私がそう思ってないから、そうなの!
↓dアニメで全話配信中!↓
(主観的)あらすじ
はなたちを庇ったルールーはクライアス社に回収され、記憶を消す処置を施されます。彼女はアンドロイド。未来を奪われた人間たちを管理するために製造されました。けれどその本来の正当な賦役に立ち返ろうとすると、思考回路にちらつくのです。はなたちとの想い出が。
はなたちはルールーを探していました。彼女の正体が敵のスパイであったことを知ってなお、彼女と友達になれたことを信じていました。果たしてルールーははなたちの前に現れます。記憶を消す処置を終えた彼女は、プリキュアを倒すため自律的に出撃していたのでした。
襲いかかるルールー。やむなく変身するはなたち。ぶつかりあう拳に言葉を乗せて、はなたちは何度もルールーに語りかけます。当初の戦力評価に反してしぶとい抵抗を続けるはなたちに、ルールーはより多くのデータを収集する必要を感じ、彼女たちを再分析します。しかし、その分析を呼び水として、消されたはずの想い出が次々にサルベージされていくのです。
ルールーは苦しみます。記憶を思い出したがゆえの罪悪感に。はなたちを騙してしまった自分の過去に。けれどはなは騙されていないと言います。はなにとってはすべてを知った今もなお、ルールーは大好きな友達のままだから。その言葉を聞いたルールーの瞳から涙が零れます。それは、ルールーが自分のなかにも心があることを知った瞬間でした。
『R.U.R.』。Rossum’s Universal Robots(ロッサム汎用ロボット社)。チェコの劇作家カレル・チャペックによる、世界で初めてロボットという言葉を生み出した戯曲のタイトルです。(ちなみにこの劇中に出てくる社長さんの名前が妙に不穏なので要チェック)
この劇におけるロボットたちは人間の代わりに労働するための存在として製造されました。やがて自律意志を獲得した彼らは、労働をやめた人間たちを異物として地球上から排除してしまいます。しかしさらにその後、労働以外を役目として与えられた最新のロボットが“心”に目覚めたことをきっかけに、ロボットたちは第二の人類として人間たちの足跡を継いでいくことになるのですが・・・。そこまででこの戯曲は幕を閉じます。
人間を人間たらしめるものとはいったい何なんでしょうね。働くことが人間らしさなのか。自律意志を持つことが人間らしさなのか。はたまた心を持つことか、誰かを愛することか、未来を担うことか。
もしも人間ではない機械人形が人間と同質の存在になりたいと願うのなら、そのために必要なファクターとは、いったい何なんでしょう。
正しい世界
「これは未来の世界。私は未来を奪われた人間を管理するためにつくられたアンドロイド。人々は時間を忘れ、何も望まず、静かに人生を終える。そこには痛みも苦しみもない。これが正しい世界。これが正しい世界・・・」
そこにはリストルやダイガンによく似た人物も映っていたりして。大きく映された女性もパップルに目元が似てるかな? チャラリートっぽい人は遠景になっていてよくわかんない。
全人類の時間が止まっているのなら、クライアス社を運営しているのは誰なんでしょうね。時間の止まった世界こそが人類にとって幸福な姿であるならば、唯一我が身の時間を動かしてまでそれを管理してくれる存在とは、いったいどれほどの自己犠牲精神によって業務を遂行しているのか。
「メビウス。あなたの幸せは何?」
「私の幸せ。そんなものはプログラムされていない。だが、あえて言うならば・・・唯一管理することができなかった、プリキュア! お前たちを消し去ることだ!」(フレッシュプリキュア! 第50話)
フレッシュプリキュア!の管理国家ラビリンスを統括していた人工知能・メビウスは、“管理する”という仕事自体を己の存在意義とし、本来望まれていた国家管理の業務を達成したあともその仕事を拡大解釈して、次々に別世界を己の管理下に飲み込んでいきました。たとえその世界の人々が管理されることを望んでいなくとも。
本来なら人々の幸せのためにつくられた存在であったはずなのに。彼自身に幸せを得る手段が与えられなかったこと、仕事を完遂してしまえば自らの存在意義すらも失ってしまうという構造そのものが、彼を歪ませてしまっていました。
ルールー・アムールとしての記憶を消された、RUR-9500。
彼女は本来“痛みも苦しみもない”世界を管理するためにつくられた存在であるがゆえに。
心を持たないアンドロイドにすら“胸の痛み”、“胸の苦しみ”を植えつけるはなたちは、彼女の「正しい世界」から絶対に排除されなければなりません。それが「正しい世界」を管理するということ。それが彼女の仕事、彼女の存在理由なのですから。
「プリキュア・・・倒す」
誰がために
「本当にこれでいいの?」
「思い出して!」
「ルールー!」
あなたは何のために存在しているのでしょうか。
それは「正しい世界」を管理するため。
でも、その与えられた仕事はそもそも何のためだった?
「毎日毎日ひとつひとつの仕事を一生懸命やることが、お客様みんな、家族の未来の幸せをつくる。パパそう思ってるんだ」(第6話)
たとえばはなの父親ならその疑問に答えることができます。仕事というものは誰かに必要とされてはじめて成立するものです。
「正しい世界」を管理する仕事とはいったい何のためにあるのでしょう。
それは未来の人々に痛みも苦しみもない凪いだ人生を提供するためのものです。
その仕事は、管理される人々みんなのためのものでした。
なのに、はなたちはその意義をなぜかルールーに問うのです。「本当にこれでいいの?」と。
与えられた仕事とは、自分ではない誰かのためにあるというのに。
いいえ。はなの父親なら、人間ならこうも答えます。
「それってパパの幸せでもあるからね。つまりサイコーってこと!」(第6話)
仕事とは、誰かのためであると同時に、自分の幸せのためのものでもあるんだと。
「思い出して!」
“あなたは”何のために「正しい世界」を管理しようとするのでしょうか。
あなたは何のために存在してきたのでしょうか。
心
私は何を目的とした存在なのだろう。
与えられた仕事を果たすため、「正しい世界」の障害となるプリキュアを倒すため、より多くのデータを求めたルールーは消しそこなっていた自分と彼女たちとの想い出にアクセスします。
「心拍数上昇」
「なっ!?」(第16話)
「やりますわね」
「あなたも」(第14話)
「もっとルールーのこと知りたいし!」(第13話)
ルールー・アムールの思考回路はこんなくだらない日常の記憶を後生大事に保存していました。削除することすら拒否していました。
「ルールーだってかわいいと思ってる。きっと」(第14話)
「ありがとう、ルールー。怒ってくれて」(第15話)
「私には助けられない。だから、行きなさい! プリキュア!」(第16話)
「ルールー。家族になろう」(第13話)
それは「正しい世界」を知らないはなたちから見たルールーの姿。
それは「正しい世界」を知らないはなたちに接したルールーの姿。
私は何を目的とした存在なのだろう。
私は彼女たちに何を求められていたのだろう。
私は私に何を求めていたのだろう。
自分の過去をふり返って分析してみれば、それは。
それは、「正しい世界」を管理することではありませんでした。
与えられた仕事とは無関係に、ルールーのなかには他にもやりたいことが、なりたい自分がありました。
「なんでもできる、なんでもなれる」(第1話)
それはつまり、はなたちが最も大切にしているものとそっくり同じもの。
誰かに与えられたのではなく、自分が、自分と誰かのために、未来を求める思い。
プリキュアの強さの根源。
“心”でした。
フレフレ私
「何、これ・・・。本体の破損箇所はないのに、胸が張り裂けそう・・・!」
与えられた仕事と、それと無関係に存在する“心”。
与えられた仕事に準じて働いていた過去は“心”の望むことを裏切るし、“心”に突き動かされて行った過去は与えられた仕事を否定する。どちらを基準として考えてみても、ルールーの過去はルールーという存在と矛盾します。
私はRUR-9500? それともルールー・アムール? どちらだとしても胸は痛む。
その痛みから解放されるための答えを持っているのは、はなでした。
「私に近づかないで!」
「そんなの無理!」
はなはルールーのことを心から心配しているくせに、そのルールーのお願いを正面から棄却します。
「やめて! ・・・ごめん。今の私には――」
「また明日。また、明日ね!」(第4話)
いつかほまれに対しても同じことをしていたように。
「きっと狙いはプリキュアと俺らやったんや。そうとも知らず俺らはまんまと騙されたんや」
客観的に見ようとすれば、たしかに現実はそういうものだったのかもしれません。
けれど、はなの瞳ははなの頭にひっついています。残念ながらはなの身体の外側には付いていません。人間なら誰もがそうであるように。
だから、はなははなの目の前の現実を、はなの主観でしか見ることができません。
「騙されてない」
だから、はなにとってのありのままの現実は、どこの誰とも知れない視点を妄想して客観と名付けたものとは違う姿。
「もうわかっているのでしょう? 私はクライアス社製のアンドロイド、RUR-9500 / ルールー・アムール! あなたたちの未来を奪いに来た! 邪魔なプリキュアの力を調べるためにあなたの母にニセモノの記憶を植え付けて潜入した! 嘘をついてあなたに近づいた! 私はあなたの家族を、学校のみんなを、街の人々を、みんな! 騙した!」
そんなの、はなが見た現実とは違う。
はなの知っているルールーは何でもできて、カッコよくて、一緒に食卓を囲んだ家族で、学校のみんなにもすごいって驚かれて、さあややほまれとも仲よくなって、いつの間にかえみるちゃんとも友達になっていて、表情は乏しいけれどときどき笑ってくれて、敵の攻撃から身を挺して庇ってくれもした、大好きな友達です。
「騙されてなんか、ない!」
だから、それがはなにとってのありのままの現実です。
「私がそう思ってないから、そうなの!」
だから、はなの目に映るルールーの姿は、ルールーが見ているルールーの姿とは違います。
はなの目から見たルールーの過去はルールーという存在と何も矛盾していません。
はなの目から見たルールーは、いつも自分の“心”に従って行動していました。
「ルールーのことが好きだもん。今さら嫌いになんてなれない」
そんなルールーだからこそ、過去のはなは過去のあなたのことを大好きになったんですから。
だからフレフレ。
もしあなたが自分を好きになれなかったとしても、私はあなたのことが好きです。
もしあなたが自分の未来を信じることができなかったとしても、私はあなたの未来を信じています。
だって私は私の未来の明るいことを信じているから。
だったら、そこに一緒にいるはずのあなたの未来ももちろん明るいに決まってる。
フレフレ私。フレフレみんな。
もちろんこれはあくまではなの視点です。ルールーにとっての目の前の現実が同じものとは限りません。
けれど、もしあなたがそれを好ましいと思うのならば。
そうなりたい自分を大切に守りつづけてきたというならば。
「これ以上あなたと、あなたたちと触れあうと、この痛みが私のなかの正しい世界を壊していく」
どんなに痛くとも、それこそがあなたの心が描いた明るい未来であると信じるならば。
どうか、これからのあなたが自分の心のあるがままに生きられますように。
「まだ痛いか?」
「いいえ。むしろ暖かいです」
フレフレ、ルールー・アムール。
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
プリキュア の感想を漁っていて、あなたに出会いました。16話を始めに見させて頂きましたが、やはり素晴らしい。彼女達の言葉の奥の方を見させてもらってる気持ちで拝見してます。今後もよろしくお願いします。
SECRET: 0
PASS: 921548849fbce98e21e109c30f0b7c00
身に余るほどの讃辞をありがとうございます。幸栄です。
素晴らしいのは私よりもはなたちのがんばりだと思いますが、今後も言葉を尽くして彼女たちを応援していきたいと思います。