オッドタクシー 第12話感想 どうにもならない、どうにかなりたい。

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もう俺、後悔だらけですよ! うっさいボケ! お前とコンビ組んだこと後悔してるわ! 芸人なったことも後悔してるわ! 夢なんか追いかけるべきちゃうかったわ!!

「たりないふたり」

気になったポイント

言えなかった今井

 ミステリーキッスの事件によって今井は意気消沈し、小戸川の策で場を混乱させることよりその場の保身を優先することになった。
 小戸川の策に今井の身の安全への配慮がなかったせいでもある。今井にお金を守る目的意識があったならそれでも勇気を出せたのだろうけれど。彼の安全を確保することをちゃんと意識していた大門兄はえらい。

芝垣の後悔

 馬場の「他に何後悔してんの?」がスイッチとなって引き出される剥き身の本音。第2話で馬場が見せたものの再演でもある。
 お笑いを見に来たお客さんにウケる語りになるかはわからない。ただ、この場には今これを聞かなければ絶対に後悔していたはずの人間がひとりだけいる。

ボスから課せられたルール

 ドブは黒田への恩返しのために単身でチンケなシノギを繰り返していた。ヤノはヌルくなっていくドブを挑発し発奮させるために派手なシノギを狙っていた。彼らの行動原理をひとつのルールだけで説明することはおそらく不可能。どちらも自律して野放図に行動している。黒田の課したルールはもっと別のところにある。
 なお、大門兄弟と同じお守りを持っていることから、おそらく小戸川も黒田の支援を受けていたものと考えられる。小戸川はドブと同じく自主的に恩人に報いたいと考えている。また、小戸川はドブのボスが黒田であることを知らない。結論できるだけの情報が足りていないため推測でしかないが、以上のことからルールというのは「両親がいなくなった俺に生活費を送ってくれた人に幸せな姿を見せたいなとは思う」(第2話)のことではないかと予想する。

田中というジョーカー

 まさかこの男の存在がここに来てここまで的確に刺さるとは。ある意味「夢は追いかけていればいつか必ず叶うもの」。目的意識を喪失した今井や山本マネージャーが無力化された一方で、彼だけが活躍するのはなるほど必然。

ズーデンのアイコン

 小戸川とズーデンの接点といえば、第2話で語られた、ホモサピエンス馬場が芸名と顔写真を晒してファンから協力を受けていたという話題くらいのはず。小戸川、異能抜きでも普通に記憶力すごいな。
 そして明確な証拠を突きつけられるまでシラを切り通すドブも恐い。

小戸川から今井への指示

 お金は駐車場にあるからタクシーで来いと言われても、駐車場に警察が来ているかもしれないなかで、車のキーは何故かタイヤの下、肝心のお金もいかにも物々しいジュラルミンケースに1億円単位の現ナマで入っているわけだが・・・。これでどうやってタクシー運賃を支払えと。

遅れて現れた大門弟

 サボタージュ中なのに制服を着ているということは、やはり何かしら独自にアクションを起こすつもりだったか。港で張り込みしていたのかもしれない。小戸川からの連絡を拒否していたため、彼はヤノの目的地が変更になったことを知らなかった。

樺沢

 登場は次話に持ち越しのようだが、結局彼はドブに何を頼まれたのだろうか?

何者にもなれなかった

 「何が目的なんだ?」
 「何が目的なのかわからなくなっちゃってさあ。最初は大切なものを失って、それを奪ったあいつに復讐してやるって、それだけを糧に生きてきたんだけど。何かやっぱゲームと違って飽きちゃって」

 「結局お前はどうしたいんだ」
 「謝ってくれたらいいよ。イヤがらせもたくさんしたけど、こっちだって失ったものはたくさんある。何をしても気が済まないから一言謝ってくれたらそれでいい」

 憎いタクシー運転手を殺したところで何も残らない。

 きっと誰も理解しない。
 自分が何のためにこんな凶行に及んだのか。
 自分がどうしてこんなにも激しく憎しみをたぎらせていたのか。
 きっと世間の誰ひとりとして理解しようとしない。多少珍しくともすぐに忘れ去られるニュースの1ページとして終わる。

 きっとどこにも、何も残らない。

 「あの・・・。俺、ほんと身に覚えないんだけど」
 「あんたの車に轢かれそうになったんだよ! それでスマホが壊れた!!」

 だからせめて、理解していてほしかった。
 何のためだったのか。どうしてだったのか。せめてただひとりにでも、自分の存在を刻みつけてほしかった。

 田中はドードーになれませんでした。
 田中のドードーなんてこの世のどこにもいませんでした。
 ドードーを求め焦がれていたのは田中ただひとり。ドードーの価値を信じていたのは田中ただひとり。
 ひとりよがりでした。

 「わかった。あの。たぶん、急いでたんだと思う。それで大切なものを奪ってしまった言い訳にはならないけど、タクシー運転手として配慮を欠いていたと思う。申し訳ない」

 そうじゃない。タクシー運転手としての配慮とかそういう問題じゃない。
 田中は小戸川を憎んでいた。
 ただそれだけを知って、ただその事実だけを受け止めてほしかった。

 なのに、それすらも田中は得られませんでした。

 「“ditch-11”。“ditch-11”に何か覚えは?」

 この期に及んで突如降って湧いてきた可能性。最後の可能性。タクシー運転手なんかよりももっと因縁深い相手かもしれないという偶然。奇跡。
 ditch-11になら、自分はもっと激しい憎悪を向けられるかもしれない。
 ditch-11くらい悪意ある人間なら、これだけの憎悪を向けられる理由があると理解してくれるかもしれない。
 あいつの心に田中という存在を刻みつけたい。忘れられないようにしてやりたい。

 ドードーはもう、無理だから。
 今さらヒーローにはなれっこないから。
 せめて。自分以外の誰かのもとで。――自分は、何者かでありたい。

 「そ。ああ、思い出した。ズーデンやってたわ。ずっとやってなかったから忘れてた」
 「何で嘘ついた?」
 「いや、お前も嘘ついただろ。ネットオークションがどうのこうのなんて連絡は来てない。カマかけてんじゃねえよ」
 「やましいから嘘ついたんだろ! 16年前、俺から10万円だまし取ったのお前だろ! あれから俺の人生は狂っちまったんだ!! お前のせいで!!」

 知ってほしい。
 理解してほしい。
 憎ませてほしい。
 憎悪を受け取ってほしい。
 心に刻んでほしい。
 自分を何者かとして認知してほしい。

 「弾残ってないのはわかってんだ。強がんな」
 「――ッ!!!!!」

 のらりくらりと激情を受け流すditch-11。
 必死の怨嗟を我が事として取りあってくれないditch-11。

 最後の一発は、結局田中を何者にもしてくれませんでした。

 ずっと、田中は自分にしか解決できないはずの問題を他人に転嫁させようと、甘ったれていたんです。

どっちつかず

 「すまない、黙ってて。正義感の強いお前は許してくれないと思って」
 「許さないよ! いや、許すよ! お兄ちゃんだし! でも法律が許さないんだよ! でも許したいよ! ・・・でも。でも。――ヤノたちのほうがもっと許せないから、捕まえに行く」

 きっと兄が言うほど正義感の強い人間ではありません。

 人を撃ちました。
 けっして緊急時とはいいがたい状況で。発砲予告もなく。威嚇射撃もせず。さらには事後報告もなく。無力化させておいて逮捕すらせず。
 そもそも逮捕する気がありませんでした。ドブを逮捕したら、この男が兄とつながっていることまで白日の下にさらされてしまうから。

 情報をよこし、協力を持ちかけてきた男は、兄もろともドブを捕まえるつもりでした。
 大門弟にとって、それではむしろ協力者たりえませんでした。
 だから、兄とドブとの繋がりを示す決定的な証拠を握られてしまった時点で、男との連絡は絶ちました。

 兄がこうしてボロボロに傷ついてしまったのは、きっと自分のせいです。

 もし、兄よりも自分の正義を優先させていたなら、あのとき港でドブの身柄を確保できていたんですから。ドブと一緒に兄も法で縛ってしまえばこんなことにならずに済んだはずです。
 もし、自分の正義よりも兄を優先させていたなら、あのとき港でドブにトドメを刺すことも充分に可能でした。ドブさえいなくなってしまえば兄が明確な犯罪行為に関与することもなかったはずです。

 今、兄がここに倒れているのは、中途半端だった自分のせい。

 「なんでドブの味方なんてしたんだよ! バカ! 大バカ野郎! 嘘つき! 兄ちゃんの嘘つき! 悪を懲らしめようって約束したじゃないか!」
 「・・・これ、覚えてるか?」
 「なんだよそれ。なんか、警察学校出たときに見た」
 「交通遺児育英金の支給が終わったときに記念にもらえるやつだ。これをくれた人が、ドブのボスだ」
 「だからドブに協力したってこと?」
 「ああ。すまない、黙ってて」

 兄も中途半端でした。

 けっして正義の心が失われたわけじゃないんだと思います。兄がこんなことに手を染めた動機は、恩人への義理返しのためでした。私利私欲のためではありませんでした。
 それでいて、後ろ暗いことをしているという自覚もありました。正義感の強い弟には話せないと思ってくれたくらいには。

 もし、兄が最初から話してくれていたなら、きっと自分が止めたでしょう。
 もし、話を聞いてみて止めるべきではないことだと思ったなら、自分も協力していたでしょう。

 中途半端でした。
 自分も、兄も。
 正義も、兄弟愛も、どっちも捨てきれない大切なものでした。
 だからふたりこういう損しかない結果になって、だからふたり何も得られぬままここにいます。

 「行くぞ、兄ちゃん!」

 だからといって今さらこの生きかたを変えるものか。
 正義も、兄弟も、どうやったってどっちも大切なんだから。
 このまま、どっちつかずのまま、最後まで行こう。

 諦めることを知らない、目の前の現実に頑としてなびこうとしない、その青くささときたら。

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