ひそねとまそたん 第12話感想 自分にしかできない何か。自分にならできる何か。

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もしかして、まそたんも私のこと特別別格に大切なの? ――もう!

(主観的)あらすじ

 楔女とは生贄なのだそうです。祀り事の仕上げ、ミタツ様を臥所に安定させるためにはどうしても必要な犠牲。祀り事を継承してきたたくさんの人々はそれを当たり前のこととして受け入れてきたそうです。
 けれど、甘粕ひそねは受け入れません。対案は何も持ち合わせていませんが、とりあえずそれだけは断固拒否します。特に何も思いつきませんが、考えることだけは絶対にやめません。だってひそねは自分にできることをするために、自分の意志でここにいるんですから。
 とりあえず棗を生贄にしないことだけは確定なので、神楽を邪魔しに行きます。棗にケンカを売って彼女に生きる未練を押しつけます。神楽を中断させたせいでミタツ様が眠らず、御寝返りやら残りの段取りはメチャクチャになりましたが、責任取ってガムシャラにやり遂げます。なのに、せっかくがんばったというのに、結局最後は生贄が必要ときたもんだ。
 そんなものひそねは認めません。誰かが犠牲として名乗りを上げる前に自分が突っ込んでいきます。ただし、必ず生きて戻ると宣言して。ただし、まそたんと一緒にいるひそねとして。祀り事は完遂されました。
 3ヶ月後。ひそねはまだ帰りません。けれど彼女をよく知る人たちは誰も心配していませんでした。なにせ彼女はマジレッサーです。本当のことしか言う気がないバカです。どうせいつもの調子でマイペースにろくでもないことをしているんでしょう。

命の価値

 ものすごく雑で意味のない数字遊びをします。(本当に無意味なので他で引用しないことをオススメします)

 日本の1人あたりGDPは2015年のデータで32,486米ドル。日本円に換算するなら約360万円。だいたい40年間働くとして、日本人ひとりあたりの生涯生産額はざっくり1億4400万円ほどということになります。(繰り返しますが、まったく妥当性のない素人計算なので信用しないでください)

 1億4400万円。日本人が1人死ねば、将来生産できるはずだった富が国内からこれだけ喪失します。
 人間ひとりの命の価値として高いと思いますか? 安いと思いますか?

 ちなみに日本の国家予算は2018年度予算案一般会計歳出総額で97兆7128億円。上で計算した人間ひとりあたりの価値と比較するならだいたい68万人分に相当します。
 ものすごく乱暴に“国民を守ることこそが国家の存在意義”という前提で語るなら、自然死以外で年間68万人も死ねば、私たちが日本国という国を存続させている意味なんて吹っ飛んでしまうわけです。
 ちなみに私の出身地である青森県の総人口が128万人。県をまるごと全滅させれば国家予算2年分近くの損失になりますね。1374万人の東京都なら20年分。日本の全国民をブッ殺せば187年分か。(平均年齢その他諸々ガン無視)

 私たち、普段から“死ぬ”だの“殺す”だの割と簡単に言っていますけどね、人が死ぬっていうのは数字の上だけでもこれほどの影響規模があるんですよ。
 1億4400万円。実際お高いかお安いかは知りませんが、とりあえず私には一生かけても弁済できそうにありません。
 さらには将来を担う子どもたちを産み育てたり、たくさんの人といろんなつながりを持っていたりもするんですから、1個の人命の影響力なんてものは本当に計り知れませんとも。もはや計算の仕方すら思いつきませんが、想像するだけでもメンドクサイ。

 生贄? 気軽に言ってくれるな。
 でも先代の楔女である八重が背負っていたものの重さもわかる。

 のっぴきならない事情というのは確かにあるでしょう。
 天秤に掛けたくないものを掛けなければいけないことだって絶対あるでしょう。
 一個人の身では想像もつかないスケールの世界になら、それはまあ色々あることでしょう。
 わかりません。わからないからそのあたりは賢くて偉い人たちに全部お任せしちゃっています。
 けれど、そういう諸々があることを察してもまだ言いたい。

 ふざけんな。
 人が死ぬことを前提に何かを計画するな。

少女はあの空に惑う

 もう迷いません。

少女はあの空を渡る

 甘粕ひそねは“自分にしかできない何か”を探してここまで来ました。
 散々に迷いながら、方々にケンカを売りながら、ぐにゃぐにゃ曲がりくねった道なき道を歩んできましたが、最終的にはここにたどり着きました。
 「大切なものを大切だって言いつづけていたい」(第11話)
 もっと突き詰めて、
 「大切なものはちゃんと守らなきゃ」(第11話)
 だからひそねはここにいます。

 「甘粕二曹。私は大切な人と祀り事、どちらも選べなかった宙ぶらりん。でもあなたは両方選ぶと、そのうえで飛んでみせると言った。そんなあなたに問いたい。甘粕ひそねはこの状況でどんな未来を選ぶ」
 問い。

 何を今さら。答えは決まっています。
 「絶対阻止します!」
 だってひそねはすでに“自分にしかできない何か”を得ています。それを為すためにここにいます。
 「誰かを見殺しにするなんて絶対にできません!」
 ひそねは大切なものを守るためにここにいます。Dパイのみんな。同僚のみんな。自衛隊員としての職責を鑑みるなら、あるいは国民のみんな。みんな大好きな人ばかりです。
 「じゃあこの国がどうなっても」
 「よくありません!」

 それだって大切なものです。
 「思考停止ですか」
 「停止しません!」

 むしろ具体案がないからって諦めることこそ思考停止でしょう。
 「ていうか生贄もおろか、祀り事がこれだって知ったのつい最近ですし、みんなでディスカッションすれば抜け道があるかもしれないじゃないですか!」
 やるったらやるんです。そしてやるからにはできるんです。ひそねは自分を信頼しています。
 ひそねは“自分にしかできない何か”を為すためにここにいます。
 だったら、ここにはひそねにできることがあるということです。
 「しかし長年そういうものだと」
 「誰が決めたんですか! 何時? 何分? 何秒? 地球が何回まわった日?」

 そんなの知ったことじゃありません。
 他のあらゆる諸事情何ひとつ聞かされちゃいませんが、どうせここにはひそねがいるんです。とりあえずひそねにできることはあるんです。
 まあ、そっちも具体的に何ができるのかは知ったこっちゃないのですが。
 「わあ、子どもだあ」
 どうせできるんだから、“できる”ということだけ知っていればいい。
 子どもで結構。コケコッコー。

 「どうしてだろう。はるくん。私、この日のために生きてきた。――なのに。全然、気持ちよくない」
 棗はひそねとは違った方向性のバカでした。
 自分が死ぬことを前提にひそねを焚きつけていました。
 残される小此木のことを考えて。大好きな小此木のために、自分の代わりを務めてくれそうな人を見繕っていました。
 幼馴染みの自分ですら知らないアレコレを知っているこのいけ好かない女ならと、ひそねに恋心を認めさせました。
 Dパイとしての都合とか、ひそねの心の準備とか、全然知ったこっちゃない。まだ高校生のくせに生臭い女です。
 すべては自分が死んだあとのために。

 なのに、このバカ女ときたら。
 「やめてください、棗さん! 生贄なんてそんなのおかしいです!」
 自分が死ぬ前。人生最後のクライマックスを、土足と胃液で荒らしに来やがった。
 「では、棗さんは浮気性なんですね」
 何が気にくわないのかクライマックスを汚しはじめやがった。
 「だったらエピローグは私と、は、は、はるくんの世界ですね!」
 あげくそこまでは譲るつもりじゃなかった呼び名まで侵しやがった。
 「私、はるくんのこと好きですから! しかも棗さんと違ってピュアッピュアに好きですから!」
 挑発。
 「棗さんがいなくなったら思う存分、初恋を捧げちゃいますよ!」
 挑発。
 「私なんて」
 「この歳になってから」
 「棗さんがいなくなったら」
 「いいんですか、それで」

 何がムカつくって、コイツ何かにつけいちいち照れが入るんです。微妙に自己卑下から入るんです。
 棗なら胸を張って堂々と好きって言えるのに。棗なら自信満々ではるくんの隣に立てるのに。
 こんなヤツ、やっぱり全然私の代わりになんてなれない!
 「だったら! 生きてください!!」

 「奪いあいましょう。はるくんを。正々堂々。恋は戦いですよ。私、そういうの参戦したことないですけど、棗さんとなら清々しいバトルができる気がするんです」
 そもそも向こうも代わりを務めてくれる気がなかった。

間租譚

 私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身をきたえ、技能をみがき、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。
 ――自衛隊法施行規則 第三章第三節第39条(一般の服務の宣誓)

 古来、どんな社会であっても唯一当然に死ぬことを前提としてきた職業が、軍人です。それは現代でも変わりありません。
 日本国自衛隊の2018年度予算は5.2兆円。総兵力は24万人。たったそれっぽっちで全国民を守れるなら安いもの。国家が抱えるべき適切な軍隊の規模はおおむね国家予算の規模に比例します。多すぎては予算を逼迫して本末転倒。少なすぎても国民の命と財産を守りきれずに結局損します。自衛隊の規模がウンヌンとかいう政治的な話にはここでは触れませんけどね。私はミリオタじゃないのでそもそも語れませんし。
 ただ、現代兵器のハイテク化が進むにつれて技能の専門性が高まり、軍人の練成にかかる費用もどんどん高額になってきているそうです。さらには先進国を中心に、軍人やその家族の人権を訴える声もどんどんメンドクサくなりつつもあって。

 「私はDパイであり自衛官です。必ず責務を完遂し、必ず生きて戻ります」
 だから、死なない軍人こそが優れた軍人です。特に現代では。
 死ぬこと前提のお仕事なのにね。
 誰かを守るというお仕事はかように大変なことなのですよ。よく知らないで書いてるけど。

 まあ、このあたりの話はひそねがやると言ったらできる物語構造として完成した以上、『ひそねとまそたん』を語るうえでは割とどうでもいいことなんですが。
 樋本教官と棗の説得を終わらせてしまえば、他にひそねがやるべきことなんてひたすら“大切なものを守る”だけなので、当然成功するに決まっています。ましてひそねを最初に信頼してくれたまそたんがついていてくれるのなら100人力。

 あと語りのこしているものといったら・・・そういえば結局“間租譚”ってどういう意味だったんでしょうね。
 捧げるものといったら楔女。語るものといったら祝詞や神楽。つまり、祀り事にあたって巫女と祭司をミタツ様のなかに送り届ける者といった感じの意味で“間租譚”なのか。
 それとも、OTFとDパイの間でお互いに心を捧げあい、お互いの願いごとを叶えるため奮起しあう関係性を指して“間租譚”ということになるのか。
 さてね。今書いたの、語義も漢文文法もガン無視したテキトーな思いつきなんですけれども。

 あなたの好きに決めてみてもいいんじゃないですかね。
 自分が恋したと思えば実際に恋したことになったり、みんなを好きだと思うようになれば恋だのなんだの達観できたり、守りたいと決めたら本当に守れる人になれたりもするし、現実なんて割と主観でどうにでも変わってしまうものですから。やりたきゃやればいいし、やろうとしてはじめてやれるようにもなる。
 “自分にしかできない何か”なんて、案外すぐ目の前に転がっているものかもしれません。だって、そもそもあなたの代わりができる人なんてどこにもいないんですから。あなたとまったく同じ視点でものを見ている人なんて、あなたの他にどこにもいないんですから。
 たとえば名緒にひそねの代替ができなかったように。
 たとえばひそねに棗の代替ができなかったように。

 だから、あなたはあなたを信頼していいんだと思います。
 あなたにできることは、たいていの場合あなたにしかできないことです。
 目の前にあなたにしかできないことがあったとしても、それはもちろんあなたならできることです。

 「きっと私たちは無敵だから。これからもいっぱい“大切”を見つけていけるから」

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    コメント

    1. 匿名 より:

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      なつめはそんなこと考えてないよ。

    2. 疲ぃ より:

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      みました。

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