父さんと母さんの思いは、命は、お前へとつながっている。お前は独りじゃない。辛いこと、苦しいこと、いろいろなことがこれから先お前を待っているだろう。もう無理だと諦めかけることもあるだろう。それでも歩くんだ。仲間を見つけ、一緒に歩きつづけるんだ。父さんと母さんがそうしたように。
とある命が受け継がれたとき
第5話 蝕 ~ 第6話 選択
Lead Character:がんばったひと
ノア
Major Happening:大きなできごと
真の敵
ミオが生きていた。ただそれだけの事実がノアの“今”を覆す。エヌには選べなかった道を行く勇気を、ノアがもう一度取り戻す。
昔、戦わなければ生きていけない世界に染まるのが怖いと怯えていたとき、その怖さを知っているノアにこそ万物を断つ魔剣が必要になるときが来ると、リクに諭されたことがあった。今こそ魔剣ラッキーセブンを抜き放つとき。
断つべきは世界の理そのもの。“未来”のために、あるいは“今”のために。誰かが片方を選ぶたびその人にもう片方を諦めることを強いるのがこの世界であるならば、ノアにとって世界こそが真の敵だった。
Sub Questions:小さなできごと
エヌの選択
この世界がアイオニオンになって以来、ノアとミオは途方もない数の出会いと死に別れを繰り返してきた。そのたびにミオを看取っていたノアは疲れ果て、やがてひとりのノアがひとつの決断をした。大切なもの全てを投げだし、ただミオと永遠に寄り添い続けることだけを望み、メビウスになることを。
ノアにはふたつの選択肢があった。ひとつはミオを10年の寿命から救うため、世界の理を変える道。ひとつはミオとの別れを永遠に遠ざけるため、世界の変化を止める道。ノアがエヌとなったのは、無力な自分では前者を選ぶことは叶わないと思ったのもひとつの理由だった。
ノアの悲観
ノアには生まれつき奇妙なペシミズムがあった。幼いころ見た成人の儀、おくることの意味。普段、仲間の前では前向きなことばかり言っているノアだったが、時折びっくりするほど冷笑的な視点でものを語ることがあった。
けれど、それで救われていたのは自分の心だけ。どんなに弁を弄しても、結局ミオが死ぬ現実には抗えなかった。
様々な死を看取り、エヌの過去をも見通した今なら、別のことを思う。残される者に思いを託して死ねた者たちは本当に満足だったのだろう。そのうえで、自分は彼らにも幸せな未来にたどり着いてほしかった、と。
魔剣ラッキーセブン / 終の剣
魔剣ラッキーセブンがどういう経緯で鍛えられたのかは依然不明だが、少なくとも初めてウロボロスとなったノアはすでにこの刀を携えていた。エヌが振るう刀も魔剣ラッキーセブンそのものである。今代のノアにはリクが譲り渡したように、この刀は常にノアの手元に届くよう運命づけられているのだろう。
やがて最も新しいノアの魔剣(※ ウロボロスが携える終の剣)は、道を誤ったエヌの魔剣をも断ち斬るに至った。
夢と現実の相克
「願いとは夢想。夢に力など、ない。――力は現実にしか宿らない。数多の現実の上に立つこの俺に、お前たちが勝つことは不可能だ」
そんなことはありません。
アイオニオンならいざ知らず、少なくとも地球に生きる私たちであれば当然に知っていることです。
現実というものはたしかに強固で、ぼんやりと夢見ているだけでは何も変わることがありません。夢そのものは力となりえません。
けれど、それでも、現実を変える力をもちうるのが夢というものです。
私たちは知っています。歴史上、永遠に続く人の営みなどどこにもなかったと。旧態依然となった社会はいつか綻びを生み、体制を変えたいと願うその時代の人々によって覆されてきたのだと。
あるいは文化ですら。旧来の手法が支配的となり新たな文化がことごとく芽を摘まれてきた例などなく、どんな時代でも新たな芸術や風習が連綿と生まれ育ってきたのだと。
もしも夢に力が宿らないとしたら、こういったことは起こりえません。変革を起こすのはいつだって夢想家たちです。
夢そのものは無力かもしれませんが、むしろ夢こそが、現実をも打倒しうる最も偉大な力を宿します。
「そうやって閉ざすのね・・・。私たちの永遠が、きざした未来を閉ざしたのね。もう、消えることはできない――」
エヌの言う現実とは、あらゆる希望の否定でした。ミオと寄り添うためには他の全てを切り捨てなければならない。たったひとつの願い以外全ての夢を諦める覚悟。その“現実主義”が彼の力を強めました。
けれど、それこそが彼の敗因です。
「私、ここで止まりたくない。もし許されるのなら、もしこの先も道が続いているのなら、“私の”ノアと、ふたりで歩きたい・・・」
彼の現実に穴を穿ったのは、他ならぬエムの願いでした。自身の思いだけではエヌに顧みてもらうことすら望めない、かすかな力。けれど彼女の思いはミオを動かし、ノアを動かし、今、変わることないと思われていた現実を打ち崩します。
「今のこの世界が笑顔を選ばせない世界なら、限られた未来しか選べない世界なら、そんな世界を――、俺はぶち壊したい」
Beyond The Sky
「これはシャナイアが選んだ道だ。ここで終わりじゃない。彼女の言ったとおり、“ここが始まり”なんだ」
シャナイアは憎むべき裏切り者でした。
彼女のせいでノアたちは囚われることとなり、エムが犠牲にならなければ今ごろミオの命も失われていました。
ただ、彼女がやりたがっていたこと自体は、エムが望んでいた、メビウス化以前の彼女たちの営みとほとんど変わりありません。
10年の短い生涯を何度も繰り返す。いつか自分の生に満足できるようになる、そのときまで。
ノア自身、ミオが消えてしまった瞬間はどれほどやりなおしたいと願ったものか。
その前のノアも、またひとつ前のノアも、最初のノアも、あるいはエヌになってしまったノアも、みんなそうでした。
それを思えば、その繰り返しの先端にいるノアに、彼女の選択をいたずらに批判する権利はありません。
「あなたは――。いいえ、あなたたちは後悔。『こうありたかった』『こうであるべきだった』という、私と彼の思いの結晶」
繰り返し、繰り返し、けっして満足できない人生を生きぬいてきたからこそ、今のノアとミオがあります。
「ちょっとした報告。あんたたちの仲間が消える日。なんだっけ、成人の儀? その日に私も殺してもらうことにしたよ。――あの子は永遠にこの世界から消える。でも、この私は再生される。・・・こんな私が」
シャナイアが泣きそうな顔で笑っていた姿を、ノアは見ています。
順当に生まれ変わることができれば、彼女もまた、ノアやミオのように苦難と少しの幸福が織りなす人生を繰り返すようになるのでしょう。
いつか彼女の後悔が晴れる、その日まで。
とはいえ、エムとシャナイアでは少しだけ異なる部分もあります。
「ずっと思ってた。残された俺たちを哀れんで笑ったんだって。『かわいそうだね』『ごめんね』『僕は先に行くよ』『辛いだろうけどがんばって』――ずっと、そう思ってた」
シャナイアの笑顔にはそういったニュアンスも含まれていたかもしれません。
けれど、エムが最後に見せた笑顔にそういう意図はなかったはず。
「今ならわかる。あの笑顔の意味が。――満足だったんだと思う。最期のその時が。俺たちに託したんだと思う。未来を。みんなが笑顔でいられる世界を創ってくれって」
エムは満足していたはずです。自分のありったけの思い全て、ミオに託して死ねたんだから。
だけど同時に、ノアはこうも思うのです。
「でもそれって悲しいよ。そんな笑顔しか選べないなんて。いろいろあっていいはずなのに。今のこの世界が笑顔を選ばせない世界なら、限られた未来しか選べない世界なら、そんな世界を――、俺はぶち壊したい。あの笑顔に応えたい。だから、“ここ”にいる」
エムに本当に後悔はなかったのか、と。
エムだけじゃない。クリスやヨラン、エセル、カムナビ。それぞれのやりたいことをやって穏やかに死んでいけた彼らですら、本当に後悔はなかったのか? 少なくともヨランは生まれ変わって、しかも豹変した。ノアたちの知らなかった一面を見せた。まるであの死にざまは間違いだったと言わんばかりに。
「ねえ。はじめて出会ったころ、生き延びたいかって聞いたよね。私、どっちでもいいって。あれ訂正。私、生きたい。生きて、もっと、いろんなことを知りたい。ノアといろんなものが見たい」
そうとも。あんなに満足そうだったエムだって、何の後悔もしていなかったかといえば、きっとウソになる――。
これからノアたちが進んでいく道は、破滅的だったエヌはもちろん、ミオに思いを託したエムとも異なる道です。
彼らは繰り返しの生すらも望みません。
わずか10年では本当の意味で満足な生は全うできない。後悔を残すことなく生ききることなどできはしない。
実際のところはゲルニカですら思い半ばで倒れたことを考えると、いくら時間があったところで足りるものではないでしょうが――。
それでも、彼らは人々が少しでもやり残したこと少なく生を全うできる未来目指して戦います。
「世界が命を縛るなら、世界を断つ! それだけだ!」
敵は、世界の全て。
もはやケヴェスやアグヌスどころか、メビウスだけにすら留まりません。
敵の規模に対してあまりにも寡兵。けれどノアの隣にはミオがいて、ランツや、セナや、ユーニや、タイオンや、それからいくつものコロニーからの支援もあります。
必ずしも価値観の全てを共有しているわけではありません。未だノアには理解できないことを大切にしている人たちもたくさん含まれています。それでも、それは同じ目的のために共闘できないという意味にはならない。
「――だったら、一緒に歩こうよ」
「I know I won’t look behind, I see no regrets. No guiding lights so dark, are you my light? But now I am here, and you’re close to me. My heart is with you, forever and ever」(ゼノブレイド エンディングテーマ『Beyond The Sky』)
もう振りかえらない。後悔なんてない。
行く先の見通せない暗闇だけれど、君は照らしてくれるだろうか。
それでも俺はここに在り、君が傍にいてくれる。
心は共に、いつまでも果てなく。
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