ここの記憶をノアに渡すかどうかエムが最後まで悩んでいた場所。でも、やっぱり渡そうと思う。ここはエヌの全てだから。
アグヌスのおくりびと ミオ
第5話 蝕 ~ 第6話 選択
Lead Character:がんばったひと
ミオ
Major Happening:大きなできごと
入れ替わり
シャナイアの裏切りにより、エヌに待ち伏せられたノアたちは投獄された。1ヶ月後の蝕の日、成人の儀をもってミオが寿命を迎えるところを、無力さを噛みしめながら見送れと。
しかしその裏でミオとその同一存在たるエムとは密かに入れ替わっていた。エムは願う。この入れ替わりによって、エヌが本来大切にしていたものを思い出してくれることを。
成人の儀。その日、勝ち誇るエヌの目の前でおくられていったのはエムだった。
Sub Questions:小さなできごと
ミオがもらった時間
ミオはかつて、自分より年下のミヤビの自己犠牲によって命を救われたことがある。今話でもまた、あやうくセナとランツに自己犠牲されるところだった。ミオはそのように誰かから時間を譲られることを望んでいなかった。そんなことせず、自分で自分の時間を生きてほしかった。
しかし今回、エムから時間をもらうことについては受け入れることになる。エムの願いはミオに命を託さなければ叶わないものだったから。
エムの願い
エムはエヌを愛していた。今も変わらず愛している。だからこそ、彼が自分を失うことを恐れるがために他の大切なもの全てを切り捨ててしまう姿を見ていられなかった。自分が何を大切にして彼に寄り添っていたのかもう一度思い出してほしかった。
メビウスになる前のエヌとエムが大切にしていたものは、永遠に続く世代間の思いの継承、未来を生み育む営み。だからこそ、エムは自分の思いを継いでくれるミオに命を託した。
六氏族の欺瞞?
ノアとミオは太古の昔からケヴェス・アグヌスの刻印をその身に刻まれ、また、刻印相応に短い生涯を繰り返していた。今代のノアとミオも同じ刻印を受け継いでいるあたり、その運命はエヌとエム(※ もうひとりのノアとミオ)がメビウスになってからも変わらなかったものと思われる。
ところで、シティー六氏族の始祖のうち、ヴァンダムとドイルの像はノアとミオに似ている。エヌと交戦してこれを退けたという彼らは兄妹の間柄であり、しかもシティー出身者だったという。
それはおかしい。ノアとミオはケヴェス・アグヌスに生まれるはずだ。また、彼らは愛しあう運命なのだから肉親として生まれるのも奇妙。そういえばケヴェス出身のオーツとアグヌス出身のオーディスは80歳まで生きたという。もしかするとヴァンダムとオーツ、ドイルとオーディスはそれぞれ似姿が入れ替わって伝えられたのかもしれない。
・・・その場合、ノアたちはたとえ戦いに勝利しても10年の寿命から逃れられないということになるか。
“後悔”
いずれにせよ、エヌが旧シティーを壊滅させて間もなく現れた六氏族の始祖のなかには、すでにノアとミオが加わっていたことになる。
エヌとエムの後悔の思いから生まれた彼らは、そのころからずっともうひとりの自分と戦いつづけてきたのだろう。何度殺されても諦めることなく。彼らは今代まで脈々と思いを受け継いできた。
今夜も月の光が暖かいね
「今夜は月、見えないね。でも、星の光、すごく暖かい」
「――月。あの月は、光は、なぜ存在している? 俺たちが見ているから? そうじゃない。人が死滅したとしても、月の光は変わらず大地を照らしつづけるんだ。でも。その光に意味を見出すのは俺たちだ。今日の光は青いね、とか。いつもより暖かいね、とか。それと一緒で、世界に意味を見出すことも、変えることも、俺たち自身が持ちえた特権なんだ」(第4話)
密かにミオと入れ替わっていたエムが、ノアに声をかけます。
このときエムとミオはお互いの記憶と思いを共有していました。だから、このエムの言葉はエム自身の言葉であり、ミオの思いでもあります。
以前ノアが「自分たちで意味を見出すんだ」と言っていた月の光が、今夜は見えません。ミオを救えないことに絶望し、このときのノアは自分を見失っていました。
けれどエムは見ています。今も変わらず知っています。ノアという人がどんなに愛おしい思いを抱いているか。
たとえノアが暖かいと言った月の光が一時的に見えなくなったとしても、代わりに今日は星の光が暖かい。ぬくもりは変わらず、今、ここにある。
「おくりびとってさ。声、届けるだろ? 俺さ、声は、命は楽器とともに、いつもこの手のなかにあるって思っていた。――目をそらしていただけなんだ。届けることはできても、救うことはできないって。知っていたはずなのに。目の前の命がこの手からこぼれていくことがこんなにも辛いだなんて」
だから、そんなに自分を卑下しないで。
そんなウソで自分を騙そうとしないで。
「ねえ。はじめて出会ったころ、生き延びたいかって聞いたよね。私、どっちでもいいって。あれ訂正。私、生きたい。生きて、もっと、いろんなことを知りたい。ノアといろんなものが見たい」
これはミオの記憶。だけど、語っているのはエムの思い。
改めて彼がエヌの“後悔”なんだと実感します。彼の人となりはメビウスになる前のエヌそのもの。エムが愛したエヌとどこまでも同じ人。
優しくて、でも、その優しさゆえに自分で自分を傷つけてしまう、悲しい人。
彼の傍にいると、どうしても生きたいと思ってしまいます。彼のために。自分のために。彼の思いを守るために。自分の思いを叶えるために。
でも、それはミオの役目。
「――そうだね。ごめん。名前で呼んだら、気持ち折れちゃいそうだったから。“私”の正直な気持ちだったから。でもね、そんな気持ちにさせてくれたの、ノアなんだよ。だから『何もやってない』なんて言わないで。ノアからたくさんの思い、届いたんだから」
エムは自分の思いをミオに継承してもらうために、今ここで死を待っていました。
時間は彼女の味方でした。
「ありがとう、ノア」
One Last You
「私、ここで止まりたくない。もし許されるのなら、もしこの先も道が続いているのなら、“私の”ノアと、ふたりで歩きたい・・・」
「それでもやっぱり・・・。神様。できることなら砂時計を戻してください。ほんのわずかでいいから。もう一度だけあの人との時間を私にください。たった一言、私の思いを伝えるために」(ゼノブレイド2 エンディングテーマ『One Last You』)
エムの思いはミオの口から彼に届けられる約束でした。
本当は自分で伝えたかったのだけれど、残念ながら今の彼に自分の言葉は届かないでしょう。彼の心を蘇らせ、またふたりで歩んでいける可能性を残すためには、きっと、証明が必要でした。
メビウスとなってしまった今、エヌとエムが死んだあとまた生まれ変われるかどうかは判然としません。それでも祈ります。そうすることでしか叶えられない願いのため、そのためにこそ、今、彼女は死を選択します。
きっと大丈夫。自分たちがエヌとエムになったあとも、変わらずノアとミオは生まれつづけたんですから。
その命の連鎖に、未来に、エムは自分の思いを託します。
「そんな――! なぜ? なぜなの!?」
「もう、失いたくいないんだ」
「失いたくないって――、これだけの命を、私たちにとって最も大切なものを失ったのに!?」
「君もメビウスとして存在している。俺と同じなんだ」
「そうやって閉ざすのね・・・。私たちの永遠が、きざした未来を閉ざしたのね。もう、消えることはできない――」
エヌの蛮行によりエムも一度絶望したことがありました。
けれど実際のところ、その後も新たなノアとミオは生まれつづけました。ケヴェスとアグヌスに生まれるかぎり、前の自分たちが死んだあとでなければ、次の自分たちは生まれないはずなのに。
エムは直感します。彼らはきっと、自分たちの“後悔”なのだと。一度死んでしまった思いが生まれ変わってくれたのだと。自分たちが選べなかった未来を、もうひとりの自分たちが代わりに選ぼうと、また、足掻いてくれているのだと。
彼らなら、エヌが諦めてしまった大切なものを、大切にしたままその手につなぎ止めてくれるかもしれない。
「私が消えることで、ほんのわずかでも彼にこの思いが届くのなら、それで充分。あとはあなたたちが歩いてくれる。私と彼が行くべきであった道を――」
神様。できることなら砂時計を戻してください。ほんのわずかでいいから。
たった一言、私の思いを伝えるために。
生きて
「――だから、諦めないで。どうか私のこの時間、使って!」
「ダメだよ! 要らない! そんな時間! 今すぐ戻って、セナ!!」
すでに一度、セナと同い年の子からもらっていた命でした。
また譲られるのでしょうか。何のために? いったい、どうやってこの命を使えばいい?
「ふん。世界のためが聞いて呆れるぜ。なんだかんだ偉そうなこと言って、しょせんはてめえのためだろうが。先のねえやつかわいそさで行き当たりばったり戦ってるだけだろうが」
「行き当たりばったりで命がおくれるか! あと1日――。あと1分――。そう願って消えていった仲間の命を、これまで何度も、数えきれないほど送ってきた。それが私たちの日常だった。それしかなかったから。それが真実だって疑わず、毎日、毎日・・・」
自分が生き延びたいかといえば、正直そこまで強く望んでいたわけではありませんでした。ただ、生きなければならないというだけで。後悔を残して死んでいった仲間たちの分まで。時間を譲ってくれたミヤビの分まで。
彼らのために何ができるのかわかりませんでした。でも、何かをしなければなりませんでした。それを見つけるためにここまで旅してきました。何かを成し遂げるために、今日まで生き延びてきました。
「やっとの思いでシティーにたどり着いて、まるで異なる世界があることを知った。うらやましい。素直にそう思った。私たちの10年をその何倍かにするだけで、こうも変わるのかって。――新しい命の誕生も見た。この指を握ったあの小さな手。それを守りたいあなたたちの気持ちはわかる。それが“今”だというなら壊すつもりもない。でも。だからこそ。私たちにも守らせてほしい」
シティーでやっと見つけた気がしました。後悔を残して死んでいった仲間たちに報いる、この命の使い道。
彼らと同じように、私も他の仲間の命を、未来を守っていこう。
命が命を生み、思いが思いを継いでゆく、永遠の営みを世界に取り戻そう。
だからこそ、エムの願いに応えることにしました。
またひとつ時間をもらうことになってしまっても。
ふたりが歩むべきだった道を、今となっては自分とノアしか歩めないというのなら、歩んであげたい。
「私はもうひとりの私の思いを受け継いだ。彼女の全てを、あなたに届けるために!」
それは彼女の願いである以上に、ミオ自身の望みでありました。
エムはほんのわずかでもいいと言っていましたが、ミオは彼女の全て、あますことなくエヌに届けてあげたいと思いました。
そのためにもらった時間、受け継いだ命なんですから。
「だから、お前に命を渡したのか? 俺を拒絶してまで――」
「拒絶じゃない! あなたのことを彼女は理解していた。あなたの悲しみを断ち切るために私にこの体を与えてくれた。自分が消えることで、『永遠ではなく今を生きたい』それを届けたくて」
「俺を残して逝きながら、なにが今だ。なにが共に生きたいだ。消えてしまっては、全てが無」
「そうさせたのはあなた! 気付いてよ、“ノア”なんでしょ!? なぜ、私の思いが届かないの・・・?」
あの人が今のエヌのありかたを喜んでいなかったことだけは伝わりました。
けれど、まだ届きません。
一度今生の永遠に執着してしまったエヌには、エムがミオに思いを継がせたこと、その意味の一番大切な部分がまだ理解できません。
自らの生を手放してでも未来をつなげていく、その価値を、ミオひとりでは証明できないからです。
そこから先を証明していくには――、ノアの助けも借りなければ。
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