私には助けられない。だから、行きなさい! ――プリキュア!
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(主観的)あらすじ
クラスメイトのあきがほまれの弟子になりたいと言いだしました。その幼馴染みのじゅんなはそれに反対しています。あきは今の自分から変わりたくて、一方のじゅんなはそのままでいいと考えているのです。いつも一緒にいる仲よしのふたりなのに、ほまれをはさんでなんだかギクシャクしてしまいます。ほまれにしてみればどうにも居心地が悪いのでふたりを仲直りさせたいのですが、あれこれ働きかけても全然うまくいきません。こちらはこちらで憂鬱です。
また、ルールーの潜入調査はいよいよ佳境。未だプリキュアの力の秘密は解き明かせませんが、プリキュアの正体を探り当てることはできました。ルールーの気持ちはどうあれ、クライアス社としてはもうそれで充分。プリハートさえ盗み出せばプリキュアを倒せます。
襲撃。あきとじゅんなのトゲパワワから生みだされたオシマイダーは強力で、しかもほまれのプリハートまで奪われていて、プリキュアはまったく手も足も出ません。この絶体絶命の窮地をどうにかできるのは――ほまれだけ。
ルールーは盗んだプリハートをほまれに返します。その期待に応えるべくほまれは力を奮い、オシマイダーをいなし、あきとじゅんなに手を差しのべ、妨害を受けても必死に手を伸ばして、そして、今度こそ彼女たちを仲直りさせることに成功するのでした。
無事にオシマイダーを退けて事件は解決。しかしそのために裏切り者となってしまったルールーはプリキュアたちの目の前で破壊され、クライアス社に連れ去られてしまうのでした。
恐るべき手の込みようの重要回。前話は省力化を突き詰めながらいかに面白く仕立てられるかがミッションだったそうですが、今話は脚本も演出も作画も一切妥協なしまさに渾身のフルスペック仕様。それでどちらも大成功しているんですから・・・すげーな東映アニメーション。(語彙不足)
陽射しやら影やら雨やら、ありとあらゆる舞台装置に徹底的に象徴的な意味を持たせていた今話。そこでやたら意味深に描かれるツツジの花。白いツツジの花言葉といえば、「初恋」ですね。
・・・うん? たしかにほまれの恋愛描写はありましたが、それって今話の密度の濃い流れの中ではそこまで重要な要素でもなかったような?
躑躅
読めるでしょうか。私は読めませんでした。これで「ツツジ」と読みます。花の名前にくさかんむりが付かないのはちょっと珍しい気がしますね。
「躑」とは佇むこと。あるいは行きつ戻りつすること。
「躅」とは踏むこと。あるいはその踏んだ跡のこと。
この2字を合わせてなぜか「躑躅(ツツジ)」。本来なら足踏みすることとか躊躇することとかって意味合いになりそうなものですが(実際、大きめの辞書なら「テキチョク」という別読みの項もある)、ツツジの花言葉は先に書いた「初恋」のほか、「節度」とか「慎み」とか、いまひとつその漢字表記に似つかわしくないものばかりなんですよね。
ちょっと調べてみましたが、どうやら花自体は日本原産で、字だけ漢代の中国から伝わってきたものをそのまま借用した様子。難読漢字あるあるですね。どういうつもりでこの字をツツジの花に当てたのか、その起源まではよくわかりませんでした。残念。
「今日も元気だね」
「ツツジが、ですか?」
「雨は美しい花を咲かせ、恵みとなる。だがときには凍えるような寒さを与える」
雨粒を花弁いっぱいに受けて、生き生きと咲き誇るツツジの花園。けれど不意に根元から落ちて泥に汚れる一輪も。
雨は天の恵み。けれど、ときには花をも傷ませる。いいえ。そもそも嬉しいことと辛いことはいつだって表裏一体。どちらとして受け取るかは、結局のところ心の持ちようです。
プリキュアは努力を奨励します。世界中の子ども向けヒーローがことごとくそうであるように。がんばるから幸せになれる。そう信じられるから辛いことにも耐えられる。未来を信じられる。だから、どうか世界の仕組みがそういうものでありますように。
祈るのです。私たち大人は。どうか世界がそういうものであってほしいと。そうなってほしいと。だから大人は子どもたちにこういうヒーロー像を与えて、いつか力をつけた彼らが私たちの後の未来を、今よりもっと明るくしてくれることを願うんです。
ヒーローなんてしょせん夢幻のつくりものですが、それでも現実を変えることができるのは夢の力だけです。
「とりあえず雨宿りできるところ、探そう」
「賛成」
とかなんとか理想論を謳ってみますが、現実として辛いものは辛いよね。
なんでもできる、なんでもなれる。きっといつかは。
けれど、なにもできない、なににもなれない。今はまだ。
「はーぐーたーん! 今日もきゃわたーん」
「・・・何かあったんか?」
「ひゃー、参ったー。・・・あ」
「・・・座れば」
現実にある辛いものから逃げて、辛いものに周囲を囲まれて、やっと見つけた小さな安息地に身を隠して、逃れられない現実から目を背けて、辛いものがどこかに行ってしまうのをじっと耐え忍ぶ。やり過ごす。
「不意に変わるあの空、どこか似ていると思わないかい? 心に」
知ってるから。どんな雨だっていつまでも降り続くことはないって。だから雨宿りする。
晴れたところで、どうせまたすぐ雨に降られて、また雨宿りしなきゃいけなくなるってことも知っているけれど。
降ったり止んだり。その都度都度に、雨宿りしたりつかの間のお日様の下を歩いたり。
行きつ戻りつ、一度踏んだ足跡にもう一度同じ足跡を重ねて、私たちの毎日はいつも同じ場所をぐるぐる回っているばかりで。躑躅するばかりで。
なりたい自分、叶えたい未来は、ずっとはるか向こうにあるというのに。
変われぬ強さ、変わる思い
「輝木ほまれさん。・・・いえ、師匠! 私を弟子にしてください!」
「こんな子がクラスにいたなんて灯台モトクロス! それでね、私もスケートはじめたの!」
あきはアホの子です。はなに負けず劣らずのシンプル直結なピーカン思考です。どうしてこんな逸材が今までモブやれていたのか。
「なーにが『弟子にしてください』よ。泣く子も黙る輝木ほまれだよ」
「そういうことじゃない! あきはそのままでいいの!」
それはまあ、ブレーキ役が別にいたからだったようですね。正直第2話とか第4話とかの印象だと、どちらかといえばじゅんなの方がはっちゃけていた印象もあるんですけどね。あきと一緒にいるのがよっぽど楽しいんでしょう。
いつもふたりセットだった彼女たちは見るからに毎日楽しそうでした。すでに満ち足りていて、すでに幸せそうでした。
けれど、あきは。
「私、なかなか物事決められなくて。ジュードーニダンって言われるし」
密かに、変わりたいと思っていました。
「あの子いっつもおせっかいでさ。だから、つい甘えちゃうんだ」
今のままじゃイヤだと思うようになっていました。
「ほまれは憧れなんだ。自分の考え持ってて、大人っぽくて」
迷惑かけてるじゅんなに嫌われてしまうとかそういう差し迫った危機感ではなく。ただ、憧れられる人を見つけたから。ああいうふうになれたら、じゅんなとももっとステキな仲よしになれるんじゃないかと夢見たから。
ほまれは力のプリキュアです。
彼女は幼いころから才能に恵まれ、誰もの目を惹くスケート選手として活躍していました。
彼女はみんなの憧れの存在でした。彼女はただ自分が強くありつづけるだけで、みんなを元気にすることができたのでした。
「ほまれは憧れなんだ。自分の考え持ってて、大人っぽくて」
ほまれの自己評価ではちっともそんなことありません。けど、そんなの関係ないんです。
「お前のスケートをはじめて見たとき、俺は感動した。お前の姿に元気をもらった気がしたんだ」(第4話)
彼女はスターでした。誰かにとってのヒーローでした。ほまれが認めようと認めなかろうと。
その自他の評価のギャップは彼女を大いに苦しませ、また、今でも重荷になりつづけているのですが・・・。結局のところ、それでもほまれの現実は今も昔もスターです。残念ながらそれは変わりません。ほまれは生まれつき力のある子です。どうしたってそこから逃れることはできません。
あきに憧れられてしまいました。
理不尽なことに、よりにもよって自分では欠けていると思っていた要素を勝手に見出されて。
私の知っている私は、目の前の友達ふたりを仲直りさせてやることすらできない、無力な子どもでしかないのに。
「あき。ほら、じゅんなが空いてる!」
「――ちゃんと取ってよ!」
「取れるか!」
「一緒に帰ろう」
「え、でも・・・」
「・・・気にしなくていいよ、ほまれ」
どうして私がふたりをションボリさせてしまっているんだろう。
そんなこと、誰も望んでいないはずなのに。
憧れるって、憧れてもらえるって、本当はもっとステキで、幸せで、明るいもののはずなのに。
なのに、どうしてこうなってしまうんだろう。
考えるまでもありません。
自分のせいです。自分が無力だからです。憧れるだけ憧れさせておいて、その憧れに応えられない人間だからです。
スターのくせに、スターとしてふるまえないからこうなってしまうんです。
無駄な時間
雨宿り。
現実にある辛いものから逃げて、辛いものに周囲を囲まれて、やっと見つけた小さな安息地に身を隠して。
はなたちと出会ってずいぶん変われた気がしました。
プリキュアになって悪いヤツらと戦えるようになりました。
いろんなお仕事体験でみんなを笑顔にすることができました。
跳べなくなったあの日からだいぶ回復して、昔のライバルにも認めてもらえる自分に変われたつもりでいました。
雑誌に特集まで組んでもらえちゃったりもして。
でも、そんなの、雨と雨との途切れ目の、つかの間の晴れ日でしかありませんでした。
輝木ほまれは今も無力なままでした。
ひとたび雨が降れば、あるいはちょっと現実を見せつけられれば、たったそれだけですべて元の木阿弥。
雨が止んだら外に出て、だけど雨が降ったらまた戻ってきて。結局何も変われていませんでした。
「・・・ったく。探したやないか」
なのに、まだ探してくれる人がいるんです。
「アイス、溶けるやろ。ずーっと! 楽しみに取っていたんや! 溶けるやろが!」
まだ必要としてくれる人がいるんです。
すっごいくだらない理由で。ほまれがいなくてもいいくらいの低レベルなことで。無力なほまれでもできるくらいに低レベルなことで。
以前の雨宿りと今日の雨宿りは、たったそれだけ、そんなくだらないことだけ、それでも、違っていました。
そんなくだらないことですが、それはほまれに前を向くきっかけをくれました。
「友達と一緒に学校に行ける時間が好き。かわいい赤ちゃんの温もりを感じる時間が好き。ふたりと一緒に過ごす時間が、私の心を輝かすんだ!」(第8話)
あなたはそう言いました。
「人生に無駄な時間なんてない!」(第8話)
あなたはそう言いました。
行きつ戻りつ、一度踏んだ足跡にもう一度同じ足跡を重ねて、いつも同じ場所をぐるぐる回りながら、あなたはそんな毎日を肯定してみせました。
もう一度氷上のスターに、遙けき遠い夢に向かって懸命に手を伸ばしている当のあなたが、人生のありとあらゆる時間の価値を肯定してみせました。
友達と一緒に笑って。かわいい赤ちゃんを抱きしめて。みんなで悩んで。努力して。自分の夢に関係ないことにも挑戦して。努力して。みんなとがんばって。努力して。努力して。努力して。
その結果、あなたはまた少し夢に近づくことができたではありませんか。
だから、この雨宿りだって無駄じゃない。
氷上の流れ星
「不意に変わるあの空、どこか似ていると思わないかい? 心に」
雨は上がりました。もう充分に浴びたから。
「雨は美しい花を咲かせ、恵みとなる。だがときには凍えるような寒さを与える」
雨はたしかに辛いけれど、同時に恵みももたらすのです。
今は充分な恵みを受け取ったから、今のほまれにはもう、雨は必要ありません。
「ルールー・・・? なんでここに」
「私には助けられない。だから、行きなさい! ――プリキュア!」
ここにはあなたにしかできないことがあります。あなたにしかなれないものがあります。
「今、そこから出してあげる!」
「今度こそ・・・、一緒に帰ろう!」
さっきまでのあなたにはできないことがありました。
けれど、今のあなたはさっきまでと違って雨を浴びています。
辛い現実を目の当たりにして、無力な自分を痛感して、それでも、空を見上げました。雨雲の向こうに青空を見ました。
今のあなたはさっきまでのあなたとは少し違います。
だって人生に無駄な時間などないのだから。今のあなたは前よりももっとずっと、強い。
輝木ほまれは力のプリキュアです。
「この人、どこかで・・・」
「なんか、必死・・・」
ほまれは力のプリキュアです。元気のプリキュアであるはなや、知恵のプリキュアのさあやとはできることが少し違います。
仲直りさせるために気づかいしてまわるとかそういう器用なマネ、本来はあんまり似つかわしくないんですよ。
彼女は力のある子です。彼女はただ、がんばっている姿を見せればいい。それだけでみんなを元気にします。それだけで誰もの心を揺さぶります。
彼女はそういう、誰にもできないことができるスターなんです。
「あのさ、ごめん。私、輝木さんに嫉妬してたかも」
「私こそごめんね。じゅんなに迷惑かけてばっかだから、しっかりしようと思って・・・」
「私さ、あきはそのままでいいと思ってた。おっちょこちょいで楽しいし」
「なによそれ」
ほまれのがんばる姿があきとじゅんなの心を溶かします。
あきには変わりたいと思うだけのステキな思いがあって、じゅんなにも変わってほしくないと思うだけのステキな思いがありました。ふたりの間をギクシャクさせてしまっていたのはそういうものでした。
嬉しいことと辛いことはいつだって表裏一体。気の持ちよう、心の持ちようでその見え方はいくらでも変わります。
ほまれを苦しめつづける“スター”という呪縛が、今日ばかりは誰かの願いを叶える祝福として力を発揮したように。
「――だから私、応援するよ。あきがなりたい自分になれるように!」
ほまれの力は今度こそ、彼女が手を届かせたいと思っていたものに届くのでした。
だから、どうか。
プリキュアの力の秘密を求めて潜伏し、ついにその秘密を解き明かせぬまま、その力に準じることにより散ってしまった機械人形。
あなたの心を不思議に暖めた日々もまた、無駄なものではありませんように。
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