HUGっと!プリキュア Godspeed,ダイガン.

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とんだ時間のムダだ! 私なら5分で終わるぞ、5分で!

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※ 全体的にふざけていますが、いちおうそこそこマジメな感想文です。(たぶん)

誰にも望まれない存在

 「彼は我が社のお荷物だったんだ」
 ユーモラスでチャーミングなおじさんは殉職しました。
 会社の同僚に“役立たず”の烙印を押されて。

 「いやあ、宣言どおりとは恐れ入る。本当に5分で終わったねえ。――いや、5秒だったかな」
 いかにもフラグっぽい感じで唐突に使いはじめた「5分」という口癖。
 残念ながら5分も持ちませんでした。最大限長くカウントしても、雨上がりの空の下を徒歩で登場したところから数えて3分18秒で消滅してしまいました。楽しげに口上を宣いはじめてから黒焦げになるまでだと15秒。

 「明日への希望よ、消えろ! ネガてぶ・ウェーブ!」
 平たくいって彼は無能でした。
 管理職としてどういう業務に携わっていたのかはわかりませんが、いたずらに部下を叱責して、士気を下げてばかりいました。
 新幹部・ドクター・トラウムの恐ろしさを示すための前座として足蹴にされました。
 あるいは他人の未来を屁とも思わないクライアス社の残酷さを今一度明らかにし、母親の応援によって未来への希望を取り戻した野乃はなと対比させるための脚本の要請によって使い潰されました。元々そういう役どころでした。
 いい歳してプリキュアを見ているオッサンオバサンたちからは、初出撃から5分で敗退する瞬間を今か今かと待ち望まれていました。
 お髭のリボンがキュートでした。

 「まさか宿敵であるプリキュアに癒されて退場とは、まったくうらやましい――じゃなかった。なんともけしからんヤツだ」
 彼のマトモな活躍は誰からも期待されていませんでした。
 クライアス社の社員からも。
 我々いい歳こいたオッサンオバサンたちからも。
 たぶん、純粋にプリキュアを楽しんでいる子どもたちからも。
 彼は期待されていたとおりの無様を晒して消滅しました。

 「仲間じゃ・・・なかったの!?」
 「お嬢さん。30過ぎた大人にはそんなもの存在しないんだよ」

 ついでに消滅直後のパワーワードに話題までかっさらわれてしまいました。

 彼は誰にもその生を望まれないまま、ひとり情けない死を迎えることとなりました。

死を待つ人々の家

 いいえ。
 それはいくらなんでも悲しすぎるではありませんか。
 誰からも生きることを望まれず、ただただ無様に死にゆくだけなんて。

 しかし、現実の世界には誰にも必要とされずにひっそりと息を引き取る人々がたくさん存在しています。
 そんな人々の救済のために立ち上がった人物のひとりが、さあやの尊敬する人物、マザー・テレサでした。
 彼女が生涯に行ったミッションは多岐にわたりましたが、そのなかでも最も有名なものが「死を待つ人々の家」。終末期の貧困者たちを迎え入れ、彼らの死に添い遂げることを目的とした施設の運営でした。

 実際のところ、ホスピスと呼ぶには問題の多い施設でした。
 世界的に有名な施設のイメージとは裏腹、食料や医薬品の備蓄は質素で、ボランティアと修道女を中心としたスタッフたちの医学的知識も浅く、環境衛生すら不徹底でした。同時期、同地域で同じような取り組みをしていた別の事業者の方が医療者としてはよほど高品質のサービスを提供できている有様でした。そういう批判が少なからずありました。

 けれど、彼女が為そうとしていたことはそもそもそういうことではありませんでした。
 彼女は医療者ではなく、宗教家でした。
 貧しい人々の生を繋ぎとめるためではなく、あくまで死を看取ることを目的として「死を待つ人々の家」を運営していました。

 彼女が手を差しのべた人々は主に路上生活者たちでした。財産を持たず、家を持たず、家族すら持たない者も数多く、持てるものといえば医者の手に負えないほど重篤化した病ばかり。彼らは日がなぼんやりと路上に座りこみ、ひたすら死を迎える瞬間を待ちつづけていました。それぞれ、たったひとりで。
 公共事業者たちは彼らのために生活支援を提供してやる術を持たず、彼らが亡くなってはじめて行動することができました。――つまるところ路上清掃ですね。彼らは死体というモノになってようやく他人と関わることができたわけです。
 そんな孤独な死を、マザー・テレサは良しとしませんでした。
 彼女は彼らのためにひとときのまともな食事とまともなベッドを与え、多数のスタッフを常駐させ、手ずからの介護を尽くし、彼らの宗教的流儀に則って、彼らが死を迎える瞬間に寄り添いつづけました。
 彼女は誰にも生を望まれなかった人々のために、それでも誰かの愛のなかで死ねるという、人として当たり前の幸福を与えてまわりました。

 「・・・しっかりして!」
 「ありがとう・・・。とても楽になった。私も、もう一度――」

 さあやがダイガンのためにしてあげたことにはそういう価値があります。
 ダイガンはクライアス社の社員としては誰にもその存在を求められずにいました。
 けれど、最後の瞬間だけは、存在することを求めてくれる人の前で過ごせました。
 周りの世界から見捨てられた哀れな男が、それでもその死だけは誰かに悲しんでもらえました。
 当たり前の人間として。

 才能を持たないチャラリートは明日に絶望し、しかし未来を信じる少女のHUGに希望を見つけました。
 愛を得られなかったパップルは明日に絶望し、しかし愛を信じる少女たちのHUGに希望を見つけました。
 誰にも求められることのなかったダイガンは必然として明日を根こそぎ奪われてしまいましたが、しかしその死に際には心優しい少女による癒やしを施されることとなりました。

 Godspeed you.
 ダイガンよ、どうかその死出の旅路に幸い多からんことを。
 願わくば最後に与えられた優しさに導かれ、次の人生ではたくさんの人と真心をつなぎあえますように。

 まあ、もしかしたらもう一度くらい何かしらのかたちで登場するのかもしれませんけどね。

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    コメント

    1. 東堂伊豆守 より:

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      今期のプリキュアは「子供を守るお母さん」。そしてその敵・クライアス社が最初に送り込んだ刺客、チャラリート、ルールー、パップルの三人はいずれも「子供のいない独身者」でした。"母の愛"を踏みにじるべく襲ってきた刺客たちは、しかし"母の愛"に救われ改心します。
      と、ここまで来て、ならばプリキュアの前に新たに立ちはだかった刺客には子供がいるのだろうか?という疑問が湧いてくるんですよね。
      で、ここから私の完全な推測なんですが…、リストル、トラウム、そしてジョージの三人は「子供を亡くした父親」なんじゃないかなぁ、と。
      では、ダイガン部長はというと「妻子持ち(ついでに家のローンも残ってるかも)」なのではなかろうかと。
      そうだとすれば、ダイガンがジョージ達によって早々に処分された背景には「アイツは所詮プリキュア達と同じ"子供と幸せに暮らせている"人間」という意識があったからと考えることも出来ましょうし、またプリキュアvsダイガンのバトルが本格的に展開されぬまま終わったのは「子供を守るためなら"どんなことだってする"者同士による退くことも妥協することも出来ない壮絶な消耗戦を日曜の朝から見せるわけにはいかんだろう。それにプリキュアの愛で独身者の傷ついた心を癒すことは出来ても、ダイガンの家族を食わせたり家のローンを肩代わりしたりすることは出来んしなあ」という東堂いづみセンセイの配慮によるものだったのではとも思えてくるんですね。
      果たしてダイガン氏に労災認定がおりるのか、彼の遺族がプリキュアに「同情するなら金をくれ」とか言い出さないのか……は知りませんが、ともかくクライアス社幹部達が背負っている個人的事情が今後の展開の鍵になることは間違いないと思われるので、この点十分に注視していく必要がありそうですね。

    2. 疲ぃ より:

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       なあに、仮に家族がいたとしてもどうせ止まった時間の中だ。労災を要求するどころか悲しむことすらもない。(鬼)

       ・・・とまあこんな感じで、この点についてもクライアス社の“時間を止める”という行為ははなたちとの対立軸になりうるんですよ。「新たな苦しみがなければ皆笑顔でいられる」というのは、言い換えれば外界(他人)からの干渉を一切絶つという意味でもあるんですから。
       周りの人たちの応援に支えられてきたはなたちとはどうやっても相容れない考えかたです。

       ついでにこの話題に乗って私も予想をひけらかすなら、実はハリーはクライアス社前社長だったのでは、とか。
       プレジデント・クライの本体はあの本で、操られていたとかそんな感じで。根拠はハリーがジョージを警戒していなかったこと・・・ではなくて、開襟ジャケットと謎チェーン。そもそもジョージの思想ってやっぱり不健全なんですよね。時間を止めることでの安寧って孤独になれるからこそなのに、彼は逆に他人の時間を止めるためにあえて自分の時間を動かして会社組織を運営しているわけで。時間を止める以上は人々から感謝や賞賛を得られるわけでもなく。いくらなんでも自己犠牲精神が過ぎます。

    3. 東堂伊豆守 より:

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      「楽しい時を止める企業、クライアス」に勤める社員が、自分達自身は"動いている時の中に生きていて、苦しみに晒され続けている"という矛盾は確かに非常に引っ掛かるところで、今後の展開でどういう説明が成されるのか注目しておるところです。が……。
      こういう「誰かに幸せを享受させる為に、自分自身は幸せを享受出来ない立場に身を置く」って構図は単身赴任者が皆抱えているジレンマなんですよね。「家族の笑顔を守る為に働いているのに自分はその笑顔を見られない」という。…てことはやっぱりダイガンさんって「本社近くのマイホームに家族を残して支社に赴任してきたお父さん」だったんじゃ。「本社に帰れないんだぞ」っていう台詞の響きがますます悲痛なものに思えてきたなぁ…。
      あと、ジョージ社長とハリー君のファッションに共通性がある理由は皆目見当がつかないんですが(何か理由があることは確かなんでしょうけど)、ただやはりジョージからは「最愛の息子を事故で亡くしたショックから、息子そっくりの(でも何故か出力十万馬力という超オーバースペック)アンドロイドを作り上げた天才科学者」と似た匂いを感じてしまうんですよね。ほら、そう考えるとRUR-9500が元来は「子供を亡くした親を慰める為に開発された愛玩用アンドロイド」だった可能性も見えてくるわけで…。

    4. 疲ぃ より:

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       ファッションの共通点は半ば以上ネタなのでマトモに受け取って後で泣くハメになっても責任は持ちません。(私は泣かないので何割か本気)
       クライアス社社員ひとりひとりの入社動機はしょせん枝葉の話題なのでプリキュアの流儀的に語られる可能性は低いのですが、社長であるジョージを通して、あの不健全さの理由だけでももうちょっと深掘りされることを期待してしまいますね。原子力ピノッキオの投影元がいたのか単純なボランティア精神なのかまで含めて、誰のための時間停止なのかは興味が湧くところ。

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