そういえば昔、この町にイエローオーブとかいうものを売りに来た男がいたそうです。マソホが大金を出して買ったとか・・・。まったく。ムダ遣いをするものです。
ある町人
冒険の書16
勇者ヒイロ記す。
ここ、ランシール神殿には地球のへそと呼ばれる試練場がある。
仲間を伴って中に入ることが許されず、ひとりきりで勇気を試されるんだそうだ。
実際に入ってみれば、大したことはない。ただ通路で「引き返せ」という不気味な声が聞こえてくるだけだ。
ひょっとして元は子どもの度胸試しの場だったんだろうか? 今は魔物が入りこんでしまっているから、それなりの戦士でなければ最奥まで辿りつくのは難しいだろうけど。
いや、小さな子どもにひとりで挑ませるには試練場が大きすぎるか。だとすれば、しかし、この試練にいったい何の意味が・・・?
最初はそんなことを考えながらぼんやり歩いていたけれど、散発的に現れる魔物の群れに対処しながら進んでいるとだんだん疲れてくる。完全に無警戒でいるわけにもいかない。神経が摩耗していくのが自分でもわかる。
そういえば、少し前まではもっと小まめに休憩を取るようにしていた。ああいや、私が自分で休憩の間隔を決めていたわけじゃなかったか。決めていたのはマソホだ。いったいいつ手配しているのか、ときどき補給物資がダンジョンのそこかしこに積まれていたこともあった。
マソホの代わりに入ったカナリアは斥候が得意らしくて、魔物の気配を目ざとく嗅ぎとっては迂回路を提案してくれる。休憩の回数が減ったのはそのおかげでもあるかもしれない。
今は2人ともいない。なんだか変に疲れている気がするのはそのせいか。
アリアハンを出たときは旅くらいひとりでもできるつもりだったけれど、いつの間にか誰かと一緒にいるのが当たり前になっていた。まさか自分のペースすら計れなくなっていたなんて。
この間のシュアンさんの戦いぶりもそうだったけど、案外、私って・・・。
うん、いや、わかってはいるんだ。自分がニブいことくらい。ただ、みんなに助けてもらっていたことに私だけ気づいていなかったのって、改めて考えてみるとすごい恥ずかしいなって。
「引き返せ。――向こう見ずなだけでは勇気があるとは言えぬ。ときには人の言葉に従う勇気も必要なのじゃ」
そんなことを考えていたら、突然壁の声がさっきまでと違うことを言いはじめてびっくりした。
一瞬心のなかを読まれたかと思ったけれど、どうやら壁の声は、単に私が今歩いている通路が行き止まりだと言いたいだけみたいだった。
なんだかどっと疲れた。
街づくりの書2
商人マソホ記す。
今、私は牢のなかにいる。
不平はない。全部自業自得だ。
街の人たちによく思われていないのは気づいていた。
海賊と取り引きし、外国の商人や探検家、移住者を多数受け入れたことが、最初にこの土地に村をつくろうとしていたみんなの希望に反していることもわかっていた。
そのせいで治安が悪くなって、警邏隊が必要になったり、街全体が物々しい雰囲気になってしまった。
みんなの不満が爆発したのは私が街のお金に手をつけたからだ。
何を引き換えにしてもイエローオーブを買い取る必要があった。
私は最初からオーブの情報を集めるために街づくりに参加した。でも、他のみんなはそうじゃない。
私は私の都合で勝手にみんなの夢を利用したんだ。憎まれるのは当然だ。謝って謝りきれるものじゃない。何をどうしたって今さら償いきれるものでもない。
今ごろみんな、街の帳簿を読んで唖然としていることだろう。
イエローオーブの代金を支払い終えた今、街にはもうほとんど余剰の資金はない。私個人の資産に至っては1ゴールドだって残っていない。
利権の塊のように見えていただろう華やかな劇場は、開業からひたすら赤字を垂れ流している。
たかだか数年しか商人の修業を積んでいない私には、ああいうのは荷が勝ちすぎていたみたいだ。お客さんがどういう娯楽を求めていて、何をすれば喜んでくれるのかとか、どのくらいお金を使えるのかとか、どういうトラブルに備えなきゃいけないのかとか、そのあたり全然わかっていなかった。
それでも営業を続けたのは、とにかく旅人を集めるためだった。私がオーブの情報を集めるためだった。
そう。あの施設こそ私の裏切りの証なんだ。
ポルトガとの交易は好調そのもの。あと2,3年もしたらバハラタから黒胡椒も入ってくるようになるんじゃないかな。劇場さえ閉鎖すれば、街の財政はまたすぐ潤うと思う。
私を最後まで庇おうとしてくれた長老にそのことを伝えておいた。
黙って出ていかれてしまったから謝りそびれてしまった。残念だけど、もう二度と会いに来てくれることもないだろう。
私がやらかした不始末なのに、結局後片づけまでお任せすることになってしまった。
ずっとずっとずっと、私、最後まで中途半端なことしかできなかったな・・・。
――ちょうど今、ヒイロたちが来た。
私を逃がそうとしてくれるカナリアをなんとか押し留めて、代わりにイエローオーブが入った隠し金庫の場所と開けかたを教えた。
ヒイロが珍しく何か言いたそうにしていたけど、今あの子の声を聞いたら私が泣いちゃいそうだったから、黙って背中を向けた。
ヒイロたちはそれ以上何も言わずに出ていってくれた。
静かだ。
きっと私は今日を迎えるためだけに生まれてきたんだと思う。
私の旅は、今日、終わったんだ。
ここに集束する設定ばかりつくっていたせいで、ゲーム内の出来事とほぼ関係ないオリジナル小説みたいなことになっちゃっています。TRPGのリプレイ的なものを目指して書いていたはずなんですけどね。これが吟遊GMってやつか・・・。
それでいて中途半端に自制心が仕事しているせいで、読み物としても色々描写が不足気味っていう。
自分でもこれはちょっとどうかと思うのですが、幸いというか何というか、この記事あんまりあんまり読まれていないのでこのまま垂れ流していこうと思います。
ひとつ言えることは、こんなでも設定を練って脳内ロールプレイしながらゲームを遊んでいるおかげで、私自身は超楽しいってことですね。
キャラ5人とも愛着がすごい。かわいい。
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