映画プリキュアミラクルユニバース 感想 未だプリキュアになれずにいる私たちへの応援歌。

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私はウソっこのプリキュア・・・。でも、そんなの、嫌だよ!

このブログはあなたが視聴済みであることを前提に、割と躊躇なくネタバレします。
例外的にネタバレ抜き(当ブログ基準)の記事もあるのでよろしければどうぞ。

プリキュアになりきれない私たちへ

 「諦めない、負けない!」(『キラキラkawaiiプリキュア大集合』)
 プリキュアは諦めない強さを奨励します。諦めないかぎり、負けることもないからです。
 プリキュアの戦いはいつも負けられないものばかりでした。彼女たちは自分たちの日常を守るために戦ってきたからです。日常を守るには自分ひとりが無事なだけではダメで、周りのみんなも一緒に守らなければなりませんでした。
 ただの中学生の女の子の身には余るくらい大きなものを背負って、プリキュアは戦いつづけてきました。
 だから、私たちはプリキュアを応援しました。負けてほしくなかったからです。諦めてほしくなかったからです。その戦いは私たちにとってけっして他人事ではなかったのですから。

 「あんた周りが見えてないのよ。キラキラルをつくれるのはプリキュアだけじゃないのよ」(『キラキラプリキュアアラモード』第40話)
 「みんなの心にプリキュアがいる。みんなみんな、プリキュアなんだ!」(『HUGっと!プリキュア』第48話)
 そんな戦いが長く続いて、今や私たちみんなもプリキュアです。
 だって元々日常を守るプリキュアの戦いは私たちの戦いでもあって、諦めないプリキュアの強さを支えるパワーは私たちが応援で送ったパワーでもあったんですから。
 「どうでもよくないよ。このケーキはお母さんへの“大好き”って気持ちを込めたものだもん。これをあげたら全て捨てることになっちゃう」(『キラキラプリキュアアラモード』第1話)
 「ここで逃げたらカッコ悪い。そんなの、私のなりたい“野乃はな”じゃない!」(『HUGっと!プリキュア』第1話)
 もうひとつ、プリキュアに任せるだけでは乗り越えられない戦いがあるという事情もありました。突き詰めると私たちひとりひとりが抱える個人的な問題は結局自分の力で解決するより他なく、そうなると私たちはプリキュアに力を贈るだけでなく自分自身も強くなる必要が出てきたのでした。

 だから、私たちはみんなプリキュアです。 諦めない、負けない。

 ・・・しんどくないですか?
 誰が見てくれるわけでもないのに自分のため諦めずにがんばるなんて。
 ましてプリキュアと違って私たちはそうそうたくさんの応援を受けられるわけでもないのに。
 私たちはどこにでもいるただの平凡な人なんですから。

 「ぷー。かったりぃピト」
 
今作のゲストキャラ・ピトンは、そんな等身大の、自分の夢があるのにがんばれずにいた少年でした。

世界で一番信用ならない人

 ピトンはミラクルライト職人になることを夢見ていました。量産品のちんけなライトなんかではなく、プリキュアを呼び、闇を照らす、殿堂に奉られるような特別な1本をつくることのできる職人になりたいと願っていました。
 ところが、はじめて自分でつくった1本は未完成品とみなされる程度の出来でしかありませんでした。
 大志抱くピトンの技術はつまるところ十把一絡げの凡人相応でしかなく、ライン工としてつまらない仕事に従事せざるをえずにいました。

 ある日、ピトンの従事していたラインから闇の怪物が発生しました。
 ピトンに身に覚えなんてありません。怪物をつくりたいだなんて思ったこともありません。けれど周りの人たちが「ピトンのせいだ」と断じているのを見ていると、なんだか本当に自分が悪かったようにも感じられてきます。
 なにせ全然やる気が出なくてテキトーに仕事していましたし。故意じゃなくとも過失なら身に覚えがないでもありませんでした。もしかしてアレのせいだったんだろうか。もしかして自分は自分で思っている以上にダメなやつだったんだろうか。だんだん自分が疑わしく思えてきます。

 そんなとき、未練がましく持ち歩いていた最初のミラクルライトが、偶然か必然か、プリキュアを呼んでくれました。
 こんなに嬉しいことはそうそうないでしょう。地に落ちかけていたピトンの自己評価が一気に反転の兆しを見せます。こんなミラクルライトをつくれるだなんて、もしかして自分はやっぱりすごい人なんじゃないか。

 だけど、上げて落とす。

 「ぷー! 伝説のプリキュアなんてウソっこピト!」
 
信じられないことにプリキュアは負けてしまいました。
 じゃあ、アレは本物じゃなくてウソっこのプリキュアだ。ウソっこしか呼べない自分のミラクルライトももちろんできそこないだ。
 即席の信用は儚く崩れ、ピトンの自己評価は今度こそ落ちるところまで落ち、心の支えにしていたミラクルライトまでも手放してしまいます。

 この“自分を信じられない”というピトンの絶望はこの映画のストーリーにおいてすごく重要で、ピトンだけでなく最初の戦いでミスを犯したひかるだったり、気絶している間に状況が悪化していて不安を覚えるハリーだったりと、繰りかえし様々なかたちで描写されます。

 自分を信じられなくなった人はその後どうなるでしょう。あなたには覚えがあるでしょうか?
 ・・・逃げるんですよ。ピトンのように。
 厳しい人、優しい人、どんな相手であってもみんなを信用できなくなって、ずっとひとりで逃げるんです。だってしょうがないじゃないですか。「この人なら信用できる」と判断を下す自分自身がまず信用できないんですから、他の誰だって信じることができません。
 どんなものからでも逃げます。決断を迫られる場面は特に辛い。自分が一番信用できないんだって言ってるだろ。自分で決めたらまた絶対に失敗するに決まってる。逃げた方がまだマシだってわかりきってる。

 ――だから、こういうときに限って最悪の選択肢を選んでしまうんですよね。
 大統領はピトンには荷が重すぎるとして、ミラクルライトを手放すよう勧めます。
 ヤンゴは甘い言葉でピトンを優しく励まし、ミラクルライトを破損させるべく欺きます。
 「恐怖は思考を停止する」(『スタートゥインクルプリキュア』第1話)
 自分を信用できないという不安がピトンから考える力を取りあげてしまうんです。より自分が決断しなくて済む方向へ、より自分が責任を取らなくて済む方向へ、・・・流されてしまうんですよね。

それでも。それでも。

 自分を信用できずにあらゆるものから逃げまわるようになったピトン。
 そんな彼と対照的に、ひかるは初対面から一貫してピトンのことを信じつづけます。

 「ありがとう、ピトン。私たちを助けてくれて」
 
ロケットで突っ込んできたときのピトンはそういうつもりじゃなかったはずですけどね。
 ひかるはこういう子です。はじめて会う人に対してはとりあえず肯定的な感情を持とうとする。テレビシリーズの方でも宇宙人であるフワやララにいきなりグイグイいきましたし、それどころかあからさまに物々しい雰囲気のカッパードにすら目を輝かせていました。
 もっとも、意外と良識をわきまえた子でもあるので、カッパードについてはフワが怖がっているのを見てすぐに評価を修正したんですけどね。初対面よりあとは自分が接してみたまま柔軟に評価を更新していく子でもあります。あらゆる意味で先入観というものを持たない子です。
 そんな彼女が、ピトンについては一貫して信じつづけました。どんなに情けない姿を見ても、どんなに辛い言葉を投げかけられても。

 どうしてでしょうね。
 たぶん、傷ついているところを見てしまったからでしょうか。
 ピトンは自分が呼んだプリキュアが負けてしまうところを見て、ガッカリして、大切なミラクルライトを投げ捨てました。敗北の原因をつくってしまったひかるにとってはなおさら辛く映って見えたことでしょう。どうにか元気づけてあげたいと、そういう一心だったんでしょうか。

 「プリキュアとともに!」
 ひかるはピトンが本来プリキュアを信じて応援してくれる子なんだと知っていました。今はちょっと、自分が失敗してしまったせいもあって、ふさぎ込んでいるみたいだけれど。だから、カッパードのときとは違ってピトンについては第一印象からほとんど評価を変えませんでした。
 「ピトンの、ピトンのミラクルライトが闇を止めた!」
 
ピトンのミラクルライトがもう一度輝き、しかも闇の侵食を止めてみせたときは嬉しかったでしょうね。信じたとおり、やっぱりピトンは良い子だったんだとあれで確信できたわけですから。
 信じてよかったと、信じられる人と出会えてよかったと、きっとそう思ったはずです。

 なにせこのときのひかる、さっきから書いているように、失敗をしてヘコんでいましたから。

 『キラキラプリキュアアラモード』は、ちょっとした心の隙にすらつけ込んでくる悪意に対抗するため、ありとあらゆる個性の持ち主と分け隔てなく絆を結ぶことで相互の身を守りました。
 『HUGっと!プリキュア』は、挫折を経験し自分を信じられなくなった人のことを代わりに信じてあげて、自分が絶望したときは反対に信じてもらって、という永遠の循環で不確定未来への不安を乗り越えました。
 近年のプリキュアは自分以外の誰かとつなぐ関係性によって、自分自身の問題と戦える力を獲得しようとしています。

 元々プリキュアというヒーローは悪者を倒し日常を守ることまではしてくれましたが、個人の心の問題にはなかなか踏み込みきれずにいました。もう何代も前からその解決策を模索してきて、最近ようやく「ひとりひとりみんながプリキュアなんだ」という解法を見つけてきたわけですが・・・。
 そうなると今度は「自分の個人的な問題と戦うヒーローって孤独よね」という話になってきます。
 そんなヒーロー、嫌でしょ? 自分がそのヒーローになるんだとしたらなおさら。
 だからですよ。ひかるがピトンを信じつづけることに決めたのは。

 「私はウソっこのプリキュア・・・。でも、そんなの、嫌だよ!」

 自分で自分を信じきれずにいるときは、代わりに誰かに信じてもらえばいい。

One for all, All for one.

 ひかるとピトンはそれぞれの心に問題を抱えます。
 この問題はピトンが自分以外の誰かを信用できるようになったとき解決するでしょう。
 ピトンの問題が解決したなら、彼を信じることで解決を図ろうとしているひかりの問題も連鎖式に解消されます。
 ですがこれが難しい。先にも書いたとおり、そもそも自分を信用できない人は他人を信用することもできないからです。

 そこで(この感想文ではようやく登場の)ひかる以外のプリキュアの出番です。
 フルーツの星ではキラキラプリキュアアラモードのパティシエたちが中心となって、信用ゼロのところから現地住民との絆を再構築するスイーツパーティを催しました。自分たちが大変なときでも関係なく、ただみんなを笑顔にしたいという真心がこれを成功させます。
 火山の星ではゆかりとあきら、えみるとルールーという2組の仲よしペアが中心となって、どんなピンチも仲間となら戦えるという力強さを示しました。これこそがヒーローだと胸を張って高らかに宣言します。
 これらがピトンにとってどういう意味を持つのかといえば――、要はピトンの心に誰かを信じることへの憧れを植えつけたわけですね。
 誰かのために行動したらちゃんと信頼を返してもらえる。誰かを信じることができたらひとりでいるよりずっとすごいことができる。ピトンと同じひよっこであるララやえれな、まどかたちのがんばっている姿も心強い。
 「やったー! ヒーローピト!」

 憧れという感情は強いものでして、これまでの自分になかった新たな可能性へと挑戦する意欲を湧き立ててくれます。
 いいえ。あるいは気付いてなかっただけかもしれません。自分はそういう人間じゃないと思い込んで、本当はもっと豊かな人間性を持っているはずの自分を薄っぺらく捉えすぎていただけなのかもしれません。
 いずれにせよ、プリキュアたちの活躍はピトンの心を大いに刺激し、まずは自分の方から積極的に誰かを信じてみようという思いの素地をつくりだします。
 「そのミラクルライトはピトンの思いで光ってるんだよ」
 このタイミングでピトンを信じるひかるの思いが彼の心に届き、誰かを信じることのステキさを確信した彼は少しずつ変わっていくわけですが・・・。
 このあと2回もピトンに大きな挫折が訪れるというのがまたままならないものですね。今年のテレビシリーズが“想像力でもって多様性を受け入れていく”という物語になっている都合上、映画の方でも凝り固まった先入観を取りはらうための戦いが挿入されていきます。このあたりのお話はこの感想文では省略。

 「気持ちいい。俺はずっと欲しかった。俺を認めてくれる、この応援が!」
 
ダークライトの応援に飢え渇く宇宙大魔王は少し前のピトンそのもの。
 ひとりぼっちで悩みつづけたあげく、ついにピトンは自分自身すらも信用できなくなってしまいました。プリキュアと交流を重ねるまでは。
 私たちが自分の問題にだけ取り組むかぎり、プリキュアのようにたくさんの人の応援を受けることはできません。プリキュアの戦いと違って、私たちの個人的な問題は他の人たちにとって結局他人事に過ぎないからです。それはあまりにもさびしい。私たち、プリキュアほど心が強くありませんしね。

 「ピトンはわかったピト。思いは自分のためじゃなく、誰かのためにある」
 
だから、近年のプリキュアは他人に介入できない個人的な問題の存在を認めたうえで、それでもたくさんの人と絆を結びあう必要性を訴えてきました。
 プリキュアがどんなときも諦めることなく戦いつづけてこられたのは、みんなの応援あってこそだから。
 私たちがプリキュアになって戦うのなら、私たちにもきっと応援の力が必要になるはずだから。
 困ったことに私たちが挑むのは個人的な問題であって、その戦い自体は誰かの応援を受けられるようなものではないのだけれど、それでも。
 諦めない、負けない。
 「フレフレ! プリキュア!」
 
そのままでは応援を受けられないというのなら、まずは自分が誰かを応援してみたらいいじゃないか。そうしたらきっと、またどこかの誰かがあなたを応援してくれるかもしれないから。
 だってみんな、あなたと同じプリキュアなんだから。

 ひかるとピトンは最終的にお互いを応援しあえる関係を築きあげ、あるいはそれぞれまた別の誰かを応援し、応援してもらえる人物へと成長しました。
 思えばそもそもプリキュアというもの自体、どこにでもいる普通の女の子のはずでした。平凡な私たちと同じように。
 彼女たちにできて私たちにできないはずがありません。プリキュアであるひかるとプリキュアじゃなかったピトンが同じように悩み、同じように成長できたように。

 「『がんばれ』の声がキラメキになって、ピンチの背中支えてくれる。――『大丈夫だよ』 Welcome奇跡! ひとりずつ希望<ひかり>になれ!」(『プリキュア!カナYellミラクル』)

 「プリキュアは女の子が変身する特別な存在だ」という先入観は未だ根強いようですが、まあ別にそれならそれでも構わないので、とりあえずあなたもプリキュアらしさを実践してみましょうよ。オッサンオバサンもプリキュアになってみましょうよ。
 ちなみにかくいう私は未だ全然です。口だけご立派。・・・がんばらねば。

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