなのか詐欺目的なのかは不明ですが)
アイドル活動への意欲が萎えきっている割に、少女たちは自分たちが成功者になることをまだ諦めていません。
「想像以上だ。上出来だよ、二階堂。ネットニュースにも取り上げられてる」
「全然だよ。CM打った割には売れてない。今井さんみたいな客をもっと増やさないと」
仮面をつけていない、多少は売れているはずの少女すらまだもがく。
人目を憚らないそのもがきっぷりは、ファンの目には「剥き出しの向上心」として好ましく映る様子。
「運転手さん。オレらどうやったら売れる思います?」
「さあ。運じゃないの」
「そんなんあったら苦労しませんやん。オレら天下取りたいんスわ」
鳴かず飛ばずで歳だけ食ったお笑いコンビももちろんもがいています。
「2人、温度差があるように見えるけど」
片方だけ。
相方はもう交際相手のヒモとして生きていくのでもいいかなと思っているようです。
けれど、本当に才能があるのはどうやらやる気のない相方のほう。
「こんばんは。ホモサピエンスの単独ライブ見に行きました。まず、単独ライブは基本ファンが行くので、ウケるのは当たり前です。それから、自分たちの価値を信じ、信念を持つのは素晴らしいことです。しかし、自分を認めてくれない素人と一蹴するのはプロとして恥ずかしいことだと思います。他人の価値観を認めたうえで信念を貫き、結果を出して、ようやく表現者といえるのではないでしょうか。自信と過信を履き違えないでください。あと、煩悩イルミネーションと比べて圧倒的に華がないです。p.s. 単独ライブのトリのネタ、勢いでごまかしてましたが活字にすると面白くないです。がんばってください」
だいぶ濃い目で厄介ファンに片足突っ込んでいるリスナーが批判しているのは、よくよく聞いてみると全て柴垣のこと。ラジオで問題発言を連発しているのは柴垣。ネタを書いているのも柴垣。後輩芸人と自分たちをいちいち比較しているのも柴垣。ついでにいえば見た目に華がないのもまあ、柴垣。
大したファンです。こいつ柴垣のことどんだけ熱心に見てんだよ。
実際、ピンでレギュラー番組のオファーが来たのは近藤のほう。
その近藤自身は柴垣をリスペクトしてくれていますが、現実はかくも厳しい。懸命に努力している柴垣は批判され、芸人を辞めてもいいくらいの気持ちでいる近藤がなぜか評価されてしまう世界。
たぶん、柴垣は前々から気付いていたんだと思います。自分よりも近藤のほうに才能があることを。
だから何かにつけいちいち相方に噛みついて、どうにか反骨精神を引き出してやろうと考えていたんでしょうね。コンビなのだから自分が面白くなくとも相方が才能開花すれば一緒にのし上がれると。
「ちゃうやん。身を引くどうこうやなくて、先輩にそんな言われて悔しがらへんのが致命的やねんて」
「しゃあないやろ! 悔しないんやから! ほなお前、感情コントロールできんのかい! そんなんできたら片想いとかこの世からなくなるやろ!」
「なんやおもろいやんけ、その感じ。もっと公共の電波に乗せていけよ、そういうの」
「そういうのがおもろい言われてもどうしていいのかわからへんねん!」
「その追い詰められて開き直ってる感じや」
「あんたからガー言われたらそらそうなるやろ!」
「運転手さん。こいつ中学のときね、女子と殴り合いのケンカして引き分けおったんスよ」
「関係ないやろ今! それ関係ないやろ! 最も触れられたくないパーソナルな部分やんか!」
「勉強でけへん。ケンカも弱い。お笑いもできへん。何ができんねん、お前に」
「勉強に関してはこの議題に上がってへんやろ! お前と同じ高校や! そんなに変わらへん!」
実際近藤のキレ芸面白いですからね。舌も回るしテンポもいいし語彙力も上がるし頭までやたら回るようになるし。これ間近で見たらそりゃあやる気引き出したくもなるわ。これ番組で見せられたら成功できそうな気もしてくるわ。ボケとツッコミ反転してるけども。
もがく。もがく。もがく。
自分の才能を信じることもできないくせに。
やる気皆無で頼りない相方に縋るしかないくせに。
「レギュラー決まったって。昼のグルメロケみたいなやつやけど。・・・俺だけ」
だけど、浮きあがることができたのは必至にもがいていた哀れな男ではなく、ただぼんやりと流されるままだった1本の稲ワラ。
縁が自己肯定感を与えてくれる。
けれど結局、それはおぼろげな根拠のない自信でしかないのかもしれない。
長い夜の過ごし方。
誰かとつながるのは良いことなのか、それとも、悪いことなのか。
自分の知らないところでいつの間にか因縁ができていた小戸川は今夜、なんかいきなり銃口を突きつけられました。
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