オッドタクシー 第11話考察と感想 金剛石を磨くモノ。

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大丈夫。私、がんばるから。敗者復活がんばって。私もここから必ず復活してみせる。

「あの日に戻れたら」

気になったポイント

二階堂と芝垣の共通項

 2人とも歯に衣着せぬ野心家。馬場が二階堂に惚れたのはそれか。どこまでも芝垣大好きだなこの男。

会議室での三矢

 予告時点ではイヤーカフスがないので今の三矢だと思ってましたが、単に省略されていただけでしたね。
 ヤノの検分によると鈍器で殴打ののち絞殺とのこと。となると犯行現場はどこでも説明がつくか。ただ、当日は今の三矢(=和田垣)も小戸川のタクシーで事務所に来ているはずなので、現段階で最も疑わしいのは彼女。(※ むしろ二階堂はなぜ気付かない?)
 山本マネージャーも怪しい。二階堂は殺人も辞さない覚悟で、あえて人気のない事務所を選んで三矢を呼んでいるのため、少なくとも普段であればこの時間帯にいない人間のはず。外から見て明かりもついていなかった。(※ たまたま1階の居酒屋で飲んでいて二階堂が上へ上がっていく姿を見た、とかなら説明がつく)

死体処理

 ただ死体を海に沈めただけではなく、ある程度の工作もしていたらしい。ペンチを使っていたということは歯でも抜いたか? それを乗り越えたうえで警察が三矢ユキと断定したのなら信用していい確度のようにも思えるが・・・。

二階堂と馬場の交際

 馬場が二階堂の部屋に通うかたちだったらしい。現実として馬場のほうが顔が売れているから必然か。

馬場の解散宣言

 いざというときは二階堂を庇うつもりか。芝垣をスキャンダルから遠ざける意味もある。

メモリーノート

 ざっくりいうと日毎のTo Doと中長期To Do、作業記録、日記を複合したようなもの。記憶の保持が困難な知的障害者や精神障害者が指導員とのコミュニケーションやスケジュール管理のために使用する。
 事故当日の記憶が消えている以外脳機能に障害が出ていないということは、実質的にはただの診察手段になっていたのかもしれない。

終わらせたくない -三矢-

 「ひとつ確認したいんだ。報道で出た三矢ユキの写真と、俺が乗せた“三矢ユキ”が別人なんだが」
 「・・・勘違いじゃないですか」
 「お前と乗せたじゃん。あの唐揚げ好きの子。で、思い出したんだ。俺が10月4日に乗せた子って――」

和田垣(今の三矢)が犯人だとしたら

 追加情報がないかぎり、三矢を殺す動機は彼女に成り代わるためと推測される。
 ただし、その場合は山本マネージャーとの共犯関係が必須。事務所の死体が秘密裏に処分されることが大前提の計画になるし、ミステリーキッスに加入しようにも彼の口利きがなければどうにもならない。
 また、彼女が練馬から事務所へ移動した理由が不可解。小戸川が乗せた客は和田垣で確定したため、コンビニの防犯カメラに映っていたのも和田垣ということになる。練馬にいた理由が三矢と無関係だというのは考えにくいが、練馬から2人一緒に事務所へ来たわけでもない。

市村が犯人だとしたら

 彼女はリッチになりたくてアイドルをしており、二階堂の貪欲な向上心に可能性を見いだしている。二階堂がセンターから外れることで可能性を摘まれることを恐れたなら一応動機たりうるか。
 実際に犯行に及ぶためには上記同様、山本マネージャーとの共犯が必須。
 なお、彼女が主犯であるならいよいよ和田垣の動向が不可解なことになる。大分出身の和田垣がデビューの見通しすらないのに練馬まで来ていた理由はもちろん、終電過ぎの時間帯にわざわざタクシーを利用してまで事務所を訪れた意味もわからない。

山本マネージャーが犯人だとしたら

 動機がない。彼は二階堂個人ではなくミステリーキッス全体に愛情を注いでいるように見える。二階堂個人に入れ込んでいるなら馬場との交際を許さないはずだ。
 また、和田垣の実力は三矢に比べて明確に劣る。ミステリーキッスの件以外でよほどの事情でもない限り、彼が主体的に三矢を殺すことはないだろう。痴情のもつれだとか、感情が昂ぶっての突発的犯行だとかなら一応あり得るか。
 とはいえ、どちらにせよ和田垣の動向に説明がつかない。

他に犯人たりうる可能性

 三矢を殺す動機がある人間がもう1人います。

 三矢です。

 「私は正直思い出づくりくらいの感覚で参加したんだ。だけど、もしかしたらすごいところまで行けるかもって思った。二階堂さんに出会ったとき」

 オーディションを受けた時点で三矢には充分な素養がありました。努力もしていました。ミステリーキッスとしてのレッスンが始まるとなおさら実感したことでしょう。少なくともビジュアルと向上心以外では、自分が二階堂より上回っていると。
 そんな彼女が、自分を差し置いてセンターに抜擢された二階堂との出会いに感謝していました。

 彼女には自分がセンターに立てない理由があったからです。
 父親にして芸能界の重鎮・笑風亭呑楽との確執。これが解決できなければ、そもそもメジャーデビューなんて夢のまた夢でした。
 だからこそ、彼女にとってアイドルオーディションは思い出づくりにしかならなかったんです。

 彼女がどこまでのことを考えていたのかはわかりません。ただ、そんな彼女でもアイドルとして躍進できる可能性が劇中でひとつだけ描写されていました。
 二階堂をセンターとして立てることです。いざとなれば自分だけでも仮面を被ってデビューすればいい。そうすれば、仮面というハンデを負っていても、二階堂の力でメジャーシーンへ押し上げてもらえる。現実にミステリーキッスはそういうユニットになりました。
 人気を確立して、父親の圧力を受けても潰されないほどに大きな存在になったあとなら、きっといつか仮面を外した本物の自分として堂々とアイドル活動することも可能になるでしょう。

 「この子をセンターにしよう」

 けれど、鶴の一声があって彼女はそういう戦略を採ることができなくなりました。さすがにセンターが仮面を被って活動するアイドルユニットでは充分な人気が見込めません。もちろんプロデューサーも許さないでしょう。
 プロデューサーに指名されてしまった時点で、事実上三矢はアイドルになる道を絶たれてしまったことになります。

 三矢がアイドルとして大成するためには、誰よりもまず三矢自身の存在が邪魔でした。

 ちょうど、4番手でオーディションを落選した和田垣という少女が未練がましくも山本マネージャーに自分を売り込んでいました。
 実力は二枚も三枚も劣りますが、ミステリーキッスに対する熱意だけは本物でした。彼女なら、もしかしたら喜んで一時的な代役を引き受けてくれるかもしれません。
 むしろ実力が劣っているのはかえって都合がいいかもしれません。プロデューサーが彼女の無様なレッスン姿を見たなら、きっとセンターの件も考えなおしてくれるでしょうから。三矢がアイドルとして大成するためには、ミステリーキッスのセンターはどうしても二階堂である必要がありました。

 あとは、そう。どうせデビューしたら仮面を被る予定なんです。いっそ整形しちゃってもいいかもしれませんね。
 地下アイドル時代は顔をさらして活動してしまっていました。ひょっとするとそのあたりから父親に気取られてしまう可能性があります。
 整形手術を受けた顔を一度でも父親に見せたなら、たとえテレビに映るアイドル・三矢ユキが自分と同姓同名だったとしても、まさか同一人物として疑われることはないでしょう。家出して身軽になるいい口実にもなります。
 和田垣そっくりの顔になるのが一番都合がいいでしょう。いくら覆面アイドルとはいえ、楽屋では共演者やスタッフに素顔を晒すことになるわけですから。

 ただ、ここでもうひとつの誤算。
 和田垣は三矢が想像していた以上に情熱家でした。
 彼女は三矢になりきるため、無断で三矢そっくりに顔を変えていました。ひょっとしたら彼女は三矢を裏切って、最後まで自分が三矢ユキでありつづけようと目論んでいたのかもしれません。

 これでまた三矢の計画はご破算です。
 三矢がアイドルになるためには、もはや和田垣を殺すというリスクを冒してでも、自分が最初から最後まで“三矢に成り変わっている和田垣”を演じつづけるしかなくなったのです。
 しばらくはダンスがヘタクソだった和田垣のふりも我慢しなければならないでしょう。

 和田垣殺害には山本マネージャーが協力してくれました。
 当初の入れ替わり計画自体、最低限山本マネージャーにだけは話を通しておかないと実現不可能なものだったからです。彼の協力がなければそもそも和田垣の存在を知ること自体が困難でした。彼は和田垣を殺さなければなくなるよりずっと前から、三矢の共犯者だったのでした。
 まさか、よりにもよって犯行当夜に二階堂が事務所まで来てしまうとは思わなかったけれど。

 ――まあ、『オッドタクシー』はあくまでサスペンスであってミステリ作品ではないと思うので、終盤も終盤の今からこんな凝ったギミックをぶち込んでくるかというとだいぶ怪しいところではありますけどね。ちょっとした二次創作小説みたいなものだと考えていただければ。

 ただ、これなら犯行当日に和田垣の顔をした少女が練馬からタクシーに乗った件や、山本マネージャーが現場近くに居合わせていた理由に説明がつくかなあと思っています。

信じるためだから -大門弟-

 「仲よしの弟はどうした?」
 「長いこと出勤してない。様子がおかしいなあと思うことはあったけど、従順でかわいい弟が俺からの連絡を無視するとはな。なあ、タクシードライバー。お前何か言った?」
 「まさか。俺たちもう仲間だろ」
 「仲間か仲間じゃないかでいったら――、大きなくくりでは最初から仲間だよ」

 「大きなくくりでは最初から仲間」の意味も気になるところ(※ 例のナントカ財団法人の絡みか、それともヤクザ組織を潰そうとしている件か?)ですが、今はさておき。

 第9話からちょっと妄想を膨らましていたネタがありました。
 ↑と同じでほとんど二次創作小説でしかない考察なので書かないでいましたが、それっぽい疑惑も深まりましたし、せっかくなのでこっちも書いちゃいます。

 「ぐわっ! ・・・ああ、クソ! 素人じゃねえのかよ!」(第9話)

 港でドブを撃った人物の件です。拳銃を調達普通に考えるなら大門兄としたほうが自然ですが、これが弟のほうだったとしたら。
 (※ ちなみに、第9話の感想文では「日本の警察に支給されている銃ではない」とか書いちゃいましたが、ちゃんと調べてみると普通にニューナンブですねコレ。旧式ですが今でも警察で使われているみたいです。田中の銃はコルトパイソンという別モノ)

 「お前の兄とドブは仲間なんだ」
 「前も聞いたよ、それ。兄ちゃんに確認したさ。じゃあこう言ったよ。『違う』つってな」
 「それを信じるのか?」
 「当たり前だろ。お前と兄ちゃんどっち信じるつったら決まってんだろ。俺たち何卵生双生児だと思ってんだ。一だぞ!」
(第8話)

 大門弟が小戸川に協力する理由は、自らの手でドブを逮捕し、正義を為すため――。とされていましたが、彼の立場から考えてみればもっと大切なことがあるはずです。

 兄の正義を信じることです。

 大門弟にとって、兄は誰よりも信頼できる人物でした。
 なにせ血を分けた肉親です。
 それ以上に、幼少期同じ経験をして、同じ夢を誓いあった同志だからです。

 小戸川に多少証拠を突きつけられたところで、そう簡単に兄を見放して、自分が代わりに正義を為そう! だなんて割りきれるものでしょうか?
 大門弟の行動次第では、彼にとってもっと幸せな未来を描くこともできるはずです。

 すなわち、「兄はやはり正義の人だった」という物語。

 大門弟にとってはこれが一番いいはずです。事実かどうかは問いません。というか、小戸川がドブの言質を握っているので現時点では限りなく偽の可能性が高いです。
 でも、そんなの関係ありません。客観的事実なんてひとりの人間の世界観には大した影響を及ぼしません。本人にとっての主観的事実のほうがよほど重要。世間一般の評価も一致していればなお良し。

 要は大門兄とドブの犯行が現実に為されなければいいんです。
 もしくは、大門兄の罪が明るみにならず、ドブと小戸川の口さえ塞いでしまえればそれでもいい。自分に嘘をつくことにはなりますが、それで大門弟は誰にも邪魔されず自分の信じたいものを信じられるようになります。

 銀行強盗計画で大門兄の出番が来る前に、あるいは犯行が世間にバレる前に、ドブと小戸川を2人とも殺してしまえれば。
 逮捕じゃダメです。最低限、尋問中に余計なことを言わないよう暴力なり脅迫なりで屈服させなければなりません。そしてドブも小戸川もそういう手が通じる人間ではありません。やっぱこいつら殺さなきゃ。

 大門弟にとっては小戸川の作戦に乗るよりもそっちのほうがずっと都合がいい。

 もちろん「大門兄が本当は最初から正義のために行動している」という筋書きも考えられますけどね。ですが、大門弟という人物はそんな優しい物語を信じて待てるほど無邪気でも無気力でもありません。(※ 真相はこっちな気がしますけどね)
 なにせ小戸川によってこれ以上ない明白な証拠を突きつけられているんです。まともな神経をしていたら居ても立ってもいられなくなるはずです。

負けるもんか -二階堂-

 「幼いころから人一番負けず嫌いだった。通知表にはバイタリティ溢れる向上心が強い子だと書かれていた。しかし、人生に負けは必ず存在する。勉強・運動・芸術。全てにおいて能力の限界があり、そしてその全てに上がいた。――容姿以外」

 負けたくありませんでした。
 負けつづける毎日でした。
 唯一誇れるものは容姿。けれど、それもどうだか。実際にはアイドル業ですら見識や体力、感性が要求されて、そういう部分でライバルが這い上がってくる。脅威に感じる。

 オーディションではたまたま自分が勝ち上がることができました。
 だけど、ライバルは努力家で、初めて努力というものを経験する自分なんかよりはるかに努力が上手で、追い越されてしまう日が来るのを日々恐れていました。きっといつかまた負けてしまうだろうと、負けたら今度は二度と逆転できなくなるだろうと、半ば確信しながら恐れていました。

 ここからボチボチいつもの感想文のノリに戻ります。

 「あなたたぶん受かるよ。ダントツでかわいいもん」

 自分と違って、負けることを恐れない人がいました。

 「最初は悔しかったよ。でもな、もう諦めてん。ほなめっちゃ楽になった。同期や後輩の出世も喜べるしな」

 自分より優れた人も、そうは見えない人も。
 自分だったら絶対悔しくてたまらなくなることを上手に受け流して、自分より幸せそうに生きている人たちがいました。

 自分にとって負けず嫌いは絶対に欠かせないものなんだっていうプライドがあります。
 だけど、よくよく考えてみるとそれが人生に役立っていたかは怪しいものです。いくら悔しがったところでいつも負ける人には負けてばかりいて、唯一負けずにいられているものは生まれ持った容姿。
 向上心があってもただただ息苦しいばかりで、努力なんて何の役にも立っていませんでした。

 「『こうなったら終わりだ』と思ったけど、『こうなれたら楽だろうな』と思った。なんとなく連絡先を交換した」

 「3人でのし上がる。仲間と一緒に勝つ。それも悪くないと思った」

 でも、知らず知らず救われていました。
 役立たずの負けず嫌い精神でも捨てる気にはならなかったけれど、彼らの優しさは、誰かと助けあえる力は、こんな自分でも受け入れることができるんだと気付きました。本当は両立できるんだと。
 ・・・自分は、彼らほど周りに優しくなれないけれども。

 「私さ、このオーディションに落ちたときどうしても認めたくなくて、あとで山本さんに直談判したんだ。入れろ入れろいれろー!って」

 「私なんか何の取り柄もないからさ、消えてしまいたいなってときどき思うけど」

 とてつもない罪を犯してしまった結果というかなんというか、自分と同じ負けず嫌いと知りあう機会ができました。

 彼女は自分と同じでした。負けたくない気持ちばかりがとにかく先走っていて、なのに向上心が結果と結びつかなくて、無力感ばかり抱えて。
 なのに、どうしてでしょう。ネガティブな言葉を語る彼女は、妙に充実していそうでした。

 「日常が訪れた。誰かに見られたんじゃないか? もうバレてるんじゃないか? 歩いてると後ろから肩を叩かれるんじゃないか? どんどん動悸が激しくなり、呼吸が荒くなる。汗が止まらなくなり、手が震え、泣き叫びたくなる。時間が戻ればなと心底思う。そしてまた日常に戻る。私の人生はこの先、これの繰り返しかもしれない。気が狂いそうだった」

 あの子と違って、自分はいつも苦しんでいました。何が違うのかといえば罪の有無。それしか思い当たりません。
 もし落ち着いて考えることができたなら、罪を犯す前から自分は苦しい思いばかりしていたんだって思い返すこともできたでしょうが、あいにく平静でいられないのが今の自分でした。
 いつも苦しい思いをしていました。
 この負けず嫌いのせいで。
 負けず嫌いだから、あの日あんなカッコ悪いことを考えてしまったんだ。

 二階堂の心のなかで、いつの間にか生まれついての負けず嫌いは罪の意識と混同されていました。

 彼女はそのせいで、今、必要以上に苦しんでいます。

 「満を持してライブイベントを行った。『及第点だ』と山本は言ったが、私は不満だった。敗北感を味わっていた。もっと行けたはずだ。『三矢ユキさえいれば――』」

 違う。
 その負けず嫌いは悪いものじゃない。

 私なら、二階堂にはそういうことを言ってあげたい。

 「誰もが思ったはずだ。『三矢ユキさえいれば――』 私はみんなのそんな思いをねじ伏せる。そう誓った」

 だって、努力できているじゃないですか。三矢ユキみたいに。
 ストイックに高みを目指せているじゃないですか。自分が持って生まれたものに甘えることなく、日々着実に実力を高められているじゃないですか。努力すれば成長できるんだって、自分でも信じられているじゃないですか。

 それに、あなたは今、誰のために努力していますか?
 自分のためだけじゃないでしょう。死んでしまった三矢ユキの責任を取るためでしょう。三矢ユキを奪ってしまった仲間に償うためでしょう。自分のため、そしてみんなのために、アイドルの高みを目指すためでしょう。あなたはもう負けず嫌いなだけじゃない。立派に仲間思いです。
 三矢ユキがいなくなる前、こういう自分になってみたいとおぼろげに考えていたありかたは、今もあなたのなかに息づいています。

 三矢ユキがいなくなっても、呪わしい事件に水を差されてしまったあとでも、それで全てが壊れてしまったわけじゃない。
 あなたのなかに三矢ユキは今でも生きています。呪いのように。祝福のように。

 「そんな私を支えてくれたのが馬場だった。もちろん彼には何も話していない。ただ、彼の存在そのものに救われていた。唯一の癒やしだった。負けず嫌いの私を彼は生き様で許容した。『負けてもいい。もちろん勝ってもいい。全てどうでもいいことじゃないか』そう思えた。そんな彼を幸せにしたいと思った」

 ほら。あなたはもう、負けることを恐れていない。
 ほら。あなたはもう、自分以外の誰かの幸せを喜べる。

 きっと、三矢ユキに負けたくないからでしょう?

 あなたはきっと、もう、想い出のなかのあの子を超えています。あらゆる点で。
 あなたはどうせ気付いていないだろうけど。

 「私とは決定的に違う。人前に出ることに慣れている。場慣れしている。同い年の努力した人。負けを知ってる人。負けを恐れない人――」

 だいたいさ、似ているんですよ。
 二階堂と芝垣に共通項があるのと同じで。
 三矢と馬場もよく似ているんです。

 この子、結局のところ負けを許容してくれる優しい人ばかりを好きになる。

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