わんだふるぷりきゅあ! 第35話感想 前しか向かない、やるっきゃない!(暴走中)

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君の笑顔が好きだから! 君の笑顔を守りたいから! 力不足かもしれないけど、頼っていいと思える距離にいたい――!

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「悟の告白大作戦」

大きな出来事

メインキャラクター:悟

目標

 いろはに愛の告白をする。

課題

 幼いころからずっといろはに片想いしてきた。告白しなかったのは、いろはを困らせたくないのと、今の関係性を壊したくなかったから。
 ただ、いろはが自分以外の男の人と仲よくしているのを見るとどうしてもモヤモヤしてしまう。誰かにいろはを取られるかもしれないと思っただけで胸がはり裂けそうになる。

未解決

 大好きないろはの笑顔を守るため、常に「頼っていい」と思ってもらえる距離にいたいと願う。
 けれど、今の悟には自分がそうできている実感がない。

 だから結局告白できなかった。
 ただ、メエメエが口を滑らせたせいで、意図せずいろはに気持ちを知られてしまった。

バトル

苦戦

 大好きなガオウに構ってもらえていないトラメが呼んだ、カンガルーのガオガオーンが相手。パンチが鋭く苛烈で近づくこともできない。

勝利

 後退することのできないカンガルーの生態から、悟がいろはに策を授けた。橋の上に誘い出してしまえば捕まえることもできるはずだと。
 リリアンネットで捕まったガオガオーンはお母さんの育児嚢に収まったみたいにおとなしくなった。

 作戦がうまくいっていろはは悟に感謝した。
 一方、全力で走ってもキュアフレンディの脚力に追いつけなかった悟は素直に喜ぶことができなかった。

ピックアップ

気ぶり

 最近のネットミームでは、まゆのように推しの恋愛模様をウキウキしながら応援する、過激派カプ厨仕草を「気ぶる」というそうだ。
 本来は“気が触れている”という意味の語なのでそこから派生して生まれたニュアンスなのかと思いきや、話によると藤子・F・不二雄のマンガ『ノスタル爺』に登場するキャラクター「気ぶりの爺さま」のセリフを改変した1コマが流行した結果なんだとか。言葉の歴史ガン無視!
 ネットミームの成立過程を調べると「言葉は生きている」というドイツ言語学者の名言をしみじみ実感できて面白い。

インクルーシブデザイン

 「M」と「W」でシンボルごと上下をひっくり返し、リボンの位置を少し調整するだけという最小限の違いだけで男女の別を表したデザイン。
 別にここまで配慮せんでも・・・、と思わなくもないが、このデザイン自体に「男女の違いなんてほんのわずかなものでしかない」というメッセージ性が込められていることを汲み取るのは悪いことじゃないだろう。

悟が告白されたシーンの花言葉

 冒頭に描かれたのは毎年恒例でプリキュアに登場する秋の花コスモス。花言葉も多様だが、ここでは「乙女の真心」と読み解くべきか。

 失恋と同時に花弁が落ちた、アジサイ似のオレンジ色の花はサンタンカ。鮮烈な花姿に「喜び」「はりきる」「熱い思い」などの花言葉を託されている。・・・それが落花したわけで。

悟が告白を決意したシーンの花言葉

 うしろの真っ赤な生垣はベニカナメモチ。花言葉は「にぎやか」だが、他の花と違ってアップで映すカットが無いあたり、花言葉ではなく“赤”という情熱の色を画面に出したかったものと思われる。

 「いいの!? いろはちゃんが他の誰かと付きあっちゃっても!」というまゆの叫びとともに登場したのはアカツメクサ。花言葉はアイヌ民族に伝わる、恋人のあとを追って身投げした女性の悲恋話に由来して「豊かな愛」
 演出の人、よくこんなもの知ってたな。

悟が恋に落ちた瞬間のシーンの花言葉

 ピンク色の花はシャクヤク。花言葉は「思いやり」「はにかみ」
 黄色い大きな花は言わずもがなヒマワリ。花言葉は「憧れ」「あなただけを見つめる」
 青い花はアガパンサス。花言葉は「恋の訪れ」「優しい気持ち」
 白い小さな花はカモミール。花言葉は「親交」「逆境に負けない強さ」
 黄色くて丸い花はミモザ。花言葉は「私がどれほど愛しているか誰も知らない」

 昔の少女マンガばりに花で雄弁に語ってる!

動物たちの求愛行動

 ハクチョウの求愛行動は翼を大きく羽ばたかせる求愛ダンス。
 敵を威嚇するときも同様の行動を見せるため、おそらく彼らは体の大きさを誇示することでセックスアピールしているものと考えられる。

 カバの求愛行動ではオスとメス双方が口を大きく開きあう。
 他に、メスがお尻を向けてオスの頭に尻尾を乗せるという行動も見せるため、おそらく彼らにはニオイがセックスアピールになっているものと考えられる。

 カンガルーの求愛行動では上腕を持ち上げて筋肉量をアピールする。
 いかにも筋肉自慢の動物らしい求愛行動だが、実は他に、メスの尻尾を両手で掴んでスリスリするという微笑ましい行動も見られるらしい。

カンガルー

 元は樹上で枝と枝との間を跳び移りながら暮らしていたものが地上に降りて大型化した動物なので、非常に筋肉質で、特に足の腱が強靱。後足のジャンプで推力をつけ、尻尾でバランスを取る走行スタイル。
 ナワバリ争いの際にボクシングスタイルで格闘することがよく知られているが、カンガルーの前足は見てのとおり小さく、また体重を乗せてパンチを繰り出すわけでもないため、実際のところそこまで威力は強くない。危険なのはむしろ後足キックと尻尾。

 常にジャンプしつづけるという全身の筋肉を酷使する生活をしているためか、妊娠期間はわずか1ヶ月程度。大人のメスの体重30kgに対して新生児わずか1.5gという、ヒト科もびっくりな超未熟児状態で出産し、お腹についている育児嚢に入れて8ヶ月ほど育児する。

 今話ずいぶんと印象に残る味わい深いシーンがたくさん出てくると思ったんですが、今話の演出をした広末悠奈さん、意外にも新人のかたなんですね。名前で検索してみると私立東京造形大学を2018年度に卒業したばかりのようです。
 プリキュアシリーズでは昨年の『ひろがるスカイ!プリキュア』でキュアウィングとキュアバタフライのバンク技「プリキュア・タイタニック・レインボーアタック」で初めて演出を手がけ、『プリキュアオールスターズF』にも助監督で参加。『わんだふるぷりきゅあ!』では第1話と第14話、そして今話第35話の演出を担当しています。他作品では『ダイの大冒険』で1回演出を担当したきりのようですから、本当にデビューしたてみたいですね。

 それでこの非凡な才覚。どうりで例年なら大ベテランが担当していたはずの大事な第1話を任されるわけです。あの第1話も難しい脚本でした。なにせ主人公のこむぎが終盤まで喋らないのに、初変身に至る心情描写は丁寧に描く必要があったんですもん。あれをやり遂げた人なら今話の出来にも納得です。
 調べたところによると、大学の卒業製作で学内の賞ももらっているんだとか。
 今後の活躍に大注目ですね。
 
 さて。そんなスペシャルな人材が参加している今話はストーリー的にも重要イベント。いろはと悟の恋愛がついに進展を始めます。プリキュアシリーズは視聴者層の関係もあってこれまで恋愛描写に消極的だったんですが、今回きっちりやるんですね。
 これは“こむぎにとって”大事な試練になります。なにせこむぎ、いろはと離れたくないがためにプリキュアになった子ですから。
 怪物からいろはを守るために変身しました。仲よしになるために人間の言葉でお喋りするようになりました。いろはの心をつなぎ止めたくて動物を保護する活動をはじめました。ひとりでお留守番するのが辛いから学校にも一緒に通うようになりました。
 そして今話。悟がいろはの一番になるべく名乗りを上げたわけです。もしいろはがこれに応えてしまったら、いろはにとって一番大切なパートナーは悟になってしまうでしょう。こむぎではなく。
 こればかりはプリキュアの力をもってしても太刀打ちできない問題です。こむぎがどんな努力をしたとしてもどうにもならない理不尽展開です。ペットと飼い主という関係性は良くも悪くも絶対的に固定的。しかもこむぎ自身、悟のことはけっして嫌いじゃありませんから、憎むことすらままなりません。さあ、どうする? こむぎ。

 まあ、悟は以前からずっといろはの役に立てていないことを負い目に感じていましたから、それが解消しないまま次話でさっそくカップル成立、なんて展開にはならないでしょうけどね。

 それでもこむぎは一度じっくり考えてみるべきです。もしもいろはに自分以外の大切な人ができた場合、自分はどういう身の振りかたをするべきなのか。
 これまでずっといろは第一にものごとを考えてきました。私たちから見てもこのアニメの主人公が誰だったか、たまにわからなくなるくらい、思考も思想も決断すらも、いろはに依存してきました。
 こむぎ自身にやりたいことはないのか? こむぎだからこその譲れないことはないのか? いろはとは違う、自分自身の思いというものはないのか? これからはそういったことも問われるようになるでしょう。
 こむぎといろはは不可分の存在ではありません。それぞれ別の体と意志を持った、別の個体です。もし仮にいろはを取りまく恋愛模様が進展しなかったとしても、いつか何かしら別の問題で、自分といろはの距離に気かされる日は来ていたはずなんです。

 ま。そんな難しく考えなくてもいいですけどね。
 こむぎなら大丈夫。
 たぶん彼女自身が思っているよりずっと、こむぎはちゃんと自分だけの思いを持てています。
 たしかに最初はいろはのためにプリキュアを始めたのかもしれません。だけど今は、たとえばガオウと友達になりたいと思っているその気持ちは、けっしていろはのためじゃなかったはずでしょう?

犬飼こむぎのキャラクター考察レポート

【過去】――何が自分をつくったのかという認識
1【誰の役に立ちたいか】
(A+C)
「・・・誰? 泣いてるの? ねえ、こっちにおいでよ! 一緒に遊ぼうよ! 何かお願いあるなら鏡石にお願いしなよ! おーい! おーい!!」(第23話 / こむぎ)

 動物たちみんなが仲よく暮らせるようにしてあげたい。
2【誰に支えられているか】
(B+D)
「リードをつけるといろはを近くに感じるワン。いろはと一緒にいるこむぎは、ずーっと楽しくて、嬉しくて、ワンダフルなんだワン!」(第5話 / こむぎ)

 どんなときも絶対に一緒にいてくれる、いろは。
3【嬉しかった想い出】
(B+C)
「いろは。この子はね、体もだけど心が傷ついてる。急にひとりぼっちになって、ケガをするような怖い目にも遭って、辛かったと思うわ。仲よくなるには時間がかかるかもしれない。仲よくなっても、元の家族が見つかったらお別れすることになるのよ。――それでもこの子と一緒に暮らしたい?」(第5話 / いろはのお母さん)

 ノラ犬で周りの全てを恐がっていたころの自分を、いろはは一方的な思いになってしまっても構わず一生懸命愛してくれた。
4【傷ついた出来事】
(A+D)
「こむぎ! 下がっててって言ったでしょ! どうして出てきたの!? 全部一緒は無理なの! 恐くて震えてたでしょ。危ないときは下がってて!」(第6話 / いろは)

 いろはが自分のワガママを聞いてくれなくて、ケンカしてしまった。
【現在】――自分は何者なのかという認識
A【がんばっていること】
(1+4)
「こうするとね、苦しいのがなくなるんだよ。ガルガルしないで一緒に遊ぼ! 楽しいこと、嬉しいことがいっぱい! 『世界はステキにワンダフルー!』なんだから!」(第1話 / こむぎ)

 心がガルガルしている動物たちであっても、みんなと仲よくしてくれるよう説得している。
B【任せてほしいこと】
(2+3)
「こむぎはね、いろはがいるから毎日ワンダフルなの。ガルガル放っといたら、いろはワンダフルじゃなくなっちゃうよね? だから、こむぎ行くよ!」(第2話 / こむぎ)

 「世界中の動物と友達になる」といういろはの夢を叶えてあげたい。
C【よく気がつくこと】
(1+3)
「ウソワン! ユキはまゆが大好きなんでしょ? こむぎはいろはに嫌われるなんて絶対やだワン! ユキだって、まゆと一緒に遊んだ方が楽しいに決まってるワン!」(第19話 / こむぎ)

 自分の「好き」の気持ちにウソをついている人は見逃さない。
D【耐えがたいこと】
(2+4)
「いろはー!」「一緒に遊ぼー!」
「うん! ・・・こむぎはお留守番ね」(第1話 / 悪夢での出来事)

 いろはに自分以外の大切な誰かができてしまうこと。
【未来】――これまでの総括とこれからの夢
α【守りたいもの】
=【プリキュアになりたかった最初の理由】
(1+2+3+4)
「こむぎはここで待ってて。絶対戻ってくるから。いいね。・・・あの子たちを放っとけないから!」(第1話 / いろは)

 あらゆる意味で、いろはと離れたくなかった。
β【足りないもの】
=【物語のなかで成長・変化するべき部分】
(A+B+C+D)
「イヤワン。いろはと一緒に選んだのに。あれでずっとお散歩してきたのに。こむぎ、あのリードじゃなきゃイヤワン。いつものがいいワン! あれじゃないとダメワン!」(第6話 / こむぎ)

 一度好ましい関係性だと思ったら、それ以上の変化は望まない。
γ【いつか叶えたい理想の自分】
(α+β+1+A)
「いろはは優しいから困ってる子たちを放っておけない。それがどんな相手でも助けようとする。助けられた子たちはみんな嬉しそうで。いろはも嬉しそうで――。あ。そっか――。こむぎもそうだった――」(第6話 / こむぎ)

 いろはみたいに、みんなが嬉しそうにするのを一緒に喜びあえる人になりたい。

 毎年最終回前後の時期に記事を出している誰得なコレ。今年もつくっています。
 なんなら今年は四半年ごとに出して、あとで比較できるようにするのも面白いかなと思って準備してすらいました。ちょこちょこまた文言が変わっているのはその影響です。
 思い留まりましたけどね。このシリーズ全然PVが伸びない、マジで需要がないやつだってわかっているので。

 ただまあ、これそもそも自分なりにキャラ理解を深めるための考察資料なので、裏ではつくりつづけていたりもします。

 こむぎは最初、いろはのためにプリキュアになりました。
 それはガルガルしている怪物からいろはの身の安全を守るためであり、いつかいろはが遠くに行ってしまうかもしれないと夢にうなされるくらいの危機感によるものでもありました。
 いろはならガルガルになった動物たちを救ってあげたいだろうと思ったから、彼らを救うことにしました。いろはに大きな恩を感じているから、彼女の夢を叶えてあげたいという側面もありました。
 こむぎはいつも、四六時中、いろはのことばかりを考えていました。

 ただ、それでもやはり、いろはとこむぎは別の人間です。

 だってほら。もし最初にプリキュアになったのがいろはだったとしたら、彼女は絶対にこむぎをプリキュアにはさせなかったでしょうし。
 いろはにとってまず第一に大事なことはこむぎの安全です。最初のころのいろはなら、たとえいかなる理由があれど、こむぎが自ら危険に飛び込んでいくことは絶対に望まなかったでしょう。実際いろははこむぎを守るためにこそプリキュアへの変身を志向しました。それが、飼い主として当然の責任でした。
 一方、こむぎが危険を負うリスクを飲んでまでいろはのためのプリキュアになったのは、現状に対する痛烈な危機感があってこそでした。いろはに守られるだけじゃ嫌だ。いろはの役に立ちたい。いろはに必要とされたい。絶対に見捨てられないようになるために。
 こむぎにとってプリキュアとは、放っておくとどんどん変わっていきかねない自分といろはの関係を、現状のまま維持するための手段だったのでした。

 ところが。プリキュアとしての活動を続けていくうち、こむぎはひとつ自覚するようになります。
 いろはならこうするだろうって思って続けてきたこと、本当はこむぎ自身もやってて嬉しいなって感じていたんです。
 もちろん、いろはの影響を多々受けてのことではあります。それでも、こむぎが動物たちを救いたいと願うのは、いろはのためでもありながら、同時に、こむぎ自身がそうしたいからでもあったのです。

 その気付きはやがて、山奥で悲しみの遠吠えを上げているオオカミたちの友達になってあげたいと思うようになったとき、自分自身の願いごととして表面化するようになります。
 人間の業のせいでいろはが絶望したとしても揺らがない、彼女の絶望に一緒に飲まれることなく毅然として立ちつづける、いろはの意志とは明確に別個の、こむぎ独自の思いとして確立されていくことになります。

 最初、こむぎはいろはの庇護下から外れたくなくて必死でした。
 今は違います。今のこむぎは、いろはとお互いに支えあえる、対等の友達です。
 こむぎがこむぎであるためにいろはの存在を必要としていた時代は終わりました。
 たとえいろはの一番大切な人がこむぎ以外の誰かに変わってしまうとしても、今後はもう、こむぎがこむぎであるという事実が揺らぐことはありません。

 たぶん、彼女自身はまだ自分の成長を自覚していないでしょうけれど。

進捗どうですか?

 「ふふっ。――優しいんだね」

 おそらく世界で一番優しいであろう女の子に、優しいって言ってもらえました。
 身の丈に余る栄誉。この瞬間、いつか彼女に並び立てる優しい男の子になるべき、悟少年のがんばり物語が幕を開けました。

 「この子はロップイヤーっていって、もともと耳が垂れてる種類なんだよ」

 知識豊かな彼女の言には確かな説得力があり、心強く感じられました。

 自分も勉強しよう。彼女みたいに誰かを安心させられる人になるために。

 「大丈夫だよ。心配いらないよ。お母さんが診てくれてるから。ね? 大丈夫」

 お母さんのことを信頼している彼女の言には凜とした芯があり、たとえ何の根拠もなくとも不安は解消されました。

 自分も強くなろう。彼女みたいにそこにいるだけで誰かを救える人になるために。

 彼女はあまりにもステキすぎる子で、彼女に褒められたという栄誉以外何も持たない凡庸な自分は、ただ傍にいるだけでドキドキしっぱなし。
 このままいつまでも甘い時を過ごせるとは少しも思いませんでした。自分にはやはり努力が必要でした。彼女とともにいるための努力が。彼女の慈愛と庇護に甘んじているようではせっかくの栄誉も毀損され、たちまち自分はこの幸運な日々を暮らす資格を失ってしまう。
 彼女は優しい人だ。たとえ自分が何の努力もできない惰弱な人間だったとしても、彼女なら笑って許してくれるかもしれない。しかし、そんなのは僕が許せないのだ。彼女と同じ時を過ごす間、自分の心にわずかでも後ろめたい陰りがあったなら、僕はそんな自分のことを生涯許さないだろう。
 彼女は初恋の人で、しかも、憧れの人でもあるのだから。

 「――ダメだ! わからない! 今まで起こったことがないんだから、いくら調べたって・・・! いつも見ているだけ。僕じゃ力になれないのかな・・・」(第30話)

 がんばりました。がんばって、がんばって、がんばりました。
 動物好きな彼女にも一目置かれるくらいたくさん知識を仕入れて、その使いかただってたくさん考えました。

 必要なとき役に立つだけではダメだ。
 自分が勉強をしている最終目的は“彼女の役に立てる人”ではなく、“彼女みたいに優しい人”だ。せっかく集めた知識も、誰かを安心させる力に変えられなければ意味がない。
 強くなりたい。運動は正直苦手だ。おそらく向いていない。それでも――。

 「ケイジ、くん・・・?」
 「うん! 私、だーい好きなんだ! うちのお客さん。いつも忙しいからなかなか会えないんだよね。ケイジくんはね、すごーくカッコいいの! 頭がよくって、がんばり屋さんで、足もとっても速いんだ!」

 だから、ケイジくんの話題は悟にとってとびきりの地雷でした。
 ケイジくんの件は誤解だったにしても、その飼い主がスポーツマンっぽい大人のお兄さんだったことで、結局心穏やかにはいられませんでした。

 悟は強い人でなければならないのです。
 悟が憧れたあの子は、強くて賢くて、だからこそ優しい子だったから。
 あの子の隣に立つためには、悟も強さと優しさに基づいた優しさを携えているべきだから。

 別に腕っぷしが強くある必要はなかったとしても、こんなことで動揺するような情けない心の持ち主じゃいけない。
 せめて自信を持ちたい。でも、そういう強さは賢くなるだけじゃ得られなかったのです。

 「兎山くん。告白しよう! ずっといろはちゃんのことを思ってきたんでしょう? 言葉にしなきゃ伝わらないよ! ・・・いいの!? いろはちゃんが他の誰かと付きあっちゃっても!!」

 無関係なはずなのに、なぜか当事者以上に気ぶり昂ぶったまゆが、熱い言葉を投げかけてきます。

 そうだ。僕は強くなりたいんだ。
 たとえ運動ができなかったとしても、せめて心だけは強くありたいと願っているんだ。あのとき優しい言葉だけで不安を取りはらってくれた、あの子みたいに。

 だから。

 「それは、――嫌だ!」

その背中に追いつけない

 「きっとあの子はもっと痛いはず。――早く止めなくちゃ!」

 あの日憧れた優しい女の子は、今日も陰ることなく強いまま。

 だったら彼女のため悟にできることは、彼女の役に立てるよう知恵を絞ることだけ。

 「フレンディ。カンガルーは後退できない。前にしか進めないんだ! だから――」

 いろはの役に立つだけの存在に甘んじることは悟の本意ではありません。
 悟にとって、自分の賢さは優しさに変換できて初めて意味を成します。
 でも、それは悟の個人的なエゴ。できもしないことにこだわっていろはを困らせるべきではありません。

 「――わかった! ありがとう、悟くん」

 いろはは屈託なくお礼の言葉をくれます。心からの感謝の思い。

 だけど、悟は素直に喜べません。
 自分はただ最低限の義務を果たしただけ。これで満足してはいけない。そう、思うのです。

 今はとにかくこむぎたちに合流して、作戦の続きを伝えないと。
 ・・・ああ。これだって、自らの手でできるのならどんなに清々しい気持ちになるか。

 走ります。

 「悟くぅーん! 待ってくだ――、うええ!?」

 走ります。

 今はとにかく走ります。

 「犬飼さん。動物たちのためにがんばる君を、僕は応援することしかできない・・・。でも、君の笑顔が好きだから! 君の笑顔を守りたいから! 力不足かもしれないけど、頼っていいと思える距離にいたい――!」

 作戦はいろはに伝え、段取りも済ませ、すでに悟はこの場でできる自分の役割を果たし終えました。

 だけど悟は走ります。
 意味はなくとも走ります。
 いろはに必要とされていなくても、走ります。

 これは自己満足で、ただのワガママで、独りよがりでしかないけれど。

 せめて、誰にも迷惑をかけないところでなら、悟は足掻きたいのです。

 「――あ! 悟くん。アドバイスありがとう! おかげで今日も――。悟くん?」

 さあ、いよいよ告白チャンス。
 いろはの後ろでは気ぶりまゆが大ハッスルしています。行け行けゴーゴー。

 結局、悟の足では最後までいろはに追いつくことが叶いませんでした。
 今の自分は全然強くなんかない。その目の背けようもない事実が改めて身に沁みました。
 さあ、告白の時間です。

 いいじゃないか。もとよりこの告白自体、弱さを自覚している自分の心を少しでも強くするためのもの。
 身体的な強さじゃ誰にも敵いっこないから、せめて心だけでも強いんだって証明するためにする告白。
 この告白を最後までやり通せたら、少しは自分に胸を張れるようになるかもしれない。

 そうしたら、今まさに目の前にいる、あの子にも――。

 「犬飼さん――」

 あの子――、いろははこの期に及んで何にも気づいていない様子。
 悟の胸のうちに渦巻く複雑怪奇な思いのかたちなんて、きっと説明してもイマイチ理解できないでしょう。

 さあ、言わなきゃいけません。
 言って、強くならなければいけません。
 想い出のあの子に、いろはに、並び立つために。
 そのための告白です。

 ちなみにさっきから色々矛盾しまくってるデタラメばかり書き並べていますが、全部わざとです。

 「・・・帰ろっか」

 そう。こんなのデタラメ。

 悟は自分のやるべきことを全部片付けて、誰にも迷惑がかからない状況になって、それでやっと独りよがりのワガママに手をつけるような良識ある子です。
 今まで強くなれないから告白できなかったのに、告白することで強くなろうとする、みたいな逆転現象を看過するはずがありませんし、困らせてしまうことが明らかないろはをこんなことの実験台に利用するわけもありません。

 結局、悟はどうしようもなく優しいんです。私たちから見れば。
 その優しさは悟の望むような優しさとは違うのかもしれないけれど。

 涼しい風が吹きはじめた秋空の下、なんともいえない弛緩した空気があたりに漂います。

 ついうっかり、メエメエが余計な一言をポロリこぼす程度には、弛緩しきっていた空気。

 秋の夕日に照らされて、真っ赤なモミジの葉が1枚、はらりと舞い落ちます。

 モミジの花言葉は「遠慮」「自制」それから「大切な想い出」
 さあ、後には引けなくなりました。覚悟なんて全っ然できてないけれど。

よろしければ感想を聞かせてください

    記事の長さはどうでしたか?

    文章は読みやすかったですか?

    当てはまるものを選んでください。

    コメント

    1. ピンク より:

      最初てっきり土田豊さんの演出かと思いきや全然違ってて、ましてや新人さんだったとは。

      薄々「いろはと悟は最初、大福を介した関係性(2〜3年程度の間柄)だったんかな?」と察してました。
      同じく成田良美さんがシリーズ構成を担当されてる5(のぞみとりんちゃん)、ハピチャ(めぐみとゆうこと誠司)、HUG(ほまれとアンリ)とは、なんか言いようもなく距離感が違うというか。まあまあビンゴでした。

      オチで「……帰ろっか」→気ぃ抜けたメエメエが思わず暴露の2段構えに大笑いしつつ、いろはがどう応えるかは割と楽しみです。
      ……しかしアレが(告白大作戦関係者一同、素で固まったとはいえ)いろはにとってもガチな告白扱いされた程度には、なんだかんだメエメエってちゃんと信用されてるんですね。

      • ピンク より:

        すみませんHUGのシリーズ構成は坪田文さんでしたorz
        詳細発表当時「ああ、ゆかりの話で名前見かける人だ」とか思った記憶あるのに……

    2. Overseas Reader より:

      傑出したエピソードであり、これまでのところ「わんぷり」のベストである。そしてまた、私は優しい少年と彼が愛する凛々しい少女の物語が大好きなのだ。
      そして、あなたの記事も素晴らしい。私はあなたがこのような記事に懸命に取り組んでいることを本当に尊敬している。

      私はこの脚本家の過去の作品を知らないが、「わんぷり」第27話はほとんどコメディだった。印象的な変化だ。
      彼らが「ヒープリ」と「デパプリ」を手がけたことは知っている。ただ、1話も見ていないんだ。
      新人の演出、広末悠奈さんについて触れてくれて嬉しいです。第1話と第14話での彼らの仕事も素晴らしかった。私が見つけたいくつかの情報では、「わんぷり」のプロダクションには新人がたくさんいるようです(もしかしたら、あなたがこのことに光を当ててくれるかもしれませんね)。彼らが成長し、将来素晴らしいことを成し遂げてくれることを願っている。
      「わんぷり」が舞台裏では少々問題を抱えているようで、東映の若手の才能がスポットライトの下で同じように光り輝くことができないのは残念だ。しかし、彼らのアニメーションの才能がきらめくとき、それはまばゆいばかりだ。
      「わんぷり」は、佐藤雅教さんの監督デビュー作でもある。私は彼の目指すものが心から好きだ。

      以前のエピソードでも、花がシーン構成に登場したときと同じように、シンボリズムに隠された意味を説明してくれてありがとう。海外に進出した少女漫画の代表的な作品を見て育ち、後にそのような作品を探し求めるようになった私にとって、花のシンボリズムは、たとえ理解できず、美的にしか評価できなくても、とても大切なものです。
      それを学ぶのに良いリソースをご存知ですか?英語でなくても構いません。
      (「ハトプリを観直す」以外の何かw)

      また、シリーズを通してのコムギの性格的な成長についての詳細な分析にも感謝している。海の向こうの他人が、多少のわがままや貪欲さが許されるなら…。その舞台裏の詳細なレポートをぜひ拝見したいです。
      やはり努力家ですね。立派です。

      いろはの「一番大切な関係」が、もしいろはが彼の気持ちに応えれば、こむぎから悟に変わるという意味合いには同意できない。愛はゼロサムゲームではない。たとえ多くの人がそのように振る舞ったとしても(残念ながら)。

      悟の「いろはと並走したい」「いろはの役に立ちたい」という願いと、こむぎの「いろはの役に立ちたい」という以前の願いは、興味深いパラレルなものだと思う。
      どう解決するのだろうか…。次回予告では、いろはがちょっと意外な反応を示している。

      そして最後に、カンガルーガオガオーンとの闘いについて少し調べてみた。様々な英語記事でよく繰り返される数字がある:
      ※カンガルーのパンチ力は最大275ポンド(約124kg)。
      ※赤いカンガルーのキックは時速40マイル(時速64キロ)のスピードでターゲットにヒットする。打撃力は759ポンド(~344kg)。
      キュアフレンディが大怪我をするのも無理はない!しかも、彼女は左の前腕でほとんどの衝撃を防いでいたのだから……。
      (免責事項:問題の記事は、私見では極めて信頼できるものとは思えない。これ以上信頼できるソースは見つからなかった。カンガルーは本当に超強力です。しかし、私はこれらの数字を確認することはできません)

    3. 東堂伊豆守 より:

      犬飼こむぎにとって兎山悟とは「姉貴の恋人」かはたまた「母親の再婚相手」か?ま、何にせよ「大切な人を奪い合う対等な競合相手」にはならんように思うんですが。
      ともかく、
      「犬飼いろはに告白する勇気が無く臆病風に吹かれているだけなのに、もっともらしい理屈を並べ立てて告白しないことを正当化しようとする」筋金入りのヘタレ·兎山悟(付き合いの長い大福兄貴はそういう悟の本性を見抜いているから「ワケわからん屁理屈並べてないでとっとと告白せんかい」と足ダンかましていた訳だし、さらに悟自身そういう自分の情けなさに気付いていればこそ猫屋敷まゆの気ぶりに何も言い返せなかった訳で)のような輩には、大福兄貴や猫屋敷ユキ姉御の問答無用プッシュ、気ぶり屋敷まゆやメエメエ・ザ・ジンギスカンの結果オーライアシストが必要だったんでしょうねぇ。
      で、そんなお節介告白アシスト同盟に「昭和コメディにちょいちょい出てくる何かってえと見合い話を持ち込んでくる近所のオバちゃん」よろしくニコ様が参戦してきたのが何気に注目ポイントだったように思われます。なんかこの御方アニマルタウンの伝承で「神様」扱いされているわりに、チマチマした個別案件に嬉々として首突っ込んでくるのよね。
      一方で、オオカミを滅ぼした人間達にもニコガーデンを襲撃してきたオオカミ軍団にも“天罰”下すなんてことはせず、せいぜい人間に対して“遺憾の意”を表明する程度(それも人間に直接ではなく部下のメエメエにだけ、という体たらく)―――やっぱり“神様”っぽくないんですよニコ様、どうにも。

    4. 亀ちゃん より:

      前週のわんだふるぷりきゅあは悟がいろはに愛の告白をしようとする話でした
      メエメエが「これからも」と言い放ったのは、私がチェックしたことがある国語的に聞き応えがあり、さらに続いた感じです
      悟が「フレンディ。大丈夫?」と気遣ったのもプリキュア的に聞き応えがありました!!☆☆♬
      これは最年少のいとこの姪っ子に直接最年少のいとこのお姉様のスマホに入力しても良い感想となるセリフでした!!☆☆♬
      そしてキュアフレンディが「こっち、こっち」と言い放ったのもプリキュア的に聞き応えがあるセリフがさらに続いた感じです

    5. 与方藤士朗 より:

      何度か見直しましたが、この回に限らないとは思うが、この回は特に昭和の風物が隠し味としてよく効いているように思えてなりませんでした。

      カンガルーのガオガオーンが出てきてゴングが鳴らされるわけですが、まさに、アリスのチャンピオンが頭の中に流れていましたね。
      猫組のネットで捕獲されて浄化されることで、これでただのカンガルーに戻れるんだ、これで、戻れるんだ!
      あとはもう、ライラライラライラライラライ♪

      そして最後の場面のもみじが一葉落ちるときは、今度は、橋の下はかぐや姫の加茂の流れにの3番の桜散る散る嵐山ならぬ、もみじ散る散る・・・、しかし橋の上は、同じ曲の1番のとおりというわけでね。
      ただ、この二人がはかない約束で涙にぬれることはないでしょう。ただし、一時的にはそれもあるかもしれませんが(翌回で)。

      次週回では、アリスのデビュー曲「走っておいで恋人よ」みたいなシーンが見たくなってしまいました(苦笑)。~これは、関西のフォーク筋から「軟弱フォーク」と非難をされたらしいですが、でも、そこに至ってほしいですね、この二人には。
      明らかに、悟少年にとっていろはの瞳は1万ボルトでは効かないレベルでしょう。
      まさに、21世紀のジャンヌ・ダルクやもしれませぬ(季節外れのミストレルにならないことを祈っております~苦笑)。

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