ねえ・・・プリムロゼ。あたしたちってさ、・・・・・・かな。
オープニングロール(=妄想)
「ぐぬぅ・・・」
トレサは頬を小さくふくらませて酒場のテーブルに突っ伏していました。
砂漠の歓楽街・サンシェイド。砂漠中の人と物が集まるこの大きな街でトレサは最初の商売をはじめました。・・・が、結果は空振り。
トレサが持ち込んだ商品は故郷・リプルタイドの民芸品が主だったのですが、残念ながらこの街の裕福な人々は田舎の素朴な細工物には興味を示しませんでした。代わりに海魚の干物がよく売れました。しかし、かさばるうえに管理の手間がかかることを嫌ったトレサはさほど多くを用意しておらず、数週間分の路銀を稼ぐことがせいぜいでした。
「父さんって、やっぱりやり手だったんだなあ」
出入りするたび違う品物が積まれていた実家の倉庫を思いだし、トレサは大きくため息をつきます。離れて知る、父の大きさ。
と。いつの間にか酒場内の空気が変わっていたことにトレサは気付きました。先ほどまで賑やかにマグを振りまわしていた周りの男たちが、皆揃ってひとつの方向を注視していました。どうやら街で一番の踊り子が舞台に立つようです。
「・・・へぇ」
きれいな人でした。上品に紅を施された端整な面立ち。揺れるたびはらりと舞う艶やかな赤毛。すらりと伸びた肢体には無駄な肉が一切なく、しなやかな筋肉に沿ってきめ細やかな肌がぴったりと張り付いていました。
いかにも高級そうな薄織りの紅布を身に纏い、麗しく、艶めかしく、ときに情熱的に、美しい踊り子は舞い踊ります。指先の1本1本、息づかいのひとつひとつに至るまでことごとくなめらかなその所作は、誰にでも身につくものではない高い技術を窺わせました。
「でも・・・そんなでもないかな?」
トレサにはその踊りがどこか精彩を欠いているように感じました。以前レオンの船で見せてもらった肖像画に感じたような、見る人に訴えかけてくるような想いが伝わってこないのです。そういえば――あの寂しげに濡れた瞳はずいぶんと遠くを見つめているような・・・。この酒場のどこでもなく、街の城壁よりももっと向こう、まるで一生かけても手の届かない遠い場所に・・・。
ちょっとドキッとしました。男の人って、やっぱりああいう表情にグッとくるんだろうか・・・。
宿への帰り道の途中、トレサは横の路地から走ってきた誰かにぶつかりました。――先ほどの踊り子でした。舞台上での印象とはまるで違っていて、髪は振り乱れ、衣装が着崩れるのも気に留めず、ギラギラと燃えるような瞳で通りの向こうをにらみつけていました。彼女は再び走っていきます。ただ事ではないことが一目でわかりました。
「・・・手伝います!」
事情も何もわからないまま、トレサは美しき踊り子と並んで街の地下道へ下りていきます。
(主観的)あらすじ
プリムロゼ・エゼルアートは元有力貴族の子女でした。幼いころに父親を暗殺され、その仇を探すために歓楽街の踊り子に身をやつしています。
幸か不幸か踊りの才能には恵まれていたようで、またたく間に看板の座へと上り詰めました。同じ酒場の踊り子たちは年若い彼女への嫉妬を隠そうともせず、下卑た支配人からは毎晩のように身体を求められます。けれどプリムロゼにとってここは通過点でしかありません。ただただ自分の目的のために、野良猫のような気高い瞳でひとり踊りつづけます。
気が遠くなるほどの歳月を耐え忍んだある日、ついに仇の男が酒場に現れました。しかし接客中のプリムロゼが離席することを支配人は許してくれません。仇の男は席を立ち、プリムロゼの目の前を通って酒場を出て行きます。二度とない好機。この日のために生きてきたというのに――。
打ちひしがれるプリムロゼのもとにひとりの踊り子が心配そうな顔で近づいてきました。
彼女はユースファ。ここにやって来たばかりの頃は宿舎の荒んだ空気になかなかなじめず、同僚からよくいたぶられていた娘でした。一度見かねて庇ってやって以来、彼女はずっとプリムロゼを慕っていました。迷惑だから、とプリムロゼは彼女をずっと遠ざけてきたのですが・・・今日ばかりはその善意が有り難いものでした。
ユースファの手引きによって、プリムロゼは酒場を抜け出します。
仇の男を追いかけて地下道へ潜り、やがて街の外に出たプリムロゼの前に現れた者は――支配人でした。
元々仇の男とつながりのあった支配人はプリムロゼの不在に気付くとすぐさまユースファを拷問にかけて所在を割り出し、先んじて待ち構えていたのでした。彼は用済みになったユースファの胸にナイフを突き立て、まるでゴミのようにプリムロゼの足元へと放り捨てます。
「ねえ・・・プリムロゼ。あたしたちってさ、・・・・・・かな」
哀れなユースファ。彼女はかすれた声でプリムロゼを友達だと言い、そのまま事切れました。
――糞食らえ。
プリムロゼは自分と自分の友人を悪辣な環境に追いやった元凶に引導を渡し、血を浴びたまま街を出ます。
支配人の死体を漁って見つけた仇の手がかりを手に。
身体にこびりついた赤黒い血は風が舞い上げる砂粒によって洗い流されることでしょう。
ここまでガッツリ二次創作欲を爆発させるとさすがに手間がかかりすぎちゃいますね。ゲームをプレイする時間がなくなっちゃうので次回からはもう少し控えめにしよう。拙い描写が多くて小説を書いたことがないのがバレますし。
バーグさん? ああ、なんか村を見つけられないまま気がついたら砂漠に出ちゃったので、まあいいやと後まわしにすることにしました。(私は重度の方向音痴です)
と、なると(また道を間違えなければ)初期パーティはトレサ、プリムロゼ、アーフェン、テリオンということに。・・・火力がいない。
気高き野良猫
プリムロゼの物語の第1章は、血の臭いとともにはじまり血の臭いとともに終わりました。
自分の人生がこれまでもこれからも血に塗れているであろうことはプリムロゼ自身がよくわかっていました。偽善者ぶった連中(私とか)は仇討ちをろくでもないことと蔑むでしょうが、それを果たさずにはいられなくなった以上、自分の人生もろくでもないものになるのは承知していました。
だから、誰も自分に近づけませんでした。彼女に触れられるのはユースファでも街の子どもでも他の踊り子たちでもなく、唯一、脂ぎった醜い支配人だけでした。プリムロゼと肌を重ねた時点であの男の運命は定まっていました。
プリムロゼ・エゼルアートは人生を血に侵された死神で、なまじそれを自覚しているがゆえに誰にも触れられずにいた、心の優しい少女でした。
だというのに、結局のところプリムロゼは孤高になりきれませんでした。
ユースファがずっと心配していてくれました。ユースファだけは友達だと言ってくれました。
「あんたっていつも言葉が少ないし、いつも冷たそうに見せてるけどさ。それって、他人を巻き込みたくないからだよね。・・・知ってるよ。ほんとは、あったかいから。プリムロゼって」
「プリムロゼだけは・・・周りと違ってた。どんなに辛いことがあってもいつも背筋を伸ばして・・・。あんた見てると、あたしもなんか、強くなれた」
ユースファがプリムロゼを慕っていたのは、昔助けてもらった恩があるというだけの理由ではありませんでした。プリムロゼの素っ気ない優しさに気付いて、プリムロゼの気高さに憧れて、それで、好きになったのでした。
突き放したところで、触れることを許さなかったところで、結局プリムロゼは孤独になりきれませんでした。
そんなものです。
他人との縁をことごとく切り離すなんてことはそうそうできないものです。
ユースファはプリムロゼを放っておかなかったし、ある意味では支配人もそうでした。それから、これからはトレサや多くの仲間たちが彼女をひとりにはしないでしょう。
ひとりぼっちのプリムロゼは支配人の死体を道連れとして砂の海に沈んで消えました。
これからは心暖かなプリムロゼがトレサと一緒に旅をします。
エンディングロール(=妄想おかわり)
支配人を殺したプリムロゼは一瞬だけユースファの方に視線を落とし、それから街に背を向けて歩きだしました。
「――待って!」
後ろで声が上がりました。
街を出るときからなぜかずっと付きまとっていた、お人好しの小さな商人の声でした。特に話を聞いてやる理由もないのでプリムロゼは足を進めます。商人は、今度はちょこちょことした駆け足で先回りして、プリムロゼの行く手を塞ぎます。
「ブドウ3つにプラム1つ、先ほどお譲りした分のお支払いがまだです!」
「はあ? 誰もあなたに頼んでなんか・・・まあいいわ。街の宿舎に私の持ち物がいくつか置いてあるから、好きに持っていってちょうだい」
「そんなの信用できません。もしウソだったら私は大損です。もしお金を持っていないというなら・・・今、ここで身体で支払ってください!」
そう言って、小さな商人は指でユースファの亡骸の方を指しました。
「ちゃんと・・・お別れをしてあげてください・・・」
涙に濡れながらまっすぐこちらを見上げるその瞳は、ほんの数刻前に酒場で助けてくれた友達の瞳の色と、どこか似ているような気がしました。
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