HUGっと!プリキュア 第32話感想 ひとりじゃないせいで。ひとりじゃないからこそ。

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おっ。いい感じや。黄色がよう似合っとる。

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(主観的)あらすじ

 なんと、ほまれが人魚姫になってしまいました! ハリーの心を覗こうとしたビシンの攻撃に巻き込まれ、ほまれの心のなかまで具現化してしまったのです。もちろん王子様はハリーです。
 人魚姫の物語はつつがなく進行しました。人魚姫のほまれは王子様を助け、王子様に再会するため人間の足を手に入れ、舞踏会で王子様と夢のような時間を過ごし、そして、王子様の本当に一番大切な別の誰かが現れて――。それはありのままのハリーの心でした。
 失恋して泡になりゆくほまれ。そこで、はなの励ましてくれる声を聞きました。何もわかっていないはなの応援の言葉は、けれど、ほまれの心に響きました。
 痛みを抱えていくつもりか。そんなの辛すぎる。そんなビシンの問いかける言葉はそのまま現在のほまれのありのままの姿。今しばらくはこの思いを心に秘めたままで、ほまれはもっと高く跳んでいきます。

 失恋。過去が積み重なった上に現在があるのなら、明日にはこの現在すらも過去の一部に変わります。過去のありかたは現在の自分をかたちづくり、そして現在の自分がいかなる未来かへと手を伸ばしていきます。
 ならば過去が悲しいものならば、現在も悲しく、未来まで永遠に悲しくありつづけるのでしょうか?
 いいえ。前話でプリキュアの前に現れたメモリアルクロックは、それでもありのままの自分を好きになれた思いによって生まれました。

あなたがいるから

 「ほまれさんの演技、感動したのです! 情熱的で、切なくて」
 「ニュースでも表現力の向上がすごいっていわれてたけど、本当にそのとおりだと思う」
 「“美しい”という言葉の定義を教えていただきました」
 「輝木選手。ズバリ好調のきっかけは?」

 以前もはなたちとの出会いを糧に演技の幅を広げていたほまれ。
 今回も何かしらあったようです。チラっとハリーの背中に目を向けます。

 「この先もいっぱい壁はあると思うけどさ。全部跳び越えていけるよう、がんばるよ」

 順風満帆。はなたちと出会ってからのほまれには良いことばかりが続きます。
 いいえ。本当はもっと以前からそうでした。お母さんは離婚してからもずっとスケートを応援してくれていましたし、もぐもぐというきゃわたんな家族も増えました。
 優しい人たちに囲まれて、ほまれの夢の翼は健やかに育まれています。

 「むかしむかし、海の底の国に人魚のお姫さまが暮らしていました。ある日、お姫さまは海に落ちた王子に出会い、恋に落ちました――」
 ならばこの恋も、きっと自分の幅を広げてくれるステキなものになるはず。
 「・・・ちょっと恥ずかしいかも」
 素直に認めちゃうのは照れくさいけどね。
 「でも、なんでハリーが王子? ・・・私のせいか」
 そしてそういうときに限って突きつけられちゃうんだけどね。
 「なんで王子に」「あなたまさか」「恋してしまったの?」
 「なんでもいいから人間にして!!」

 こんなくすぐったい、甘酸っぱい思い、恋してみるまで知らなかった。

 でも、悪くない。
 「たしかに人間になる薬はあるけど」「王子様の一番の存在になれなかったらあなたは泡になってしまうわ」「それでもいいの?」
 それでもいいと本気で思えました。
 そう、大好きなスケートから目を背けていたころは自分と周りの世界がくすんで見えていました。
 はなたちと出会って、今を精一杯にがんばるようになってから、毎日が輝いて見えるようになりました。
 輝きたい。もっともっと輝きたい。
 だから。

ノワール・デコレーション

 そうはいっても、残念ながら私たちはこの世界にひとりで生きているわけではありません。
 私と違う考えを持ったあなたがいて、あなたと違うことをしたがっている他の誰かがいます。
 私の願いが全て叶うとは限らず、あなたのしたいことが誰にも邪魔されないとは限りません。

 「ずっと考えてもわからないんだ。ハリーはどうして戻ってこないの?」
 またハリーといっしょに暮らしたい。ビシンはその願いのために精一杯がんばっているのに、どうしてか叶いません。どうしてかハリーに拒絶されてしまいます。

 「何してんの。これがあんたの今まで隠してきたこと? クライアス社の社員だったから? 改造されたから? その程度で私たちが離れると思ったの? そんなわけ――ないでしょ!!」(第25話)
 ビシンの願いを邪魔するように、ハリーに余計なことを吹き込むやつらがいます。
 「帰らへん! ビシン。俺な、プリキュアといっしょにクライアス社と戦うって決めたんや!」(第25話)
 そのせいなのか何なのか、ハリーまでビシンにとって嬉しくないことを言いだします。
 私たちはひとりで生きているわけではありません。ひとりの願いを叶えるために協力してくれる人たちもいれば、反対に願いを邪魔しようとする人たちもいます。
 どうして?
 どうして幸せな未来を邪魔するの?

 「人魚姫か。・・・もう少し様子を見ようかな」
 悲恋に終わる人魚姫の物語。なるほど、世の理不尽に邪魔されるのはなにもビシンだけじゃない。
 ちょうどいい。邪魔なやつがいなくなればハリーだって正気に戻るかもしれない。
 いっそみんなで不幸になったほうが、かえって自分は望んだ未来に近づけるかもしれない。

 しかしそれもまた、叶わず。
 「人魚姫の物語の結末、知ってるでしょ。王子様には別の思い人がいました。恋に破れた人魚姫は海の泡となって消えるのでした」
 「・・・ボクも驚いたよ。ハリーにもいたってことだね。一番の相手がさ」

 ハリーの一番大切な人はほまれではありませんでした。そして、ビシンでもありませんでした。
 それは額に白いハートを持つ謎の少女。
 「やっぱりお前か。もういないくせに、ボクからハリーを奪い、ずっと心のなかに居座る気か!」
 誰かを不幸にしたところで、ビシンは望む未来にたどり着けませんでした。ビシンはこの世界にひとりで生きているわけではなく、ビシンの邪魔をする者はほまれや他のプリキュアたちだけではありませんでした。

 「ハハハハハ! ハリーがお前なんかを好きになるわけないだろ! さっさと泡になっちゃえば」
 「やせ我慢してないで早く壊れろよ! 前からお前が気に入らなかったんだ。もう限界なんだろ?」

 お前なんか。ボクなんか。ままならない。ままならない。耐えられない。
 誰かとともに生きる世界は理不尽なことだらけです。

 いっそ絶望に黒く塗りつぶされてしまった方が楽なのに。
 「思いを捨てなさい」「全部無かったことにすればいい」「そうすればあなた心は守られる」
 世界に他の誰かがいるから悲しいことが起きるんです。誰かに期待するから傷つけられてしまうんです。いっそ全部諦めて、大切な人のことも忘れて、ひとりぼっちで時間を止めてしまった方が楽なのに。
 それでもハリーのことが好きなビシンは、ほまれは。未来に願いを抱く彼女たちは、それでも黒く染まりきることができません。

HEART GOES ON

 「クライアス社なんかにやられている場合じゃないよ!」
 「世界、目指すんでしょ!?」
 「こんな壁なんて跳び越えていくんでしょ!?」

 はながまた勝手なことを言っています。
 人の気も知らないで。
 ほまれによく似合っていた黄色いドレスはもうとっくに黒く染まってしまったというのに。

 「でも。・・・自分で言ったんだから、やるしかないか」
 それでも。たとえドレスは黒く染まってしまっても。ほまれ自身はそれでも黒く染まりきれませんでした。

 「フレフレ! ほまれちゃん!」
 「やめて! ・・・ごめん。今の私には――」
第4話)
 ほんの少し前まで、ほまれには周りからの応援がすごく辛く感じられていた時期がありました。
 そんなほまれに向かって、相手がどんなことで、どんなに苦悩しているのか知りもしないくせに、それでも応援をやめなかった身勝手な友達がいました。
 「なんか・・・自分のこういう顔、久しぶりに見た」第5話)
 そしてその子たちと出会えたおかげで、ずっとくすんでいたはずの自分が、輝く笑顔を見せるようになったのでした。

 今のほまれはひとりじゃありません。
 はなが知っているほまれは強い子です。
 はなが知っているほまれはいつか世界に羽ばたく子です。
 はなが知っているほまれはどんな壁だって越えていける子です。
 理不尽なことに、はなの知っているほまれと、ほまれ自身が思うほまれは違う姿をしています。
 はなが強い自分を信じてくれるなら、たとえ自分にはどんなに弱っちく見えたとしても、なんだか本当に強くなれる気がしちゃうじゃないじゃないですか。
 ずっと。ほまれはずっとそうしてきました。
 「沈んだ分、高く跳ばなきゃね!」
 輝きたい。みんなのためにも、もっともっと輝きたい。

 「ふざけるな! なんで心の痛みに潰れない!」
 「痛みを抱えていくつもりかよ!」
 「そんなの辛すぎるだろ!」

 そのとおりです。
 自分の弱さではなく、他人の都合で願いを叶えられないことは、理不尽で、悲しくて、不幸なことです。
 そしてそれが過去になったところで胸の痛みは消えません。今の自分をかたちづくっているものが、そもそも過去だからです。
 けれど、悲しい過去は必ずしも永遠に悲しいままだとは限りません。

 スケートから目を背けていた過去があるからこそ、ほまれははなたちと出会えました。ハリーと出会えたのもそのときでした。
 はなたちやハリーはたくさん、いろんなことで応援してくれて、いろんな本当の自分に気づかせてくれて、そんな過去の積み重ねの上に今のほまれがあります。
 今、ほまれはフィギュアスケートの選手として大活躍して、一度挫折した前の自分よりももっと高く跳ぶことができるようになりました。もうすぐ4回転にすら手が届こうとしています。

 「Heart goes on! 友達と響きあえば、夢は遠い夢じゃなくて、いつか現実になる」(『ハートキャッチプリキュア!』挿入歌『HEART GOES ON』)

 ほまれは力のプリキュアです。
 自分が輝くことでみんなに元気を与えられるステキな力を持っていて、自分でもそんな自分を気に入っているから、みんなに期待を向けてもらえているかぎりずっと努力をやめません。

 「ハリー。何も聞かないよ。こんなやりかた、フェアじゃないから」
 どんなにハリーのことを好きになっても、この恋は叶わないかもしれません。もしかしたらとっくに失恋しているのかもしれません。それは仕方ありません。ほまれはひとりで生きているわけじゃないんですから。
 けれど。
 「その代わり、私の気持ちももう少しナイショにさせて」
 それでもこの恋した気持ちはなかったことにしたくありません。
 恋はほまれの演技の幅を広げてくれました。恋はほまれにたくさんの嬉しい思いを教えてくれました。今のほまれが輝いているのは、ハリーを好きになった過去のほまれがいるからです。明日には過去になってしまう今日のこの思いを、だから、それでも、永遠になくしたくありません。
 悲しいだけの過去なんて本当はひとつもありません。いつか、きっと。

 輝く太陽を見つめて祈ります。
 実のところそのときになるまで不確定な未来を思って、だからどうか、今日のこの悲しい思いもまた、いつか未来の私を輝かせるものにつながりますように。

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    コメント

    1. 東堂伊豆守 より:

      SECRET: 0
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      何故ハリーはビシンをクライアス社から連れ戻そうとしないのか?何故ハリーはほまれ達に自分の過去を隠そうとしていたのか?ずっと疑問だったんですが……「輝く未来を取り戻すために"悪の巣窟"クライアス社を倒す」という大義名分に便乗して、自身の恋路を邪魔する面倒なストーカーをプリキュア達に厄介払いさせるため、だったのかもしれません……。さすがに意図的に計算ずくでやったわけではないでしょうが、無意識の内に、少なくとも結果論としてそういう構図になってしまったことは否定できないですよね。
      プリキュアって作品は、登場人物に"聖人君子"も"絶対悪"も作らない。作中の少女達はメルヘンの世界に生きている訳じゃなく、テレビを視ているお友達と同じ厳しさ・辛さのある世界を懸命に生きている。そういう舞台設定・キャラ造形を徹底して、作品が「頑張っている皆への応援歌」として説得力を持ちうることを貫いてくるんですよね。
      ハリーが見せた弱さ・ズルさも「誰も傷つけず生きていくことは出来ない、凡百な人間ゆえの限界」で、そんなズルさに傷つけられあるいはズルさで傷つけても、乗り越えて生きて往く。そういう"強さ"を讃えるためのエピソードだったのかな、とも思います。
      まあ、あれだ、ハリーが元の姿を取り戻した姫君と仲睦まじく未来へご帰還される暁には、ほまれちゃんに是非「ひとこと、言って」貰いたいですね。
      「くたばっちまえ!!
      ………アーメン」

    2. 疲ぃ より:

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       いやあ、彼の場合は単に良くも悪くも個人の意志を尊重しているだけだと思いますよ。相互不干渉。突き放しているともいう。
       ビシンを説得しようとしないのも、「がんばってるヤツに『がんばれ』言うのは酷」発言も、肝心なことは話さず自分で抱えこみたがるところも、たぶん根は全部同じところから来ているんだと思います。

       あとそういうロックな歌詞をなぞらえるのはアンリに任せましょう。・・・彼も相当な個人主義者だからそういうの言わないか。

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